特集 教育情報の公表

 学校教育法施行規則等の改正により、平成23年4月1日から大学の教育情報の公表が義務付けられた。その趣旨は、教育・学習内容および方法、教育・学習の支援体制、学習成果の評価など、大学での取り組みを点検・評価し、工夫・改善への努力や課題を自主的に公表し、社会の理解と協力を得ることにある。しかし、現状では教育情報として内容が不十分で、インターネット上での所在もわかりにくい場合が多く、大学として社会的責任を果たしているとは言えない状況となっている。
 本特集では、教育情報の公表について知見のある方々から法改正の趣旨や大学が取り組むべき課題を紹介し、また、複数の大学の取り組み状況も紹介し、大学教育の質的向上を図るための自主・自律的な教育情報の公表を目指して認識を深めたい。

大学の教育情報の公表について
〜 講演より抜粋〜

喜久里 要(文部科学省 高等教育局大学振興課専門官)

1.教育情報の公表に関する制度改正の目的

 中央教育審議会では、22年1月時点での審議を踏まえ、大学教育の今後の方向性について一定のとりまとめをしました。その中で特に学部教育を中心とした大学の質保証システムについては、大きく二つの制度改正を行っていくことになりました。一つが、大学設置基準改正による社会的・職業的自立に向けた指導等の制度化、つまりキャリアガイダンス関係の改正で、もう一つが教育情報の公表に関する改正です。
 就業力というのは教育課程を各大学で改善していくための仕掛けで、教育情報の公表の促進は、その教育課程を改善するため、大学運営のマネジメントをより良いものにしていくための体制作りの仕掛であると思っています。そのため、この二つの改正は相互関連しながら機能していく面もあるのではないでしょうか。

図1 ホームページの具体的な掲載内容(平成20年度)(「教育情報等に関するホームページでの公表状況」より抜粋)
図1 ホームページの具体的な掲載内容(平成20年度)
(「教育情報等に関するホームページでの公表状況」より抜粋)

 この10年間、文部科学省では大学の可視化(見える化)の改革を意識して行ってきましたので、総仕上げのような意味合いで、教育情報の公表の促進という省令改正を行ったわけです。
 教育情報の公表に関する改正の意味は二つあると思います。一つは、大学の社会的機関として最低限の責任を果たすということ、二つは、情報の公表を介して大学の教育力向上や改革に役立てることです。二つ目については、大学のミッションが対外的に明示され、大学の教育力がどこにポイントがあり、どのような部分に重点を置いているのかが明示され、それを希望する学生が入ってくる、あるいは企業等からの評価をもらうことにつながるイメージを持って取り組むものです。

2.教育情報を公表する際の基本的考え方

 しかし現状では、大学全体の取り組みについて、その概要を外部に伝える機能がまだ弱い大学があるようです。
 図1は、ホームページの掲載内容について全大学に聞いた平成20年度の結果ですが、例えば、どのような教員がいてどのような業績があるのかといった教員紹介が100%になっていなかったり、学生の卒業後の進路状況についても、主な就職先だけの列挙ですら掲載されていない大学がかなりあったり、ホームページを見た限りでは、学生がどのような卒業後の状況になっているのかわからないところがあります。もちろん改善していってはいるのですが、まだまだと思われます。
 留学生を多く受け入れようとする大学の場合は、ホームページに基本的な情報がかなり掲載されていないと、留学生が大学を選択してくれません。国際化も視野に入れ、もう少し各大学の状況を明らかにしていく必要があります。学生が大学に入学する際に偏差値ではなく、その大学の教育力に着目して入ってくる学生が当然増えてきており、また、そういう循環を作っていかなければなりません。大学の特色や、どのようなことを学び、どのような能力が身に付くことが期待できるかを事前に調べたくても、情報を見ることができないと、選択肢として十分な情報が得られず、入学後の学生生活に関する不安を与えてしまいます。
 中教審では、情報公表の対象者を、主に大学に入ろうとしている学生、その保護者、周辺の教育関係者や企業等を念頭に置きながら、大学の情報公表戦略を進めていくよう、基本的な考え方をまとめました(図2)。

図2 教育情報を公表する際の基本的な考え方
図2 教育情報を公表する際の基本的な考え方

 考え方は、大きく分けて「大学の組織の状況として、大学の組織体制や教員組織・教員の業績」(図2の)、「学生の状況」()、「授業と評価方法」()、「キャンパス・学習環境」()、「教育課程以外の学生支援の取り組み状況」()の五つのカテゴリーになっており、大学活動や状況に関する情報公表として、このカテゴリーについて積極的にオープンにしていただくよう、制度化しました。

3.各大学に期待すること

 学校教育法施行規則の改正(図3)については、公表すべき項目の内容を最小低限に表現しているのですが、大学の特色に合わせ、関連情報や付加できる情報としてどのような情報を出せるかを各大学でぜひ考えていただきたいと思っています。

図3 学校教育法施行規則等の改正について
図3 学校教育法施行規則等の改正について

 例えば、シラバスについて、法令では「五 授業科目、授業の方法及び内容、並びに年間の授業の計画に関すること」と書いていますが、4年間あるいは1年間を通じた全科目における個々の授業科目の位置づけなど、教育課程全体がストーリー性を持って説明され、その構成要素として授業内容が紹介されるとよいと思います。
 冒頭にあげた、情報公表の二つの目的のうち、最低限の責任を果たすためには、最低限必要な情報を出せばよいということになりますが、二つ目の目的、自分の大学はどういう大学であるかを明らかにするということを考えたとき、法令の規定を厳格に解釈した最低限の内容で本当に足りるのかについてぜひ検討いただき、戦略的な情報の公表に臨んでいただきたいと思っています。「情報公開」でなく「情報公表」としたことの意味は、そこにあります。また、教育情報の公表のための学内体制について特に重視すべきと考えます。大学をもっと社会にアピールしていくという観点からも、公表のための体制が充実されているということは圧倒的に有効であると思います。
 各大学において、大学のミッションを明確化する中で就業力という問題をとらえ、教職員間での闊達な議論の上で大学の方向性や取り組みを明確にし、それを形としてホームページを通じて広く発信されていけば、社会的評価も必然的に得られるものと確信しています。情報公表の制度化について、大学が社会から評価されるというだけでなく、逆に積極的にアピールいただく機会として、活用いただければありがたいと思います。

本稿は平成22年度教育改革ICT戦略大会講演より抜粋したものです


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