巻頭言

龍谷大学における大学の社会的責任とICTへの取り組み


若原 道昭(龍谷大学学長)

 「浄土真宗の精神」に基づく教育を行うことを目的とする龍谷大学は、1639年に西本願寺の中に設けられた教育機関「学寮」を母体とする仏教系の単科大学として出発し、現在では7学部1短大、8研究科、4付置研究所を擁する総合大学として発展してきました。21世紀は「知識基盤社会」、つまり新しい知識・情報・技術が社会のあらゆる領域での活動基盤として重要な意味をもつ社会であると言われています。そしてそこでは、確かな人格形成の基礎の上に幅広い教養と高い専門性を併せもち、新たな知の創造と活用に寄与しうる人物が求められています。私たちは、こうした社会の要請に応えるべく、人間性豊かで深い学識と教養を備える人材の養成に努めています。
 龍谷大学では、現在、ユビキタス教育環境整備事業に取り組んでいます。利用者がネットワークを介し、いつでもどこからでも大学と繋がる、学びたいときに大学が提供する様々な情報資源にアクセスし利用できる、そういう環境を提供するとともに、学生と大学を効果的につなぐ情報コミュニケーション環境の構築を目指しています。少しご紹介しますと、統合認証システムや全学ポータルシステムを軸にした情報コミュニケーションサービス、年間を通じ学習のプラットホームとして利用できるWebシラバス、受けたい授業をクリックするだけの履修登録など、学生の利便性向上を目指した取り組みを進めています。
 併せてeラーニング環境整備にも力を注いでいます。eラーニングはネットワークを介して行われる新しい教育手法であり、全国の各大学において積極的に取り組んでおられるように、教育にとって大きな可能性を秘めています。
 しかし、いくら情報環境を整備したとしても、この環境を用いていかに龍谷大学の教育目的を達成するのかという教学上の取り組みとの連動がなければ、何ら成果を得ることはできません。龍谷大学では、教学部門と情報部門が互いに連携しながら改革に取り組んでいるところです。
 ただ、大学にとってこうしたICT投資の財政に占める割合は決して小さなものではありません。投資に見合う成果が今までにも増して問われることになります。
 私立大学は、平成3年の大学設置基準大綱化以降、度重なる規制緩和、認証評価の義務化、教育研究の質の保証や「出口管理」の強化等、様々な対応を迫られてきました。少子化・全入時代を迎えた今こそ、教育の質向上を目指した改善は非常に重要なものとなっています。
 今後、私たちは急速に変化するインターネット環境、携帯電話に代表されるモバイル社会の到来、教育研究成果のリポジトリ化等、避けて通ることのできない社会的にも大きな課題を視野に入れなければなりません。このような状況は一つの教育組織だけで解決を図るには負担が大きく、各大学が連携すべきは連携し課題の共有と解決を図ることが重要であり、私立大学情報教育協会に期待するところはより大きくなっているといえるでしょう。
 より良い教育を日々模索しながら、龍谷大学は2009年、創立370周年を迎えます。


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