特集 アクティブ・ラーニングの実質化に向けて

 中央教育審議会の「質的転換答申」において、「生涯に亘って学び続ける力、主体的に考える力を持った人材は、学生からみて受動的な教育の場では育成することができない。従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見出していく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である」と指摘しているように、従来の知識詰め込み型中心の教育から、学びの意味を学生に分かりやすく理解させた上で、教員と学生が相互に知性を高めていく学生主体型の学士課程教育に換えていくことが重要であるとしている。
 そこで、本特集では、実践事例の紹介を通じて、能動的学修(アクティブ・ラーニング)を実践するための方法について認識を深めたい。

アクティブ・ラーニングとはなにか

山地 弘起 長崎大学 大学教育イノベーションセンター教授

1.はじめに

 授業の場には、学び方や参加の仕方についての暗黙のルールがあります。多くの学生は、教員の様子を観察してどのように振る舞えばよいのかを判断し、それなりの適応をしていきます。アクティブ・ラーニングもその例外ではありません。講義形式であった授業に学生との意見交換やグループワーク等を取り入れたとしても、教員の介入やフィードバックのあり方によっては、学習の質は変わりません。例えば、聴くということに十分慣れていない教員の場合、「何でも自由に意見を言って下さい」と伝えながらも自分の発話量が多くなっていることに気づかず、学生を聴講モードにしたまま、「何も意見がないのか」と決めつけて学生を戸惑わせることにもなりかねません。自分がどのような暗黙のルールを作っているのかに注意を払っておかないと、アクティブ・ラーニングをやってみたというだけでは所期の学習が成り立つとは限らないのです。
 授業をアクティブ化するということは、これまで学生参加型や学生主体型と言われてきた学習形態を取り入れていくことですが、ややもすると、その形態面ばかりに気をとられて本来の目的を意識した教員の関わりが不十分になるきらいがあります。そこで以下では、アクティブ・ラーニングを進める上での確認事項として、アクティブ・ラーニングとは何か、それは何のために行うのか、そしてアクティブ・ラーニングを実質化するための留意点は何か、といった点についてまとめてみます。

2.アクティブ・ラーニングとは?

 アクティブ・ラーニングとは、「思考を活性化する」学習形態を指します。例えば、実際にやってみて考える、意見を出し合って考える、わかりやすく情報をまとめ直す、応用問題を解く、などいろいろな活動を介してより深くわかるようになることや、よりうまくできるようになることを目指すものです。
 振り返ってみれば、効果的な学習というのは、多くの場合実際の活動や互いのやりとりを介して生じています。赤ちゃんや小さい子どもは言うに及ばず、小学校の「勉強」でも教員はどのような学習活動を準備するかに心を砕きます。大人でも、ただ講演を聴いたり一人で本を読んだりするよりは、仲間と勉強会をしたり実際に現場体験をしたりする方が深い理解に至るということを知っています。知的学習や研究のプロである大学教員であっても、同領域あるいは異領域の研究者と議論を交わすことや、実験や調査で試行錯誤することの意義を十分に理解しているはずです。
 したがってアクティブ・ラーニングとは、我々が既によく知っている効果的な学習形態を教室に持ち込んだものと言うことができます。従来の主たる学習形態である講義形式は、まとまった知識情報を伝達するには便利ですが、聴き手はある程度以上の時間は集中できませんし、既に持っている知識や技能と統合していく余裕がないため、記憶にも残りにくく応用もしにくいという欠点があります。それでも、時間を短く区切りながらクリッカーなどで対話的な要素を組み込んだり、あるいは学んだ知識や技能を活用する時間(説明し合う、演習問題に取り組むなど)を入れたりすることができれば、講義形式でもある程度アクティブ化が可能です。
 図1に、アクティブ・ラーニングと総称される多様な形態を示します。第I象限と第II象限にあるものは比較的高度なアクティブ・ラーニングです。例として、医学系の問題基盤型学習(Problem- Based Learning)のように臨床的推論能力の育成を主な目的とするものもあれば、工学系のものづくり実習や経営学系のビジネス実習のように、特定のプロジェクト活動を通して問題解決能力の育成を目指すものもあります(Project-Based Learning)。しかし、そうした授業は準備に多大の労力を要しますし、一人の教員で対応できるものでもありませんので、既に専門教育で問題基盤型学習やプロジェクト学習の蓄積がない限り、教養教育での実施(応用)は困難でしょう。学生においても、それらの高度なアクティブ・ラーニングに取り組む前に、第III象限や第IV象限にあるような「思考を活性化する」学習形態に十分馴染む必要があるのではないでしょうか。1、2年次の教養教育では、学生の主体性を促進しながら実社会との関連の深い課題を探究していく中で、専門教育や生涯学習で生きる学習技能・表現技能を充実させていきたいものです。

図1 アクティブ・ラーニングの多様な形態

3.何のためのアクティブ化か?

 それにしても、最近なぜアクティブ・ラーニングが注目され、その導入が急がれているのでしょうか?ここではそのキーワードを学校化・情報化・国際市場化にまとめておきましょう。
 まず学生側の要因として、基礎学力や学習技能が不十分でも大学に入れるため、座学中心では学習成果が見込めなくなったという事情があります。中等教育までと同様に、学生個々の学習を促進するような働きかけが必要になったということです。加えて、情報が多元的に生成され公開されている今日、教員が一定の知識体系をマイペースで伝授するという授業は適合的でなく、大量かつスピーディーな情報流通の中で学生に必要な学習をいかにマネジメントしていくかが問われています。さらに、高等教育の国際市場化に伴って大学教育に標準化と差別化の両方の圧力が高まっていますが、それだけでなく、学生たちはグローバル化した労働市場で競争しなければならないという困難に直面しています。
 こうして、一部の研究大学を除いて、大学教育では専門知識の探究から知識基盤社会をたくましく生き抜いていくためのジェネリックスキル(汎用的技能)の習得に焦点が移り、広義のキャリア教育が求められるようになったと言わざるを得ません。21世紀になって大学教員の役割が大きく変容したと言っても過言ではないのです。キャリアガイダンスの法制化(平成23年)もその現れと言えます。
 ちなみに、ジェネリックスキルの内容は多岐に亘ります。例えば経済産業省の「社会人基礎力」[1]では、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として3能力12要素、すなわち、1)前に踏み出す力(主体性・働きかけ力・実行力)、2)考え抜く力(課題発見力・計画力・創造力)、3)チームで働く力(発信力・傾聴力・柔軟性・状況把握力・規律性・ストレスコントロール力)が挙げられています。また中央教育審議会の「学士力」[2]においては、「知的活動でも職業生活や社会生活でも必要な技能」として、コミュニケーションスキル・数量的スキル・情報リテラシー・論理的思考力・問題解決力が挙げられ、態度・志向性の側面でも、自己管理力・チームワーク(リーダーシップ)・倫理観・市民としての社会的責任・生涯学習力があげられています。
 こうしたジェネリックスキルの育成は、座学だけではとても対応できるものでなく、きわめて活動的・実践的な学習形態が求められます。これが授業のアクティブ化を急ぐ理由です。これに対して教員からよく出される意見に、「アクティブ・ラーニングをやると授業進度が遅れる」「アクティブばかりでは知識面が疎かになる」といったものがあります。しかし、授業を計画通りに進めたからといって所期の学習成果に至っているでしょうか?学習技能が十分でない学生に知識をどんどん伝えたとしても、それらが消化され身についていくとは考えにくいのです。また、アクティブな授業形態は確かに知識面の量的達成を保証しませんが、より深く理解する、より記憶に残る、といった面では座学よりも効果的と言えます。したがって、不十分になっている知識内容がある場合には、授業外学習課題として補っていく、あるいは全体カリキュラムの中で内容分担を調整するなどの工夫が必要です。

4.アクティブ・ラーニングを実質化するには?

 ところで、ジェネリックスキルの育成を目指す場合、授業のアクティブ化は必要条件ではあっても十分条件ではありません。アクティブ・ラーニングで成果を上げるためには、学生個々の学習を促進する働きかけが不可欠です。特に1、2年次の教養教育では主体的な学習習慣の育成が急務ですから、この点での教員の役割は重大です。
 アクティブ・ラーニングを実質化する際にヒントになるのは、四半世紀前に米国でまとめられた授業改善の指針です[3]。「7つの原則」と題されたこの指針は、米国だけでなく様々な言語に訳されて今日でも参照されています。図2に示すように、7つの原則のうち「2.学生間の協働」と「3.能動的な学習」がアクティブ・ラーニングに相当するものですが、これを補完する形で「1.教員と学生のコンタクト」「4.迅速なフィードバック」「5.学習時間の確保」が挙げられています。そしてこれらを支える態度要件として、「6.学生への高い期待」と「7.多様な才能と学習方法の尊重」が挙げられています。冒頭で述べた教員の暗黙のルールも、この態度要件に照らして吟味することができます。学生の意欲が高まるようなルール設定でありたいものです。
 全体として「7つの原則」に現れているのは、学生をマスとみて対峙するのではなく、個々人に関心を寄せて伴走する教員の姿です。ただし、米国ではTAがかなり授業に深く関わって学生をサポートしますから、この点では日本の教員にはハンディがあります。提出物への迅速なフィードバックなどはとくに大人数の場合難しいですので、「全体的なコメントを早目に返す」程度に条件を緩めることも必要でしょう。
 不十分ながらも学生と伴走するにあたっては、シラバスが必要です。日本ではシラバスが科目概要と同一視されていることが多いのですが、本来は受講者に示される学習工程表というべきものです。そこには、授業外課題や評価方法の詳細も記述されていなければなりません。教員・学生とも常にシラバスを参照することで、各回授業のねらいや課題内容などを確認し合うことができます。

図2 「7つの原則」とそれぞれの工夫例

5.今後に向けて

 先に述べたように、授業のアクティブ化を急ぐ根拠は、ジェネリックスキル育成への大学教育の転換です。今後、カリキュラムマップの中で各開講科目での重点目標が明示され、到達目標に応じたアクティブ・ラーニングと評価方法が工夫される必要があります。それに合わせ、教員と学生のコンタクトや学習課題への迅速なフィードバック、学習時間の確保などをサポートする学習管理システム(LMS)の整備も求められるでしょう。
 既にお気づきの通り、アクティブ・ラーニングは教員にもアクティブな関わりを要請します。自分が知らず識らずに伝えている暗黙のルールに自覚的になり、学生の主体的学習習慣の涵養に向けて授業内外で働きかけを工夫していくことは、どうしても教員の負担を増大させます。しかし、一旦学生が主体的な学習技能を身につけ、学生同士あるいは学生とTA、SAの間で学習をサポートし合うようになれば、教員の働きかけはフェードアウトさせていくことが可能です。これはいくつかの先進的な大学で認められる傾向です。
 もちろん、アクティブ・ラーニングを準備する教員の負担増は看過できない事柄ですので、関連部署(教育センターや附属図書館、情報センターなど)が授業支援や学生の学習支援の機能を拡充することも必要です。また、学生たちにアクティブ・ラーニングの趣旨をわかりやすく伝えるとともに、ラーニングティップス(学習上のヒント集)を用意して授業内外で参照できるようにすることも必要かもしれません。
 最後に、参考資料としていくつかのグループ技法の紹介を付しますので、アクティブ・ラーニングの設計に活用していただければ幸いです。

本稿は、山地弘起 (2013) アクティブ・ラーニングの実質化に向けて 山地弘起(編)『長崎大学におけるアクティブ・ラーニングの事例 第1集』をもとに修正を加えたものです。
参考文献
[1] 経済産業省: 社会人基礎力に関する研究会(中間とりまとめ). 2006.
[2] 中央教育審議会: 学士課程教育の構築に向けて(答申). 2008.
[3] Chickering, A. W., & Gamson, Z. F.: Seven principles for good practice in undergraduate education. AAHE Bulletin, March 1987.

参考資料:アクティブラーニングに役立つグループ技法の紹介

 アクティブラーニングでの代表的なグループ技法について、汎用性の高い方法、構造化された方法、多人数クラスでの工夫、の順に簡潔に紹介します。その後、適切なグループサイズおよび学習評価の方法について補足します。

 グループ技法についてさらに知りたい方には、『協同学習の技法』[1]が参考になります。グループ学習に関するさまざまな疑問に答える資料としては、『先生のためのアイディアブック』[2]が参考になります。

<汎用性の高い方法>

(1)Think-Pair-Share

 自分の考えを明確にし、他者の意見と対比しながら考えを深めていくのに有効です。また、クラス全体での討論の準備にもなります。

1)教員が全体に一つの質問をする(あるいは問題を出す)。

2)数分、個別に考える。

3)ペアを組んで互いに答を紹介し合う。違いがある場合にはそれぞれの根拠を明確にする。あるいは双方の意見を併せて一つの見解にすることを試みる。

4)4人〜6人組になり、それぞれのペアで話し合った内容を紹介する。

(2)ラウンド・ロビン

 4人〜6人組で順にアイデアや意見を述べていくもので、ブレインストーミングの簡易版です。質問や評価をせずに、新しい考えを次々に生み出していくことが目標です。出てきた考えは記録していき、次段階の課題(KJ法的にまとめるなど)に用います。

1)教員が全体に一つの質問をする(あるいは問題を出す)。

2)教員から注意事項として、質問や評価を挟まずに素早く簡潔にアイデアを出していくよう指示する。記録者を決めさせ、また、一巡で終了するのか何度か周るのか、あるいは時間制限をするのか、といった詳細も伝える。

3)誰からスタートするか決め、開始する。

(3)ピア・レスポンス

 レポートやプレゼンテーションなどの準備過程で、アウトラインを他者の目を通して検討し改善のヒントを得るともに、他者の文章を率直な読み手として吟味し感想や改善案を伝えるものです。書き手と読み手の双方の視点を体験しフィードバックし合うことで、表現能力を高めることができます[3]

1)ペアになり、互いのアウトラインを読み合う。

2)一方が自分のアウトラインを説明する。他方は聞き手になる。

3)聞き手は相手のアウトラインを自分の言葉で再生し、適宜確認する。

4)聞き手はアウトラインのよいところ、次いで改善した方がよいところを伝える。

5)役割を交代し、2)〜4)を繰り返す。

6)相手からのフィードバックを参考に、各自でアウトラインを改善する。

<構造化された方法>

(4)ジグソー

 一旦4人〜6人組になった上で、各メンバーが自分に割り当てられた学習内容を別グループで深め、元のグループに「専門家」として戻り、互いに教え合う方法です。教えることができるためには、理解が十分深まっていないといけないことに着目したものです。最後にクラス全体で理解の確認や討論を行うことが望ましいでしょう。

1)教員から、学習するテーマとそれを四つから六つに細分化した学習内容を提示する。

2)グループ内で各メンバーが担当する学習内容を決め、一旦グループを解いて、学習内容別に「専門家」グループをつくる。

3)各「専門家」グループで担当内容の学習を深めるとともに、それを他者にわかりやすく教える方法を工夫する。

4)「専門家」グループを解き、もとのグループに戻って担当内容を教え合う。

(5)マイクロ・ディベート

 ディベート(参考文献[4]など)は特に授業の総括段階できわめて有効な活動ですが、本来のディベートを授業で行おうとすると5コマ程度かけることが必要になります。通常の授業ではその余裕がないでしょうから、疑似ディベートとして行うのがマイクロ・ディベート[5]です。ここでは2コマを使って実施するものとします。

1)教員から論題を提示する。

2)個別に、肯定または否定のいずれの立場をとるかを決め、その論拠を五つ以上書き出す。

3)さらに、その反対の立場をとったと仮定し、その場合の論拠を五つ以上書き出す。

4)3人組になり、肯定側・否定側・ジャッジの役割を順にとり、3回のディベートを行う。
 その際のフォーマットは、たとえば以下のようにすると40分程度で一巡します。

5)授業外課題として調べ学習を行い、次の授業回にグループを変えてディベートを行う。

6)まとめとして、反論の想定を含めた意見レポ ート(2,000字程度)を提出する。

(6)LTD(Learning Through Discussion)

 話し合い学習法として知られているものです[6]。学生はノートを作りながら予習用資料の内容を理解し、他の知識や自己との関連付けを行った上で授業に臨みます。この、収束的な学習と拡散的な学習を事前に十分に行うことが話し合い学習には不可欠です。授業では5人組になり、以下のステップ(計60分)にしたがって予習ノートをもとに理解と評価を深めていきます。

1)導入の雰囲気づくり(3分)

2)予習課題の内容理解を確認するために、言葉の定義と説明(3分)、全体的な主張の討論(6分)、話題の選定と討論(12分)

3)他の知識との関連付け(15分)および自己との関連付け(12分)

4)学習課題の評価(3分)および学習活動の評価(6分)

<多人数クラスでの工夫>

(7)学生主体型実地調査

 阿部和厚氏(元・北海道大学)が90年代後半に「医学概論」の授業で実践した方法です[7][8]。100人の初年次医学生に毎回二人以上の教員で対応し、調査準備のサポートや必要なスキル(実地調査の際のマナーなど)のミニレクチャーなどを行っています。早期臨床体験の事前学習として位置づけられていたものでもあります。

1)10人グループを10組つくる。授業2回目から5回目までは、ビデオ視聴やゲスト講演をもとに全体討論を行う。

2)それらを踏まえて各自で「医学・医療をめぐる問題点」を考え、グループ内で報告し合う。

3)各グループから五つの「問題点」を出し、全体で討論して最終的に10の調査テーマに絞りこむ。

4)各グループで一つのテーマを分担し、個々人で調べ学習を行う。

5)各自の学習をまとめ、グループ毎にテーマの詳細を発表する。さらに実地調査の計画を具体化して発表する。

6)2週間で実地調査を行い、調査結果の発表準備をする。

7)最後の3回を公開授業とし、全体発表と討論、総評を行う。

(8)多人数双方向型授業

 木野茂氏(立命館大学)の取り組みとして、150人規模の授業でのグループ研究やディベートが知られています[9][10]。教員と学生、また学生間のコミュニケーションが重視され、授業中の意見交換や電子掲示板でのディスカッションの学習促進効果も確認されています。以下はグループ研究の場合の例です。

1)7人〜8 人の課題別グループを20組つくる。課題は、10章程度から成るテキストの各章を2グループで担当し、その章の内容に関連していてかつテキストが取り上げていない事例を検討するなど。

2)授業2回目から5回目まで調べ学習を行う。

3)その後の10回の授業で2グループずつが研究成果を発表する(各15分)。聴衆は毎回のレポート課題として、まずテキストの該当章を要約して授業に臨み、質疑応答後、グループ発表をテキストの内容と関連付けて論じて提出する。

4)各発表への質疑応答は15分とする。質疑応答の内容は質問者が授業後にBBSに記入し、また応答が不十分であった発表者は補足の回答をBBSに上げる。

5)全発表終了後、総括レポートを提出する。

(9)チーム対抗型多人数討論

 橋本勝氏(富山大学)の創案によるもので、競争原理とゲーム感覚を適度に取り入れ、150人規模の授業でも活発な討論を実現しています[11]。経済学の授業風景が(60人程度のクラスですが)https://takumi.iwate-u.ac.jp/に上がっています。背景に、「シャトルカード」による教員と個々の学生との密なコミュニケーションがあることも特徴です。

1)教員から示された10程度のテーマのうち、各自が関心を持つものを選ぶ。

2)同じテーマを選んだ者同士で3人〜4人のチームを組む。

3)もう一つのテーマをチームで選び、合計二つのテーマに関して調べ学習を行う。

4)発表用レジュメ案を、テーマ毎に決められた期限(該当授業の数日前)までに提出する。

5)各回の授業では、教員によって選ばれた各テーマ上位2チームが発表し(各10分以内)、質疑応答に40分〜50分をかける。聴衆はチーム単位で質問を考える。その後、発表2チームに勝ち負け投票を行う。

<補 グループサイズおよび学習評価について>

(1)グループサイズについて

 グループの大きさは、3人から5人が適当と言われています。4人であれば、ペアでの作業と連携させることができて便利です。3人掛けの机を合わせて6人組にすることも多いですが、その程度が1グループとしては限界でしょう。それ以上になると、サブグループでの活動になりがちです。いずれのグループサイズでも、各個人の役割や責任がはっきりしていることが大切です。また、集団思考の前に個人思考の時間が確保されていることも大切です。そうでない場合、フリーライダーが生まれたり十分な意見交換ができなかったりするからです。

(2)学習評価について

 グループ活動の比重が大きい授業では、個人とグループの双方の評価を合わせたいことがあります。たとえば、個人の成績とグループの成績を50%ずつ加えて最終評価とすることもできますし、グループの成績を個人の貢献度に対応させて加算するということもできるでしょう。もちろん、貢献度自体を評価対象とすることもあるでしょう。

 グループへの参加度や貢献度は、自己評価によることもあれば相互評価によることもあります。期末の評価だけでなく、グループ活動の途中で行えば軌道修正が可能になります。

 自己評価の場合には、たとえば以下のような項目を使うことができます(参考文献[1])。

 相互評価の場合は、各メンバーについて、たとえば以下の観点を用いて評価することができます(参考文献[1])。

 これらはジェネリックスキルとしても重要な評価観点であることから、教員が事前にそれぞれの意味内容を学生と共有しておくことが望まれます。加えて、グループ活動の見立てを踏まえて教員と学生の間で各メンバーの参加度や貢献度等について意見交換があれば、評価観点の理解も深まり、グループ活動で期待されていることもさらに明確になります。

 自由記述でグループ活動を振り返ることも大切な学習機会となります。たとえば、その日のグループ活動を通して「学んだ教訓は何か」「自分自身について気づいたこと、発見したことは何か」「メンバーについて気づいたこと、発見したことは何か」の3点を記述させるなどです(参考文献[12])。期末に、学習活動の記録や各種の成果物を踏まえてグループで自己評価を検討し合えれば、自律的な学習評価の力がつくことも期待できます。

参考文献
[1] バークレイ、クロス、メジャー共著、安永悟監訳: 協同学習の技法−大学教育の手引き. ナカニシヤ出版, 2009.
[2] ジェイコブズ、パワー、イン共著、関田一彦監訳: 先生のためのアイディアブック−協同学習の基本原則とテクニック. 日本協同教育学会, 2005.
[3] 大島弥生・池田玲子・大場理恵子・加納なおみ・高橋淑郎・岩田夏穂: ピアで学ぶ大学生の日本語表現−プロセス重視のレポート作成. ひつじ書房, 2005.
[4] 松本茂: 頭を鍛えるディベート入門. 講談社ブルーバックス, 1996.
[5] 堀裕嗣: 教室ファシリテーション10のアイテム・100のステップ. 学事出版, 2012.
[6] 安永悟: 実践・LTD話し合い学習法. ナカニシヤ出版, 2006.
[7] 阿部和厚: 大学における教授法の研究−医学教育を例にして. 高等教育ジャーナル, 1, pp.170-189, 1996.
[8] 小田隆治・杉原真晃編著: 学生主体型授業の冒険−自ら学び、考える大学生を育む. ナカニシヤ出版, 2010.
[9] 木野茂: 大学授業改善の手引き−双方向型授業への誘い. ナカニシヤ出版, 2005.
[10] 木野茂: 教員と学生による双方向授業−多人数講義系授業のパラダイムの転換を求めて−. 京都大学高等教育研究, 15, pp.1-13, 2009.
[11] 清水亮・橋本勝・松本美奈編著: 学生と変える大学教育−FDを楽しむという発想. ナカニシヤ出版, 2009.
[12] 佐藤浩章編: 大学教員のための授業方法とデザイン. 玉川大学出版部, 2010.

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