教育・学修支援への取り組み

聖徳大学におけるICTを活用した教育・学修支援

1.はじめに

 学校法人東京聖徳学園は、川並香順・孝子両先生によって、1933年4月10日、東京市大森区(現大田区)新井宿4丁目に聖徳家政学院と新井宿幼稚園を開設したことがはじまりです。1965年には、千葉県松戸市に聖徳学園短期大学(現聖徳大学短期大学部)が設置され、現在では、同地に大学と大学院を併設しており、短期大学部は保育科、総合文化学科の2学科、大学は児童学部、心理・福祉学部2学科、文学部、人間栄養学部、看護学部、音楽学部2学科の計6学部8学科、大学院は6研究科を設置しており、それぞれ短期大学・大学・大学院に通信教育課程を開設しています。また、研究施設として児童学研究所を始め、言語文化、生涯学習の3研究所と心理教育相談所を設置しています。附属校には、幼稚園(7園)、小学校、中学校(各2校)、高等学校(2校)、専門学校(幼児教育専門学校)を擁する総合学園になっています。
 本学は、聖徳太子が制定した十七条憲法第一条「和ヲ以テ貴シト為ス」の「和」の理念を建学の精神とし、他人と協調し、他人を尊敬し、敬愛しあう心を養う「人間教育」(聖徳教育)を推進するとともに、現代社会に求められている自立性を備えた女性の育成を目指しています。

2.カリキュラム

 学生が機能的かつ体系的に学修できるように、科目区分を「全学共通科目」(「聖徳教育科目」、「教養科目」、「専門基礎科目」「外国語科目」「健康教育科目」「情報活用科目」)と「専門教育科目」で構成し、それぞれ関連する科目をバランスよく配置することで、4年一貫の連携のとれた体系的な教育課程を編成しています。
 全学共通科目では、専門性にとらわれない幅広い視野と豊かな人格形成の基本を形成する教育課程となっており、専門教育科目では、それぞれの学科の教育目標に合わせ、理論と実践を体系的に学ぶ段階的カリキュラムを編成しています。
 また本学では、初年次教育、キャリア教育、および専門教育において学びの質の向上を次の3点より実践しています。
 第一に、本学では、人間教育、並びに学びの自己管理能力、基礎学力(文章構成力・数的処理能力)およびキャリア形成を中核とする基礎的な能力の育成のためのプログラムを聖徳教育として位置づけ、教育内容の体系化とその充実を図っています。
 第二に、すべての授業において学びの自己管理能力を育成するとともに主体的な学習力を向上させるためにアクティブラーニングの導入を図っています。
 第三に、特に学びの自己管理能力を初年次から育成するために学修ポートフォリオを導入し、学生一人ひとりの学びのデザインをクラス担任とともに定期的に行っています。

3.学びの支援

(1)聖徳教育

 全学共通科目である聖徳教育は、「聖徳教育I・II・III」の三つに分けられます。
 「聖徳教育I」では、著名人による文化講演会や、海外各国の著名なオーケストラをはじめ、世界的な演奏家、バレエや日本の伝統古典芸能等を招き、本学講堂にて鑑賞する「聖徳学園シリーズコンサート」を行い、様々なジャンルにおける本物の芸術を鑑賞することができ、幅広く深い教養を身につけ、豊かな感性を養うことを目的としています。
 「聖徳教育II」では、本学の建学の精神である「和」に基づく調和的な人間形成を実践するため、豊かな人間性教育と社会人として必要な基礎能力の向上教育を体系的に構築し、これらの教育を通じ就業力・仕事力を備えた女性の育成を目指すキャリア実践教育や、新入生歓迎フレンドシップ・ツアー(FT)、「学外研修I」(志賀高原)を実施し、集団生活の中で社会人となるための規則正しい団体生活を理解し、自制心を養い、他人に対する思いやりの気持ちを涵養することを目的としています。特に、学外研修IIでは海外研修を行うことで、学科、コースに関連する諸外国の教育、文化、生活を実地に体験することによって、その後の修学に役立てています。
 「聖徳教育III」では、「文章構成力育成演習」と「数的処理能力育成演習」を行うことで、大学生になったことを自覚させ、節度ある生活態度と主体的な学習態度を育成し、思考力と文章表現力等の育成を図って、専門教育への基礎的導入を果たすことを目的としています。

(2)夢実現プロジェクト

 夢実現プロジェクトは聖徳基礎力の育成を重視しており、内容として、1)自己管理能力、2)基礎学力(文章構成力、数的処理能力)、3)キャリアデザイン力、4)学びの技法から編成されています。そのうち、基礎学力育成については、「聖徳教育III」の文章構成力育成演習と数的処理能力育成演習により、また、キャリアデザイン力については「聖徳教育II」のキャリア実践演習により取り組まれます。

4.特色ある教育施設や設備

(1)新1号館

 2009年に地下2階、地上8階の川並記念図書館(現川並弘昭記念図書館)、教育・研究棟からなる新1号館を竣工しました。教育・研究棟においては、実践授業を中心とした人間栄養学部の教育施設が充実しており、キッチンスタジオ、視聴覚教室、コンピュータ演習室が設置され、キッチンスタジオと視聴覚教室は、マルチメディア環境で連携しており、大勢の学生が学ぶことができます。
 また、メディアパークでは約50台のPCや貸し出し用ノートPC、音声処理や画像・動画処理が可能なワークステーションを備え、図書館資料と連携して論文やレポート作成、グループワークの学生で常ににぎわっています(写真1)。

写真1 メディアパーク

(2)聖徳ラーニングデザインセンター

 全学生を対象とした学びの場である「聖徳ラーニングデザインセンター」は、入学前教育から初年次教育、専門教育、およびキャリア教育にあたって、学びのデザインを学生一人ひとりに対して個別に支援するために、常駐の教員・スタッフを配置し、最適な個別支援を実現する組織的な学習支援体制を構築しています。特に、聖徳教育(初年次教育、2年次教育)で習得する聖徳基礎力については、授業と一体となって、学生一人ひとりの学習を支援しています。また、直接的な指導だけでなく、よりよい学習環境を整えるための総合的なデータ分析、調査を行っています(写真2)。

写真2 聖徳ラーニングデザインセンター

 聖徳ラーニングデザインセンターの主な目的は、次の通りです。

1)学生の学習活動に対する支援

2)学生への個別学習指導

3)学生の学習に関する相談の受付

4)全学園に関わる学習支援プログラムの開発と企画及び実施

5)全学園の教育及び関連領域に関する調査や研究

(3)語学教育センター

 英語教育に関する理論とその応用・実践の研究を行っており、一般英語について各学部の専門に特化した教材開発、能力別の学習や本学園の学生、生徒、児童、園児等に対する英語教育及び本学園の英語担当教員等の資質向上を図るなど、全学的に活動を行っています。また、平行して、学生一人ひとりの理解を深める個別指導を随時行っており、検定試験のサポートも計画的に実施し、新たに発足した保育英検の指導に実績を上げています。その他に英語に慣れ親しむ各種のイベントを実施し、多数の学生が参加しています。
 また、マルチメディア語学学習支援システムを用いて、英会話や英文法の授業を中心としたインタラクティブな学習環境を利用することで、相乗効果によりTOEIC成績向上に貢献しています(写真3)。

写真3 CALLシステム

(4)教職実践センター

 教職に関する総合的な調査研究を進めると同時に、教職志望者の能力開発と教職採用に向けた多様な取り組みを実施しています。特に、各自治体が行う教員採用試験の合格に向けて、論作文、面接指導(個別・集団)を含めたサポートを、教育経験豊富な教授陣が対象学生に支援を行い、教職志望者の資質向上を図っています。

5.具体的なICT活用

(1)Seitoku Campus Card (学生証)

 2005年より、ICカードの一種であるFelicaを利用し、学生証、プリペイドカード、図書館利用カードの3枚を1枚に集約し、ICカード化を行って、学生情報システム「SEICA」の運用を開始しました。「SEICA」は、各種証明書発行、各種申請や申請時の決済、図書館利用、特定の授業では出席管理にも利用されていて、学生の利便性を図っています(写真4)。

写真4 学生証(左)、チャージ機(中央)、学生情報端末(右)

(2)管理栄養士国家試験 自習室

 人間栄養学部では、管理栄養士国家試験受験対策として、e-Learningシステム「管理栄養士国家試験自習室」を構築しています。自習室には、本学独自に作成した模擬試験や過去問題の解答解説が登録されており、学習したいキーワードの検索も可能で、インターネットを利用しているため、いつでもどこでも自分の学習進度に合わせて学習できることから、学生にも好評で国家試験合格に大きく貢献しています。

(3)修学ポートフォリオ

 夢実現プロジェクトの実践ツールとして、修学ポートフォリオである「Seitoku Design Chart」(以下「SDChart」)を通じ、「聖徳教育II」のキャリア実践演習、「聖徳教育III」の文章構成力育成演習と数的処理能力育成演習における授業理解度を項目ごとに入力し、自動的にグラフ化されることで、学修成果が可視化できるようになっており、様々な角度からの評価を可能にして、「結果(成績)」から「マイナス」を探すものではなく、「(学習の)プロセス」から「プラス」を見出すことができます。
 SDChartは、次の三つの要素から構成されます。

1)自己評価調査

 入学時と前期終了時、後期終了時に自己評価調査を行います。これを通して、学生の成長や学習意欲をクラス担任が確認し、充実した学生生活がデザインできるよう、組織的なサポートを展開します。また、本学の満足度を把握し、改善に役立てます。

2)文章構成力

 文章構成力では、自己紹介からはじまり小論文の書き方まで、大学生に必須な文章を構成する基礎を、各自の学習進度に応じて、徹底的に修得することを目標としています。

3)数的処理能力

 数的処理能力では、日常の生活において、論理的に判断し、数的データを用いた解釈や説明ができるようになるために必要な基礎的な数的処理能力を徹底的にトレーニングすることを目標としています。

 学生は、各Stepを学生自らがどのように省察(自己点検)しているかを、Stepごとに、授業で学んだこと、新しく発見したこと、新たな課題についてSDChartに記入します。また、クラス担任教員の所見により、学修成果を客観的に判断することができます。SDChartは、クラス担任の教員と、学生一人ひとりが自己の学びについてデザインしていくための資料となります。
 特定の授業においては、リフレクションシート(授業の振り返り)を毎時間後に作成し、授業担当教員が確認することにより、授業理解度を確認できます。
 入学時にはプレースメントテストを実施します。その結果をもとにクラス分けを行い、前期末にアチーブメントテストを実施します。未達成者は後期に聖徳ラーニングデザインセンターを活用し、学生一人ひとりの学びを確実に力にして基礎学力を修得します。学生は、SDChartを活用し、学生一人ひとりが自己評価と客観的な達成度評価に基づいて自己の新たな学びと成長を管理することができ、学びの成果を振り返ることにより、伸びてゆく方向性(到達目標)に照らして、自分が獲得してきたことと、これから獲得すること、すなわち今後の目標を心に刻み、自己の成長と“夢”実現につなげていきます。
 これらをわかりやすく視覚化したのが、図1と図2であり、各要素・STEP毎に達成度と目標値がレーダーチャートで表示され、到達度を瞬時に理解するとともに、自己の成長を具体的に把握することができます。

図1 自己評価とプレースメントテストの結果分析
図2 文章構成力と数的処理能力のステップアッププラン

6.今後の課題

 ICTを活用した教育・学修支援の試行的な取り組みはまだ始まったばかりであり、PDCAサイクルを廻しながら改善を図っていくことが必要となります。
 なお、情報教育における当面の課題としては、

1)担当教員毎に温度差があり、同じ学科でも内容が大きく異なる場合があること。

2)高等学校における教科情報は、大学受験科目ではないため、進学中心校と就職中心校の差など教科に対する温度差や学生の実力の差が比較的大きいこと。

3)ICTの活用授業拡大による情報設備不足が予想されるため、一般教室への無線LANエリアの拡充検討を行うこと。

があげられます。

※SDChartは、株式会社電翔のActiveAcademyの一部をカスタマイズしたものです。

文責: 聖徳大学 児童学部児童学科専任講師
岡本 尚志

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