新しい学びの扉

金沢学院大学
チーム金沢学院の挑戦
〜教職恊働で作る学生の学びの機会〜

前川 浩子(金沢学院大学文学部准教授)

 本学文学部は、2014年度の後期に1年生の必修授業としてFSP講座をトライアル的にスタートさせ、2015年度はいよいよ前期での実践となり、7月末に、最終回の「自分Project宣言」を終えました。学生たちのリアクションシートで目をひいたのが、チームに言及する学生のコメントです。「チームで動くというのはとてもとても大事なこと。ちゃんと来ない人や、まとめてくれる人や様々な人がいる中で、私はどうしたら良いのだろうと考えることが多くありました」、「一人でできないことでもチームのみんなで集まって議論すればよりよい提案ができることを知ることができました」、「コミュニケーションが取れない自分をチームの一員として見捨てずに、チームが支えてくれました」といったものです。自分自身の能力やスキル不足について内省するにとどまらず、自分以外の他者にも視点が向いたことを表すのが、この「チーム」という表現であり、FSP講座を本学で実践するにあたっての最重要キーワードと言えます。
 本学文学部で1年生の必修としてFSP講座を導入しようと考えた時、まず直面し、受け入れなければならなかった課題は「教員一人ではできない」ということでした。必修科目で実施するとなれば、一人の教員が130名を超える学生を担当することは現実的ではなく、また産学協同という点から言えば、企業とのつながりを持たない教員では参加企業の確保が困難です。これらの課題を克服し、「文学部でFSP講座を実践するにはどうしたらよいのか」。これこそが、まさに本学教職員に課せられた「FSP講座」となりました。FSP講座に従うならば、まず、「チーム」を作らねばなりません。最初のチームは講座を担当する教員5名と、参加企業の確保に向けて就職支援センターの職員1名で構成しました。当初は担当教員も、「講座の良さはわかるけれども、本当にできるのだろうか」、「企業は確保できるだろうか」と実践に向けた不安や懸念が大きく、全員が直ちに同じ目標を共有するということは難しい状態でした。
 その一方で、「とにかく、面白そうだからやりましょう」と前向きな姿勢を見せてくれたのが、直接講座を担当しない若手の教職員たちでした。就職支援センターの職員は、参加企業を開拓するための準備を進め、ともに企業に説明をしてくれました。また、この新しい取り組みをどのように発信していくのかにあたっては、広報室の職員と相談し、PRに協力してもらいました。その他にも、様々な部署の若手の職員や、講座を担当しない文学部の若手の教員にFSP講座の説明をし、講座を見に来てもらうよう働きかけました。学生を目の前に、講座の教室に立つのは担当教員ですが、不安な教員を誰かに支えてもらわねばなりません。若手の教職員にFSP講座のファンになってもらうことで、そのサポーター役をお願いしたのです。不安と懸念を抱いていた担当教員も、講座がスタートすると、困ったことが起これば教員同士で相談し、また、嬉しいことがあればその喜びを共有し、多くの教職員に支えられ、2014年度のトライアルの講座を終える頃には「チーム」になっていました。2年目となった2015年度前期開講にあたっては、教務部との連携で、学生が授業外にチーム活動ができるように時間割を調整し、空きコマを作ってもらうことができました。また、2014年度よりも講座参観する教職員の数も増えました。
 FSP講座では、失敗体験を学生の学びに対する意欲につなげるということを仕掛けの一つにしています。しかし、この仕掛けが有効に機能するのは、「安全と安心が確保された環境での失敗」ではないかと考えています。そして、安心と安全を提供するために必要なのが、教員と職員が信頼し合い、チームとなった環境づくりなのではないかと思われます。FSP講座の実践は、本学における学生の学びの機会(失敗の機会)を担保するために私たち教職員が一つのチームとなる機会、そしてその姿を学生に見せる機会を与えてくれました。本学は2016年度より全ての学部での講座実践を予定しています。「チーム金沢学院」の力をいっそう高め、新しい金沢学院の教育改革をスタートします。


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