人材育成のための授業紹介●異文化理解

専攻語基礎科目における異文化理解の授業

住田 育法(京都外国語大学ブラジルポルトガル語学科・教授)

1.はじめに

 京都外国語大学では英米語学科と国際教養学科を除く7学科に専攻語基礎科目を置き、専攻語学演習科目で身につける実用的な語学力の土台となり、専攻する言語に関する研究科目を学ぶ上での基礎となる知識を修得することを目標としています。スペイン語、フランス語、ドイツ語、中国語、イタリア語、日本語、そしてブラジルポルトガル語(以下、ポルトガル語と記す)の7学科の七つの言語圏となります。いずれも1学年に約80名の学生が必修科目として登録し、異文化の理解をすすめています。
 ポルトガル語については、春学期にポルトガル語圏文化の基礎、秋学期にポルトガル語圏社会の基礎を教えています。二つのセメスターを通じて約80名の授業に対して担当者が一人ですから、教育効果を高めるための予習と復習の情報提供を、学生と教員を結ぶコミュニケーションポータルとして導入した京都外大Web Campusを中心とするICTシステムで行っています。学生からのICTコミュニケーションは、携帯メールを含む電子メールによる質問と成果報告のためのレポートが中心です。教員からの発信は、学生の自習を助けるためのポルトガル語圏の新聞やテレビのサイトの紹介、教室におけるマルチメディア情報の提供、そしてBCCメールによる学生各自への連絡です。学生からのメールは1日24時間、いつでも自由に受け付けていますが、教員からの連絡は昼間に限り、夜間の受信メールは翌朝読むことになります。自習のために、Web Campusに加えて、「住田研究室へようこそ」のページを作っています。一般に公開しているページですがターゲットは学生たちです。

図1 情報提供のための「住田研究室」のサイト
図1 情報提供のための「住田研究室」のサイト

2.地球の反対側の言語と文化を教える

 春学期は、大西洋を取り囲むように散在するポルトガル語圏、ヨーロッパのポルトガル、南米のブラジル、アフリカ諸国から東チモールにまでおよぶポルトガル語圏の多様な文化をとりあげます。語圏の成立過程から現状に至るまで、基礎的な知識を習得させます。15回分の授業の予定項目は次の通りです。

(1)ポルトガル語圏とは
(2)ブラジルの音楽都市リオ
(3)ブラジルのアフリカ文化の地、北東部
(4)母なる内陸部ミナスジェライス
(5)新首都ブラジリアと中西部
(6)ヨーロッパ文化のブラジル南部
(7)広大なアマゾン空間
(8)巨大都市サンパウロ
(9)ブラジルからポルトガルへ
(10)ポルトガルの首都リスボンと南部の文化
(11)アヴェイロの文化
(12)ポルトガルの食文化
(13)ポルトガル北部の文化
(14)映像で知るポルトガル語圏の文化 その1
(15)映像で知るポルトガル語圏の文化 その2

 巨大で多様性に富んだポルトガル語圏を理解させることは容易ではありません。日常のテレビや新聞のポルトガル語圏に関する情報がきわめて少ないからです。授業では予定項目で示したように、ブラジルとポルトガルに注目して、まずその地勢や歴史、文化の形成などについて教えます。さらに、映像文化や音楽情報を軸に、ブラジルやポルトガルの最近の大衆文化の新しい潮流を知り、ポルトガル語を学ぶ意義や楽しさを共に感じさせるよう努めています。
 毎回、必ずWeb Campusにアクセスさせて、授業の予習と復習を求めています。特に、講義内容の欄に予習としてのテキスト情報、リンク情報、画像情報、PDFなどのファイル情報をアップして、授業の教室では毎回、約10分程度のペーパーによる授業中試験を行います。授業の後は、同じ講義内容の欄に試験の解答例をPDFでアップして、復習を助けています。新入生が対象ですから、春学期には教室で、インターネットでポルトガル語圏の新聞やテレビにアクセスし、画像や映像によってブラジル人やポルトガル人の世界を身近に感じる方法を見せます。

図2 授業内容の連絡
図2 授業内容の連絡

 秋学期は、現代ポルトガル語圏諸国の社会事情を学ばせます。地理的にひろく広がり、国家としての成立過程の違いもあり、様々に異なる民族状況があることを知り、その一方で共通して根底に持つ根は何かを探らせます。現代ポルトガル語圏諸国の社会事情を学ぶために、ポルトガル語圏諸国について概観した後、各国とブラジルの関係に注目して授業を進めます。特に、ブラジルの民主主義や経済格差、環境保全の問題などを取りあげます。秋学期の15回分の授業の予定項目は次の通りです。

(1)ポルトガル語圏と世界
(2)ブラジルの環境と開発 森林保護
(3)ブラジルの環境と開発 都市問題
(4)世界の中のブラジル―経済
(5)世界の中のブラジル―社会
(6)世界の中のブラジル―政治
(7)ブラジル人とは 人種問題
(8)ブラジル人とは 移民の国
(9)教育問題
(10)ポルトガル映画の魅力―マヌエル・オリヴェイラ
(11)ブラジル映画の魅力―ペレイラ、ロッシャ
(12)ブラジル映画の魅力―バベンコとサーレス
(13)ブラジルと先住民の言語
(14)ブラジルと日本人・日系人―過去
(15)ブラジルと日本人・日系人―現在・未来

 秋学期も春学期同様、毎回必ず、Web Campusへのアクセスによる、授業の予習と復習を求めています。インターネットがあれば、世界中のどこからでも様々な情報を手に入れることができることを教え、興味をもったトピックを学生各自が調べ、それを自らの言葉でまとめあげることを試みさせています。この成果発表がレポートとなります。

図3 更新を欠かさない「ブラジル情報リンク」
図3 更新を欠かさない「ブラジル情報リンク」

3.学生のフィードバックとしてのレポート提出とコミュニケーション

 春学期に2度、秋学期に1度、1,200字程度のレポートを提出させました。秋学期の場合、11月中旬から1ヵ月の提出期間を設け、早く提出した学生のレポートはWeb Campusを使って「添削、コメント」付きで返却しました。

課題:21世紀における、世界の中のポルトガル語圏、特にブラジルについて、論じなさい。(必ず副題を付けてください。)
執筆要領:字数:1200字程度(ページ数は自由) 必ず、「ワード」文書で作成し、提出してください。
内容:レポートの約3分の1、つまり400字程度、必ず各自のコメントを書くこと。
締切(厳守):12月13日(月)
宛先:Kyoto Gaidai Web Campus
レポートの参考文献:レポート執筆に際しては、図書館の指定図書も利用してください。教科書を含め、参考文献を明記のこと。その際、利用した箇所のページ数も書きましょう。
【注意】
他人の情報を引用する場合必ず出典・出所を明示すること。
出典(参考文献・引用文献)・出所の無いレポートは失格。
提出期限前に提出したレポートを添削する場合があります。訂正して再提出すれば、評価を改めることもあります。なお、再提出は、メールの添付ファイル(ワード)でお願いします。
剽窃(ひょうせつ)、あるいは「コピペ」は、失格。
同級生と同じ内容のレポートの場合、カンニング行為として、2人(あるいは3人以上)失格とする場合があります。

 教員のコメントに基づいて学生が再提出すると、さらに手を入れて返却します。初習外国語であるポルトガル語によって情報を入手しなければならない場合、学生にとってはこのようなキャッチボールは極めて有効であると言えます。
 Web Campusに公開した秋学期のレポートの課題と執筆要領は前ページ掲載の通りでした。
 レポートを補完するものとして、教室の授業をすすめ、さらにWeb Campusで予習と復習を促し、学生のフィードバックを確認するためのアクセスのチェックも続けました。アクセスをチェックした結果、アクセスのよくない学生に対する対応策として、アクセスを求めるメールを全員にBCCで「次の皆さんは、未だ、アクセスがゼロです」と教員から送り、それでもアクセスの無い場合は、「パソコンの具合はいかがですか。分からなければ教務部の窓口でたずねてください」と個別にメールを送って、学生全員が漏れなくアクセスする状況を作りました。
 効果的であったのは、提出した優秀なレポートを匿名で「教材」箇所にアップし始めてからです。「どのようにまとめればよいのか分かりません」という学生の希望に応えたものだったのですが、同級生のレポートを見ることで、より身近な例として理解できるようになったようです。その意味で、学生間のコミュニケーションをネット上に反映できる仕組みとしてのWeb Campusの「ディスカッション」をさらに活用することが重要であると思います。今回、私のポルトガル旅行の報告について「ディスカッション」のページでコメントを求めたのですが、残念ながら反応はゼロでした。編集者である教員と受講者の発言情報を表示しますので、これを授業評価にも反映させることで、学生の参加が増えれば、レポートの添削を補うようなキャッチボールが期待できるでしょう。

4.おわりに

 授業の予習と復習を含めてICTによるコミュニケーションの活発化が大切ではありますが、2010年度秋学期の私の授業アンケート結果を見ると、大教室の授業の満足度が3.1であるのに対して少人数の場合は4.0であり、教室における実際に顔を見ながらのコミュニケーションが重要であることがよく分かります。
 調査した授業は、大教室のものは新入生であったのに対して、少人数のほうは2年次生を対象とした、それも応用科目であるため、同じ基準での比較とはなりませんが、反省材料にすべき点はあるでしょう。しかし、もし70〜80人の授業を三つか四つのクラスに分割する場合、担当者が異なれば内容が違ってくるでしょうし、同じ教員であれば3倍から4倍の労力が必要となります。この意味で、冒頭にも述べたように、教育効果を高めるためにWeb Campusを中心としたICTシステムの充実が求められます。
 最後にICT授業は、大学の教務部やマルチメディア教育研究センターのスタッフの皆さんの協力があってはじめて円滑に行えることを強調しておきたいと思います。

図4 2010年度秋学期の授業アンケート結果
(70人の例)
(70人の例)
(20人の例)
(20人の例)
図4 2010年度秋学期の授業アンケート結果

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