教育・学習支援への取り組み

大阪経済法科大学におけるICTを活用した教育・学習支援

1.はじめに

 大阪経済法科大学は、創立者金澤尚淑博士の「経済と法律が社会の両輪であり、この二つの学問を修めることによって無類の人格を形成することができる」との信念に従い、万人に開かれた高等教育の実現を目指し、1971年に開学しました。2012年には新キャンパスとなる八尾駅前キャンパス・オーバルを開校し、二つのキャンパスのもとで、多様な学生に対応した教育力・活力の向上に取り組んでいます。
 設置学部・学科は経済学部・経済学科と法学部・法律学科の2学部2学科であり、学生数は約2,200名、教職員数は約200名(2013年4月現在)です。

2.教育改革や改善のためのプロジェクトと体制

(1)情報化の経緯

 大阪経済法科大学は、「情報化」を全学的な重点課題の一つとして設定し、古くからその推進に取り組んできました。1984年度の「コンピュータ」科目(BASIC修得)の開講を発端に、1987年には情報システムの管理運営部署である情報科学センターの設置、1997年には全学的な情報ネットワークシステムの構築が行われ、教育支援システム、図書館情報システム、教職員用グループウェア、事務業務支援システム等の運用が開始されました。
 以後、Web学習管理システム(2002年)、Web履修登録システム・Web出席成績管理システム・電子シラバス(2003年)、eラーニングシステム(2003年)、学生ポータルサイト(2007年)、e学生カルテ(2008年)、eポートフォリオ(2011年)等の各種システムの導入を順次行い、その活用に取り組んできました。

(2)ICTキャンパスの整備

 2012年開校の八尾駅前キャンパス・オーバルは、情報化の取り組みにとって大きな契機をなすものでした。新キャンパスのコンセプトの一つとして「ICTキャンパス」を掲げ、その施設・設備の検討とともに、情報化の理念や課題についても改めて全学的な検討と共有を行う機会となりました。その過程で確認された情報化の基本理念は、1)学生の情報活用能力の涵養、2)ICTを活用した教育の効果・効率・魅力の向上、3)ICTを活用した豊かで便利なキャンパスライフの創出、の3点でした。
 これらの基本理念を踏まえ、ICTキャンパスの構築、全学的なICT活用推進に関するプロジェクトを進め、2012年の八尾駅前キャンパス・オーバル開校を迎えることができました。同キャンパスでは、無線LAN、貸出ノートPC、ICカードシステム(出欠管理、入室管理、証明書発行、図書貸出、電子マネー)、電子黒板等の教室ICT機器、等のICT環境の整備を行いました。開校当初からのキャンパスである花岡キャンパスにおいても同様の整備を順次進めています。
 これらの教育・学習支援のための情報基盤・サービスの概要を図1に示します。

図1 教育・学習支援のための情報基盤・サービス

(3)情報化推進のための組織体制

 情報化推進のための組織としては、情報化委員会が設置されています。同委員会は、情報科学センター長が委員長となり、経済学部・法学部・教養部の各教員や教務課長・管財課長等が委員となり、情報化の取り組みについて検討・推進を行っています。
 また、全学的なFD推進機関である大学教育開発支援センターにおいても「教育の情報化」を事業計画の一つとして掲げ、情報科学センターと協働で、ICT/FD研修会の企画・実施、後述する「ICT活用教育実践事例集」の発刊等の取り組みを行っています。
 情報科学センターは、情報基盤の構築・運用に加え、日々のICT活用支援(ICT操作支援、ICT教材作成支援、データ集計支援、授業設計支援等)も担っています。また、情報科学センターのもとに、学生アルバイトによるヘルプデスク(学生20〜30名程度が所属)を設置し、PCラウンジのカウンター勤務やPCのメンテナンス、情報系授業でのティーチングアシスタント、授業でのICT活用補助等の役割を担っています。

3.ICTを活用した教育・学習支援の取り組み

 以上のような情報化の各種取り組みのもと、この間は、ICTを活用教育の推進による教育力の向上を全学的な方針として掲げ、以下のようなICT活用モデル授業の拡充に注力してきました。

1)eラーニングを活用した知識定着・授業外学習の強化

2)ICT(ノートPC、クリッカー等)を活用した能動型授業の拡充

3)キャリアポートフォリオを活用した4年間一貫した学修支援の強化

 その結果、ICTを活用する教員、ICTを活用する授業は徐々に増えつつあります。
 プロジェクター利用等を含むICTを活用する科目の割合は7割強、演習等でのノートPCを利用する教員は5割強、LMSを利用する教員は4割強となっています(いずれも2012年度状況)。
 2012年度は、このようなICTを活用した教育実践の事例共有・経験交流を一層図ることを目的に、「ICT活用教育実践事例集」を発刊し、学内教職員に配布しました(図2)。
 以下、この事例集に掲載したICT活用教育の実践について、いくつか概要を紹介します。

図2 ICT活用教育実践事例集

(1)eラーニングによる小テストの実施(マクロ経済学)

 経済学部専門科目の「マクロ経済学」において、eラーニングシステム(Internet Navig ware)上に小テストを設置し、授業後の復習課題として学生に取り組ませています(図3)。授業外学習の課題化、日常の学習活動の把握・評価等ができるようになった点で、eラーニングの活用が効果を発揮しています。現状、小テストの設問をeラーニング化するのは専門スキルが必要となるため、問題作成は担当教員、システム登録は情報科学センターが行うという分業体制で進めています。

図3 小テスト画面

(2)クリッカーを用いた講義科目での進度調整・理解度把握の実施(ミクロ経済学)

 同じく経済学部専門科目の「ミクロ経済学」では、学生の理解度をその場で把握するため、クリッカーを利用しています(写真1)。主な利用方法は、講義内容に関する問題を出題し、その回答結果に応じて講義の説明内容とスピードを調整するというものです。クリッカーの導入以降、学生による授業評価アンケートや期末試験の点数が上昇する等の効果が表れています。課題としては、クリッカー用スライドの作成やクリッカー端末の配布・回収等の負担が挙げられています。同科目では、学生ヘルプデスクが毎回サポートで付いており、今後も継続的な支援が要望されています。

写真1 小テスト画面

(3)REASを活用した双方向型授業の実践(心理学)

 共通教育科目である「心理学」では、学生の携帯電話・スマートフォンを使い、REAS(リアルタイム回答集計システム)による小テストやリフレクションペーパーの実践を行っています。REASを用いることで、それ以前と比べて、効率的に小テストやリフレクションペーパーを実施できるようになりました。活用効果としては、学生の集中力の持続、毎回の理解度把握と授業改善へのリアルタイム反映等が挙げられます。

(4)その他の授業事例

 その他、以下のような授業実践も行われました。字数の都合上、題目のみ紹介します。

eラーニングを活用したTOEIC試験対策の実践(Practical Business English)

アクティブラーニング教室を活用した授業実践(Economnic Issues in English)

授業外学習と学習内容定着を促進するための授業動画の配信(情報リテラシーB)

電子黒板機能を活用した授業実践(法学部専門演習、中国語)

Twitterを用いた講義科目での双方向型授業の実践(経営戦略論)

SNSを活用した演習運営の実践(大学演習、専門演習)

(5)学生カルテ・ポートフォリオシステムを活用した学修支援

 また2012年度は、学生カルテ・ポートフォリオシステム(図4)を活用した学修支援・キャリア支援の取り組みが全学化され、除退率の改善や就職指導において効果を発揮しました。同システムは、入学前から卒業までの様々な情報(基本情報、成績、出欠、課外活動、面談記録、学修成果物、就活状況等)を集約し、学生一人ひとりへのきめ細かな学修支援・キャリア支援を実施するための情報基盤となっています。

図4 学生カルテ・ポートフォリオシステム基本機能

4.終わりに

 以上、ICTを活用した教育・学習支援の取り組み(試行的なものも含めて)は徐々に拡充しつつあると言えますが、授業改善や教育成果につながるものは依然部分的です。今後は、経済学部と法学部の学問的特性を踏まえつつ、1)基礎科目における復習・知識定着のための授業動画の活用、2)講義科目における双方向性・能動性確保のためのICT活用、3)演習科目におけるキャリアポートフォリオの活用、4)語学科目における資格対策eラーニングの活用など、授業別の特性を踏まえたICT活用授業の量的・質的な拡充を図ることが課題であり、そのための方策を検討・推進していく必要があります。

文責: 大阪経済法科大学
教養部講師 朴 恵一

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