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2011年度 高等教育のIT問題トップテン
Top-Ten IT Issues, 2011

 本稿は、EDUCAUSEの許可を受けて本協会の事業普及委員会翻訳分科会で翻訳したものです。

原文 HTML http://www.educause.edu/EDUCAUSE+Review/EDUCAUSEReviewMagazineVolume46/TopTenITIssues2011/228654
PDF http://net.educause.edu/ir/library/pdf/ERM1131.pdf

 米国EDUCAUSEは、高等教育における主なIT諸問題について2010年12月に調査を実施した。調査の対象はEDUCAUSE会員の米国大学CIO(最高情報責任者: Chief information officer)とし、調査は次の4領域の各27項目から、最も重要なIT問題を五つずつ選択するもので、調査の結果、高等教育におけるIT問題のトップテンは以下の通りとなった。

<4つの領域>

1)戦略的成功のために必要な問題

2)今後重要性が増すと思われる問題

3)大学のITリーダーが最も多く時間を割かれる問題

4)人的・財務的支出がもっとも必要だと思われる問題

2011年度 高等教育のIT問題トップテン

問題1「IT資金」

 IT資金の問題は今年も第1位で、残りのトップテンの基礎となる問題である。技術は高い期待を生み、高い期待には費用がかかるものである。技術の期待に多額な費用がかかるからといって、大学がその期待に沿うよう、効率的かつ継続的にIT資金を投じる問題とは別である。短期の予算削減と長期に予算が不足する事態はさらに問題をこじらせる。ITリーダーたちは、予算不足の状況を把握しながら、期待に応える方法を構想しなければならない。もっともよい方法は、限られた予算の中で最大限努力し、戦略的に技術の方向付けを行うことである。同時に、ITリーダーは、新たな経済的問題を議論するための知識の向上を図っている。

 ITリーダーとCIOは、プロとして予算縮小の動きの中で、少ない資源で最善を尽くすことが必要である。CIOは、予測が非常に困難なITの世界で予算を予測しなければならない。その専門性によって、上級経営責任者からの信頼を勝ち得て、パートナーシップを築くことができる。CIOは、新しい情報技術を熱意をもって受け入れ続ける必要があるが、その情報技術の発達を予測しながら必要予算を組むのは、大変な作業である。

 IT資金に関する重要課題を挙げておく。

問題2「経営管理、ERP、情報システム」

 2011年度調査では、経営管理、ERP(情報統合管理システム:enterprise resource planning)、情報システムの問題が、戦略的重要性、CIOの時間消費、財政および人的資源の消費の領域で引き続き高い位置付けとなったが、今後重要性が増すという領域では評価は下がった。加えて、本調査では、大学の規模が拡大するにつれ、この戦略的重要性は減少することが示された。しかし、回答者がこの話題をランク付けするとき、ERPが完了していたのか、途中なのか、将来の方向を検討中なのか、どの段階であったかは分からない。ERPシステムを戦略的重要性でランク付けした場合、このERPの実行段階が主たる要因となる可能性がある。

 CIOへの質問は以下のとおりである。「ERPシステムは費用がかかり、かつ戦略的ではあるが、大学のハイレベルな資源にERPシステムを導入すべきか、また継続できるのか」。高等教育機関の第1義的な目標は、卓越した学術レベルに到達し、学習成果を生み出し、グローバル世界で競合し、学生の学業継続と卒業を成功裏に導くよう運営することである。ERPシステムは、どのようにしてこれらの目標に貢献することができるのか、さらに重要なことは、ITリーダーたちは、費用という観点から、ERPシステムが大学の中核的な目標を支え、改善できる確証があるのかということである。ERPシステムの長期にわたる戦略的活用は、大学経営によい影響を与えるかもしれない。

 他の調査結果を見ても、経営管理、ERP、情報システムは戦略的に重要なポイントだろう。例えば、現行のWebベースによるERPシステムは、モバイル・アプリ環境でも使われている。今年度、モバイル・テクノロジーは、今後重要であるという観点からすべての大学において第1位にランクされ、モバイル機器の使用にあたってもERP機能の重要性が注目されている。また、CIOの中で注目されているということは、大学内での開発商品、大学外からのレンタル、統合アプリケーション・パッケージ全体の外部委託などを含む、IT部品の調達の可能性があるということである。

 経営管理、ERP、情報システムに関する重要課題を挙げておく。

問題3「情報技術を利用した教育・学習」

 「情報技術を利用した教育、学習」の戦略的重要性は、過去何年もの間、最新のIT問題に関する調査で上位を維持してきたのは驚くにあたらない。現に2011年、上位3位にランクされ、初めて「セキュリティ」問題より上位につけた。戦略的重要性での順位上昇は、情報技術がデータ・センターや大学の経営管理システムの枠を超え、教員・学生にとって日常のものになったことを物語っている。どの高等教育機関にある教室、研究室、図書館や学生の生活を見ても、情報技術が実際的に利用されていることがわかる。キャンパス外でも、オンラインやブレンディッド・ラーニングによる教育講座が増えている。

 CIOやITリーダーにとって、ユビキタスな教育テクノロジーは取り組むべき課題であり、新しく更新される教育・学習用ツールは、将来さらに進化し続けると予想されるゆえなおさらである。事実、「情報技術を利用した教育・学習」は、2011年度の調査では今後さらに重要な問題として上位三つの問題と位置づけられた。調査では予算への影響も取り上げ、「情報技術を利用した教育・学習」は、財源を最も必要とするという観点からも第5位にランクされている。

 実は、「情報技術を利用した教育・学習」は、CIOが多くの時間を消費するという観点ではトップテンにランクされていない。これが情報技術のツールが使いやすいということであるならば大変よいことである。効果的な教育と学習の促進を行うための情報技術のツールは、即選択・採択でき、特別な事前訓練を必要とせず、日常のサポートが不要なソフトウェアであるべきで、統合パッケージで継続的使用が可能なものでなければならない。講義を画像で捉えて録画できる機能、ネットワーク化された授業、学生の反応を即分析できる小型端末(クリッカー)、タブレット型コンピュータなどは、人気、使いやすさ、滞りのなさという点でよく使われるテクノロジーである。eポートフォリオもよく使われ始め、CMS(コース・マネジメント・システム)やWebアプリケーションに統合されている。今後、大学のWebベースのサービス、授業コンテンツ、eコラボレーション・ツールに対するモバイル端末からのアクセス需要が増え、それが大学の情報技術計画を推進することになる。

 情報技術を利用した教育と学習に関する重要な問題を挙げておく。

問題4「セキュリティ」

 セキュリティ問題は、常に調査のトップ順位の辺りにあるが、本年度は、戦略的重要性の領域で第4位となった。また、過去6年間、セキュリティ問題は、今後重要度が増す可能性のある領域で第1位・第2位となっている。長らく続く「大物でさらに大物になる」という調査結果は、我々がこの難題に対して、どう立ち向かうのか、解決方法は何かの見通しをまだ立てることができないでいることを意味する。

 セキュリティの専門家が対策として作った最善の技術・組織・社会を、ハッカーがすぐに打ち破る方法を発見する、といった軍備拡大競争なるものが続いている。自動侵入探知が認識されない新たな手口、駆除が難しいマルウェア(悪意のソフトウェア)、スマートフォンの急速な増加や大学のネットワークで使用されるタブレットの開発に伴う新たな危険などが迫っている。我々は、大学や個人にかかわらず、新たな危険が十分理解されていない段階でクラウド・コンピューティングやその他外部から調達し、危険にさらされている。

 個人特定情報(PII)の大量流出や事後処理は教育機関につきものであり、大学の幹部や教員、職員、学生、保護者、政治家、寄付者、納税者の誰も、無理のないことであるが、教育機関がどのようにこの問題に対処するつもりであるか知りたがっている。このような災いがニュースで取り上げられることは、重大な問題であるとともに、また逆に幸でもある。ニュースになると、利用者の間では、セキュリティと個人情報問題の向上に対する努力への期待感が高まり、一方、このようなニュースに絶えず曝されることで、大学側の、危機に対する対処の欠如を認識してもらうことになる。

 アニー・I・アントンは、2010年度EDUCAUSEのセキュリティ専門家会議の基調講演で、個人情報問題は、壮大なチャレンジであり、幅広い社会的影響を伴う根本的な問題であると述べた。彼女は、情報セキュリティ担当者が教員と連携し、教員の専門知識と研究を強化して推進するよう述べている。高等教育に携わる我々全員がこの挑戦に取り組むため、創造性を発揮して解決することが必要なのである。

http://www.educause.edu/Resources/ChangingMindSetsinAcademiaHowI/203159

 セキュリティに関する重要課題を挙げておく。

問題5「モバイル・テクノロジー」

 高等教育のIT分野で、恐らく、モバイル・テクノロジーほど急激な進展を遂げたツールは他にはないであろう。前回EDUCAUSEで実施した最新の課題に関する調査報告書では、モバイル・テクノロジーは、「ITの敏捷性、適用性、反応性」「ITの基盤整備」など、他の課題の中に含まれていた。しかし、その急激な発展を考えると、最新のIT問題を検討する委員会としては、独立した課題として考えるべきであるとの思いを強くした。実施調査の回答者も、モバイル・テクノロジーを本年第5位のIT問題とすることで一致し、翌年度はさらに上位にランクすることが予測される最も重要な課題であった。

 ほんの少し前まで、モバイル・テクノロジーのサポートといえば、必要とする一部のユーザーに対して、無線ネットワークとノートパソコンを提供することぐらいであった。ところが現在、モバイル・テクノロジーの急速な拡大によって技術環境が一変し、使用している全ユーザーのニーズと期待に対応しなければならなくなった。「モバイルをうまく使いたかったら、いいアプリがあるよ」といった過去の魅力的なキャッチフレーズが、今や決まり文句となっている。

 モバイル・テクノロジー対策として、CIOは、全ユーザーが1台または2台以上のモバイル端末を持つことを前提に、そのサポートを求められると考えるべきである。このことは、多くの大学では既に実情となっている。スマートフォンの使用者が急速に増えつつあり、その急成長の中心的購買層は大学生である。アップルのiPadの成功はタブレット・コンピュータ復活の引き金となり、本年度は、他社のマーケット参入によって目覚ましい競争が生まれた。モバイル・テクノロジーは、情報資源やアプリケーションの操作方法を大幅に改革する。そして、パソコンごとに機能が異なっていた従来のデスクトップやノートパソコンの使用を止めて、一元的に機能を集約したモバイル端末の使用へと移行する。

 モバイル・テクノロジーは、大学やそのIT組織を襲う、ハイテクの津波であるかのように思えるかもしれないが、それは、教育機関を革新させる、独自の強力な機会を提供してくれている。モバイル・テクノロジーは、教室や教室外から、いつでもどこでも、今までになかった方法で教育資源を活用できることで、教育を変革する可能性を秘めているのである。ユーザーがどのような端末を使っていても、大学が提供するサービスやデータに快適にアクセスできることは、大学の効率化につながる。大学関係者すべてが、何の問題もなく効果的にコミュニケーションできるというIT環境は、ほんの手のひらに乗る端末を使って、使い勝手よく統合化されたアプリにかかっているのである。

 多くの点で、モバイル・テクノロジーの実験段階は終わったと言える。今後の重要な点は、このテクノロジーをどのように大学の効果的な ITプログラムとして統合するか決断することである。モバイル・テクノロジーが、大学の事業をサポートする戦略的方法に組み込まれるかに関わらず、一つだけ明らかな点は、モバイル・テクノロジー開発の明確な戦略を持つ大学には大きな利益がもたらされることである。

 モバイル・テクノロジーに関する重要課題を挙げておく。

問題6「敏捷性、適応性、反応性」

 本年度は、ITの「敏捷性、適用性、反応性」が昨年度の7位から上昇し、キャンパスでのIT運用で一層重要なものと評価されている。IT組織と同様に、高等教育機関は経費削減という条件の下で、学生、管理職、教職員、地域住民らユーザーからの増大する要求に対し、変化に素早く対応する有効な解決策を講じる必要がある。例えば、この1年を振り返ると、iPadの新商品があり、スマートフォン、電子書籍リーダー、その他の消費者向けテクノロジーの使用が大幅に増えている。学生たちは以前にも増して、多用なサービスや使いやすくなったアプリケーションなど、新しく登場したテクノロジーがキャンパスで早く使えるよう期待している。

 ほんの数年前、大学のIT組織が、学生たちにキャンパスの電子メール利用を勧めることは大変なことであったが、今日大学では、クラウドベースの電子メールシステムによって、物理的には処理できない莫大な数の電子メール、提供サービスやアプリケーションを問題なく活用している。IT組織は、ユーザーの要求の変化に合わせて従来型のコンピュータ・サービスを変えなくてはならない。教職員や学生は、ワイヤレス、遠隔からスマートフォンとの同期、オンライン授業、増大するテキスト・メッセージの処理など、技術サービスを期待してキャンパスにやってくる。彼らはすべての作業が支障なく動くことも期待しているのである。

 こうした21世紀の技術革新は、大学のIT組織に、俗に言う「顔面の平手打ち」を加えたようなものである。IT組織は常に最新で、実現しつつ競争にも耐えなければならない。すなわち、大学のIT組織は、技術の変化に伴う柔軟性、公開性、適応性、そして絶え間ない革新が必要であり、要求されるということを再認識しなくてはならない。技術の変革と意思決定は年長の事務管理職たちだけに任せず、早い段階でITリーダーたちが意思決定プロセスに加わらなくてはならない。ITリーダーたちの役割は、解決策の処方箋を書くことではなく、解決方法を考えることである。ITリーダーたちが最初からテクノロジー主体の議論に参加していると、彼らの専門知識、洞察力、計算、そして予測により、ユーザーの真のニーズに対処しうる、解決に向けた効果的な対策ができる。ITリーダーたちは、大学の戦略的な計画と情報技術に関する計画に率先して取り組むことによって、各部署がそれぞれ独自に計画すると生じる、紛糾や混乱を回避するための有用で不可欠な存在になり得る。IT組織は、もはやサポート・サービスの役割ではなく、授業の前線に立ち、大学のコミュニティに対しては、テクノロジー主導、技術変化への対応、技術革新を効果的に伝える変革者の役割を担うことができる。

 「敏捷性、適用性、反応性」に関する重要課題を挙げておく。

問題7「ガバナンス、ポートフォリオ/プロジェクト・マネジメント」

 今年、「IT問題検討委員会」では、ガバナンス、ポートフォリオ/プロジェクト・マネジメントの問題を一つの範疇にまとめた。この新しい範疇は、引き続きトップテンの課題であり、 戦略的重要性においては第7位に、CIOにとって時間のかかる問題としては第4位となる。実際、2008年度 ECAR(EDUCAUSE Center for Applied Research)の調査結果によると、「ほとんどの回答者は、自分たちの大学のITガバナンスは、成熟した適性水準よりもかなり低いと答えた」とある。この事実は、戦略的重要性で上位6位にランクされたIT問題に内在する課題として、ガバナンス、ポートフォリオ/プロジェクト・マネジメントが、将来もトップテンに残る可能性があることを意味している。特に、大規模大学においては非常に重要であると考えられており、戦略的重要性では第2位に、CIOの対応に時間がかかるという点では、第1位にランク付けされている。

 どの大学においても、強固なITガバナンスのモデル、あるいは「内部だけでなく外部の関係者に重要な諸問題に対して、権威ある意思決定をする構造とプロセス」を必要としている。「権威ある決定の条件とは、それが十分に理解され広く受容されるということである」。CIOの役割は、大学を正しいITの意思決定へと導くことであるので、優れた意思決定の能力を示すと同時に、組織全体に及ぶ適正な意思決定をサポートする必要がある。クラウドのプロバイダー利用者が増えるにつれて、恐らく大学の機関に、中心となるIT組織は必要か?との疑問が出るであろう。しかし、CIOは、パートナーとなるプロバイダーと契約し、ITの意思決定がCIO であろうがなかろうが、大学のITの決定に関わる諸要因が果たす役割に大きな変化はないことを理解してもらう必要があるだろう。

 適正なガバナンスは、すべてのプロジェクトを十分精査し、冷静に優先順位をつけて奨励することであり、提案のあったプロジェクトを最適に組み合わせ、配列することである。残る課題は、大学が、このような手続きを支援するプロジェクト/ポートフォリオ・マネジメントのソフトウェアを採用すべきかどうかである。

 ガバナンス、ポートフォリオ/プロジェクト・マネジメントに関する重要課題を挙げておく。

問題8「インフラストラクチャ、サイバーインフラストラクチャ」

 サービスがクラウドへと広がり、また各大学が学内外のサービスにアクセスするために大学内部のネットワークに依存するにつれて、キャンパスITの接続性と統合性、即ち、大学設備(インフラストラクチャ)とネットワーク設備(サイバー・インフラストラクチャ)は、常に戦略的に重要である。インターネット接続は、大学と提携していない外部サービスへのアクセスのためだけでなく、電子メール、学習管理システム(LMS)、統合管理システム(ERP)、その他事務管理機能など、重要なクラウド・ベースの大学サービスにも利用される。多くの大学が、サービスをクラウドに移行することでコスト削減を目指しても、接続システムは移行できない。こうした接続システムは、絶えずアップグレードが求められるし、多くの大学は、カテゴリ5のツイストペア線や、マルチモードの光ファイバー、15年以上も経過したケーブルなど、耐用年数を終えつつあるケーブル設備を持っている。さらに、新しい技術の消費拡大は、学生たちが多様な機器(例えば、ノートパソコン、タブレット、スマートフォン、ゲーム機器)をキャンパスに持ち込み、機器すべてが有線であれ無線であれ、高速で信頼のおけるユビキタス・ネットワークにつながると期待していることを意味している。ある大学は、近年の財政危機から脱却しつつあり、あるいは新たな財政緊縮という中で予算を組み始めている。そこで、インフラストラクチャ、サイバー・インフラストラクチャへの投資は、必要な新経費として、あるいは継続して不可避な経費とみなされるであろうし、上記のような難題に直面するために、停滞していたプロジェクトは必要に応じて再開されるであろう。

 大学では、ネットワーク・セキュリティの確保と、端末間のセキュリティやモニタリングを改善するためのソフトウェアとハードウェアへの投資が必要となっている。しかしそれは、キャンパスでの第4世代通信事業者への使用増大で複雑になったシステム補強への挑戦であり、地域制御による通信ロスへの対応である。何が可能で、学内と外部の通信ネットワークの違いは何かを大学構成員や管理者に説明するには、サービスごとの区分けが必要であるもしれない。

 インフラストラクチャ、サイバーインフラストラクチャに関する重要課題を挙げておく。

問題9「災害復旧、業務継続」

 やむことのない国内外の災害は、初動対応と緊急への備えという一連の教訓を与えた。従って、2006年以降、災害復旧、業務継続(DR: Disaster Recovery / BC: Business Continuity)が、戦略的に懸念される問題としてトップテンに入っているのは驚くべきことではない。

 今年の調査結果では、大学の規模とタイプによる違いが明らかになった。DR/BCは、大学全体の戦略的懸念事項としては第9位にランクされていたが、この問題は中規模クラスの大学にとって非常に重要なものであった。同様に、DR/BC は、私立大学に比べ、公立大学の方が重要であることがわかった。

 すべての大学は、諸事情により正常な運用が止まると、業務や学術のサービスを維持・復旧する必要がある。業務の継続は、災害復旧(災害後、大学を正常に近い状態まで回復させる活動)のみならず、リスクと影響評価、業務執行の優先順位、事後の新しい形での正常化への回復という活動も含んでいる。主たる概念は、すべての学部が、危機下においても機能し、長期的に存続可能な機能維持のため、その果たすべき役割を理解して準備する、協力的で統合的なアプローチである。

 対処しなければならないような災害が起こらなくても、主な大学関係者は、災害リスクを評価して業務正常化作業の優先順位をつけ、共同作業を実行するための業務継続計画が必要である。
 計画を講じることは、キャンパス内の各組織間の理解を深め、信頼関係を築き、自信を培うことになる。計画する過程では、現行の状態やシステムの弱点が明らかになるだろう。この弱点に対処することで、大学業務の日常運用における改善を行うことができる。これが、大学での業務継続計画の実現可能な「セールスポイント」となるのである。

 今後10年、もはやDR/BCは計画の段階ではなく、大学間でそれぞれ個別に努力してきた成果の質が問われることになる。

 災害復旧、業務継続に関する重要課題を挙げておく。

問題10「戦略的計画」

 ITリーダーたちは、「戦略的計画」という課題に真剣に取り組んでいないと思われる。戦略的重要度のトップテンの中で、「戦略的計画」は2004年と2005年に第4位であったが、2006年から徐々に下降を始め、2008年にはリストから外れ、2010年になって、また第9位に復活した。今回第10位となったのは、少し関心が薄れつつも、「戦略的計画」が未だに効果的なITサービス提供という観点から重要であることを認識しているということであろう。

 ITリーダーたちの間では、「戦略的計画」の重要性に関する議論は、会議やメーリングリスト、業界出版物で盛んに行われている。IT組織が大学のキャンパスに貢献し、業務のニーズをサポートするためには、情報資源を整理することが情報技術の重要性を証明するのに明かせないということを、彼らは理解している。しかし、大学の「戦略的計画」の決定プロセスは、計画の採用と実行というプロセスにおいても、往々にしてIT組織が蚊帳の外に置かれる場合が多い。その結果、幾多の「戦略的計画」を遂行するITリーダーたちの才能は、大学での一つの考え方として埋没し、十分発揮できないことになってしまうことになる。

 ITリーダーたちは、常に「戦略的計画」に従って物事を遂行することができるとは限らないが、「戦略的計画」が、なおも今年のトップテン・リストにランクされる重要な問題であるという事実は、プロジェクト、予算化やキャンパスでの協調関係を築く上で、戦略的な構想が成功の大きな要因であることを反映している。緊縮財政の下、グローバルな経済情勢によって新たな方向が望める環境では、「戦略的計画」は難しい決断を下す枠組みとなり、必要なところに資金を集中させることを可能にする。ITリーダーたちは、メーカーの製品や新たに作り出される技術基準のような、外部で開発されるソフトウェアに即対応できる柔軟な組織作りに常に取り組んできた。「戦略的計画」があれば、決然と行動する指標を与えてくれる。そして、ITリーダーたちは、計画をどの順位で優先的に実現するかというよりも、テクノロジーを使って、どの計画を優先的に実行できるかという決定のサポートができるのである。

 「戦略的計画」に関する重要課題を挙げておく。

結論

 2011年度EDUCAUSEが実施した最新の問題に関する調査報告の重要性を理解することは、大学のIT資源を効果的に管理して提供する上で必要なことである。ITリーダーたちは、戦略的に成功させる上で重要なトップテンの諸問題が、大学内の問題としてだけではなく、高等教育と情報技術の接点がキャンパス外にもあるという基本的な視点を考慮しなくてはならない。今日、高等教育にとって、従来型の典型的な収入と支出の枠組みはもはや同じ尺度では測れず、また、講座開設にあたって、従来とは異なる対応が求められている。 IT組織にとって、大学のITサービスの何を、どのような方法で、誰が行うのかという、長期に亘って考えてきたことが、現在のクラウドやモバイル・コンピューティングなどの急激なテクノロジーによって、考え方を積極的に変えていかざるを得なくなっている。

 事実、ガートナー・グループの副社長であるマーク・P・マクドナルドは、「私たちが情報技術について信じていること、つまり、戦略的な役割、組織のあり方、個人の能力、遂行の方法など、多くのことを一度解体して再吟味する時期がきている」と考えている。IT組織は過去の実績にとらわれず、戦略的に編成する新しい方法を決め、変わりゆくITパラダイムに適応し、テクノロジーに対して敏捷に対応することで自己変革しなくてはならない。それは、生き残るために、そして大学にもっとも必要なサービスを提供するために必要なことである。


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