特集 eポートフォリオとその活用

PBL+SDL型学修によるC-PLATS(R)能力開発とeポートフォリオの活用
〜大手前大学〜

芦原 直哉 大手前大学副学長

1.はじめに

 大手前大学は建学の精神である“STUDY FOR LIFE”の下、リベラルアーツ型大学を目指している。本学ではリベラルアーツを単なる教養ではなく、その主目的を「問題解決力」の伸長であると定め、問題解決力を養成する本学独自のC-PLATS(R)能力開発教育体系を構築して知識偏重教育から能力開発教育への転換を目指す教育改革を行ってきた(図1)。

図1 C-PLATS(R)能力体系図

 このC-PLATS(R)能力開発教育における能力の伸長度(学修成果)とその評価、さらには能力の質保証のエビデンス機能を担うのがeポートフォリオ・システムである。知識教育における学習成果とそのエビデンスについては知識習得状況を確認する試験を実施すれば足りるが、能力開発教育においては評価とそのエビデンスのための新たな仕組みの構築が必要となる。これが能力開発型教育において最も困難な課題である。
 本学はこの困難な課題に挑戦すべく、C-PLATS(R)能力開発型教育への転換と同時に「el-campus」と称する本学独自のLMS機能とeポートフォリオ機能を融合したシステムを開発した。本稿はこのel-campus の活用状況を紹介するものである。

2.リベラルアーツと問題解決能力C-PLATS(R)の養成

 本学はその使命として、『リベラルアーツ型教育の実践により学生が新しい時代を生き抜くための「社会人基礎力」を養成する(抜粋)』を掲げている。この使命を具現化するためには、単なる「博聞強記(記憶力が良い物知り)」ではなく「実材実能」の人材を養成しなくてはならない。実材実能の人材とは社会の先導者として困難な問題を解決し社会に価値を提供する人材である。本学はこの「問題解決力」の養成を目指す教育改革を行ってきた。この教育改革は “学生に知識を授ける”教育から、“学生が自ら能力を修める”学修への転換である。この違いは主役が“教員”から“学生”へ、“受動”から“能動”へ、“知識”から“能力”への大きな転換である。言い換えると、知識(物知り)から見識(判断力)と胆識(行動力)への教育転換とも言える。
 この教育のパラダイムシフトには教育システムの大転換が求められる。これまでの知識習得型教育においては、学修成果を従来の知識習得確認型試験を実施しその知識記憶量を点数化することにより容易に点数化し評価することができた。しかし、能力開発型学修においては試験だけで評価することは不可能である。それは知識の学習成果は単なる記憶であるのに対し、能力の学修成果は知識と知識を融合して新たな知識を創造し、それを実践して成果を得ることであるからである。
 本学は2011年度からその困難な教育システムの大転換に取り組んできた。最初に取り組まなければならなかったのは能力の定義や評価基準を明確にするための問題解決能力C-PLATS(R)の開発である。C-PLATS(R)とは問題解決プロセスを分析して問題解決のために必要な三つの能力基盤と10のコンピテンシーの頭文字である。三つの能力基盤と10のコンピテンシーとは社会基盤能力(社会的責任、チームワーク)、思考基盤能力(論理的思考、分析力、創造力、計画力)、行動基盤能力(コミュニケーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、行動力)である(図1参照)。
 このC-PLATS(R)能力の定義、開発の目的、到達目標、概要、評価基準(ルーブリック)、教育メソッドなどを体系化したOCD (OTEMAE COMPETENCY DICTIONARY 2011問題解決能力開発メソッド・C-PLATS(R))を出版し、学内にとどまらず外部のステークホルダーにも本学の教育改革の理解と浸透を図ってきた。

3.主要能力開発メソッド:PBL+SDL型学修

 本学では能力開発の主要教育メソッドとしてPBL+SDL型学修を位置づけてすべての授業で実践している。PBL(Problem Based Learning)型学修はまさに問題解決型学修であり、SDL(Self Directed Learning)型学修は自己主導型学修(能動的学修、アクティブ・ラーニングなどと同義)である。
 具体的にはすべての授業で学生に課題を与えて自ら考え調査・分析をして解答を導き出し、それぞれの考えをグループやクラスでディスカッションして他者の思考から学び合う手法である。これまでの日本の大学の一般的講義のように教師の講義を聴いてそれを覚えるのではなく、正解のない課題に対して自らの考えを論理的にまとめて他者の理解を得ることによって能力開発を行う授業である。

4.能力開発教育システム体系

 本学ではこのPBL+SDL型学修を全学で導入し実践するためのシステム体系を整備した。
 その概要は図2に示す通り九つのサブシステムで構成されている。九つのサブシステムとは前述の1)OCDを中心に、2)コンピテンシー・ファカルティ、3)コア教育科目、4)PBLシラバス、5)ルーブリック体系、6)授業見学、7)授業アンケート、8)教育ボランティア、そして本稿のテーマである9)eポートフォリオ・システムである。これらのサブシステムは能力開発の実践、評価及び質保証を担保するエビデンスとして相互に有機的に機能している。特にeポートフォリオ・システムはそのすべてのシステムを動かす基幹的サブシステムである。

図2 能力開発教育システム体系

 能力開発の実践のためのサブシステムがコンピテンシー・ファカルティとコア教育である。コンピテンシー・ファカルティは能力別に毎月開催される能力開発実践の研究・開発機関である。すべての専任教員と管理職職員はいずれかのコンピテンシー・ファカルティに所属して、その能力の開発について研究している。また、コア教育科目は1年〜4年までのゼミ形式必修科目である。コア教育科目は学生にとっての基本的能力開発プログラムであり、教員にとってはPBL+SDL型学修実践の場となっている。この二つのシステムは教員がPBL+SDL型学修実践技法を修得し、担当する専門科目においてPBL+SDL型学修を実践するための基盤となっている。
 授業見学はPBL+SDL型学修の実践を教員が相互啓発することにより能力開発技法を高めるためのシステムである。授業見学実施後はレポートとそれに対するコメントを提出することになっており、それらの情報は学内Webで公開してすべての教員が共有する仕組みとなっている。
 能力開発を評価するサブシステムとして、C-PLATS(R)シラバス、ルーブリック、授業アンケート、教育ボランティアがある。C-PLATS(R)シラバスとは図3の事例で示す通りシラバス上に各コンピテンシー開発の基準グレードを明示し、その能力開発手法やPBL型学修の課題などを説明する欄を設けるよう改善したシラバスである。現在、さらに詳細な能力開発基準と規準を定めたルーブリックを開発・整備している。

図3 C-PLATS(R)シラバス能力開発目標欄の事例

 同時に授業アンケートも、学生が各科目履修後に10のコンピテンシーについてどの能力が伸長したかの設問項目を設けるなど、学生の能力開発を中心とするものに改変した。教員はシラバスによる目標設定と学生のアンケート結果を照合してその差異分析を行うなど、授業改善の参考としている。なお、教員が学生にフィードバックした授業改善方法などのコメントは学内Webで公表している。
 教育ボランティアは本学の教育を支援していただける地域在住のCDA資格者などの有識者や卒業生などを教育ボランティアとして組織化して、学外の目で本学の能力開発教育を評価していただく制度である。現在200名を超えるボランティアにコア教育やプレゼンテーション大会の評価員としてその役割を果たしていただき、授業改善に役立てている。
 eポートフォリオ・システムはこれらの能力開発の実践とその評価機能に加えて、教育の質保証を担保するエビデンスとしての重要な機能を持っている。次に本学のeポートフォリオ・システムであるel-campusを紹介する。

5.eポートフォリオ・システム

  本学は前述の八つのPBL+SDL型学修を支えるサブシステムを有機的・効率的に機能させるeポートフォリオ・システムel-campusを2011年に開発し、運用している。このel-campus はLMS (Learning Management System)機能と連動させたクラウド・システムである。
 el-campusのLMS機能としては教材等の保管・蓄積、学生への教材の配布、学修進捗管理、質問やお知らせなど教員と学生のコミュニケーション、課題の配布と提出・採点管理、授業アンケートなどがある(図4)。このLMS機能は本学の通信課程のeラーニング・システムのノウハウを基盤として開発したものであり、このeラーニングのノウハウがel-campus開発に大きく貢献している。eラーニングは教材に基づき自己学修を行い、学修内容に関する課題につきレポート等を提出するという典型的なPBL+SDL型学修であることがその大きな要因である。

図4 授業アンケートサンプル(能力伸張自己評価のみ)

 el-campus システムのeポートフォリオ機能として、1)PBL+SDL型学修の促進機能、2)学修成果の評価とエビデンス機能の二つがある。
 PBL+SDL型学修の促進機能については、LMSと連動したマイノート機能がその役割を果たしている(図5)。マイノート機能には「活動ノート」、「アイデアノート」、「授業ノート」機能がある。活動ノートは学生生活全般の活動を記録蓄積するものであり、アイデアノートは毎日思いついたアイデアをノートに蓄積することにより発想力・創造力を高める機能である。従前はA5ノートを配布していたが、el-campusシステム開発と同時にこれをeポートフォリオ化した。

図5 el-campusマイノート機能

 授業ノート機能はLMS機能により提出されたレポート等の成果物に対して教員がコメントするなど学生と教員が成果物を通してコミュニケーションを図り、学生の自己主導型学修をサポートしている。履修している授業毎にフォルダーがあり、フォルダーの成果物を蓄積することによりPBL+SDL型学修を促進する機能と同時に学修成果のエビデンスとしての機能を果たしている。
 学修成果の評価とそのエビデンス機能については蓄積された学修成果物をエビデンスとして、「自己評価」、「教員評価」、「外部評価」の三つの評価を行っている。
 自己評価については、学生は卒業時までの10のコンピテンシー到達目標グレード(ルーブリック表)を設定し、各セメスター開始時にそのセメスターにおける到達目標グレードを定めている。セメスター修了時にはその結果を学生が自己評価し、その差異分析を行う仕組みを構築している。それらのデータをグラフ化してその伸長度を確認し、学生は次のセメスターの目標グレードを設定して卒業時までには目標を達成するよう学修計画をたてている(図6)。

図6 el-campus C-PLATS(R)自己評価機能

 教員による評価については、eポートフォリオにPBL+SDL型学修の成果として蓄積された学修成果物を教員がルーブリック表によってその能力と知識の修得レベルを評価する。真剣に学修に取り組んだ学生の授業開始時と最終の成果物を比較するとその能力の伸長が一目瞭然である。一方、学修意欲に乏しい学生はその差は小さく能力の伸長が少ないことがわかる。このシステムにより教員は困難と言われる能力評価を容易に行うことができるようになった。
 外部評価については前述の教育ボランティアによる評価にeポートフォリオを活用している。教育ボランティアは直接学生のプレゼンテーションに参加して評価をする他、映像ポートフォリオによる評価を行っている。学生は入学時と毎学年終了時のプレゼンテーションを映像ポートフォリオとして映像データでel-campusに蓄積している。映像の比較により学生の成長を教育ボランティアなどの外部評価員に評価していただくと同時に、本学の教育の質保証の重要なエビデンスとなっている(図7)。

図 7  映像ポートフォリオ機能

6.おわりに

 本学の能力開発型教育へのパラダイムシフトと、それを可能にしたeポートフォリオ・システムel-campusを紹介した。本稿では紙面の関係で割愛したが、本学ではこのel-campusを開発する以前から就職活動のeポートフォリオとして「就カツくん」システムを開発し運用している。学生が就職活動状況を携帯やPCでインプットし、教員と職員がアドバイスや情報をインプットして就職活動の情報を共有して進路支援を行うシステムである。
 本学ではeポートフォリオ・システムがその効果を発揮し、教育と進路支援において欠くべからざる存在となっている。
 本稿がeポートフォリオ・システム導入の一助となれば幸いである。


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