人材育成のための授業紹介:看護学

看護技術における手技内容の比較
および学生参加を意識した視覚化教材の作成と評価

島田多佳子(東京医療保健大学医療保健学部看護学科講師)

山根 美保(東京医療保健大学医療保健学部看護学科助手)

横山 美樹(東京医療保健大学医療保健学部看護学科教授)

1.はじめに

 東京医療保健大学は、開学7年目を迎える医療保健系の私立大学であり、看護学科、医療情報学科、医療栄養学科の3学科があります。開学当初より「人間性と生命に対する畏敬の念を尊重する精神」に則り、「他の専門家と協働してチーム医療を実現できる人材」を大切にした教育を行っています。
 本稿で紹介する授業科目は、「基礎看護技術III」で、この科目は、対象となる人に看護を提供する基本の技術のうち、診療・治療に伴う援助技術について講義により理解し、実技演習により援助方法を体得することを到達目標としています。2年生前期に配当されており、1年生で学修した知識や技術の統合、対象に応じた援助や適用方法を学ぶため、単なる「手順」ではなく「なぜそうするのか」の根拠を大切にした教育、「学生が自ら考える」ことを大切に日々の教育を行っています。

2.これまでの問題点等

 看護基礎教育における技術教育の教材として、医療技術を要素ごとに比較できるシステムの開発[1]等が行われ、検討が進められていますが、看護技術の中でも、とりわけ、「浣腸」「導尿」の手技は、同じ排泄に関わる技術でありながら、清潔・不潔や解剖学的な違いを理解して実施することが大切になります。過去の研究において、「浣腸」の手技について無菌的に扱わなければならないと学生が勘違いしていることや、「導尿」の手技について、無菌操作の認識が断片的であり、形式を真似ており、何故そのようにするのかを考えないで行っていることが指摘[2]されており、学生は両技術の認識的な違いを意識した上で、手技を習得することが求められます。よって、今回、「浣腸」と「導尿」の技術において、認識的な相違を意識し、学生の練習への動機付けを促すことを目的とした視覚化教材の作成と評価を行ったので、本稿で報告します。

3.授業内容と方法

(1)学習環境

 教員と学生の共有ツールとして、パスワード入力にて閲覧可能なグループウエア(デスクネッツ:商品名)を用い、自宅外でも学習可能なよう、下記の使用教材を提示しました。

(2)使用教材

1)混同しやすい判断・手技内容の比較を意識化した教材作成

静止画像とその手技に関する説明のテキスト、強調ポイントを「浣腸」と「導尿」で比較できるよう配置しました。

ア)清潔レベルの違いを意識化した教材作成

「浣腸」に比べ無菌状態である膀胱へカテーテルを挿入する「導尿」では、物品を「無菌的に」扱わなくてはならないため、その違いを意識した視覚化教材を作成しました。(図1)

図1 清潔レベルの違いを意識化した視覚化教材例

イ)解剖上の違いを意識化した教材作成

 「浣腸」と「導尿」では、フィジカルアセスメントをもとにした、援助の必要性の判断や、解剖上の違いが意識できるよう画像教材を作成しました。

(3)学生参加型の教材作成

 学生の練習意欲の向上を目的として、技術練習で原則が踏まえられた学生の手技を静止画像として採択し、よい手技である理由をテキストとして付加し、作成しました(図2)。

図2 学生参加型の視覚化教材例

(4)教材の使用対象と期間

 2年生を対象として124名が使用し、平成23年5月から「基礎看護技術III」の「浣腸」「導尿」の講義・演習期間に使用しました。

(5)教材使用とアンケート実施の流れ

 従来の教育内容(教員の実習室での支援や実技試験)に加え、作成した教材をデスクネッツに掲示し、アンケートを実施しました(図3)。

図3 教材使用とアンケートの流れ

(6)倫理的配慮

 アンケート等に関し、所属の倫理審査委員会において承認を受け、学生へ口頭と書面による説明を行い、同意の得られた者を対象としました。参加は自由意志によるもので、成績等には関係がないことを説明しました。アンケートへ同意した人数は、91名(73%)名でした。

4.教育効果

(1)評価アンケート

1)閲覧の有無と回数

ア.混同しやすい判断・手技内容の比較を意識化した教材

有効回答数83名中、閲覧したのは、78名(94%)、しなかったのは、5名(6%)で、回数は1〜5回の閲覧が一番多く見られました(図4)。

図4 混同しやすい判断・手技内容の比較を意識化した
教材の閲覧回数

イ.学生参加型の教材

有効回答数83名中、閲覧したのは、49名(59%)、しなかったのは、34名(41%)で、回数は1〜5回の閲覧が一番多く見られました(図5)。

図5 学生参加型の閲覧回数

2)学習意欲

 学生参加型教材を閲覧した49名のうち、閲覧したことで、学習意欲につながった人は47名(96%)、つながらなかった人は2名(4%)と少なく、参加型教材は学習意欲につながる人が多くいることがわかりました。

(2)「浣腸」と「一時的導尿」の手技等の違いに関する理解度アンケート

「浣腸」と「一時的導尿」の手技等の違いの理解度に関し、「理解している〜理解していない」の4件法で作成した、1回目と2回目のアンケートの記載が揃っている35名(28%)で分析を実施しました。

1)教育方法の違いに関する理解度の違い

 ア)今回作成した画像教材、イ)浣腸の実技試験(教員のコメント含む)、ウ)実習室での教員の学習支援の三つの方法についての理解度の違いについては、Steel-Dwass検定において、有意な差が認められませんでした。この結果から、今回作成した、画像教材は、実技試験や教員の直接的な学習支援と大きな差がない程の教材効果があったと考えられました。

2)1回目と2回目の「浣腸と一時的導尿の手技等の違い」に関する理解度の違い

 表に、アンケートの集計結果を示します。1回目と2回目の理解度の比較をwilcoxon符号付順位検定にて分析しました。結果、患者の状態の確認や説明内容の他に、体位やカテーテル挿入の長さについては有意な差が見られませんでした。体位に関し、差が見られなかった理由として、1回目の時点で、理解をしていた状況にあったと考えられました。
 使用物品(手袋、カテーテル)に関する未滅菌・滅菌の違いや消毒の必要性、実施の際の物品(膿盆、トレー)配置、手の役割、カテーテル抜去時のカテーテルの扱い等、複数の手技的内容に関し、有意な差が見られました。この結果から、知識的側面が必要な内容よりも、使用する物品の違いに関する理解や必要性、および、手技的な理解が深まったと考えられました。

表 浣腸と一時的導尿の手技等の違いに関する理解度アンケート
1回目と2回目の集計結果(N=35)

5.今後の課題

 学生参加型教材に関しては、新たな試みのため、作成と並行して利用を進めたことにより、周知徹底が図られなかったこと等で、閲覧回数が少なかったと考えられ、今後は、学生の学習状況と合わせて、タイムリーに教材を提供し、周知徹底をはかる必要があると考えました。また、今回は、従来の教育内容も含めて教育効果を検討したため、単独教材での効果は明らかになりませんでしたが、今後は、他の評価指標を増やす等して、教材使用の状況と学習効果、教育方法の違いと学習効果、効果的な教材の組み合わせ等に関しても検討をしていき、学生の理解が深まるような教育内容を探究していきたいと考えています。

参考文献
[1] 藤井千枝子・新野美紀・島田多佳子他: 安全な医療のための情報蓄積型看護技術教育システムの開発. 看護情報研究会論文集5回, pp.74-76, 2004.
[2] 草地潤子・谷岸悦子:基礎看護技術テストにおける学生の学習状況と意識. 日本赤十字武蔵野短期大学紀要, pp.13,37-43, 2000.

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