人材育成のための授業紹介・情報リテラシー教育

全学向け情報モラル教育の現状とアクティブ・ラーニング導入による教育効果

白澤 秀剛(東海大学 情報教育センター講師)

丸山有紀子(東海大学 情報教育センター准教授)

1.はじめに

 東海大学は建学以来、文理融合の教育理念を推進してきており、高度な専門知識を身につけるだけでなく、「現代市民として身につけるべき教養」についての教育を目指しています。2010年度から、その具体的目標として「自ら考える力」「集い力」「挑み力」「成し遂げ力」の4つの力の育成をカリキュラムの中心に据え、各授業内容に組んでいます。

図1 「4つの力」イメージキャラクター リッキー

 情報教育センターは東海大学全体の情報教育を担当する教育組織で、情報リテラシー教育、プログラミング教育、マルチメディアコンテンツ制作教育、情報系資格教育、などの授業を開講しています。また、指定の科目を20単位以上取得した学生は、「情報処理副専攻」「デジタルコミュニケーション副専攻」を取得することができます。
 以下は、東海大学において実施されている情報リテラシー教育や情報モラル教育、産学連携とアクティブ・ラーニングを用いたより効果的な情報モラル教育に向けての実践事例について紹介します。

2.東海大学における情報リテラシー科目と履修者数の推移

 東海大学では、学科開講の情報リテラシー科目「基礎情報処理」を開講していない学科や、より深く情報リテラシーについて学習したい学生を対象として、自由選択科目「情報システム入門A」「情報システム入門B」の2科目を開講しています。情報システム入門Aは、情報技術の基礎、ハードウェア、ワードプロセッサや表計算の基本的使用方法などを学習する科目となっています。情報システム入門Bは、電子メールの送受信、Web検索の活用、情報倫理、プレゼンテーションソフトウェアの基本的使用方法、マルチメディアコンテンツ作成技術の基礎(画像編集やWeb制作の基礎など)を学習する科目となっています。
 湘南キャンパスには約20,000名の学部学生が在籍しておりますが、自由選択科目で情報系副専攻科目履修者数は、2010年度(カリキュラム改訂年度)より増加の傾向にあり、2013年度は約10,000名(履修者延べ人数)の履修者数がありました(図2)。この増加傾向は、情報リテラシー科目はより顕著で、2011年度から急激に履修者数が増加しています(図3)。この傾向を受けて開講科目数を増やしており、2014年度は月曜日から金曜日の1〜4時限、土曜日の1、2時限とすべての曜日時限で開講しておりますが、3時限目の科目を中心として、抽選倍率約2倍程度と、履修希望者は今後も増加することが予想されます。土曜日や夏期集中講座の履修者も多く、学生が自分自身の情報リテラシースキルに対して、不足感や不安感を持っていることが読み取れます。

図2 情報系副専攻科目履修者の推移
図3 全学部向け情報リテラシー科目履修者の推移

3.情報リテラシー科目における情報倫理教育への取り組み

 2013年度秋学期より、情報リテラシー科目「基礎情報処理(一部例外科目有)」「情報システム入門A」「情報システム入門B」において、第1回目授業のガイダンス時にSNS利用に対するモラル指導を導入しました。また、市販のDVD教材「情報倫理デジタルビデオ小品集4」を導入し、情報モラル教育指導の補助教材として担当教員が自由に利用できる環境を整えました。DVD教材を使用した教員からは、「学生は集中して聞いている」「寝る学生はいない」「楽しそうに見ている」「興味深そうな顔をしている」「特にSNS系の話題は興味深そうである」などの感想が寄せられており、一定の効果が出ていると考えられます。
 情報システム入門Bでは、ガイダンスだけでなく、授業内の1回または2回を使用して情報モラル教育を行っています。具体的な内容としては、著作権に関する知識、特に、画像・音楽などのダウンロード、レポート作成する際のWebサイトからの引用に焦点をあて、具体例をあげ、著作権侵害に当たるか、どこが問題かなどをレポート課題として提出させています。また、SNSの書き込みによるトラブルについては、DVD教材や実際のWebサイトの例を見せ、身近な問題として捉えられるようにしています。さらに、レポート課題として事例検索を行わせ、最終的にどのような結果になったのかをまとめさせています。

4.リテラシー教育におけるSNS安全利用教育の必要性

 2013年度はSNS、特にTwitterにおいて、多くの高校生や大学生が不適切な書き込みを行い、店舗の閉鎖、損害賠償請求の検討、退学勧告、停学処分などの、いわゆる炎上事件が頻発しました。一方で、高校生や大学生の1日のスマートフォン平均接触時間が100分程度あり、そのうちLINEが30分以上、Twitterが20分以上との調査結果[1]が出ており、SNSの安全利用教育を早急に行う必要があると思われます。また、本学学生200人を対象に行ったアンケート[2]において、自分の書き込みが炎上した学生が1名、身の周りの人の書き込みが炎上した学生が9名となっており、一部の利用者の問題ではなくなってきていることがわかります。
 企業に対して行った聞き取り調査では、SNSの炎上問題に関心を示してはいるものの、アルバイト中やアルバイト内容に対するSNS投稿に対しての規定やルールなどを制定しているところはありませんでした。また、アルバイト学生へのSNS利用に対する指導も実施しているところはありませんでした。ただし、ある1社では、業務中に得た機密情報を漏洩した場合に備え、アルバイト学生雇用時に大学の指導教員から連帯責任を約束する文書を提出してもらうとの回答がありました。この1社は、現時点では例外と言えますが、今後、他社も同様な対応をしないとは言い切れません。大学教員が学生のアルバイトの責任まで負うのは、実際問題として大変負担が大きいと言えます。このような例が限定的なままであり続けるためには、情報リテラシー教育における効果的な情報モラル教育を早急に実現する必要があると考えます。

5.産学連携とアクティブ・ラーニングによる情報モラル教育の実践例

 東海大学のTo-Collabo(トコラボ)プログラム(文部科学省「地(知)の拠点整備事業」)の一環として、公益社団法人学術・文化産業ネットワーク多摩、NPO法人日本ITイノベーション協会とコラボレーションし、「スマートフォン時代における青少年のSNS利用と企業のセキュリティーポリシー」と題した公開講座を2014年3月1日に開催しました。参加者は学生20名、社会人17名、運営教員8名で開催しました。社会人参加者は、アルバイト学生や派遣労働者の雇用に関係する方または指導に関係する方を中心に20代から60代の方に幅広くご参加いただきました。学生の学年と男女比は図4、図5のようになっています。この公開講座では、表1に示すように、クリッカー、タブレット端末、ミーティングレコーダーなどのICT機器を活用するとともに、講座形式も、講演、企業参加者と学生とのグループディスカッション、パネルディスカッションと、様々な形式を取り入れました。それぞれの機器の役割を表2に示します。

図4 参加者の学年比率
図5 参加者の男女比率
表1 公開市民講座の形式と支援ICT機器
講演内容 形式 支援ICT機器
第1部(午前1)
「現代社会における青少年の情報発信とその影響」
講演
クリッカー
第1部(午前2)
「青少年のSNSをめぐる意識と心理」
講演 なし
第1部(午前3)
「SNS投稿に対する意識と炎上防止策検討」
グループディスカッション
社会人2名+学生2〜4名
ミーティングレコーダー
タブレット端末
第2部(午後)
SNS利用セキュリティーポリシー策定に向けて
パネルディスカッション クリッカー
表2 支援ICT機器の役割
支援ICT機器名 役割
クリッカー(写真1)
参加者の回答をリアルタイムで集計し、グラフで表示します。公演中やパネルディスカッションで、講演者やパネリストからの発問に対して使用しました。
ミーティングレコーダー
(写真2)
グループディスカッションを動画で記録することができます。4方向(全方向)を同時に記録するため、1名の発言中における聞き手の様子も把握可能です。
タブレット端末 グループディスカッションに必要な各種資料を納めてあり、必要に応じて閲覧できるようにしてあります。また、グループディスカッション時に皆で記入した付箋を、カメラで撮影して画像ファイルとして記録します。画像ファイルはクラウドサービスを経由して、1カ所に集められます。
写真1 クリッカー 写真2 ミーティングレコーダー

 今回使用したクリッカーは小型のリモコンタイプで、回答は集計データとして記録されますが、個人を特定することは基本的にできません。使用に関しては、参加者全員が使いやすいと回答しており(図6)、90%以上の参加者が挙手と比較して答えやすいとの回答(図7)がありました。一方で、他の参加者の回答についての関心度(図8)では97%の参加者が他者の回答に関心を示していることから、挙手の場合は他人の回答が気になって、素直に自分の回答をすることが難しいことを裏付けるデータと言えます。言い換えれば、匿名性を維持できることで、自分の思いを素直に回答していると考えられます。

図6 クリッカーの使用感
図7 挙手と比較した場合のクリッカーの回答しやすさ
図8 クリッカーで他人の回答が見られることに対する関心度
図9 グループディスカッションの評価
図10 ミーティングレコーダーの心理的抵抗感
図11 クリッカーによる参加意識の変化

 グループディスカッションでは、社会人2名と学生2〜4名が1グループとなり、1)炎上事例を見てなぜそのようなことをしてしまうと思うのか、2)業務中にスマートフォンの携帯を禁じられたらどのように感じるか、3)SNSで業務内容に関連した発信する場合のルールはどうしたらよいか、4)学校や企業でのSNS利用者教育をどのように行えばよいか、の4テーマについて70分間議論を行いました。図9に示すように、68%の参加者がもっと意見を聞きたいと感じており、通常の講義による情報モラル教育よりも積極的に参加している様子が見られました。この様子は、ミーティングレコーダーからも確認できます。また、ミーティングレコーダーについてのアンケートでは90%以上の参加者が、心理的抵抗は最初の頃だけと回答している(図10)ことから、グループディスカッションの分析や評価に今後活用することが期待できることが分かりました。
 公開講座は午前10時30分から午後3時30分と非常に長い時間に亘って行われたにもかかわらず、社会人はもちろんのこと、学生も最後のパネルディスカッションまで、積極的に参加している様子が見受けられました。
 図11はクリッカーを使用することにより参加意識が変化するかを聞いたアンケート結果で、9割以上の参加者が、参加意識が高まると回答しています。このことから、クリッカーは単に参加者の回答がリアルタイムに得られるという効果だけでなく、参加者自身の参加意識の向上にもつながることが分かりました。さらに、SNSセキュリティに関するアンケートを公開講座参加学生と一般の学生に行った結果、公開講座参加学生のセキュリティ意識の変化に有意差が認められました。このことからも、情報モラル教育へのアクティブ・ラーニング導入は教育効果を高める効果があることが分かりました。

6.今後の取り組み

 今回の産学連携とアクティブ・ラーニングを用いた公開市民講座では、情報リテラシー教育の効果向上に関する多くのデータと知見を得ました。今後は、50名や100名のクラスで同様の効果を得る授業プログラムの検討を進めていく予定です。また、公開市民講座の結果を受けて、産学だけでなく、家庭とも連携した情報モラル教育を2014年度に実施することを予定しています。

参考文献
[1] 株式会社ジャストシステム: モバイル&ソーシャルメディア月次定点調査(2013年10月度). 2013.
[2] 東海大学新聞: Tokai Style 高い意識でトラブルを避けよう(2014年4月1日).

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