教育・学習支援への取り組み

工学院大学におけるICTを活用した
教育・学習支援の取り組み

1.はじめに

 学校法人 工学院大学は、日本初の本格的な技術者養成学校「工手学校」をルーツとして、1887年に帝国大学初代総長を務めた渡邉洪基の発意により、技術立国を支える技術者の育成を行うことを目的に設立されました。2012年10月には創立125周年を迎え、学園は、中学校、高等学校、大学、大学院までの一貫教育を実現しています。創立以来、教育理念を「社会の中核を担う技術者育成」とし、10万人を越える卒業生を輩出しています。社会の進歩に合わせて研究・教育分野を拡充しながら、学部・学科の改組や教育改革に取り組んできました。現在、工学部(1、2部)、建築学部、情報学部、グローバルエンジニア学部の4学部14学科、大学院は、工学研究科6専攻から構成されています。学園全体の学生・生徒数は7,617名、教職員数は454名です(2013年5月1日現在)。

 

2.教育支援機構の設置とその役割

 2012年4月に、大学教育の企画、支援の充実及び支援部門の連携を強化するために、学長直属の学内組織として教育支援機構を設置しました。今まで独立に活動していた下記の教育支援4部門が課題、計画を共有し、密な連携活動による支援効果の最大化を目指しています。

1)教育開発センター

 本学の教育の改革と質の向上を実現するため、全学的な教育方針と教育施策の企画・開発、及び教育改善を行います。

2)学習支援センター

 基礎教育に関わる学習を支援し、併せて学生の自己学習のための教材の開発及び提供を行ないます。

3)図書館

 大学の教職員および学生等の教育・研究上必要な図書、学術雑誌、視聴覚資料その他必要な 資料・情報を収集および管理し、その利用に供すると共に、学内外の学術情報機関との相互協力を行います。

4)情報科学研究教育センター

 大学教員の研究促進に資するとともに、学生に情報処理設備利用に関する知識と技術の習得、ICT環境の提供を行います。以下では、情報科学研究教育センターを中心とした学内の学生、教職員へのICT環境の提供による教育・学習支援状況について説明します。
 また、本学は、新宿駅から徒歩5分の好立地にある新宿キャンパスと、敷地面積23万m2と東京ドーム約5個分の広大な敷地を持つ八王子キャンパスからなります。この二つのキャンパスを効率良く利用することが求められます。移動の時間短縮のために、中央高速を利用した最速40分のシャトルバスを講義に合わせて1日13便運行しています。ICTの取り組みとしてもこのキャンパス間の融合が重要であり、この施策についても説明します。

3.ICTを活用した教育・学習 支援の取り組み

(1)学園ポータルシステム

Kuportによるサポート(図1)

図1 学園ポータルサイトKuportのトップ画面

 学園を構成する学生、生徒、教職員の共通のコミュニケーションツールとして、学園ポータルシステムKuportを活用しています。Kuportは講義・演習のサポート機能として、お知らせ、スケジュール、個人時間割、電子教材配布、課題提出、電子メールのなどの通常のポータル機能とともに、学生と教職員間のコミュニケーション強化のための学長掲示板や学生ポートフォリオなどのツールを充実させています。教育支援機構での連携として、学習支援センターの個別指導予約システムの提供などの機能を有します。

1)学長掲示板(図2)、ピア掲示板

図2 学長掲示板の画面例

 Kuport上には、学長掲示板とピア掲示板の二つの電子掲示板があります。
 学長掲示板は、学生から学生生活を送る上での大学への要望、意見などを自由に発言できる場です。ピア掲示板は、大学院生・学部学生が学生生活に関わる情報交換のために、自由に発言できる場です。二つの掲示板において、学長をはじめとする教職員が速やかにリプライ(返信)をすること、記名で(他の) 学生が賛否の意見をリプライすることにより、健全で活発な議論が行われています。

2)学生ポートフォリオの活用

 学生の個別情報として、個人データ、学習記録(JABEEに対応)、学生カルテの情報を保持し、教員や職員がそれらの情報を共通認識し、学生の指導、アドバイス、学習支援を行います。進路希望、進学・就職活動状況も一元化されており、個々の学生の進路指導に活用されています。なお、検索可能な個人情報は、個人・項目ごとに必要最低限の範囲に保護されています。

3)出席管理システム

 全学生はIC学生証を持ち、各教室に設置したICカードリーダで出席を登録します。この出席情報はKuport上で管理され、学生ごとあるいは講義ごとなどの個別の学習状況を把握することができます。

4)eラーニングシステムの提供(図3)

 教員が作成した電子教材を元に、PCを用いた授業の予習・復習を行います。

図3 eラーニングシステム

(2)仮想化技術を全面採用した情報教育環境

 2013年9月に学内の情報研究教育システムを一新し稼働を開始しました。今回の更新では、単に、サーバやPCなどを新機種に置き換えるのではなく、最新の仮想化技術をもとに、工学院大学での特徴を活かした新システムを導入しました。学生への基本的なサービスは、いままで通りの演習室を中心とした環境を構築・維持しつつ、外部からのアクセスの利便性を向上させ、将来的には、いつでもどこでも、どのような端末からもネットワークを介してアクセス可能となるようなシステム・運用へと進化させていきます。

1)仮想クライアントの導入

 ブレードサーバと仮想化ソフトウェアによる本格的な仮想クライアント環境を導入し、約880台の仮想クライアントPCの同時稼働を実現しました。
 学生が自主学習で用いる端末室(本学ではカフェテリアと呼んでいます:写真1)には、ブックサイズのディスクレス・シンクライアントを導入し、机上スペースを確保しています(写真2)。講義・演習を行う演習室(写真3)には、通常のPCを設置し、デュアルブート方式により、仮想化ソフトウェアによるPCのシンクライアント化(バーチャルデスクトップ、写真4)と通常PCを切り替えられるようにしています。通常PCの利用は全画面での3Dグラフィックスのような高度な動画アプリケーションに用います。

 
写真1 カフェテリア   写真2 シンクライアント
 
写真3 演習室   写真4 通常PCの
バーチャルデスクトップ画面
写真5 TKK3大学連携 
遠隔講義(受信側)

 また、モバイル環境への対応として、“バーチャル・カフェテリア”を提供しています。学内からのモバイルPC活用、あるいは学外のPCからのVPNを介して自分の仮想PC環境を利用することができます。“バーチャル・カフェテリア”はもちろん昼間も使うことができます。さらに、夜間のカフェテリア閉室後は、“バーチャル・カフェテリア”の仮想PC台数を増やし、学生の利便性を高めています。

2)ユーザファイルの一元化とディザスタ・ バックアップ

 本学は、新宿、八王子にキャンパスがあり、この二つのキャンパス間での情報の一元化に取り組んでいます。
 まず、教育システムのユーザ・データはすべて新宿キャンパスに一元化され、両キャンパス間を1Gbpsの回線で接続しています。次に、この地理的関係を活かして、バックアップシステムを八王子キャンパスに設けました。仮に新宿近辺で災害が発生しても、八王子のバックアップシステムを活かして、データの保全、並びに教育・研究の継続を可能としています。

3)サーバ仮想化

 サーバの仮想化により、各種サーバ機能を一つのサーバシステムに組み込むことにより、 処理量の柔軟な対応を実現し、また、可用性と信頼性の向上を図ります。ブレードサーバの導入により、ハードウェア障害時の継続運用が容易になる他、メンテナンス作業の効率化、利用状況による用途変更や新規サーバ追加の時間短縮が実現できます。さらに、学園の一部処理はクラウドも活用しています。

(3)遠隔配信システムの運用

 学内では、新宿キャンパス、八王子キャンパス間で遠隔配信システムを実現化しており、講義、演習の遠隔配信や遠隔会議などを可能としています。
 このシステムはさらに学外とも接続され、活用されています。その一つの適用先として、TKK3大学連携プロジェクトでの遠隔授業があります(写真5)。本学は、東北福祉大学、神戸学院大学とともに、「学び合い」の一環として、社会貢献、防災・減災、ボランティア、環境、国際協力に関する3大学共同の専門カリキュラムに基づいた講義を2010年から行っています。専門カリキュラムは原則として遠隔授業で実施し、学生は他大学の講義を受け、単位を取得することができます。
 卒業単位にカウントされるだけではなく、所定の単位を修得することにより、ソシエーター(社会貢献活動支援士)(1) 認定試験資格を得ることもできます。2012年度は、TKK共通シラバスに基づいた前期11科目、後期7科目(2)の講義を開講し配信。それぞれ延べ854名、460名の学生が遠隔システムを通して学びました。
 また、各大学の教職員が遠隔授業システムによる課題や効果的な運営方法を議論し、対策を共有することで、遠隔授業の質向上を目的としたFD・SD研修会を実施しました。この研修会自体も遠隔授業システムを利用して行っています。研修会では、まず3大学の遠隔授業に関するアンケート調査の報告や遠隔授業でのトラブル報告等の課題を確認しながら、様々な立場(教員・スタッフ・遠隔システム関連業者・学生)から対策等について話し合いを行い、共有しました。次に、各大学の遠隔授業ならではの工夫をされている事例について、動画を用いて紹介、電子黒板の利用や配信先の学生への当て方を紹介しました。最後に、研修会で挙がった課題のうち、映像や配信先の学生への問いかけ方法等を中心に、教員・職員・学生の意見をまとめました。

4.まとめ

 以上、工学院大学におけるICT教育環境を活用した教育・学習支援への取り組みについて紹介しました。今後ともICTを用いた、学生とのコミュニケーション、サポート強化をさらに進めていきたいと考えています。その基盤となる仮想化技術を全面採用した情報教育環境は、従来の使い勝手を維持しつつ、将来の更なる情報端末の多様化、利用形態の変化に迅速に対応できるシステムであると考えます。
 工学院大学のICTへの取り組み、システムの詳細につきましては、本学情報科学研究教育センターまでお問い合わせいただければ幸いです。
 最後になりますが、本稿を執筆する機会を与えていただいた私立大学情報教育協会に感謝を申し上げます。

(1) ソシエーター(社会貢献活動支援士)とは、社会貢献、防災・減災、ボランティア、福祉、環境等の専門知識を身につけ、災害やボランティアの現場でリーダーシップを取り活動することができる人材であることを認定する制度。
(2) 地域防災工学、災害危機管理、国際協力論I、社会貢献論II、環境政策ビジネス論、開発教育学、環境ボランティア論(各々2単位の講義)。
文責: 工学院大学
情報科学研究教育センター所長
田中 輝雄

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