教育・学習支援への取り組み

日本語プログラムにおけるmoodleの活用〜桜美林大学〜


1.はじめに

 桜美林学園は1946年に開設され、同年に高等女学校を設立しました(1948年の高等学校化移行に伴い廃止)。その後、中学校、短期大学の設立を経て、1966年には桜美林大学文学部(英語英米文学科・中国語中国文学科)を開設しました。その後幼稚園も開園し、大学は文学部に加えて経済学部・国際学部・経営政策学部が開設され、大学院も設置されました。2005年には総合文化学群を開設し、学部の改組・拡充をしながら全学的な学群制へと移行していき、2007年にはリベラルアーツ学群、ビジネスマネジメント学群、健康福祉学群、総合文化学群の四つの学群が揃いました。四つの学群には合わせて48の専攻プログラムやコースがあり、学群の枠を越えて幅広い学問分野から自由に学ぶことができます。
 桜美林学園は、キリスト教精神に基づいて、教養豊かな識見の高い国際的人材を育成することを基礎とし、教育基本法及び学校教育法の定めるところに従い、深く専門学芸の研究と教育を行うことを目的としています。


2.桜美林大学におけるeラーニング(moodle)導入の経緯と利用実績

 eラーニング導入のため、2005年度には大学および大学院の教員、教務部および情報システム部の職員をコアメンバーとした「e-Learning Initiative」が組織されました。eラーニングを展開する上で目指していくことになったのは、次の4点です。

 導入するCMS(コース・マネージメント・システム)については複数のソフトを調査し、最終的な候補として残った四つのCMSの中からmoodleの適用が決定しました。授業支援の体制も整えられ、2006年4月から実際の授業に利用されるようになりました。
 本学でeラーニングが導入されてから4年が経ちましたが、当初50程度だったコース数も2009年度春学期には343コースにまで増加し、前年度同学期との比較で88コースの増加、前学期と比べると148コースの増加となっています。

図1 利用コース数の推移
図1 利用コース数の推移

 実際にコースを利用している学生の利用者数も利用コース数の推移に対応する形で変化し、2009年度春学期の時点で2809人になりました。前年度の同学期比で807人の増加、前学期比で1,159人の増加で、全学生数に対する学生利用率は31.7%となっています。
 教職員の利用者数については、eラーニング導入当初の28名から毎学期徐々に増加し、2009年度春学期の時点では111名が利用しています。

図2 教職員の利用者数の推移
図2 教職員の利用者数の推移

 2009年度に利用しているコースのうち、大学(学部)で最も多いのは基盤教育院のELP(英語プログラム)で、次に日本語(留学生向け日本語プログラム)、リベラルアーツ学群と続いています。現在は授業の補助ツールとしての活用が中心であり、moodleを利用するかどうかの判断は各教員に任されています。


3.eラーニング(moodle)推進とサポート体制

 eラーニングの普及と推進、および教員への研修や支援を行うため、2006年10月よりeラーニング推進委員会の活動が始まりました。この委員会の構成委員は、学部/学群、大学院といった教育組織および情報システム部などの事務組織から選出された教職員で、具体的な役割(機能)として、以下の4つを果たすべく活動しています。

 2009年度はeラーニング推進委員会の活動目標として「動画配信の環境整備」「FD/SDへのICT活用」「学内シンポジウムの企画・開催」「moodle活用のための環境改善」の四つを掲げ、計画的に運営されています。
 また、情報システム部の主催で毎学期moodleの講習会が開催され、初めてmoodleを利用する教職員にも分かりやすいように実習を交えながら基本的な機能について学ぶ機会が提供されています。さらに、メールによるヘルプデスクの開設、ユーザーガイドの整備など、ユーザーが使い方に困ったときのサポート体制も整いつつあります。


4.日本語プログラムの概要

 桜美林大学には学部/学群や大学院に在籍する学生と半年〜1年間学ぶ短期の交換留学生を合わせ、600人近くの留学生がいます(2008年度)。
 学部/学群の留学生を対象としたコースは大学生として学内外で必要とされる日本語力を身につけることを目標としており、1年次に週5コマの必修(コア)科目として開講されています。具体的には、読・聞・話・書の4技能を中心とした「日本語専門基礎AI(2コマ)・AII(2コマ)」と、学生が自ら設定した目標を達成するために計画を立て、教師の助言を受けながら自分で学習を進める「日本語専門基礎B(1コマ)」です。
 短期の交換留学生向けのクラスは、初級から上級までの各レベルに、コア科目(週2コマ〜6コマ)と選択科目(週1コマ)があります。選択科目には様々なクラスが開講されており、体験活動、漢字、文法、読解、聴解とノートのとり方、ニュースと新聞、口頭表現、文章表現、文芸と表現、現代大衆文化、職業コミュニケーション、地理と歴史の用語、日中対照表現演習、日朝/日韓対照表現演習、チュートリアルなどがあります。


5.日本語プログラムにおけるmoodleの活用

 日本語プログラムにおけるmoodleの活用は大きく三つに分けられます。一つ目は授業での活用、二つ目は教員間の業務連絡ツールとしての活用、三つ目は留学生と日本語プログラムをつなぐツールとしての活用です。

(1)授業での活用
 対面授業を補完するような教材や資料の提示、課題機能を利用して課題の提出をさせたり添削を行ったりするものが主な活用方法になっています。moodleが導入されるまでは「OBIRIN e-Campus」(注1)というシステムを使って、課題の提示や回収を行っていましたが、複数のファイルのやりとりができない、提出された課題の管理が煩雑であるなど、不便に感じる点がいくつかありました。週に1コマしか授業のないクラスでは、学生への連絡や欠席者へのプリントの配布など次回の授業の前に行いたいことがあっても、自分でMLを作って連絡をするか、次回の授業まで待つしかないことが多々ありました。そのような不便な点はmoodleを利用することで解消されたものも多いと思います。また、「OBIRIN e-Campus」では担当教員と学生の1対1のやりとりしかできなかったものが、moodleのフォーラム機能を使って学生同士のやり取りも含めた複数間での意見交換やアイディアの共有などが簡単にできることになったのも、学習をサポートする上で非常に役に立っています。

(2)教員間の業務連絡ツールとしての活用
 日本語プログラムの業務に関わる重要なファイルは学内LANでつながっている所定のドライブに保存しています。しかし、授業を担当する教員の多くが非常勤講師のため、出講日以外に自宅から情報を取り出したいと思ってもそれはできませんでした。教員が共有するファイルには個人情報が含まれていることも多いため、いくらパスワードをかけても安易にメールで送付するわけにはいかなかったのですが、moodleを導入してからは比較的安全な形でそのようなファイルに学外からもアクセスできるようになりました。
 日本語プログラムでは、プログラム全体のコースだけでなく科目のレベルや種類によって「初級・中級・上級」と「学部/学群」の四つのコースを作成し、それぞれのクラスを担当している教員が登録されています。このようにすることで、同一レベル内の情報交換がスムーズに行えるだけでなく、教材を共有したり、自分の担当クラス以外の様子を知ることも可能になりました。日本語プログラムは週に100コマ以上の授業が開講されており、担当するレベルも毎学期同じとは限りません。担当レベルが変わった場合も、それまでどのようなことが議論となったのかを容易に知ることができます。

(3)留学生と日本語プログラムをつなぐツールとしての活用
 現在は主に短期交換留学生向けに利用しています。本学の短期交換留学生の留学期間は基本的に6ヶ月あるいは1年間となっており、毎学期(4月と9月)新規留学生が来日します。来日してから2週間程度で大学の授業が始まるため、入門レベルから上級レベルまでの総合的な日本語レベル判定および技能別科目のレベル判定を迅速かつ的確に行う必要性が生じます。
 クラス分け作業全体の流れとしては、来日前に手書きの作文と事前提出書類(学習背景調査・学習ニーズ調査)の回収、来日後にオンラインテスト、面接、技能別科目の筆記試験等を行っています。このうち、面接と技能別科目の筆記試験以外は全てmoodleを活用しています。作文は手書きで書いたものを画像として保存し、画像ファイルをmoodleで提出するように指示を出しています。事前提出書類については、所定の書式をダウンロードさせ、必要事項を記入の上、作文と同様に課題機能を使って提出させています。以前、メールで作文や事前提出書類を求めていたときは、提出したかどうかの管理が非常に煩雑になっていましたが、moodleを利用するようになってからはメールの行き違いや迷惑メールに分類されてしまうなどのトラブルもなくなり、ずいぶん管理がしやすくなったと思います。
 オンラインテストは小テスト機能を利用して、「穴埋め式」フォーマットで多肢選択の問題を作成しています。テストは文法問題100問(50分)、漢字・語彙問題100問(50分)、読解は中級レベル40分、上級レベル50分で、以前はエクセルに記入した解答をメールで送らせて、手作業でコピーペーストをして採点を行っていました。現在はmoodleで自動採点を行っているため、時間と手間が大幅に削減されています。
 クラス分けの結果発表をmoodle上で行った後は、プレースメントとして使ったコースを日本語プログラムからの連絡ツールとして引き続き活用し、留学生に役立ちそうな情報や交流イベントの紹介などを流すようにしています。


6.moodle活用において苦慮した点

 留学生を対象とした日本語プログラムでmoodleを活用するには、日本語母語話者向けの授業での活用とは異なった対応が必要となることがあります。学部/学群の留学生であれば、日本語のみの指示で十分ですが、特に入門・初級レベルの学生が多いと、日本語だけでは対応しきれません。具体的には漢字にルビを振ったり、多言語での指示や説明が必要になってきます。ルビについては、使用するブラウザソフトによって、表示のされ方が異なるため非常に厄介であると感じます。
 留学生に限らず、新規入学者のすべてに関わることですが、本学では学籍番号をIDとして管理しているので、入学の何ヶ月も前からmoodleを使ったやり取りをする場合は、学籍番号が発行される前と後でIDの貼り替えを行うという作業が入ります。学籍番号がない者の登録やIDの貼り替えは、情報システム部が作業支援をしています。
 また、クラス分けテストは失敗が許されないものであり、受験回数制限、時間制限、パスワード管理、学生のPC画面の監視など様々な工夫が必要になります。事前のサーバー負荷テストやネットワークトラブル時のバックアップなど、情報システム部という専門の部署のサポートを得られ、大変心強く感じました。
 プログラム全体でmoodleを導入するには、教員、学生ともにそのツールを使いこなすことが必要となります。しかし、多忙な業務の中で新しいツールを急に導入するのは難しく、少しずつ段階的に導入していく必要があると感じています。日本語プログラムでは、まず2007年7月末から教員間の業務連絡ツールとして、フォーラムへの書き込みやファイルの閲覧・ダウンロードに限定した利用を開始しました。その後、2007年度末のFDとしてmoodle講習会を開催し、その後も半年に1回のペースで自主的に勉強会を行っています。
 留学生の多くは教員以上にPCを使った作業に慣れていますが、全員がPCを使いこなせ、PC環境も整っているとは限りません。特に来日前の短期交換留学生向けには、対面で指導できないこともあり、マニュアルを充実させるなどの配慮が必要になります。また、画像処理の方法などが分からない学生がいることも考慮し、FAXなどのmoodle以外での提出方法を準備することも不可欠です。moodleを使えることが学習の前提となるようなことは望ましくないと思いますし、ICTを活用する場合でも、利用目的に合わせてメールや「OBIRIN e-Campus」など教員や学生にとって使いやすいものを組み合わせることも大切だと感じます。


7.今後の課題

 現在、学部/学群の留学生の多くが1年生の必修科目を終えると、日本語の科目を履修せず各自の専門科目を中心に学ぶようになり、日本語プログラムとの関係は希薄になっていきます。留学生にとって有益な情報は学部/学群1年生や短期交換留学生だけでなく、2年生以上の学部/学群留学生にも伝わるようにしたいと思っていますが、留学生用のメールボックスやメーリングリストはないので、現状では日本語プログラムから連絡が取りにくい状況にあります。今後は、日本語科目を履修している学生だけでなく、より広範囲の留学生同士が繋がれる場としてもmoodleを活用していきたいと思っています。
(1) 日本システム技術株式会社 『UNIVERSAL PASSPORT』の本学園での愛称
文責:家田 章子(桜美林大学基盤教育院日本語プログラム助教)


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