人材育成のための授業紹介:情報基礎・情報専門系教育

ICT活用と対面での徹底指導で人間力を育成する

玉田 和恵  神部 順子  八木 徹  古里 靖彦(江戸川大学メディアコミュニケーション学部 情報文化学科)

1.はじめに

 江戸川大学は、「人間としての優しさに満ち、普遍的な教養と時代が求める専門性により社会貢献できる人材の育成」を目指す「人間陶冶(とうや)」を教育理念としています。2006年に発足した情報文化学科は、この精神に鑑み、情報・語学・ビジネスを学び、人として社会で生きていくための「人間力」を確実に習得させることを目指して教育を行っています。各学年100名、約400名の学生が在籍しています。
 以前は、本学科においても多くの大学においても、個々の教員の個性と専門性によって、教員相互の連携がなされないままに授業が行われる傾向が強くみられました。しかし、学生の多様化と社会から大学教育に求められる様々な要請を鑑みると、教員相互に連携しながら同じ目標に向かって学生を教育指導することが急務となっています。情報文化学科では、2010年度に改定された新カリキュラムで学生の特性に応じた教育を実現するために、教員相互の強い連携のもと、以下の目標を達成するために教育実践を行っています。

1)人間性を磨く

(ア)人間としての在り方や生き方について考えさせ、人と関係を作る力、自己をコントロールする力を育成する

(イ)様々な課題を発見し、取り組み、問題解決する力を育成する

(ウ)情報を収集・分析し、社会の動きを見据えて現実を正しく理解し判断することができる力を育成する

2)感性を磨く

感性を磨いて、自分の意図を相手に伝えることができる表現力を育成する

3)学力を磨く

基礎学力・専門性を磨いて、業務処理に対応できる実践力を育成する

2.ICT環境と授業カリキュラム

 江戸川大学は1990年開学当初からコンピュータを学生全員に貸与し、学内どこからでも接続できる無線LANを完備し、日常の講義、ゼミナール、演習、実習等の授業から課外活動に至るまで、自由自在にICT技術を活用できる環境を提供しています。また、授業用にはMoodleを活用したシステムを導入して「エドクラテス」という名称でe-Learningシステムを運用しています。さらに、災害などの緊急連絡や緊密な学生指導を実践するために携帯電話への通信を行う「キャンパスモバイルシステム」も完備しています。
 情報文化学科では、「情報コミュニケーション」「国際コミュニケーション」「e-ビジネス」という三つの専門分野を軸に、学生のキャリア形成を目的にキャリア教育カリキュラムを構築し、実践しています。本学科に入学してくる学生の多くは、大学卒業後に必ず就職したいという明確な希望は持ってはいるものの、実際に自分が何をどのように努力しなければならないかということを明確にすることが困難な学生が多いという現状があります。そこで、キャリア形成に向けた教育を実践するために、学生の目的意識や現実社会の厳しさを理解させる「動機付け(心)」、自分の目標とする職業に就くための就業力を育成する「テクニック(技)」、大学教育で専門性を育成するための「自分を鍛える(体)」という三つの視点で、授業や授業外の様々な活動にICTと対面での徹底指導を併用しています。
 キャリア形成に向けた教育カリキュラムとして、これら三つの視点を基に、表1の教育カリキュラムを実践しています。「動機付け(心)」の部分については、1年次より基礎ゼミナールを設置し、教員1名に対して学生8名程度の演習を実施し、定期的に個人面談を行います。そこでは、「入学の目的」「将来の目標」「基本的生活習慣の確立」「挨拶・礼儀の重要性」「職業人としての心構え」などを話し合います。3年次より専門ゼミナール教員が面談を実施しますが、面談カルテとして引き継がれるシステムになっています。

表1 情報文化学科 キャリア形成に向けた教育カリキュラム
図1 情報文化学科 授業カリキュラム

 「自分を鍛える(体)」部分は、大学教育の根幹である授業カリキュラムを中心に実施しています。学生が情報文化学科の専門科目を受講し、その中で将来に向けて活用できる専門的な知識・技術を身につけています。本学科の授業カリキュラムは図1のように、リテラシー科目群として「専門基礎科目」「スキル科目」「専門キャリア科目」、専門科目群として「情報コミュニケーション科目」「国際コミュニケーション科目」「e-ビジネス科目」が設置されています。
 「テクニック(技)」部分は、本学科の専門性をベースとして就業力を身につけるために、2010年度のカリキュラム改定の際に、教員がそれまでは個別に実施していたキャリアに関するリテラシー教育を統一的に実施する「情報処理基礎(1年次)」「情報文化キャリア論I・II(2年次)」「情報文化キャリア演習I・II(3年次)」を設置しました。3年次には専門科目である「e-ビジネス論」と連携しながら指導を行っています。

写真1 情報文化キャリア論授業の様子

3.ICT活用と対面での徹底指導

 本学科では、授業と連携して授業科目以外にも様々なキャリア教育の実践を行っています(図2)。人間性を磨くために「リーダー研修会」「自主勉強会」「職業人講話」「企業訪問」「長崎研修」「インターンシップ」、感性を磨くために、1年入学時にパソコンの描画機能を活用して英文の絵日記を書く「デジタル絵日記」、日本文化を理解しデジタル表現力を身につけさせるための作品制作(「百人一首」「源氏物語」「東海道五十三次」「故郷のうた」)、「ニューヨーク研修」「映画会」、学力を磨くために「自主勉強会」「学習発表会」などを実施しています。
 授業や授業外で教員と学生が共に活動する時間は非常に長く、教員はICT技術を徹底して指導すると共に、最も大切なのは人と人との直接対話であり、「人間としてどう生きるか」を学ぶことだということを対面で徹底指導しています。授業科目の中では、各教員が、ICT技術やICT技術を活用したコミュニケーション、情報倫理を指導する一方で、「人としてどう生きるべきか」「礼儀やマナーの大切さ」「人への感謝の気持ちの大切さ」について熱く語っています。また、多様に複雑化した社会の中で、社会人として問題解決をしていくためには多くの情報を取り入れること、特に本を読むこと、新聞やニュースを見ること、映画や音楽を聴くことの大切さについても力説しています。また、ICT技術を活用した記録や文書表現の重要性を指導する一方で、人の話を聞く際には、必ずノートと鉛筆でメモをとることの重要性も徹底指導しています。

図2 情報文化学科 授業時間外の実践内容

4.まとめと今後の取り組み

 本学科では授業と授業外の取り組みを教員相互に強く連携しながら、同じ目標を持って指導することにより、人間性・感性・学力などの面で学生の総合的な成長を支援しています。情報リテラシーについては、スキル科目で学習した基礎的な内容をベースに専門科目を学び、情報文化キャリア論などで、それらを総合的に自分の将来の職業に就くために活用する方法を学びます。
 これまでの活動を通して、学生は「人間性」や「感性」については、非常に良く学び目覚しい成長を遂げますが、「基礎学力」を向上させることが最も困難だということが明らかになっています。今後は、学生の基礎学力を向上させるために、個々の学生に対応した学習技能習得支援システムをICT技術を活用して開発することが課題となっています。

参考文献
[1] 玉田和恵・神部順子・海老澤邦江・八木徹・波多野和彦・古里靖彦: 個に応じたキャリア教育を実現するためのファカルティ・ディベロップメントの取り組みII−人間力を育成するための教養教育を目指して−. 江戸川大学紀要「情報と社会」,20,pp.203-212, 2010.
[2] 玉田和恵・神部順子・海老澤邦江・八木徹・波多野和彦・古里靖彦: 個に応じたキャリア教育を実現するためのファカルティ・ディベロップメントの取り組みIII−職業人との関わりを通した成長−. 江戸川大学紀要「情報と社会」,21,pp.245-257, 2010.

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