特集 連携で学生を創る

パフォーミングアーツとファッションの融合
〜文化女子大学〜

林  泉(文化女子大学現代文化学部長)


1.はじめに

 大学の専門教育強化の背景として、昨今、時代の変化に即応した知識やスキルの修得が可能な学部学科やカリュキュラムの充実が必要になってきています。文化女子大学における服飾教育は60年の歴史があり、時代の変化とともに学部学科の編制も大きく変化しており、平成16年には、文学部(小平キャンパス)を現代文化学部に名称変更するとともに、国際ファッション文化学科を設置しました。本学部の理念は、「人間性」、「国際性」、「実用性」の三つがあげられ、豊かなコミュニケーション能力を身につけ、国際センスと教養を高め、即社会に役立ち活躍できる能力を養うことであり、21世紀が求める国際人として生きていく上で必要な「人間力」を磨くことを目標としています。


2.ファッションショーの実施

 1、2年次では、ファッションの専門科目とともに一般教養、特に外国語の習得を徹底し、3年次からは、それぞれの特徴ある専門コースとして「スタイリスト・コーディネーターコース」、「プロデューサー・ジャーナリストコース」、「映画・舞台衣装デザイナーコース」の特色ある三つのコースでより高度な専門教育を受けます。
 3年次には、毎年6月に行われる小平キャンパスの「けやき祭」において、3コースが協力・連携し合い、一つのテーマを設定し、1、2年次で修得したデザイン力と技術力を結集し、学生主体による120体のファッションショーを行っています。このショーは、毎年、近隣地域や企業、保護者、高校生、在学生、卒業生などから多くの好評を得ており、今年で11回目を迎え、年々盛大になり地域社会にも大きく貢献しています。さらに、9月にはこのファッションショーを国際交流の一環として、アメリカ・シアトルでの海外公演を継続し、今年で8回目を迎えることができました。この海外公演は、学生の実践的な英語力やコミュニケーション能力、国際性を養う場となり、アメリカでのファンも多く定着しています。海外で舞台や照明のプロのスタッフとともに短期間で成し遂げる公演は、日本では経験できない実践的な教育の場であり、学生の成長を眼のあたりにすると、継続は力であることが実感されます。

写真1 アメリカ・シアトルでのファッションショー(舞台設営、演出、照明、音響) 写真1 アメリカ・シアトルでのファッションショー(舞台設営、演出、照明、音響)
写真1 アメリカ・シアトルでのファッションショー(舞台設営、演出、照明、音響)


3.コースの特徴を生かした卒業イベント

 3年次で行ったファッションショーを基盤とし、4年次では従来行われていた卒業論文に代わり、上記三つのコースの特徴を生かした、4年生全員による卒業研究(卒業イベント)を授業の一環として行っています。
 重要視したのは、他大学とのコラボレーションと産学連携です。この「卒業イベント」の取り組みは、平成19年度第1回ウィリアム・シェイクスピア原作「夏の夜の夢」、平成20年度第2回ルイス・キャロル原作「不思議の国のアリス」、そして、現在進行中の平成21年度第3回モーリス・メーテルリンク原作「青い鳥」です。これらの企画や作品制作では、毎年、夏休みを返上し、学生は作品制作に余念がありません。
 これらの作品は4年生全員の卒業制作作品であるため、それぞれコースの特徴を生かしています。

写真2 妖精のダンス(「夏の夜の夢」より)
写真2 妖精のダンス
(「夏の夜の夢」より)

写真3 オーベロンとタイテーニア(「夏の夜の夢」より)
写真3 オーベロンとタイテーニア
(「夏の夜の夢」より)

写真4 アリスと白ウサギ(「不思議の国のアリス」より) 写真4 アリスと白ウサギ(「不思議の国のアリス」より)
写真4 アリスと白ウサギ(「不思議の国のアリス」より)

(1)プロデューサー・ジャーナリストコース
 本コースの学生は、作品の脚本を書きシナリオを作り、全学生を統括する役目を果たします。例えば、「夏の夜の夢」では企画長の学生を中心に学生全員の意見をまとめながら、様々なテーマ候補を全員が納得するまで討議し、1ヶ月を要して学生全員の総意のもとに「夏の夜の夢」がテーマとして決定しました。そして、シェイクスピアの研究に取り掛かり、学生全員で原作を読み、全体の構想を練りました。

(2)スタイリスト・コーディネーターコース
 本コースでは「夏の夜の夢」に登場するキャラクターの分析を行い、コースの特徴を生かしてファッションブランドを立ち上げることを目的に、企画長を中心にシーンを設定し、イメージ、デザイン、素材、カラーなど実物制作を行います。

(3)映画・舞台衣装デザイナーコース
 本コースの学生は、踊る妖精のバレエ衣装や主役が着用する舞台衣装を制作し、さらにオペラを歌う女性の衣装も担当します。この企画は、舞台芸術としての従来のファッションショーにとどまらず、本コースが作品制作する他、実際に作品を着用し、演技することによって舞台・照明効果、デザイン性、素材などについて、演技するための機能性や堅牢性などの効果を検証することも重要になっています。

 このように、各コースの特徴を鮮明に表現することで、それぞれの個性を遺憾なく発揮できる「卒業イベント」を実施することができました。また、担当教員も常に学生のアドバイザーとしての役割を担い、学生との信頼関係を形成していくことで、学生の精神面と技術面などのサポートも行っていきます。
 コースの特徴を生かした「卒業イベント」は、それに携わる学生一人ひとりの人間性や協調性、責任感、プレゼンテーション能力、コミュニケーション能力などのあらゆる能力を高めます。そのことは、第1回、第2回で実施した学生対象のアンケート調査結果でも実証でき、「自己向力感」や「他者理解力」、「自立心」、「積極性」、「達成感」といった心理的な成長も見て取れます。
 「国際社会で活躍できる人材を育成する」ことを目指す国際ファッション文化学科において、学生自身が他大学や外部企業などと直接交渉や接触することが必要不可欠となる「卒業イベント」は、学生の社会性を養う実践的な教育の一環であると確信しております。また、「卒業イベント」を実施し、企業関係者の目にも触れることで卒業後の就職に結びつき、今までとは違った就職先を確保することができました。


4.武蔵野音楽大学とのコラボレーション

 この「卒業イベント」では、オペラ、バレエ、ダンスなどのパフォーミングアーツとファッションショーの融合を目指し、平成19年度第1回より継続的に武蔵野音楽大学とのコラボレーションを実施しています。それは、他大学には無い、ストーリー性のある独自のファッションショーを創り上げていくことが重要であると考えるからです。コラボレーションを通して、武蔵野音楽大学が手掛ける素晴らしいオーケストラの生演奏やオペラは、「卒業イベント」の舞台において欠かすことのできない要素になっており、現在進行中の平成21年度第3回「青い鳥」では、今まで以上に多くのオーケストラの参加が決まっています。

写真5 武蔵野音楽大学によるオペラとオーケストラ演奏(「不思議の国のアリス」)
写真5 武蔵野音楽大学によるオペラとオーケストラ演奏(「不思議の国のアリス」)

 武蔵野音楽大学とのコラボレーションでは、テーマが決定し企画を進める段階で、シーン構成に応じて楽曲の選曲を依頼したり、リハーサルなども重ね、学生同士のコミュニケーションも必要となり、そこでも学生のプレゼンテーション能力や協調性が養われます。
 現代文化学部では、大学におけるファッション教育では、教養を高めるとともに実践的な能力や社会適応能力を身に付けさせることが重要だと考えます。


5.まとめ

 「卒業イベント」を実施するにあたり、4年次では現在、社会の第一線で活躍されているプロの映画監督や舞台美術家、バレエ振付師の先生方を講師に招き、専門的な授業を展開しています。さらに、「卒業イベント」の場においても専門家の立場から学生に指導していただくことにより、学生はより実践的な専門知識を習得することができます。
 今回、現代文化学部国際ファッション文化学科における教育改善の取り組みの事例として「卒業イベント」を紹介させていただきましたが、今後も武蔵野音楽大学とより一層緻密な連携を保ちつつ本取り組みを継続していきたいと考えております。



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