人材育成のための授業紹介 ● 栄養学

ICTを利用したインタラクティブな授業設計


衣笠 治子(園田学園女子大学人間健康学部准教授)


1.はじめに

 園田学園女子大学では、e-Learningを「そのだインターネットキャンパス」として構築しており、そのシステムに関しては既に報告されています[1]。本稿では、そのシステムを利用した栄養学の授業の設計事例について紹介します。
 著者はインタラクティブな講義型授業を目指し、2003年より携帯電話を用いた自己学習システムを取り入れた授業を展開しています[2][3]。大学の講義型授業における教師と学生のインタラクティブな会話は、理解を深めるのに大変重要です。しかし、現在の大学教育において、学生は受講する講義への貢献意識が少なく、あらかじめ受講内容について準備してくることも少ないので、講義は教師からの一方通行となりがちな現状です。そこで授業前に講義での内容のあらましを学習させ、授業後にすぐ復習させることにより、講義中の活発な発言が促され、授業内容をアウトプットすることでより主体的な学習ができるのではないかと考えました。
 この自己学習システムを、「そのだインターネットキャンパス」の構築時に講義内容を移行して教材として整え、再構築しました。


2.栄養学受講者の背景

 現在担当している栄養学の履修者は、「健康学」を専攻する初年度の学生で、養護教諭、保健体育教諭またはスポーツ指導者を目指しています。授業では教科書を指定し、1クラス50名以下で行っています。栄養学の内容は化学、生物の基礎学力を必要とする自然科学系の科目であるため、女子大生にとってはどうしても苦手意識があります。加えて多くの化学成分名は耳慣れないものも多く、講義の中に出てくる専門用語を整理しながら90分を受講するのは、特に初年度学生にとっては困難と思われます。そのため授業を聞くことへの集中が途切れると、眠くなったり私語をするのは言うまでもありません。また本学ではスポーツ活動が盛んなので、スポーツクラブの学生は、対外試合等で授業に出席できない場合も多く、その間の授業に対する補習も必要です。しかし、ほとんどの学生たちは活発で、授業に対しても積極的なので、活気のあるクラス運営が可能です。


3.e-Learning上の自習用教材

 1回の講義を1ユニットとし、以下の三つの教材をe-Learning上に用意しています(図1)。プレテストやクイズ類はユビキタスな環境、すなわちPCだけでなく携帯電話でも利用できるようにしています。病気やスポーツの対外試合で欠席した学生も、これらの教材は閲覧可能なので、教科書とともにある程度の自主学習ができるようになっています。
図1 ユニット画面

1)プレテスト(予習用テスト)
 使用しているテキストから重要な部分を取り出し、20問程度の穴埋め問題(図2)、または単元の内容によっては、200字程度の記述課題を用意しています。授業開始の時間までにe-Learning上に提出、またはアクセスログがあれば加点すると学生に伝達しています。

図2 プレテスト画面

2)主教材
 講義に用いるパワーポイント教材をスライドにし格納しています。

3)ミニクイズ(復習用テスト)(図3)
 授業内容で重要なポイントについてランダムに○×式テストを15問程度用意しています。学生には授業後できるだけ早く実施するように促し、1週間以内にアクセスログがあれば加点します。さらに定期試験までに満点をとるまで受験し、e-Learning上に提出するように指導しています。

図3 ミニクイズ画面


4.対面講義の設計

 プレテストであらかじめ授業で使用する語彙を得た状態で90分の対面授業を行います。パワーポイントで作成した主教材はアニメーションを多用し、学生が考えたり、答えを教科書から探し出したりする間を置くように努めています(図4)。また、授業中は挙手して発言することによって加点することにしているので、学生はできるだけ早く問いかけに対する解答を考えたり教科書から探したりすることに集中している様子です。

図4 主教材の例

 授業中に学習したことをすぐに確認するために、スライド数枚ごとに、チェックテスト(図5)を挿入し、用紙に書き、発表しながら答え合わせをします。解答から派生する内容についても問いかけを行い、できるだけ多くの学生が発言できるようにしています。また出席確認を兼ねて、携帯電話を用いた簡単な小テストを挿入する場合もあります。

図5 チェックテストの例


5.その他のe-Learningの利用

 著者は、栄養学以外に、Learning Strategyを中心とした基礎演習科目も担当しています。ここでは、入学後アンケートや様々な課題をe-Learningで提出してもらい、コメントをつけて採点返却しています。入学直後学生の環境変化の戸惑いに対して、双方向のコミュニケーションができることは、目的意識の向上に効果があるようです。また、掲示板を利用して、課題図書の書評を提出してもらい、履修者全員が意見交換したり、本の内容を共有したりする試みも行っています。
 それ以外にも教員採用試験や就職試験用に一般教養の自己学習用の教材を作成し、PCだけでなく携帯電話でもユビキタス環境で学習できるように設計し、学習希望者に公開しています。


6.教育効果と課題

 教育効果に関するデータについては、本稿では十分ご紹介できませんが、栄養学の授業第1回目と最終回に行ったアンケート調査から、学習時間、学習意欲が有意に増加しており、達成感を感じていることが明らかになっています。また各自のアクセス時間を集計すると、1回の授業について平均25分の予習復習時間をかけていることがわかりましたが、残念ながらアクセス時間と記述による定期テスト成績とは有意差がなく、学習したことを定着させるためのクイズ問題作成に課題が残ります。
 1回の授業中の発言回数は平均2回で、積極的な性格の学生は数回の発言回数があります。内気で発言数の少ない学生には、メールで授業内容の確認や質問を行うことも評価しています。授業への参加の度合いは異なっても、学生一人ひとりが、受講している授業をよりよくするのに貢献していこうという意識が芽生えているのではないかと考えています。
 また、現在の方法でインタラクティブな授業を目指すためには、1クラス50名が限界であると感じています。大学経営上、またはカリキュラム構成によって多人数で行わざるを得ない場合の授業設計は、大きな課題の一つです。


7.おわりに

 園田学園女子大学では、学生に対して入学当初よりICT利用の環境やアクセスなどの技術的問題に関するヘルプデスクが整えられています。また教員に対しては、e-Learning教材の作成や運営を支援してくれる専任職員や学生ヘルパーが配置されています。これら二つのサービスが、今まで述べてきた授業設計を可能にしています。教員の一人として、日々の授業の中で、ユビキタスな環境と、学生個々の知識や経験に合った教材を準備することで、低いレベルから学習を始めた学生であっても、努力しさえすれば、必ず能力を身につけることができるような授業設計に今後も取り組んでいきたいと考えています。

 

参考文献
[1] 竹腰健吾:園田学園女子大学の「ITによる授業・教育改善」. 大学教育と情報,Vol.15 No.3,2007.
[2] 衣笠治子・山本恒:自己学習システムを利用したインタラクティブな授業設計.第20回日本教育工学会全国大会論文集,pp.611-612,2004.
[3] 遠本真希:ユビキタスを目指した学習支援システム−携帯電話による簡易学習診断システムの開発と評価−.情報コミュニケーション学会第一回全国大会発表論文集,pp.17-18, 2004.


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