人材育成のための授業紹介:看護学

ICTを活用したブレンディッドラーニングによる看護技術教育

吉川 千鶴子(福岡大学医学部看護学科講師)

1.はじめに

 看護技術の複雑・多様化、国民の医療安全に関する意識向上などの理由で、学生の看護技術の実践の機会が限定され、看護実践能力の低下が問題となっています。新卒看護師の早期離職が増加しているというデータがあり、その背景には看護基礎教育と臨床で求められる能力とのギャップが指摘されています。厚生労働省から出された「看護基礎教育の充実に関する検討会報告/2007」[1]は、看護を取り巻く環境の変化に対応するために教育内容の充実と、学生の看護実践能力を強化することが重点課題であり、看護技術教育に対して、教材の工夫と演習の強化を提唱しています。
 福岡大学は、2009年度から教育・学習支援としてMoodleシステム(以下システムとする)を導入しており、看護学科でも31のコースを開設しています。学生も教員も居場所を問わず自由にシステムにアクセスすることができます。本稿では、看護技術教育における教材の工夫と演習の強化を目指して行ったICTを活用したブレンディッドラーニングを紹介します。筆者は、2010年度より看護技術教育にICTを活用していますが、今回は2011年度の取り組みを中心に述べます。看護学科で開設しているMoodleの31コースのうち、今回紹介するブレンディッドラーニングを行っているのは、基礎看護技術の「診療の援助技術」だけです。他のコースは授業資料の添付やテスト機能の活用、コースアウトラインからの授業計画の告知に使用されています。
 看護技術教育は、これまで講義と実技演習を組み合わせて授業を行ってきました。講義とDVD視聴で技術のイメージを掴み、教員のデモンストレーションを見て、実際に学生にやらせてみるという授業スタイルです。しかし、この方法は自ら学ぶという学習姿勢に繋がらず、受け身的な実技演習になりかねないという問題がありました。看護技術教育は講義や実技演習だけで到達するものではありません。予習−授業−復習を通じて知識や技術を身につける習得サイクル[2]の学習へ導く方略が必要です。
 そこで、基礎看護技術の「診療の援助技術」の授業で、システムを利用してWebベースの自学自習教材と対面授業を組み合わせてブレンディッドラーニングを行いました。ブレンディッドラーニングは、「対面授業とeラーニングを融合させた学習」と定義されています。自作の動画教材コンテンツの他、演習課題、予習・復習テスト、授業資料を配信して、講義と実技演習が繋がる仕組みを作っています。ここでは、ブレンディッドラーニングによる基礎看護技術の授業が、習得サイクルの学習へ導く方略として有効かという観点で述べたいと思います。

2.ICTを活用した授業運営

 「診療の援助技術」の授業は、2年次後期に開講する必修科目で、受講者は約100名です。計30コマ(60時間)の授業を、無菌操作・導尿、創傷管理技術、罨法、吸入・吸引、与薬、検査・採血の六つのユニットに分けて構成しています。
 学生には、第1回の授業時にシステムにログインする方法と、コンテンツの場所や課題の提出方法、小テストの受験方法について説明しました。ユニット別に予習・復習テスト、演習課題が搭載されているので、授業時間外に自由に予習・復習できること、実技演習を行うユニットは、動画教材コンテンツを事前に閲覧して授業に臨むことなどを説明し、自由に予習・復習できるようにしました。
 動画教材は2年間で11のコンテンツを作成しました。1年目は三つのコンテンツを作成しました。講師、助手の4名でシナリオ作成、実演を行い、情報センターの技術職員に撮影と編集作業を依頼しました。2年目は同じメンバーで八つのコンテンツを作成しました。シナリオ作成、実演を行い、パソコン上で編集まで看護教員が行いました。その後、情報センター職員にFlash変換を依頼しました。
 授業の概要は図1の通りです。予習テストは、形態機能学や病態学、薬理学など既習知識を想起させる問題で構成しました。復習テストは、安全な技術を実施するための必須事項やエビデンスに関する問題を作成し、知識の確認や実技演習の振り返りができるような内容にしました。動画教材は、各ユニットの技術の準備から実施までを、ズームやスローモーション、静止画、反復映像で重要ポイントを強調し、字幕やナレーションで解説しました。一つの動画教材は10分〜13分以内に編集し、合計11の動画教材を配信しました。図2は採血の動画教材の一部です。動画教材はQuick time 7とFlashのいずれかのアプリケーションで開けるようにしました。

図1 授業の概要
図2 動画教材コンテンツ
図3 ニュースフォーラムによる実技演習のフィードバック

 講義の次の授業では、チームティーチングによる実技演習を行いました。教員は学生に質問しながらデモンストレーションを示し、その後学生は実技演習を行います。授業の後は、教員が学生の技術を見て感じたことや重要事項として特に押えておきたいことなど、システムのニュースフォーラムに投稿しました(図3)。また、教員の投稿に対して学生からの応答を得るために、フォーラムディスカッションを開設しました。
 学生がコース画面のトピックアウトラインのフォーラムをクリックすると、フォーラムディスカッションに投稿することができるようにしました。フォーラムでディスカッションすることにより、気づいたことや考えたことを教員と学生間で共有し、体験からの学びを深めるようにしました。

3.ICT活用の成果

 システムを利用した学習履歴を調べるため、活動レポートからシステムで提供する授業資料や小テスト、コンテンツへのアクセスログを収集しました。活動レポートの「統計」画面の「閲覧」と「投稿」の総和の「すべての活動ログ」を総アクセス数としました。

図4 総アクセス数の度数分布

 図4は、総アクセス数別の度数分布を示しています。全体では46〜306の間を分布していました。総アクセス数101〜150が最も多く、次に多い51〜100と合わせて62名(64.6%)がこの間に分布していました。総アクセス数の平均は145.3(SD56.6)でした。2010年度の総アクセス数は平均125.6でしたので2011年度は19.7ポイント増えていました。動画教材を繰り返し閲覧するログが多かったことから、動画教材コンテンツを3から11に増やしたことが総アクセス数の増加に繋がったと考えます。
 ICTを用いた学習支援が成績に反映するかという問題に対する先行研究では、学習支援の利用度が高いと試験の点数も高くなる[3]という報告があります。しかし、アクセスを頻繁にしたから成績が良かったのか、アクセスを頻繁にする人はそもそも学習意欲が高いので成績も良いのではないかという見方も否定できません。そこで、今回の対象が受けた授業(筆者が担当しない授業)で、ICTを使わない基礎看護技術(生活の援助技術)の科目の成績との比較を行いました。「生活の援助技術」も実技試験と筆記試験、課題レポートで総合的に評価する科目なので、評価方法が似通っています。まず、「診療の援助技術」の総合評価得点と、「生活の援助技術」の総合評価得点の相関係数を求めr=0.469で相関があることを確認しました。次に、システムへのアクセス数が平均以上を高アクセス群、平均以下を低アクセス群に分け、科目ごとに高アクセス群と低アクセス群でt検定を行いました。その結果、「診療の援助技術」は、高アクセス群が低アクセス群より有意に(p<0.001)総合評価得点が高く、「生活の援助技術」は、高アクセス群と低アクセス群とで有意差が無いという結果でした。つまり、ICTを使った「診療の援助技術」でシステムに頻回にアクセスした学生は、「生活の援助技術」よりも良い成績を得たことが推察されます。
 次に、授業評価との関連を見ました。授業評価は、福岡大学の規定に基づいて行っています。10項目の評価項目に5段階で回答を求め、指定の業者が集計をして、科目責任者にその結果が送られます。図5はICTを活用していなかった2009年度と活用し始めて2年目の2011年度の授業評価の比較です。2009年度は平均4.42で2011年度は平均4.8と0.38ポイント上がっています。「授業は理解できる内容だった」「授業に準備されたDVDやパワーポイントは興味あるものだった」「授業に用いた補助教材は学習を深めるのに役立った」など教材に対する評価が0.5ポイント以上、上がっていました。

図5 「診療の援助技術」の授業評価の比較
(ICTを活用した場合と活用しない場合)

4.おわりに

 ブレンディッドラーニングの問題点として、「講義の回数が進むにつれて、学習者は授業時間外にeラーニングコンテンツを使用しなくなる。eラーニングコンテンツを継続して利用するには、『学習者自身が動機付けや学習スキルを高める』必要がある」[4]という報告があります。授業評価で、教材や課題に対する学生の評価が肯定的であったことから、ICTを利用した教材は学習の動機付けになる要素を含んでいたと考えます。
 六つのユニットごとに、学生は動画教材による予習で看護技術のイメージ化を図り、予習テストで知識の再確認をして対面授業に臨みました。実技演習して実際に体験して気づいたことをフォーラムで振り返って復習します。また、復習テストで実際に体験したことをもとに知識の確認をします。これは、予習−授業−復習という習得サイクルの学習と言えます。セメスターを通じてテスト教材や動画教材コンテンツが継続的に利用されており、授業時間外の学習活動が低下することはありませんでした。つまり、ICTを活用したブレンディッドラーニングによる看護技術教育は、学習の動機付けや学習スキルに影響を与える方法であることが示唆されました。
 今回のように、ブレンディッドラーニングによる学生の学習活動への影響を学習評価の結果だけで推測するには限界があります。授業評価で、学生の反応に手応えを感じていますが、教育効果という観点ではまだまだ検証が必要です。学生の普段の成績など交絡因子の影響を除いて検討することが課題と考えています。
 Moodleを活用するようになってからの学生の学習活動への効果を、昨年の看護学科内のFD研修で報告しました。今年度はFD委員会の要請でMoodleの活用例を交えたFD研修を行いました。具体的なコンテンツの開発プロセス、テスト機能の活用、フォーラムの活用について、情報センターのパソコンを操作しながら研修しました。昨年に比較し、開設数が22コースから31コースに増加し、課題提示や授業資料のリソース配信、テスト機能など利用者が増えています。
 看護基礎教育におけるICT活用の実績はまだまだ不十分です。社会のニーズである看護実践能力を向上させるために、看護基礎教育での効果的な活用実績を積み重ね共有する必要性を感じています。

参考文献および関連URL
[1] 厚生労働省: 看護基礎教育の充実に関する検討会報告書.2007年.
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/04/s0420-13.html
[2] 市川伸一: 教えて考えさせる授業. 図書文化, 東京, pp.11-13, 2009.
[3] 谷口るり子: Webを用いた学習支援方法の利用度と試験の点数による比較. 教育システム情報学会誌, 25(3), pp.321-328, 2008.
[4] 北澤武・永井正洋・他: ブレンディッドラーニング環境におけるeラーニングシステムの利用の効果に関する研究−学習者の動機づけと自己制御学習方略に着目して−. 日本教育工学論文誌, 32(3), pp.305-313, 2008.

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