特集 情報と災害対策

 東日本大震災から一年。被災した各大学も授業を再開し、防災・減災についても様々な取り組みが行われている。このような予期せぬ大規模な危機に対して、大学の教育研究事業の継続を支える情報基盤としての情報システムを維持していくために何ができるのかを改めて検証する必要がある。
 そこで、本特集では、被災時に早急に対応すべき情報収集、大学からの情報発信、そして学生および教職員の安否確認が被災地の大学でどのように行われたのか、計画停電にどのように対応したのか、また阪神・淡路大震災ではどのようであったか、当時の状況や今後の課題を紹介いただくことにした。
 ここから見えてくることは、各大学が被災の現状を再認識し、危機管理をさらに進めることはもちろんのこと、大学間の連携、地域・社会との連携を進めることの重要性であり、それを支える国の施策が求められることではないだろうか。

東日本大震災発生から授業再開までの戦い
〜東北学院大学〜

1.はじめに

 平成23年3月11日14時46分マグニチュード9.0の地震、4月7日23時32分マグニチュード8.3の余震が発生し、本学では、過去に経験したことのない甚大な被害を受けました。ここでは、3月11日の本震から、5月9日大学再開までの59日間の教職員と学生の復旧への戦いと、この震災によって見えてきた危機管理体制と情報基盤などについて報告します。

2.東北学院大学の概要とキャンパス構成

 本学は、宮城県内に三つのキャンパス(土樋、泉、多賀城)を構え、6学部(文学部、経済学部、経営学部、法学部、教養学部、工学部)、大学院など約12,000人の学生が学んでいます。本学における教育、研究、学生サービス、業務などは高度にICT化された環境が構築されています。3キャンパスには、教育・研究を支援するための情報処理センターとネットワーク関連のサーバ群が設置されています。

3.被害の概要

 各キャンパスによって被害状況は地理的条件により大きく異なっています。3キャンパスとも建物が崩壊することはありませんでしたが、多くの教室や研究室では天井の崩落や壁面には亀裂が入りました。研究室、事務室の内部は、本棚や棚などから書籍・資料などが散乱し、足の踏み場もないような状況でした(写真1〜4)。
 電気、水道、ガスなどのインフラについては、地震発生後はすべて使用できない状態になりました。その後、キャンパスによって異なりましたが、順次回復しました。しかし、泉キャンパスでは、水道が5月7日(大学再開の前々日)までまったく使用できませんでした。

写真1 教室 写真2 図書館
写真3 事務室 写真4 情報処理センター

4.地震発生後の学内体制

 地震発生後、教職員と学生は避難場所に移動し、その後安全が確認されてから、学生達を体育館などに移動させ、教職員は被害状況の確認に走りました。
 学内体制としては、図1に示すように、安全確認後直ちに土樋キャンパスに緊急対策本部を設置し、各キャンパスの建物などの被害状況の情報収集と学生の安否確認を開始しました。さらに、被害状況の報告と復旧対策方針などを検討するために、対策会議を午前と午後に開催することにしました。しかし、交通機関の復旧遅れなどから緊急対策本部に全委員が集まることができないため、3キャンパスにテレビ会議の環境を優先して復旧することにし、震災の6日後の3月17日に開始することができました。テレビ会議システムが構築されるまでの数日間は、キャンパスごとに被害状況の把握と復旧案などについて検討し、その結果などを利用可能な携帯電話などを最大限に活用して、土樋キャンパスの対策本部と情報交換しました。また、教職員間の情報伝達、大学と学生間の情報伝達の重要な手段の一つであるホームページと電子メールは土樋と多賀城キャンパスは3月14日、泉キャンパスは3月17日に再開することができました。さらに、各キャンパスには、対策室をもうけてキャンパス内の復旧、学生の安否確認の作業を行いました。

図1 地震発生後の学内体制

5.キャンパスと情報環境の復旧

 各キャンパスの復旧作業は、専門業者に依頼しなければいけない部分を除いて、職員は担当部署、教員は研究室などの復旧にあたりました。また、図書館、実験室などは、学生の力を借りながら復旧作業を行いました。
 情報基盤の被害はキャンパスによって大きく異なり、土樋キャンパスに設置されているネットワーク基盤、統合事務システム、情報処理センターと多賀城キャンパス情報処理センターの被害は軽微なものでした。しかし、泉キャンパス情報処理センターは、教室、サーバ・コンピュータ、プリンターなどに甚大な被害を受けました。ここでは、泉情報処理センターの復旧作業について詳しく説明します。
 泉キャンパスの建物の安全が確認され、教職員が入ることができるようになったのは、震災から4日後の3月15日で、翌日の16日には電源が回復しました。すぐに、ネットワーク関係のサーバの復旧作業を開始し、17日からネットワークの一部の機能のサービスを再開することができました。22日以降、センター内の七つの教室や事務室などの片付けを開始しました。5人の事務職員で行うことになったことと、作業できるのが10時から16時までと時間的な制限があったため、予定していた以上の時間がかかってしまいました。そして、29日から業者の担当者と教室のクライアントPC、シンクライアントイメージ配信サーバなどのサーバ・コンピュータ、プリンターの復旧作業を開始し、いろいろ困難なこともありましたが、地震発生24日後の4月5日には講義が再開できる状態までに復旧することができました。しかし、4月7日夜半のマグニチュード8.3の余震により、一瞬にして3月11日の本震発生時の被害状況とほぼ同じ状況に戻ってしまいました(心が折れてしまいました)。
 4月11日にはキャンパス内の建物の安全が確認され電源が復旧しましたので、本震の復旧作業と同じ手順でシステム再開のための作業を始めました。その結果、4月22日には講義が再開できる状態までに復旧でき、25日からは教員に新年度講義準備のための教室を開放することができました。さらに、27日からは、年度切換作業や新年度の講義のための環境構築作業を開始し、4月30日にはすべての復旧作業と動作確認を終了することができました。

6.震災から見えてきたこと

 今回の地震の復旧にあたり、危機管理システムや情報基盤などについて多くのことを考えさせられました。

(1)危機管理システムと学内体制について

 本学の危機管理システムは、平成21年4月に緊急地震速報システムと安否確認システムを準備しました。緊急地震速報システムはマグニチュード4.0以上になると、学内放送で地震発生を知らせるようになっています。このシステムのサービスは専門企業と契約しています。この企業では、気象庁の緊急地震速報を受信すると、各キャンパスにインターネット経由で配信し、そのデータを学内設置されている装置で受け取り、学内放送装置に送ることになっています。
 また、安否確認システムは、図2に示すように携帯電話を活用して安否情報を連絡できるようになっています。この安否確認システムを利用するためには、事前に利用登録をしなければなりません(学生のみ対象)。なお、この安否確認システムは県外の企業が運営するシステムと契約をしています。

図2 安否確認システム

 災害時の学内体制としては、土樋キャンパスの緊急対策本部が中心となって全体的な復旧方針を検討しました。さらに、各キャンパス固有の問題への対策は、各キャンパスの災害対策会議などで検討し実施しました。
 しかし、各キャンパスの被害状況などを正確に把握することができなかったことから、復旧対策にいろいろな問題・混乱が発生しました。また、教員の復旧作業と指示が明確でなかったため、何をやってよいのか分からない場合もありました。これは、3キャンパスに分かれていることを前提とした、複数場面を想定した訓練がなされていなかったことがあったと考えられます。今回の本震と余震時には、学生がキャンパスで授業を受けていませんでしたが、学生が授業を受けていることを前提とした避難訓練の必要性を強く感じました。
 今回の災害で本学が運用している安否確認システムによって安否が確認できたのは、全学生の10%程度の学生の安否しか確認することがでませんでした。この原因として、登録している学生が全体の30%程度であったことが考えられます。登録学生が少ない原因として、入学時のオリエンテーションのときにシステムへの登録を説明するのみで、積極的に学生に周知していません。そこで、新入生ガイダンスや履修登録時に学生への周知を徹底することと、定期的に登録情報の確認を行い、確認連絡の取れない学生には、直接指導するようなことも必要と思っています。さらに、本学の学生は学生部や就職部などの複数の組織に携帯電話の電子メールアドレスを申請しなければなりません(変更時も同じ)。学生は一つの組織に電子メールアドレスを登録するだけで、学内のシステムに反映するような登録方法や運用面の再検討が必要と考えています。

(2)学内情報基盤について

 研究・教育支援システム、事務処理システム、ネットワーク基盤などについては、電源が復旧してからは、多くの困難な問題はありましたが、比較的短期間に復旧することができたと考えています。特に、教育・研究支援システムでは、シンクライアント方式を採用していたことは大きかったと思っています。しかし、サーバ・コンピュータの復旧やサーバ間の連携確認などに時間と手数がかかってしまいました。
 今後は、業務を継続するための情報伝達環境や学内サーバ・コンピュータの集約やデーテセンターの活用についても検討しなければならないと考えています。さらに、他の大学との業務継続のための連携協定も必要と考えています。やはり、情報伝達網が寸断されると、正確な情報が敏速に入手できなくなることから、強固な情報伝達網をどのように確保するかが最大の課題と考えます。

7.むすび

 震災後、学内体制や情報基盤などについては、進まなければいけない姿が明確になってきたと考えています。さらに、地域の住民の人たちとの連携を真剣に考えておかなければならないと思います(今回も多くの住民が地震発生と同時にキャンパスに助けを求めてきました)。
 個々の大学が業務継続のために他の大学と連携協定を考えることは必要と思いますが、国の施策として考えていただきたいと思っています。
 地震発生後、全教職員は「一日も早く、安全なキャンパスに学生を戻してやりたい」この一心で、リュックにその日の飲料水を入れて自転車、徒歩で大学に通い、必死になって復旧作業に取り組みました(仙台の3月は、まだまだ寒く雪も降ります)。
 現在、キャンパスには、学生が戻り明るい声でいっぱいです。このような学生の姿を見ていると、あの時の辛かったこともすべて忘れてしまいます。

文責: 東北学院大学
情報システム部長 松澤 茂

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