教育・学習支援への取り組み

法政大学における教育・学習支援への取り組み


 筆者は法政大学FD推進センターに所属していますので、センターの活動が中心となりますが、できるだけ他の組織にも目配りしつつ、取り組みを紹介させていただきます。


1.法政大学について

 法政大学のあらましは以下の通りです。市ヶ谷、多摩、小金井に三つのキャンパス。学部は、市ヶ谷に9学部、多摩に3学部、小金井に3学部、計15学部。大学院は14研究科、1インスティテュート、3専門職大学院。さらに、通信教育部、3付属中学・高等学校があります。学生数は、大学院と学部を合わせ、市ヶ谷キャンパスに14,422人、多摩キャンパスに8,414人、小金井キャンパスに5,085人。専任教員数は719人。医学部と薬学部こそありませんが、大規模総合大学です。
 法政大学の教育理念を最も簡潔に表現しているのは校歌です。特に、1番の「よき師よき友つどい結べり」と2番の「われひと共にみとめたらずや 進取の気象質実の風」は学風をよく表わしています。手前みそになりますが、「法政大学校歌」は校歌の中における傑作の一つだと思います。『自由と進歩』『進取の気象』という創設以来培ってきた学風のもと、自分で考え、判断し、主体的に自分のキャリア形成を行える自立型人材の育成を教育目標としています。


2.学生による授業評価アンケート:授業改善の基礎データ

 全学共通の学生による授業評価アンケートが最初に実施されたのは2004年度前期のことです。アンケート対象は、受講者数が少ない(目安は10名以下)科目を除く、全教員の全担当科目です。一言で申しますと、授業評価アンケートの導入は授業改善に大きく貢献しました。図1は総合的な満足度(1〜5の5段階評価)の推移を、学部と大学院に分けて示したものです。数字は実施授業数です。学部について、前期と比べ後期の実施授業数が増えているのは、通年授業は後期の実施となるためです。大学院は少人数クラスが多く、実施授業数は少なめです。実施率について、学部は85〜92%前後、大学院は63〜78%前後です。

図1 「学生による授業評価アンケート」の
実施授業数、総合評価平均点の推移

 図からもおわかりの通り、大学院は高止まりですが、学部については3.5から4.0に伸びています。満足度の平均点が上昇した理由は、アンケートを開始した2004年度前期と直近の2008年度前期を比べますと、学生の取り組み姿勢、興味、理解、また、教員の熱意、工夫の各質問項目で、「大いにそうである」の占める割合が10ポイント以上伸びていることと関係します。とりわけ、「教え方はわかりやすく工夫されていましたか」は13ポイント伸びていますので、教員による授業の工夫が進んでいるためと考えられます。
 法政大学の全学を対象とした授業評価アンケートは2004年度前期から実施されましたが、それ以前ですと、学部等が個々に実施するか、学生部が無作為に抽出した学生を対象に行う学生生活実態調査がありました。例えば、2003年秋に実施された学生生活実態調査の質問項目に、「期待に応えていると思った授業はどの程度ありましたか」があります。その結果を見ますと、「期待に応えていると思った授業」が「8割以上」あったと回答した学生は2.2%、「6割以上」と回答した学生は7.8%と、両者を加えても10%に満たない数値です。以下、「5割程度」が24.8%、「4割以下」が23.5%、「2割以下」が25.9%、「ほどんどない」が14.4%でした。この結果と比べますと、現在、授業改善は格段に進んでいると言えます。このような数値の他、目に見える改善もあります。学生による授業評価アンケートが実施されて以後、始業のチャイムと同時に、教員が教授室から消えました。
 当初、授業評価アンケートは、教員の「気づき」を促し、授業内容と方法の改善につなげることを目的としました。5年を経て、この目的は達成できたと考えています。そこで、2008年3月、専任と兼任の全教員を対象として、「学生による授業評価アンケート」に関する調査を行いました。その結果、大多数の教員はアンケートの意義を認めていますが、現在の内容・方法は見直してほしいと考えていることがわかりました。アンケートに対する主な要望は、質問項目をより具体的にして実際の授業に反映しやすいものにしてほしい、自由記述欄について、誹謗・中傷の類ではなく、授業改善につながる記述を引き出す工夫をしてほしい、というものです。現在、FD推進センターは新しい学生による授業評価アンケート案を作成し終え、全学に向け、提案しています。大きな変更は次の3点です。
 1)5段階評価中心の質問項目に代わり、実践的な質問項目を多く含む3種類のアンケート(学期初め用、普段の授業用、学期末用)、2)無記名式に代わり、記名式アンケート、3)「学生による授業評価アンケート」に代わり、「学生による授業改善アンケート」へ名称変更する。現在、全学で検討していただいていますが、5段階評価をすべてやめてしまうと、教員が緊張感を抱かなくなる上、これまでのアンケートとの継続性が途切れてしまうので、1〜10の10段階で総合的な満足度を聞く質問項目を加えてほしい。記名式にすると、学生は教員に遠慮して、甘い評価をするようになるのではないか、などの要請と懸念が出されています。新しい「学生による授業改善アンケート」案につきましては、学期末用のものを例として、本稿末に掲載します。
 近い将来、授業支援システムを介して、授業改善アンケートをオンライン上で実施したいと考えています。その際、最大の難関は回収率の確保です。解決策として、アンケートへの回答を成績の評価要件とすることなどが考えられますが、今後の検討課題です。オンライン化が実現しますと、学生のプライバシーを守りつつ、アンケート集計結果を成績評価の分布と連動させるなどして、さらなる授業改善に活かせます。


3.教員向けFDハンドブックと学生向け学習支援ハンドブック

 FD推進センターは、2007年3月、『法政大学FDハンドブック』を作成いたしました。当時、池田輝政他『成長するティップス先生:授業デザインのための秘訣集』他、授業実践のアドバイスとなる優れた本が出回っておりました。法政大学のような後発校が、一般論的なハンドブックを作成しても有効でありません。そこで、法政大学において優れた授業を展開している教員に、自分で実践されている授業の工夫を書いてもらいました。身近な教員が実行している工夫は、他の教員の関心を呼ぶと考えたからです。具体的には、「学生による授業評価アンケート」の集計結果から評価の高い授業をピックアップしました。しかも、センターのメンバーが評価の高い授業を参観している場合が多くあり、学生の評価が高いばかりでなく、教員の評価も高い授業が選ばれました。筆者も作成に参加しましたが、優れた授業実践を体験する機会を得たことは役得(よい意味)といいますか、幸運でした。FD活動は、参加すれば、その良さを実感できると思います。課題は参加を誘う仕掛け作りでしょう。
 2009年3月完成を目途に、学生向けの『学習支援ハンドブック』を作成中です。授業改善には学生の参加と意欲が不可欠だからです。その一環として、2008年度秋、「教員・職員・学生でともに作ろう、より良い授業」をテーマとし、「FD学生の声コンクール」を開催しました。コンクールの題材は、1)授業(学生から見たより良い授業への提案など)、2)学習環境や制度(教室や授業評価アンケートなど)、3)学生のモラル(遅刻・私語など)、に関する意見や感想です。形式は、散文(エッセイ、笑い話など)、韻文(詩、狂歌、川柳など)、漫画(一コマ漫画、四コマ漫画、ストーリー漫画など)です。もちろん賞金つきです。36作品の応募があり、最優秀賞2作品、優秀賞2作品、佳作8作品という結果となりました。最優秀賞に輝いた作品を一つ紹介します。「大学生 充電すべきは 携帯か?」以下、作者のコメントを引用します。「最近、若者が家ではないところで携帯電話を充電する姿が目立つ気がします。駅のホームにあったコンセントを使った大学生が通報されたという記事もありました。大学生のモラルとは?これから社会へ出ていく大学生。本体に取り込まなければならないことは、他にたくさんあると思います。」


4.授業支援システム

 授業支援システムを管理・運営しているのは情報メディア教育研究センターです。同センターは、メディア基盤に係る教育・研究の発展と情報技術の活用を図ることを目的として事業を行っています。ITを活用した教育支援という点で、同センターとFD推進センターとは協力しあっています。たとえば、FD推進センターの教育・学習支援プロジェクトは初年次教育のモデル授業を展開しています。モデル授業を設計・担当しているのは教育・学習支援プロジェクトの藤田哲也文学部教授ですが、「見せる」コンテンツを開発するためには、担当教員と協力して撮影・編集する情報メディア教育研究センター所員の技量が不可欠です。その成果はFD推進センターのホームページからご覧いただけます。
 さて、授業支援システムですが、2007年4月に導入されました。図2は、授業支援システムを利用した教員数の推移を示したものです。

図2 授業支援システム−教員利用数の推移

 棒グラフの色分けの数字1, 2〜5, 6〜10, 11〜20, 21〜は授業支援システムへのアクセス回数を示します。2007年度は200人台ですが、2008年度になり300人台となっています。専任教員数は719人ですので、現在、約40%の教員が利用していることになります。教員の利用を促すため、情報メディア教育研究センターの常盤祐司教授が各学部の教授会を訪ね、説明を行う、あるいは、キャンパスごとに集中講習会を開催いたしました。また、平常のサポート体制として、教員には『授業支援システムガイドブック』という冊子、学生には名刺大の利用ガイドを用意しています。さらに、各キャンパスにサテライトを設置し、大学院生が常駐しています。授業支援システムを利用するにあたり、疑問を感じた教員はサテライトに問い合わせます。筆者の体験を例にあげますと、英語のリスニングの宿題を授業支援システムから配信しようとしたのですが、うまくいきません。サテライトの大学院生の助けを借りてアップできました。そのときの印象から申しますと、コンピュータ会社のサポートサイト・電話相談に、フェイス・トー・フェイスの相談(教員がサテライトに出向く、サテライトから出前で研究室まで来てもらう)を加味したもの、と考えていただければよいと思います。サテライトでは、パワーポイントなどを利用した教材作成を支援する体制もとっています。
 なお、課題もあります。兼任教員への支援です。また、システムをより使いやすいもの(学生用ポータルの設置など)とすることも今後の課題です。


5.全学統一シラバスとGPA制度導入

 2008年4月から、全学でGPA制度を導入いたしました。学生にとってのメリットは、A+(法政大学では、A+は100点満点評価の90点以上です)がいくつ、Aがいくつ、Bがいくつ、Cがいくつといったあいまいな印象に代わり、セメスターごとの成績評価が数値で出ますので、勉学の指針となります。しかし、学生はまだGPA制度を実感していないようで、「一つのA+あるいはAより二つのC」などという声を耳にします。A+のポイントは4.0に対しC のポイントは1.0ですので、大違いなのですが・・・。卒業時の学士力を保証するためには、進級要件、あるいは卒業要件として、1.0以上のGPAを定めることなど、今後考えなくてはならない課題が多いです。また、教員にとってのメリットは、GPAのクラス平均と成績評価分布をみれば、自分の成績評価の妥当性をチェックできます。もちろん、組織的に利用することも可能です。例えば、社会学部はGPA制度導入を機に、ゼミ、講義、語学など、科目ごとに、A+、A、B、Cの分布の指標を決めています。これに対し、教員はすべての学生がA+を取得することを目指しているので、それを抑制するのはおかしい、と主張される方もいます。その主張は理想ですが、現実的ではないと考えます。現実には成績分布は広がります。
 法政大学では、2009年4月から、教員が直接授業支援システムを用い、シラバスを記載することになります。オンライン化に伴い、FD推進センターは、全学共通のシラバス・フォーマットを作成し、提案しました。全学共通のフォーマットが導入される運びですが、懸案事項もあります。例えば、シラバスに成績評価方法を明示することとGPA制度の導入とは矛盾するのではないか、との疑問が投げかけられました。つまり、GPA制度の導入は相対評価を念頭に置いている一方、シラバスに明記された成績評価方法に則り、出された成績は絶対評価になる、という矛盾です。これに対し、GPA制度の導入は必ずしも相対評価の導入を意味するわけではありません、厳格で公正な評価をするための一つの手段です、とお答えています。さらに厄介な問題は、習熟度別クラスを設置している英語における評価です。習熟度別クラスの上のクラスと下のクラスのA+は同じか、という問題です。目下、上のクラスの成績のポイントには1.0をかける、次のクラスには0.9を、その次のクラスには0.8を、下のクラスには0.7をかける案などを検討しています。クラス分けはTOEFL(R) ITP Level2を利用していますが、クラス分けの得点の境目にいる学生、たとえば、1点差で下のクラスに振り分けられた学生と上のクラスに滑り込んだ学生との間に差をつけられるのか、という疑問を投じる方もいます。


6.まとめにかえて

 教育とはバケツに水をくむことではなく、火を点すことだといわれます。しかし、学生は多様化していますので、各々の発火点が異なります。きめ細かな教育・学習支援が必要となる所以です。
 これまで、法政大学が試みているいくつかの教育・学習支援について述べさせていただきました。ご参考となれば幸いです。

 

学生による授業改善アンケート質問項目:学部期末用
 
 このアンケートの目的は、授業の内容と方法を向上することにあります。授業は、学生のみなさんと教員とが協力してこそ、実り多いものとなります。みなさんが建設的な意見を出してくださることを期待しています。
 注意事項: このアンケートに記入した内容がみなさんの成績評価に影響することはありません。また、みなさんの個人名が担当教員に知られることもありません。
 
 学部     学科     学年     学生証番号       氏名
 科目名           曜日・時限           担当教員名
 
1. この授業を履修してよかったと思いますか。
□はい   □いいえ   □どちらともいえない
「はい」についてコメント:(記述欄)
「いいえ」についてコメント:(記述欄)
2. あなたはこの授業にどの程度出席しましたか。
□100%  □80%以上 □60%以上 □40%以上 □20%以上  □20%未満
3. あなたは、1時限(90分の授業)につき、平均してどのくらい予習・復習・レポートの作成などの授業時間外の学習を行って授業に臨みましたか。
□週4時間以上 □週3〜4時間 □週2〜3時間 □週1〜2時間 □週1時間くらい
□週30分〜1時間 □週30分未満 □ほとんど行っていない
4. この授業を履修して感じたことをお聞きします。(複数回答可)
□知識が身についた □スキルが身についた □基礎力がついた
□応用力がついた □思考力がついた □判断力がついた
□新しい発見があった □進路選択に役立った □苦手を克服できた
□知的興味が満たされた □知的意欲を刺激された □楽しく受講できた
□教員の専門分野に興味をもった □もっと早い学年で履修したかった □もっと遅い学年で履修したかった
□提出物にコメントをつけて返してくれたので励みになった □特によかったところはない
□その他(記述欄)
コメント(記述欄)
5. この授業の進め方についてお聞きします。(複数回答可)
□授業目標が明示されていた □授業目標を達成するための学期を通じての授業構成が適切であった
□授業目標を達成できた □成績評価基準が明示されていた □授業難度が適切であった
□授業速度が適切であった □教材・配布資料が適切であった □宿題は役に立った
□教え方がわかりやすかった □1回ごとの時間配分がよかった  
□学生間の交流(討論・共同作業など)があった □質問しやすかった
□その他(記述欄)
6. 教室設備は適切でしたか。問題のある項目をチェックし、具体的にお書きください。(複数回答可)
□問題なし □広さ □照明 □機材 □音 □その他
具体的に(記述欄)
7. この授業をより良くするためには、どこをどのように改善したらよいと思いますか。
(記述欄)
8. あなたの普段の座席位置はどこですか。
定まった位置はない
教壇正面
文責: 法政大学FD推進センター長
国際文化学部 大沢 暁



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