教育・学習支援への取り組み

学生教育・生活支援のためのICT活用システム〜大手前大学〜


1.はじめに

 大手前学園は、第二次大戦後間もない1946(昭和21)年、「情操豊かな女子教育」を目標として大阪・大手前の地に誕生しました。2005年には創立60周年を迎え、現在、大学・大学院、短期大学、二つの専門学校を合わせ約4,500人が学んでいる大阪、伊丹、西宮に三つのキャンパスを持つ総合学園です。本学園は、「STUDY FOR LIFE(生涯にわたる、人生のための学び)」を建学の精神と定め、教育の場を広く開放し、丁寧で親身な教育の提供をモットーとしています。
 大手前大学は、総合文化学部、メディア・芸術学部、現代社会学部の3学部からなっており、広く複合的領域を学習できる「リベラルアーツ」型教育の中で、学生が「自分で創る専門性」を習得するためのきめ細かな支援を行っています。同時に、学生が新たな時代を生き抜くための「社会人基礎力」を身につけるよう、あらゆる機会を通じてバックアップしています。
 なお、大手前大学では、リベラルアーツ型教育を「一般教養」とは考えておらず、本学が目指すリベラルアーツ型教育は、「幅広い教養のうえに形成される専門性(メジャー)」を意味しています。また、大手前大学では、学生一人ひとりが身につけるべき「社会人基礎力」の必須項目としてC-PLATというコンセプトを掲げています。C-PLATは、Creativity(創造力)、Presentation(プレゼンテーション能力)、Logical Thinking(理論的思考力)、Artistic Sense(芸術的感覚)、Teamwork(チームワーク)を表します。


2.カリキュラム

 上記目標をかなえるため、カリキュラムも工夫し、学生が入学後に自分の興味を確認した上で、学部の枠を超えて自由に他学部の科目でも履修できるように、「自分で創る専門性」という本学の新たな教育方針に基づいた「ユニット自由選択制」というシステムを導入しています。
 特に、新入生が大学レベルの学習にスムーズに順応できるよう「初年次教育」の充実を図っています。その内容は次の通りです。
ベーシック必修科目
 大学での学習の基礎力を養成する科目。1年生は、「フレッシュマンセミナー」「日本語表現」「英語表現」「情報活用」を必修科目とします。
ベーシック選択科目
 幅広い教養を身につけるための科目。「自己表現・ディベート」「企業理解特別講座」「体育・スポーツ」などから選択して履修します。
専門教育科目(トライアル科目)
 専門的な学習への入り口としての「お試し科目」。

 1年次には、3学部とも上記の「ベーシック必修科目」を14単位以上履修することが求められますが、それ以外は自分の興味に基づき、学部の枠を超えて「ベーシック選択科目」「専門教育科目(トライアル科目)」を自由に選択することができます。
 2年次以降は、1年次に確認した自分の興味に基づいて、学部の枠を超えて様々な分野を独自にカスタマイズして学習できるようになっています(「ユニット自由選択制」)。「現代社会・ビジネス系」「メディア・表現系」など12の「系」には、それぞれ8単位以内で構成されたユニットがあります。すべての科目は四つのレベル(レベルナンバー)に分類されています。これは、段階的で体系的な学習を保証するための仕組みです。このように、学生は関心の広がりや学習の進度に応じて様々な分野を広く学習することもできますし、専門的分野を深く学習することもできるカリキュラム体系になっています。もちろん資格取得希望の学生には、教員、建築士、司書、ウェブデザイナーなど多彩な科目も用意されています。
 なお、いま用意されている各ユニットは固定的なものではなく、社会の変化に伴う学習ニーズなどを考慮し、柔軟に変更していきます。小人数で双方向による学習、いつでもどこでも学習できるeラーニングによる学習など、学生の学びをあらゆる角度から支援しています。


3.情報基盤

 大手前学園の情報システムは、事務処理の効率化という側面から始まりました。
 1985年頃からホストコンピュータによる、教務・入試・学費収納・管財・財務などの事務システムが構築され、インターネットへの接続を機に、1994年これらのシステムのクライアント・サーバシステムへのダウンサイジング移行を行いました。また、この頃まで学生サービスとしてのICT活用は、全学的には行われていなかったのですが、2000年大手前大学が共学化されたのを機に、「親切学部」「e-Campus」を合言葉に学生サービスとしてのシステムを構築することになりました。
 現在では、3キャンパスを光ケーブルで接続したWANのもと、学内に設置された約1,500台のPCを接続しています。各教室や図書館などには、情報コンセントが設置されており、Web認証のもと、ノートパソコンを持ち込んでの接続利用も可能になっています。また、図書館や学生ホールなどでは無線LANの設備もあり、届出許可を得たパソコンの無線接続利用も行っています。さらに、自宅など学外からも、VPN(バーチャルプライベイトネットワーク)を利用することで学内のネットワークに接続することができ、学外からも、学内と同様に様々なサービスを利用することができます。
 運用としては、すべての教職員、学生にIDが与えられ、ネットワークにログインし、専用ポータルサイトを利用します。学内のほとんどの情報システムは、このポータルサイトを介して利用できるようになっています。また、統合認証システムを利用することにより、学内のほとんどのシステムを同一のID、パスワードで利用することが可能になっています。
 利用者環境としては、ネットワークにログインすると、それぞれ個人にホームディレクトリが割り当てられるとともに、授業で配布する資料や提出するファイルのための課題フォルダなども自動的にマッピングされます。また、フォルダリダイレクト機能により、「デスクトップ」や「お気に入り」などの個人環境が学内のどのコンピュータからでも同一環境で利用できるように設計されており、利用者にとっては場所を選ばないフレキシブルな環境となっております。
 2008年に導入されたアプリケーション配信システム「Z!Stream」は、「Illustrator」や「Photoshop」などのAdobe社製のアプリケーションやSPSSなどの分析ソフトを、学内ネットワークに接続しているコンピュータならどのコンピュータでも利用可能としました。将来的には学外からの利用も視野にいれ、情報基盤センターが中心となり、さらなるサービス向上を目指しています。


4.ポータルサイト

 前章でも述べましたように、利用者はネットワークにログイン後、まずブラウザを開きポータルサイト(当学園では、「学生支援データベース」(注)と呼ぶ)にログインします。学生支援データベースにログインすると、お知らせ、システム情報、休講情報の掲示板が開きます(図1参照)。これらの掲示は携帯電話からも閲覧することができるようになっています。またこの画面を介して各種サービスが利用できるようにリンクが張られています。

図1 学生支援データベース初期画面
図1 学生支援データベース初期画面

 このサイトを利用して、教員は、成績やシラバスなどの登録、学生管理のための学生別の時間割や成績の参照、また、学生カルテとも言うべき学生情報の参照や、学生指導などの記録の書き込みや参照が行えます。学生は、履修登録やシラバス参照、卒業見込み判定、成績参照など、主に教務事務関連の登録や参照が行えます。職員は、教員や学生の登録や管理、教務用事務システムと学生支援データベース間のデータ連動の作業(例えば時間割、履修、成績などのデータの移行や取り込み作業)などを行うことができます。
 またICチップを内蔵した学生証で学生を認証することにより、成績証明書など各種証明書類をデータベースサーバと連動した自動発行機より発行することができるようになっています。


5.eラーニング

 大手前大学では、1998年頃からeラーニングの先進国であるアメリカや韓国の大学を視察するなどしてeラーニングの活用方法についての検討を始めました。2001年には、デジタルコンテンツを配信するための学習管理システム(通称、LMS)を導入し、eラーニングの実用化に向けた実証検証を行い、2003年〜2005年頃には、教室で行われている対面授業をそのままデジタルコンテンツ化することができる授業録画システムを導入、また、Webベースの英語教育システムの導入など、一般授業以外での学習ツールとしての検証も行いました。
 2007年秋なってeラーニングの専門部署となるeラーニング推進センターを開設、このセンターが中心になり企画・運用を行うことにより、eラーニングの取り組みがいっそう加速されました。2007年秋学期にはeラーニング授業の試験運用を実施し、2008年度より、正式に単位を認定するeラーニング授業の運用を開始、2009年春学期までの3期で述べ17科目のeラーニング授業を運用しています。
 2009年度春学期においては、8科目をeラーニング科目として開講しました(図2参照)。
 受講生数は1科目36名の科目から339名の科目と様々でしたが、総数で884名となり、多数の学生が受講しました。また、当初心配していたドロップアウト率も思っていた以上に少なく、受講生の平均完了率は84.5%でした。これは、チュータとメンタによる学習支援が高い完了率を得られていることに寄与していると思われます。
図2 eラーニングコンテンツ
図2 eラーニングコンテンツ

 2009年度秋学期に行った授業アンケートによると、「eラーニング授業全体について満足している」80.39%、「メンタリングについて満足している」73.81%、「次回もeラーニング授業の受講を希望する」81.23%、という満足する回答結果になっています。これらは、eラーニング推進センターを中心に教員・職員が実施・評価を重ね、システムやコンテンツを改善してきた結果であると考えられます。しかし一方、自由記述には、システムの不具合の改善、デジタルコンテンツの音量の不揃い、教科書の必要性などの改善要望も見られ、将来のeラーニング科目の増加も見据えて、改善していかなければならない点も多々あると考えています。


6.携帯電話利用システム

 近年、学生の携帯電話の利用は目を見張るものがあり、多くの高等教育機関において携帯電話を利用した教学システムや学生管理システムの導入などの取り組みが行われています。
 本学においても前述しましたように、休講・緊急のお知らせなどの掲示をポータルサイトと同様に携帯電話でも見ることができる他、携帯電話を利用したシステムとして、入学前教育や初年次教育などに利用しているLMS「確認くん」とリアルタイム授業評価アンケートシステム「C-POS」を運用しています。

(1)携帯電話対応LMS「確認くん」
 本学では1・2年次の必修科目においては、科目間でルールを共通化し、統一教材による授業展開を行っています。毎回の授業への参加状況や、毎回の課題の提出状況と完成度などを「○」「×」という分かりやすい「スタンプ」で示し、スタンプがすべて「○」になると単位を与えます。欠席や課題未達成でスタンプが「×」の場合には、5週毎に実施する再クラス(補充学習)への参加を求めています。
 この教育システムのもと、学生個々の学習状況・成果を可視化し、教員と学生が互いに確認する仕組みとしてPCと携帯電話に対応したLMS「確認くん」を開発・運用しています。「確認くん」には、学生個々の出欠・課題取組状況を「スタンプ」(「○」「×」)で表示する機能の他、個別メッセージ配信、アンケート回答機能も備わっており、2009年度からはポートフォリオ機能も追加され、学生は毎回の授業における気づきや学びを記録・蓄積し、教員やTAが随時的確な助言を行っています(図3参照)。

図3 確認くん教員用画面
図3 確認くん教員用画面

 2009年度(7月26日現在)の確認くんへの総アクセス数は、105日間(15週)で86,145件あり、これは、学生一人当たり週に7.23回とかなり高い頻度でアクセスしていることになります。確認くんの必要性・利便性に関しては、2008年度には、90%以上の学生から高い評価を得ています。
 また、本学では様々な入試制度による早期入学確定者に対して入学前ガイダンスを行い、入学前学習を行っています。自宅からの通信学習を中心とした全15回の学習活動を設定し、原則として全員参加としています。この通信学習においても、課題公開や課題提出は確認くんを利用し、その成果の公表などのフィードバックも確認くんを用いて行っています。

(2)リアルタイム授業評価アンケートシステム「C-POS」
  本学では、2003年に携帯電話を利用したリアルタイム授業評価アンケートシステム「C-POS」の導入の検討が行われ、以来このシステムの運用は6年目に入ります。それまでも、学生による授業評価アンケートを前期・後期の学期末に紙ベースで実施し、授業改善に役立ててきました。しかし、このような形で行われる授業評価は、授業改善の取り組みが次期授業以降にしか反映されないという欠点があり、授業評価を行った学生への直接のフィードバックが行われないという点、また、半期間の授業総体の総合評価になってしまい、各回の授業内容に対する評価を得ることができないなどの点が指摘されていました。
 そこで、従来の授業評価に加え、各回の授業内容に関する評価を集め、その結果を次回の授業に反映させる事ができるリアルタイムな授業評価システムが必要であると考えられ、このC-POSシステムが構築されました。C-POSシステムの運用の概要は、授業時間の最後約10分を利用して、学生に携帯電話を利用してアンケート用ホームページにアクセスさせ、アンケート回答を入力させます。教員は、授業終了後、研究室などのパソコンのWebブラウザでアンケートの集計結果や学生の自由記述を見ることができ、次回の授業に学生の意見を反映させることができるというものです。このシステムの利用を希望する科目は、教務課に利用したい旨の届けを出した後、アンケートを実施します。一般的には半期に2回程度、多い科目では、半期に5回実施した科目もありました。
 アンケート設問内容は下記のとおりで、問1から問4までは4段階評価、問5は自由記述となっています。

問1:「今日の授業は理解できましたか?」
問2:「今日の授業は面白かったですか?」
問3:「今日の授業の進め方はどうでしたか?」
問4:「今日の授業は満足でしたか?」
問5:「今日の授業」に対する意見を自由に記入してください。

 また、半期終了時点で全科目の回答に関し、四者択一問題に関しては統計処理を行い、自由記述に関してはテキストマイニングソフト「TRUE TELLER Ver.5.0」(野村総合研究所)を活用した分析処理を行っています。

学生支援データベースは、日本システム技術(株)のUNIVERSAL PASSPORTを当学園用にカスタマイズし、運用しているものです。
文責: 大手前大学
情報基盤センター長 鳥巣 泰生


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