教育・学習支援への取り組み

「主体的な学び」を目指す静岡理工科大学の教育・学習支援

1.はじめに

 静岡理工科大学は、1991(平成3)年、理工系の単科大学として静岡県西部の袋井市に誕生しました。その後、大学院、学部を増設し、現在は、大学院理工学研究科(システム工学専攻、材料科学専攻)、理工学部(機械工学科、電気電子工学科、物質生命科学科)、総合情報学部(コンピュータシステム学科、人間情報デザイン学科)から構成されています。2010(平成22)年5月1日現在で、学生数は大学院40名、学部1,357名、教員(専任)数は67名、事務・技術職員数(嘱託・契約を含む)32名となっています。
 本学は、静岡県西部の「やらまいか」(「一緒にやってみよう!」を意味する方言)という進取の精神を背景に創立され、「豊かな人間性を基に、『やらまいか精神と創造性』で地域社会に貢献する技術者を育成する」という理念を掲げています。以下では2学部共通の教育を中心に紹介します。

2.教育の体系と構想

 本学の教育は、図1のとおり、「教養教育」、「やらまいか教育」、「専門教育」を三本柱とする実学教育という形で体系化されています。「実学」とは単なる実用ではなく、「事実をふまえ本質を問うことをとおして、現実に正しく対処するための学び」を意味しています。
 このうち、「やらまいか教育」は本学の特色の一つであり、「創造・発見」「テーマ研究」「ボランティア活動」といった科目、実験・実習的な性格をもった諸科目において、学生が自分から進んで課題に取り組むように、授業を組み立てています。在学中の4年間を通したカリキュラムの中に、これら三種類の教育を偏りなく組み込んでいます。
 カリキュラム全体を通して、「モノから入る教育」手法を重視しています。「モノ」とは物質的な存在だけでなく、ソフトウェアなどの仕組みも含んでいます。具体的な「モノ」から入って理論的な知識へと展開し、さらに実際の「モノ」に応用することを指しています。また、教育内容を整理し、厳選された内容を徹底的に教えることを重視しています。
 しかし、「ていねいな教育」や「面倒見のよい教育」だけでは不十分です。そこで、学生の「主体的な学び」の構想のもとで、カリキュラムの根本的な改革を含む総合的な教育改革に取り組んでいます。

図1 教育の体系

3.教育改善の組織体制

 現在、総合的な教育改革に取り組んでいますが、同時に日々取り組んでいる教育改善は、図2の組織体制のもとで展開しています。
 図中の「教育部会」が教育改善の中核です。教育部会は、大学評議会のもとにあって、各学科の委員および教育関係諸部門の委員から構成され、部会長は理工学部長(総合情報学部長は学長が兼務)が務めています。ここでは、大学院運営委員会や教務委員会と連絡をとりつつ、本学の教育方針全般を審議します。教育部会のもとに、教養教育から英語教育までの四つの小委員会が置かれ、該当する科目の担当者代表を中心に日常的な改善を進めるとともに、教育部会に改善方針を提案します。
 「FD推進小委員会」は本学の全学的なFDの実務を担っています。具体的には、教育改善の調査、授業評価アンケートをはじめとする教育関連データの分析、授業公開の実施、ベスト・ティーチャーの選考、研修の企画・運営などです。このうちベスト・ティーチャーの選考については、候補者のノミネートから選考までの過程に、各学科から学生代表の委員も参画しています。これは本学の運営に対する学生参画の一形態となっています。
 「教育開発センター運営委員会」は、後述する教育・学習支援の取り組み、およびICTを利用した教育・学習支援の箇所で紹介します。
 図に示すとおり「教育部会」とは別に、大学評議会のもとに「教育評価委員会」が置かれています。これは、各学科の学科長などの委員から構成され、理工学部長が委員長を務めています。この委員会では全学的な観点から教育の評価を統括しています。そして「教育評価委員会」と連携して、各学科に「ピアレビュー委員会」が置かれ、学科ごとに教育改善の評価を担っています。
 以上の組織体制で、教育改善のP(担当:教育部会、小委員会)、D(担当:学科、科目担当者グループ)、C(担当:教育評価委員会、ピアレビュー委員会)、A(担当:学科、科目担当者グループ)を動かしています。

4.教育・学習支援の取り組み

 教育・学習支援の取り組みのうち、ICT利用の性格が強いものは後述し、ここではそれ以外の主要な取り組みを紹介します。

(1)入学前学習・初年次教育の実施

 新入生が大学での勉学や生活に円滑に入っていくための種々の取り組みの中に、入学前学習と初年次教育があります。入学前学習は、推薦入試、AO入試などで入学する生徒に対して数学の学習を指導するものであり、「教育開発センター」が実施しています。独自に開発した教材を用いて、12月から2月にかけては通信(自学自習・添削)教育を、2月には5日間のスクーリングを実施しています。
 初年次教育としては、「フレッシュマンセミナー」科目を少人数クラスで実施しています。学科ごとに特色あるテーマを追究することを通して、大学生活への適応と基本的な学習スキルの習得を図っています。「文章表現法」科目は現状では2年生で実施していますが、「フレッシュマンセミナー」との接続や日本語表現力の強化を図るため、1年生での実施に変更する予定です。

(2)教育開発センターでの個別指導

 教育開発センターは、教育開発室、学習支援室、および教職支援室から構成され、専属の教職員を配置しています。運営は、前掲の図2に示す「教育開発センター運営委員会」が統括しています。
 教育開発センターでは、学習支援室の業務として学生の個別指導を受け付けています。原則としてすべての科目について、学生からの質問・相談に丁寧に応じています。学力不足の学生に限らず、より高度な勉学を希望する学生も、この制度を利用しています。数学、英語、物理学、プログラミングについては同センター所属の教員または科目担当教員が、その他の科目については科目担当教員が、対応しています。学生からの希望に応じて、個人指導またはグループ指導(写真1参照)の形態をとっています。指導・学習の記録は後述する「SIST情報システム」に保管され、当該学生の助言教員(担任)も閲覧できるようになっています。

写真1 教育開発センターでの指導
写真2  開発された主要な教材

(3)助言教員による包括的な指導

 「助言教員」は1学年あたり5・6人程度の学生を受け持つ担任であり、勉学と生活について包括的な指導を担っています。勉学関係では、入学当初の数学と英語のクラス分けテストの成績管理、科目履修・単位修得計画の指導、教育開発センターとの連携、授業への出欠指導、成績の管理と単位取得についての指導、就職模擬試験の受験指導などを行っています。Web上で学生カルテに記録しつつ、成績の芳しくない学生には教育開発センターで個別指導を受けさせたり、学習方法・学習態度や生活習慣の改善を指導したりすることが、重要になっています。

(4)共通科目の教材開発

 学内における教材の開発は、教科書、副教材の作成、後述のe-Learningなどの形態で種々の科目で行われていますが、2学部共通の科目では、数学、日本語、基礎実験の科目での教材開発が代表的です(写真2参照)。「微分積分/演習」科目については、教科書だけでは演習問題が不足しているため、例題の解説と演習問題とをセットにした形態の副教材を教育開発センターが独自に作成し、数学関係の諸科目で活用しています。また、「文章表現法」「理工学基礎実験」といった科目では、学部所属の科目担当教員のグループが独自に教科書を作成し、各クラス共通で利用しています。

5.ICTを利用した教育・学習支援

(1)e-Learning

 本学でのe-Learningには、数学、プログラミング、就職模擬試験、情報処理資格試験の4種類を用意しています。数学は基礎の復習からシステム・エンジニアの基礎知識レベルまで、就職模擬試験と情報処理資格試験は様々な科目を学ぶことができます。
 e-Learningシステムには、「いつでも」「どこでも」「自分の能力に合わせて」学べる長所がありますが、「おもしろくない」という短所があります。そこで「C_Game」とよぶ、ゲーム感覚で学生が楽しみながらプログラミングを自学自習できるシステムを、独自に開発し、利用しています。これは、課題の解説後に演習問題を行わせるといった教科書の内容をWeb上で表現したものではなく、PBLの手法にもとづいたシステムになっています。つまり、与えられた問題を解くために、知識を自分で学ぶ方式を採用しています。
 さらに、簡単な学習者モデルを設定することによって、学生の学習レベルに合わせて出題し、指導もできるシステムをめざしています。現状でも、既習(下位レベル)から未習(上位レベル)の広い範囲から出題し、既習の問題が解けなければ学習レベルを下げ、未習の問題が解ければ学習レベルを上げることが、自動的にできるシステムになっています。
 なお、e-Learningは教育開発センターのもとに置かれた「e-Learning WG」(図2参照)が統括しています。

図2 教育改善の組織体制

(2)講義支援

 講義支援の仕組みの一つとして、ホームページの活用があります(図3参照)。これは、授業開始時に学生が各自の端末から学籍番号を入力・送信して指定されたホームページに入ると、教員が選択した画面が表示され、学生はその画面を見ながら講義を受ける仕組みです。授業中に学生の理解度を把握する場合は、表示される演習問題を解き、答案を教員へ送信します。答案は自動的に採点され、誤答にはメッセージが表示され、正答には解答者の学籍番号や解答時間がサーバに保管されます。教員は自分の端末画面において、どの学生が正答したかを随時確認できます。これは、誤答した学生の個別指導や学生の自学自習にも有効です。現在、このシステムはプログラミングなどの科目で用いられています。

図3 講義支援ホームページの一画面

(3)「SIST情報システム」

 これは、教職員が各自の端末から学内のデータベースに接続して、教務・学籍・就職関係データ、各種アンケート結果などを一括して閲覧、利用できるシステムです。主要な内容として、成績に関するデータおよびその統計分析結果、入試と入学後の成績と退学などに関するデータおよびその統計分析結果、教育開発センターの活動と利用した学生に関するデータおよびその統計分析結果、在学生・卒業生・就職先企業アンケートの集計・分析結果、授業評価アンケートの集計・分析結果があります。これらは、中・長期的な教育改善の企画・立案をする際に、客観的な資料として役立っています。

文責: 静岡理工科大学
総合情報学部教授
学生部長 秋山 憲治

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