私情協ニュース3


大学情報化職員研修会 開催報告


 本年度の大学情報化職員研修会は、A日程10月17日(水)〜19日(金)と B日程11月7日(水)〜9日(金)とし、両日程とも静岡県の浜名湖ロイヤルホテルにて開催した。
 大学教育の成果である人材育成が社会から問われ、人間力低下が指摘され、学生の質保証が取り沙汰される中で、教育全般に亘り改革行うには、理事会をはじめ教員・職員による人材育成の取り組みが不可欠である。とりわけ職員には、教育支援、人材育成支援の取り組みをコーディネート、マネージメントする能力が要請される。
 本研修会では、問題解決に向けた取り組みについて可能性を模索する中で業務を点検し、IT活用による教育改善および人材育成支援、望ましい情報環境や運営組織の在り方など、大学改革に不可欠な課題について事例紹介、意見交流を通じて職員一人ひとりの資質の向上を目指すことを目的に開催するものである。
 今年度は、研修の主旨を理解するための全体会では、職員として積極的に人材育成支援、教育支援に関わるためのあり方について基本的な考え方を共有するため、全体講演を行い、その後に、大学としての教育支援のあり方を理解するため事例紹介を行った。
 事例紹介の後は分科会形式によるテーマ別の討議を行った。各分科会では、問題解決のための方途を探るためサブテーマも設定し、その内容を中心に討議を行った。また、必要に応じて、参加者または外部関係者からの先進的な取り組み事例の紹介も行った。


− 全体会 −

全体講演

「大学改革に求められる職員の役割」
福田 謙之氏(金沢工業大学事務局長・常任理事)

 金沢工業大学では、「教育付加価値日本一」を目指し、教職員一体となって大学改革に取り組んできた結果、社会からその教育力を高く評価されてきている。大学教育に対する社会からの期待の高まりや、教育の質保証の面から「学生が大学を卒業して何ができるようになったか」ということをいち早く意識し、そのための教育改革として教育目標の明確化、それに対応するカリキュラム改革、シラバスの厳格化の推進など、人材育成の視点に立った改革を大学のガバナンスとして実践してきた。
 本講演では、職員が積極的に人材育成支援、教育支援に関わるためのあり方について基本的な考え方を認識できるよう、改革の取り組み内容と実施に至った背景、および職員の果たしてきた役割やスタッフデベロップメントのあり方等について紹介された。

− 事例紹介 −

A・B日程共通

「電子的な学生指導シート「はぐくみ」の活用」
斉藤 和郎氏(札幌学院大学情報処理課長)

 学生の人間力を育むことを目的として、学内に蓄積された学生情報(学生カルテ)や情報コミュニケーションポータルを活用して教職員が連携して学生一人ひとりに個別支援をする取り組みについて紹介された。

「Google Appsを利用した学生用メールシステムNU-MailG について」
吉野 英治氏(日本大学総合学術情報センター事務長)

 各学部で実施されていた学生用メールサービスを、コスト削減、サービスおよびセキュリティの均一化のため、Google Appsを利用し統一したメールシステムの実践例を紹介された。

「キャンパスコミュニケーションシステムによる学生サービス」
高橋 公生氏(名古屋学院大学学術情報センター課長)

 学生へのきめ細かな教育を目指し、学生ポータル、教員ポータル、授業ポータル、事務局ポータルなどコミュニケーションシステムを構築し、職員も加わったコミュニケーションを図ることを目的とした取り組みを紹介された。

A日程

「携帯電話を活用した授業改革」
川島 高峰氏(明治大学情報コミュニケーション学部准教授)

 個人レベルから大学全体まで発展した授業への携帯電話の活用について、授業のPlan-Do-Check-Action(大学講義のPDCA)の実践を交えながら留意すべき事項や教育的な意義について紹介された。

B日程

「学生の成長を支援する教育開発」
斎藤 真左樹氏(日本福祉大学教育開発担当部長)

 新しいキャリア教育科目の実施とオンデマンド授業と対面授業のブレンディッド学習の取り組みを通じて、ICT活用能力の学内基準の策定や教育開発への職員の関わりについて紹介された。

− 分科会 A日程 −

A−1 ICカードの戦略的活用

 ICカードを活用するメリット・デメリットを確認し、学生一人ひとりの質保証に寄与するICカードの戦略的な活用について討論した。
 産業能率大学によるデモンストレーションも交えた先進事例では、必ずしも高度な仕掛けを必要とせず、アイディア次第で画期的に活用できることが認識でき、参加者にとってよい刺激となった。 また、情報交換、今後の方向性について議論を重ねた結果、一定の共通理解を得ることができたが、「教育の質の保証」に寄与する戦略的な活用法については、画期的な結論を導くまでには至らなかった。
 ICカードの効用については、例えば「ICカード学生証は単なる学生を認証するための道具」という視点に立つなど、利便性にとらわれずに討議を進めることができれば、さらに斬新な結論に至ったと思われる。
 討論を踏まえ、ICカードを即時導入すべきという参加者の意見は少数で、これは、ICカードの特性を充分引き出せる利用方法や大学にとっての動機付けが見出されて初めて、導入意義があると理解されたからと思われた。

A−2 戦略的な大学Webサイトの構築

 各大学のWeb 広報の現状、問題点について学生確保、教育改善、研究活性、大学経営の工夫・改善等の面から分析し、問題解決のための課題の確認、新しい提案の発掘とその可能性について、有意義な討議が展開され、所期のねらいは達成できた。
 大学に対する社会的な期待と使命ならびに大学の方針・戦略を組織として共有し、大学Webサイトを大学運営の中心に位置付けるとともに、従来の教員、事務の分業体制を越えた相互に補完・発展する関係が望まれる。特に、あらゆる大学情報を収集・発信できる存在である事務職員への期待と役割は大きく、積極的に大学役職者や教職員、関連部署への呼びかけ・支援を通じて大学Webサイトを発展させることが、大学改革の推進力となると期待したい。

A−3 学生基本情報の活用

 学生ポータルの構築や学生カルテなど、学生基本情報を活用した新たな教育支援の実現を目指すための対策について、教職員のコラボレーション、父母のニーズの変化、個人情報保護などの対応すべき課題を明確にし、ディベートという討議形式を用いて参加者の考察や討論を積極化した。ディベートでは勝敗でなく、その過程での考察を重要とし、論題は「学生基本情報の活用が大学の教育力を向上させる」として実施した。参加者の意識レベルは高く、チーム内での議論やディベートを活発化させた。結果として、参加者全員がディベートを通して、論題を多角的な視点から考え、調べ、まとめた一連の行動により、学生基本情報を活用する目的や学生ポータル・学生カルテの必要性を考える良い機会が提供できた。学生基本情報を活用した教育支援のあり方として、情報を扱う人の能力開発を大学のFD・SDの取り組みの中で実施していく必要があることを確認した。

A−4 戦略的な教育支援

 教育内容や方法の改善・向上を組織的に実現するための戦略的に実践的解決策を導き出す視点を養うことを目的とし、討論した。分科会初日は、全体会で事例紹介いただいた明治大学の川島高峰氏にも出席いただき、教育改善を推進する上で欠かせない学生に対する熱意や愛情などについてディスカッションを行い、教職員が持つべき大切なものについて認識を新たにすることができた。この後、「戦略的な教育支援モデル」を導き出すための自由討議に入り、各グループとも夜遅くまで問題意識をぶつけ合い、自由な発想で多様なアイディアを発散させ、それを実践的なモデルに収束する作業に取り組んだ。討論の中から創出されたモデルは、いずれも斬新性と独創性に富んだ豊かな内容であった。最終日にこれをグループ間で相互評価する作業を通じて、自グループの検討経過を振り返った。これによって、教育改善に求められる視座と視点に関する参加者の理解の深化と意識の発揚が図られ、分科会のねらいは達成されたと思われる。また、多様な背景を持つ教員と職員が職制や部署を超えて一堂に会し、FDや教育支援といった大学の基盤的課題について語り合う研修プログラムが強く求められていると考える。今回のような本質を見極めた豊かな議論を失わないという前提で、ICTの視点を適切に盛り込む研修運営のあり方を検討していくことが必要であろう。

A−5 個人情報漏洩対策

 個人情報が漏洩した場合、大学としての取り組むべき対応モデルを整理し、実現のための課題について討論した。職員に求められる資質として、一連の業務・作業プロセスの中にどのようなリスクが含まれているか、リスクを回避するためにはどのような対策があるか、事件・事故が発生した場合にどのような影響があるのか、事件・事故への対応のプロセスや内容はいかにあるべきか、また、予防策としてどのような手当てをすべきかを判断できる、マネジメント能力が必要となる。各グループでは、このことについて十分認識して議論を行い、具体的なモデルケースを検討することによって、さらに理解が深まった。また、事例紹介は、参加者が課題に思っていることに直接関連した内容であったため、活発な質疑応答が行われ有意義なものとなった。
 個人情報保護体制の構築にあたっては、コストパフォーマンスの分析も必要で、コストパフォーマンスの分析は、何をどこまで守るかを見極め、リスクの分析・損害賠償等の費用負担の予測をしなければならない。情報保護のための投資には制限あることから、合理的かつ実効ある体制を確立することが今後の検討課題と考える。

A−6 大学インフラとしての情報環境

 近年のITの飛躍的な発展と一般化によって、大学における情報センターの役割の変化を実感されている関係者も多いため、小グループに分かれた上で、教育インフラの改善や支援体制など、今後のセンターのあり方について議論を行った。
 教育支援体制については、2グループから、教育支援は教務部門、若しくは教育支援センター等の教員を中心とした組織が推進するとされ、情報センターは、教育支援に必要となるITインフラを提供する役割を担う、といった方向性が示された。現実に、少ない人員で外部委託に頼りながらネットワークやサーバの管理、ユーザ対応を行っているという大学も少なくなく、現状から考えた現実的な体制と考えることもできる。もう一つのグループについても、学科等にIT担当者を配置することで、現場とのコミュニケーションを図り、情報センターの負荷の軽減を考慮した体制が示された。これらのことから、教職員全体を支援する体制としては、かなりの人的負担が必要であるため、新たな体制の構築が必要な大学も多いのではないかと感じた。


− 分科会 B日程 −

B−1 主体的な学びを喚起させる学修支援システム

 学生の自立的な学習を促すための履修支援・シラバスシステム等の充実や、学生に対する親密な相談・助言を可能にする支援体制、学修支援システムのあり方等について討論した。各グループの発表では、学生に主体的な学びを喚起させるツールとして「eラーニング」「ポートフォリオ」等のシステムを有効活用し、学生のニーズを把握し個々に即したプログラムを提供できるよう、入学から卒業までの4年間を通じての教職員・組織間の連携を踏まえた体制作り、IT支援システムやカリキュラムの工夫、学生同士・卒業生の人的ネットワークを活かした仕組みの必要性が上げられ、活発な質疑応答があった。
 最終に地には参加者のほぼ全員がから、本研修会で職員として学生の主体的な学びを喚起させる意欲を高揚させることができたと思うとの感想が得られ、討論の過程で他大学の状況を知り、参考にしながら、研修の所期のねらいをほぼ達成できたのではないかと思われる。
 今後は、学生自身に在学中の満足度を高められるよう、システム支援とともに、人と人とを結ぶネットワーク支援を構築できるかが今後一層求められていると感じた。

B−2 キャリア形成支援

 「人材育成」という社会的使命を果たすために、きめ細かい人材育成支援システムの創出を目指し、参加者全員が積極的に討論を行った。「キャリア形成を支援するための効果的・積極的な情報活用」をテーマに「キャリア形成支援の理想モデルの創生」を課題として、各グループが自大学における日常業務での問題点を基に意見交換を行い、支援モデルを創成することができた。
 「情報活用」に関しては、具体的なシステムにまで議論が及ばなかったところもあったが、キャリア形成支援において、ITシステムはあくまでもツールとして利用すべきもので、アナログ的な学生との対面作業を重要視したいとの結論となった。

B−3 ITを活用したコミュニケーション

 参加大学の各種のコミュニケーションのしくみについて、それらが本当に有効に活用され、効果を発揮しているか、また、その本質的な問題や理想的な形は何かなどについて討論し、ITを活用したコミュニケーションの限界を探ることとした。参加者は情報センター系と業務系の職員が半々だったため、システムを「提供する側」と「使う側」のそれぞれの立場から、教育支援と学生生活支援に活用する理想的なシステムのあり方について討論した。両グループからの提案型の発表や意見交換を行い、意見交換で明らかになった問題・課題について、再び両グループ内で討議した。最終的に、新たに付加した事柄や説明など結論について再度発表を行った。
 また、教育支援や学生生活支援には、コミュニケーションのツールとしてITを上手に活用すべきであることが確認され、新たなコミュニケーションの取り組みとして、SNS、テレビ会議、Blogなどのキーワードが挙げられ、今後、大学での有効な活用が期待されることも確認された。

B−4 大学情報システムの危機管理と対策

 情報システムの位置付けや役割と、そこに潜むリスクについて共通理解を深め、望ましい対策について費用対効果も考慮に入れ討論を行った。討論の他に、今回の研修会で得られた結果をもとに、参加者それぞれが職場に戻ってから実施したい計画を各自作成し持ち帰った。また、討論において他大学の状況について知りたい旨の発言が多く聞かれたので、参加者が知りたい項目を出し合い、アンケートを作成し集計を行った。
 討論を通じ、リスクは体制作りや運用によって防げるもので、情報部門に携わる者にとって積極的に取り組むべき課題であるという、参加者の意識の変化が見られた。しかし、対策についての方向性は引き出されたが、結論の具体性や、費用対効果については論じることはできなかったため、次回への反省点として残った。
 討論以外では、参加者間で大学の取り組み状況について相互アンケートを行い、情報交換した他、大学に戻って取り組みたいアクションプランを作成し、各自持ち帰った。

B−5 図書館員による学習支援

 初年次教育についての重要性を確認した上で、図書館における具体的な指導方法について考えるとともに、教員との連携による学生の図書館利用促進の戦略・戦術について討論した。
 初年次教育については、図書館における具体的な指導方法として、「読書の仕掛け作り」と「論文レポート作成支援」を中心に、事例紹介や意見交換を通して具体的な提案を作成することができた。教員との連携については、図書館利用促進の戦略・戦術にとどまらず、大学の学習支援機能の強化という視点での連携を検討し、クラスライブラリアン制度の実現可能性についても討論できた。図書館の学習支援の現状については、各大学の現状や方針、取り組みの度合いも様々であったが、活発な意見交換と数多くの事例紹介が参加者自身からあったことで、参加者それぞれが自身の状況に合わせた形で、討論内容を吸収し、研修の成果を上げることができた。
 大学の学習支援機能の強化という課題を解決していくには、大学図書館員は、専門的な図書館業務に精通した「プロフェッショナル」でありつつも、同時に教員との連携や部署間の調整などのスキルをも持ち合わせた「ゼネラリスト」であることが求められているということを、この研修を通じ再確認できた。



文責:研修運営委員会


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