巻頭言

島嶼とうしょ社会の情報と教育

富川 盛武(沖縄国際大学理事長・学長)

 本学の使命には「アジアの十字路に位置する沖縄のポテンシャルを活かし、万国津梁の魁となる人材を育成します」があり、教育目標には「アジアを中心とする国際社会と対話し、理解し発信する能力を育成する教育」がある。
 沖縄はかつて琉球王朝時代に明国をはじめ高麗、シャム、パレンバン、スマトラ、ジャワ、満刺加、仏太泥、安南さらに、九州、近畿、関東の港にまで出入りし、那覇港は「万国の津梁」となり、栄えた。域内資源が狭隘な島嶼社会が発展するためには「外とのネットワーク」の構築が不可欠であった。現代で言う「国際的ネットワーク」を琉球王国は構築していたのである。現在においても、国策で沖縄は「パシフィック・クロスロード」と位置づけられ、「アジア・ゲートウェイ」としての航空貨物ハブの始動もあり、空港、港湾のみならず情報通信基盤を基に国際ネットワークの構築が進んでいる。
 ビジネス・ネットワークとは、企業が調達、販売、研究開発などの諸機能を営む際に形成される企業間関係を指し、企業と組織を結ぶ中間組織、あるいは組織内取引と市場取引の場と定義されている。ネットワークにより経済主体は、時間、空間を克服し、遠隔地の他者との交流・調整ができる。ネットワークの効率という情報化社会のメリットを駆使すれば資本、経営の規模を問わないビジネスが展開できる。ネットワークは大きな組織に組み込まれることなく、数の力が得られ、お互いに違うもの同士を引き合わせ、それぞれがお互いの知識や技術を補完することで一人ずつではできないことを可能にする。各地に散在する安価で良質なモノ、ヒト、カネ、情報などの生産要素をネットワークで効率的に組み合わせ、商品化するというコーディネート力によって、産業立地の不利性を克服し比較劣位を比較優位に転換できるのである。ネットワークの発達は、単に経済発展を超えて文明の展開そのものを規定するとさえ言われている。
 ネットワークの構築と展開において、必要不可欠な要素が情報技術である。沖縄は「マルチメディア・アイランド構想」の下、高度情報通信ネットワーク社会を実現するため、高速・大容量・低コストを実現する情報通信基盤の整備を推進している。具体的には光ファイバ網やCATV網等をはじめ、有線回線、衛星回線および地上無線回線等の多様な情報通信基盤の整備等である。技術やアプリケーションの急速な進展が見込まれる携帯電話等をはじめとする、次世代の先進技術を活用した情報通信基盤や施設の県内への先行的な整備も進んでいる。さらに沖縄振興特別措置法により「情報通信・金融特区」が指定され地域の情報通信の基盤も整備されている。
 本学の産業情報学部では、「情報リテラシーから情報プロフィシェンシー(熟達)へ」をモットーに、地域の自立と国際性の涵養等を教育研究の目的とし、IT(情報技術)を用いた高度な情報活用能力等の陶冶を通じて、産業を創造および活性化できる情報化人材の育成、並びに、企業経営における高度な経営情報分析能力や国際的ビジネス感覚等を身につけたビジネススペシャリストの養成を行っている。また、企業環境の変化に柔軟に対処できる基礎知識と応用力、そして、高度な情報処理分析能力・国際的な感覚を併せ持つビジネスのプロ養成も推進している。
 本学では今年から、上海での国際インターンシップがスタートした。うごめくアジアの風を読み、中国経済のダイナミズムを現地企業で体感し、国際的なセンスを磨き、将来、アジアで活躍できる人材を育成するためである。情報収集、分析の基礎として、共通・専門科目の中に情報関連科目を多数開設し、刻々と変化する為替レート、株価等の経済動向をリアルタイムで情報を集め、編集し、ビジネスに転化するための教育を実践している。


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