教育・学修支援への取り組み

芝浦工業大学におけるICTを活用した教育・学修支援への取り組み

1.はじめに

 芝浦工業大学は、創立者有元史郎が1927年に設立した東京高等工商学校を前身として、1949 年に設置された理工系大学です。「社会に学び、社会に貢献する技術者の育成」という建学の精神のもと、高度な専門知識・高い倫理観・豊かな見識を兼ね備えた技術者を社会に輩出するため、創立以来、実学志向の教育を実践してきました。現在は、3学部(工学部、システム理工学部、デザイン工学部)17学科、大学院2研究科(理工学研究科、工学マネジメント研究科)9専攻の体制で教育研究活動を推進しており、豊洲、大宮、芝浦の3キャンパスで約8,400名(2013年度)の学生が学んでいます。

2.教育改善を実現するための支援体制

(1)教育イノベーション推進センター

 学修・教育環境の整備と改善を進め教育の質保証を実現するため、芝浦工業大学では全学組織として「教育イノベーション推進センター」を設置しています。教育改善への取り組みは多岐に亘ることから、実効を伴う支援体制としてセンターを機能させるためには、センター内の役割分担を明確に設定することが重要です。そのため本センターには、IR部門、キャリア教育部門、FD・SD推進部門、教育・学習支援部門、グローバル推進部門の5部門が置かれ、各部門がそれぞれのミッションに応じた活動を展開しています。以下に代表的な活動を紹介します。

1)ルーブリックおよびeポートフォリオの導入推進

 学修成果の厳密な評価に基づいて教育の質保証を行うためには、「学習・教育目標」の設定、体系的なカリキュラム設計、学修成果の定量的評価を明確にし、それらを着実に実行する必要があります。そこで、IR部門が中心となり、大学の教育目標と学部・学科の教育目標との階層的な整理を進め、卒業研究やPBL科目でのルーブリック(学修成果水準)を全学的に導入しました。さらに、学修成果を学生自身が振り返る手段を構築するため、その第一段階として、図1のようなラーニングポートフォリオの実施と評価を進めています。今後は、ラーニングポートフォリオを含めたeポートフォリオ(SITポートフォリオ:Shibaura Institute of Technology Portfolio,Student’s IntegraTed Portfolio)へと展開させることで、学生の学修活動やキャリア開発を支援する有効なツールとなることが期待されています。

図1 ラーニングポートフォリオとルーブリックとの連携

2)FD支援プログラムの開発と運用

 FD・SD推進部門では、教員個々を対象としたFD支援プログラムの開発と運用に力を注いでいます。現在実績を重ねている取り組みとしては、「ティーチングポートフォリオ(TP)作成ワークショップ」「授業外学習を促すシラバスの書き方ワークショップ」などがあげられます。前者については、1泊2日で自身の教育活動と教育理念をTPとして整理し、これを将来の授業改善へと役立てることが目的です。ワークショップへの参加は義務づけられているわけではありませんが、学部長や研究科長にもTPの作成を経験していただき、参加教員の輪を広げています。後者は、学生が自主的に授業外学修へ取り組めるようなシラバスの作成を目指したワークショップです。参加教員同士で議論を深めながら、学生にとって望ましいシラバスの構造や内容を考えていきます。

3)グローバル人材育成への対応

 本学の国際化に向けた取り組みが、文部科学省の平成24年度「グローバル人材育成推進事業(タイプB:特色型)」に採択されたのを受けて、平成25年度にグローバル推進部門が発足しました。国際社会で活躍できる技術者が強く求められている現在、グローバル人材育成は教育の質保証の重要な一角に位置づけられます。グローバル推進部門では、冒頭に紹介した建学の精神を「世界に学び、世界に貢献する技術者の育成」へと展開し、海外の学生と共同で行うグローバルPBL、専門科目の部分英語化、e-Learningを活用した英語自習システムの構築などを実施しています。

(2)学術情報センター

 「学術情報センター」は、情報環境の維持・開発を通じて、学修・教育環境の整備と改善を支援する役割を担っています。本学は2006年に江東区豊洲の新キャンパスへ進出しましたが、その際に策定したITキャンパス構築のためのグランドデザインに基づき、大容量な基幹ネットワークを敷設するとともに、教室内AV機器、ICカード学生証システム、証明書発行システムなどを導入し、学生用情報提供ポータルサイトを構築することによって、学修・教育環境の利便性を大幅に向上させました。さらに同年、文部科学省サイバーキャンパス整備事業に「芝浦工業大学バーチャルワンキャンパス計画」が採択されたことも契機となり、豊洲・大宮・芝浦キャンパスの一般教室を中心に授業収録システム(e-Learningシステム)を配備しました。このシステムは自動追尾カメラによる授業収録が可能であり、収録映像のコンテンツ化、生成コンテンツの登録・配信といったポストプロセスが自動化されているため、学修効果の高いe-Learning教材を効率的に作成することができます(図2)。また、遠隔中継機能によるキャンパス間の授業配信にも対応していることから、授業スタイルの選択肢も増えました。さらに本システムの特徴として、撮影された授業映像と教室内のスクリーンに出力した教材との自動合成機能(図3)、生成コンテンツの簡易編集機能、コンテンツ公開にあたっての不正コピー防止機能などをあげることができます。これらのシステム構築に際しては、キャンパスや教室に依存しない機器の操作性、教員負担の少ない自然な授業収録など、平準化と利便性にも配慮しており、収録授業数は増加傾向にあります。

図2 自動追尾カメラによる収録映像
図3 自動合成機能を利用した収録映像

 最近は様々な観点からのアプローチによる多面的な教育改善が必要であり、その大半においてICTの活用が不可欠となっています。このような背景から、「学術情報センター」の重要性は益々高まっており、技術的サポートとともに、他部署と連携してICTの普及活動支援を推進していくことが大切であると考えています。

3.ICTを活用した教育・学修支援への取り組み

(1)学生個人の情報提供ポータルサイト

 大学のWebサイトでは、シラバスや時間割の検索、休講情報・補講情報のアナウンス等、学生生活に必要な情報を提供していますが、さらに学生個人ごとのポータルサイト「S★gsot(ガソット)」を設置することで、履修履歴、取得単位数、GPA履歴、成績などの学修状況について簡単に自己確認できるようにしています(図4)。このS★gsotには教員もアクセスできるため、個々の学生の履修状況に応じたきめ細かい対応が可能であり、クラス担任を中心に学生指導のツールとしても活用されています。

図4 学生支援サイトのトップページ

(2)ラーニングポートフォリオ(学生自己開発認識システム)

 教育活動においてPDCAサイクルを実現することは必ずしも容易でなく、点検(C)と改善(A)を機能させることはとりわけ難しい問題であろうと思われます。本学ではこの課題を解決する手段の一つとして、ICTを活用した「学生自己開発認識システム」(図5)を開発し、全学的な導入を進めています。このシステムを利用して個々の学生がラーニングポートフォリオを作成することにより、学生自身が「学習・教育目標」の達成度を評価し、教員による達成度評価と比較しながら自己点検することが可能となり、点検結果をその後の学修計画へ効率的に反映できるようになりました。図5は、学生から見た「学生自己開発認識システム」の画面構成の一例です。今後は、「学生自己開発認識システム」の導入効果を検証しながら使い勝手の改善を進めるとともに、本システムで得られたデータを分析し、「学習・教育目標」の改善や見直しへつなげていくことが重要であると考えています。

図5 学生自己開発認識システム

(3)授業収録システムによる講義ビデオ

 本学の授業収録システムによって作成されたコンテンツ(講義ビデオ)は、チャプターやメッセージなどを追加して付加価値を高めることができるため、利用シーンとしては、授業の復習用教材として学生に視聴を推奨するケースが中心となります。学生からのコメントも、教室での授業を補完する手段として授業コンテンツの有用性を指摘する意見が多いようです。実際にコンテンツを視聴した学生の方が、成績も良好であるという結果が得られている授業も存在し、授業外学修を支援する仕掛けとしては非常に有効です。
 このような授業コンテンツの特性を活かすとともに、講義ビデオの配信により通学の負担を減らすという利点も活用して、大学院工学マネジメント研究科(MOT)では、2013年度から「ハイブリッド講義(R)」を導入しました(図6)。「ハイブリッド講義(R)」では、一つの科目が平日と土曜日の週2コマ開講されますが、平日の授業についてはe-Learningシステムでの収録も行い、講義ビデオとしてオンデマンド配信します。これにより、平日の授業は通学によってもビデオ視聴によっても受講できるため、平日に仕事のある社会人や、遠方の工場や研究所に勤務する人にとっては通学時間の節約となり、学びの機会が増えることになりました。当初の目的のように、通学ができなかった場合の受講手段として授業ビデオを視聴するケース以外にも、復習用教材として授業ビデオを利用している学生も多いことから、e-Learningを効果的に活用している様子がうかがえます。

図6 MOTハイブリッド講義(R)の紹介サイト

4.まとめ

 本学では、複数の学科が比較的早い時期にJABEE(日本技術者教育認定機構)の認定を受けたこともあり、PDCAサイクルの必要性に対する認識は全学的に浸透しています。そのような利点を活かし、引き続き大学一丸となって教育改善を進めていくこと、そして各学部や学科の強みが発揮される教育・学修支援を実現していくことが、今後も継続していくべき課題と言えます。
 また、学修環境・教育環境の改善を図る上で、ICTの利活用は不可欠なものとなっていますので、学術情報センターとしては、急速に進展するICTの利点や課題を見極め、教育・学修支援の充実に結びつくような技術サポートならびに提言を行っていきたいと考えています。

文責: 芝浦工業大学
工学部機械工学科教授
学術情報センター長 角田 和巳

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