事業活動報告 No.2

大学職員情報化研究講習会 〜ICT活用コース〜 開催報告

 本年度の大学職員情報化研究講習会(ICT活用コース)は、「大学教育の質的転換を図るための全学的な改革行動」をテーマに平成26年12月5日、武庫川女子大学日下記念マルチメディア館/附属中央図書館ラーニングコモンズ(兵庫県)において開催し、57大学、1短期大学、賛助会員企業4社から102名の参加があった。

−全体会−

 全体会では、本講習会運営委員会の深澤良彰担当理事(早稲田大学)より、各大学の先行事例には学ぶべき点がたくさんあるが、それらは大学が抱える課題と向き合い考える上でのヒントであって正解ではない。単にそれを持ち帰り自大学に適用するという発想ではなく、それぞれの大学が知恵を絞るための気付きとしながら、所属大学における改革の歩みを進めて欲しいとの開会挨拶があった。
 続いて、武庫川女子大学・武庫川女子短期大学部の糸魚川直祐学長から、教育の質的転換を図るために各大学が取り組むことは極めて重要なことであり、武庫川女子大学でもその取り組みを開始している。そのような重要なテーマの下、全国から熱心な参加者を集めて行われるこのような有意義な講習会に会場を提供できることはたいへん光栄であるとの会場校挨拶があった。
 引き続き、木村増夫運営委員長(上智大学)から、研究講習会のねらいについて、大きく変化している大学を取り巻く諸情勢や、大学改革実行プランで求められている改革の方向性が紹介されるとともに、例えば、本日の分科会テーマでもあるIRの手法を用いて、スーパーグローバル大学創成支援事業に採択された各大学の取り組みを分析すれば、採択校の様々な戦略と戦術が見えてくるはずであり、そのような高度で専門的な職能を獲得することが、これからの大学職員には求められているとの指摘がなされた。

【基調講演】

「アクティブラーニングの重要性と支援する組織体制」

山本 敏幸 氏 (関西大学教育推進部副部長)

 教育の使命は、国の将来を担う人材を育成することであり、教育を通してその国がこれまでに蓄えてきた知的財産や価値観について学ぶ機会を得て、未来に向けてさらに高邁なレベルに到達させていくことが大切である。
 その上で、教育の現場で実践するアクティブラーニングの重要性について、(1)大学全体及び教員の視点、(2)学修者の視点、(3)職員の視点から見ていき、最後に(4)アクティブラーニングの成果と課題について次のように言及された。

(1)大学全体及び教員の視点

 人材育成に取り組む私達が、大学で学ぶ学生が巣立っていく社会がどのような社会であり、そこで求められる能力とはどのようなものなのかを理解しておく必要がある。そして、その能力を身に付けさせるための要件を満たす教育をデザインしなければならない。
 そこで、未来研究所(米国カリフォルニア州)が提唱するFuture Work Skillsを参考に、2020 年の職場で必須となる六つの項目と10の能力を紹介する。特にセンスメイキングや社会的知性といったこれからの時代に求められる能力を備えた人材を育成するには、どのように取り組めばいいのかをよく考えることが重要である。
 次に、大学全体の視点からは、教育モデルをうまく機能させるためのカリキュラムを設計する必要がある。そのためには、カリキュラムを構成する個々の授業科目の学修目標が、学科のミッション、学部のミッション、大学のミッションへと連なっていて、それぞれのミッションを射的の的に見立てると、その的の中心を一貫して貫いていることが重要であり、一貫して中心を貫いていれば社会のニーズにも的確に応えることができるはずである。
 本学は「考動力」をミッションに掲げ、社会人基礎力の根幹をなすと考えられるアカデミック・スキル群を涵養するためのスタディスキルゼミ(全学共通の教養科目群)を開講している。この授業には、ラーニング・アシスタントとして学生を配置しており、受講生の「ちょっと人生の先を行く」身近な「お兄さん、お姉さん」といったロールモデルとして、受講生と共に学びを深め、多視点から新たな知識・概念を見据えることができるように授業の内側より学修支援を行っている。

(2)学修者の視点

 学修者がアクティブラーナーであれば、教育を通して伝わっていく価値は元の価値を超えながら普及していく。このアクティブラーナーである状態のときの学修者の頭の中の状態を知る手がかりになるのがブルームスの学修行動分類である。記憶、理解、適用、分析、評価、創造の各レベルの学修成果を高める動詞の分類を参照して、学修者にもたらされる変化を想定することが可能だ。

(3)職員の視点

 本学では、ラーニング・コモンズでの学修支援に職員が主体的に関わっている。「コラボレーションコモンズ」と呼ばれるその施設は複数のエリアから構成されている。

 このコモンズを活用した様々な取り組みに職員が積極的に関わっていくために、職員研修にもアクティブラーニングの方法を採り入れて、チームで解決案を創造するプロセスを経験するワークショップが行われている。

(4)アクティブラーニングの成果と課題

 アクティブラーニングの実践を通じて、学生には、大学入学のための受験勉強の方法とは異なり、アカデミックな学びには価値が見いだせる何かがあること、学びは楽しいものであることを理解してもらえるようになってきた。また、一人で学ぶよりも、チームで学ぶ方が多視点から事象を観察できるようになり、一人だけでは気づかなかった深い洞察力が身につくことに気づいてくれる学生も増えてきた。その一方で、チーム学修活動とグループ学修活動の違いがわからずに、受験勉強以外の学修法から脱することができず、アカデミックな学びに価値を見いだせない学生が初年次生にはまだ多い。誰でもいきなりチームメンバーになったからと言って、メンバーを信頼して心を開いて共感までたどり着ける議論ができるわけではない。そこには、情報共有を共感にまで引き上げる仕掛けが必要である。

−分科会−

第1分科会

「アクティブラーニングを促進するための学修環境」

<情報提供>

「ラーニング・コモンズの活用と事前事後学修 の仕組み」

高木 功 氏 (創価大学日本語・日本文化教育センター長)

 LTD(話し合い学習)は、学生の主体的学びを引き出して事前事後学修の習慣化を定着させることを目的に、ラーニング・コモンズを活用したアクティブラーニングのひとつの取り組みとして推進してきた。LTDにより、2006年度前期の調査で35分だった事前事後学修時間が、2013年度前期には55分まで延びた。さらに2013年9月には「学びの場」SPACeが開設され、教員・職員・学生協同での多面的な学修支援への取り組みを開始していることを紹介された。

「工学教育における反転授業の試み」

森澤 正之 氏 (山梨大学教育国際化推進機構 大学教育センター副センター長)

 学生と対面する貴重な時間を受動的な知識伝達でなく、学生の自主的で協調的な学びを引き出す目的で使うために、反転授業に取り組んでいる。自主的な学修を促すため、事前学修では学生が集中して受講できるような動画制作の工夫や、対面授業では学生に自修を促すための工夫を行っている。反転授業は、既に複数の科目で導入されており、アンケートや成績相関による検証結果から、各科目に特徴と差があるものの、一定の教育効果の向上が確認されており、クラス規模や教室サイズにかかわらず、ほとんどの科目が反転可能だと考えていることが示された。

講習終了時における獲得目標の達成度

第2分科会

「大学教育を自己診断する教育情報の統合・分析の試行」

<情報提供>

「教育の質保証システムとしてのIRの導入と課題」

川那部 隆司 氏 (立命館大学教育開発推進機構准教授)

 教育の質を保証するためのIRについて、IRの定義やその目的など基礎的な要件整理から始めて、受講者の理解を深めた上で、立命館大学IRプロジェクトの実践事例として、「学びの実態調査」における対話を重視した調査とフィードバックの取り組みが紹介された。
 大学に求められる内部質保証を下支えするツールとしてIRを機能させ、点検・評価・改善に取り組むことが重要であることが指摘された。

「IRを活用した経営・教育改革への挑戦」

齋藤 真左樹 氏 (日本福祉大学常任理事、学長補佐)

 海外諸大学の先行事例から学び、国内では他大学に先駆けて2009年からIRに取り組んできた。その機能は、理事長・学長会議に直結して置かれた総合企画室とIR推進室が、事業計画策定とデータ分析を分担して行ってきた組織体制に成功のポイントがある。現在では、これまでの蓄積に基づく「FACT BOOK」を定期刊行している。最後に今後の課題として、経営IRへの発展可能性およびデータウェアハウスによるデータ集約にも言及した。

講習終了時における獲得目標の達成度

【オプション】

<情報提供>

「教育・経営活動を診断する財務会計システムの再構築−学校法人会計基準の変更に伴う対応−」

林 光則 氏 (東洋大学経理部経理課課長補佐)

<施設見学>

武庫川女子大学 新・中央図書館見学ツアー

 今回で初めて「オプション」として、学校法人会計基準変更への対応に関する「情報提供」と、会場としても利用させていただいたリニューアルオープンしたばかりの武庫川女子大学附属図書館の「施設見学」を実施し、情報提供には30名、施設見学には80名の参加があり、いずれも好評だった。

【おわりに】

 合宿形式で決められたテーマの下で行う従来の討議型講習会から、情報提供型に切り換えて3年が経過したが、教育の質転換の実現には様々な角度からの取り組みが求められており、参加者には、所属部署を越えた多種多様なニーズがあることを改めて実感することとなった。

講習終了時における獲得目標の達成度

文責: 大学職員情報化研究講習会運営委員会

【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】