特集 教学マネジメントの試み(3)

実践型教育プログラムによる学生の成長を
可視化するための試み
〜北九州市立大学〜

山ア 芙美子(北九州市立大学 大学教育再生加速プログラム推進室特任教員)

1.はじめに

 本学では、「地域に根ざし、時代をリードする人材の育成と知の創造」の達成を目指し、社会のニーズの反映、実社会において時代をリードできる人材の育成を教育方針としています。現在、教育改革の一端として全学的なアドミッションポリシー・カリキュラムポリシー・ディプロマポリシーを整理し、厳格かつ客観的な成績評価に基づいて社会的責任感を備えた人材を輩出するための仕組みづくりを進めているところです。その歩みを推進させるものとして、平成26年度に文部科学省採択事業である「大学教育再生加速プログラム(テーマII:学修成果の可視化)」(以下、AP事業とする)へ申請し、採択されました。AP事業は機敏性の高い意見交換及び情報共有が重要となってくるため、平成26年10月にAP運営委員会を、平成26年12月にAP推進室を設置して、スムーズに推進できる体制を整えました。

2.3つの取り組み

 申請した事業内容は、3段階にて構成されています(図1)。以下に、事業の進捗状況と平成28年度以降の計画について説明します。

図1 AP事業取り組み概要

(1)第1段階

 教育改革の根幹である基本的事項の整理を行うことが主な目的です。具体的には、平成26年度から全学共通のアドミッションポリシー・カリキュラムポリシー・ディプロマポリシーの整理を行いました。体系化された各ポリシーを基盤として平成27年度では、本学が求める人材像に基づいた教育内容の確立及び学修成果の測定方法を検討、調査基盤を確立しました。平成27年度に策定した全学共通のアドミッションポリシーは以下の通りです。
 北九州市立大学は、建学の精神である「フロンティア・スピリット」に溢れ、基礎的学力を十分に備えた、次のような人たちを受け入れます。

 平成28年度以降は、学修成果の測定から導き出された結果を段階的に教職員研修を通じてフィーバックを行い、本学の授業改善、教育改革に役立てることを予定しています。

(2)第2段階

 第1段階で示した学修成果の測定に加え、近年重要視されている授業外学修時間及び学修行動等の測定を円滑に行うため、全学生を対象とした電子調査画面を導入し、授業改善、教育改革に反映可能な測定値を一元管理することを目的としています。具体的には、平成26年度は各部局から関連データを集積し、本学にとって必須となる測定項目の検討・決定を行いました。平成27年度では一部の学部学科に紙ベースによる調査を行い、各種データを蓄積しました。また、学修成果測定指標・北九大教育ポートフォリオの開発に向け、授業外学修時間、学修行動調査等、全学生を対象にする評価指標を作成し、調査を実施しました。これらの結果を反映させた、学修成果の可視化を実現するために、オープンソースソフトウェア「mahara」を活用した北九大教育ポートフォリオを開発しました。
 平成28年度からは、蓄積されたデータを基盤に大学ポータルや北九州市立大学教育情報システム(KEISYS;Kitakyu-dai Educational Information System)等と連動させた電子調査画面(北九大教育ポートフォリオ;仮称)によって、より円滑な測定が行えるよう整備を継続し、平成30年度での学生回答率100%を目指して調整を行っていくことを予定しています。

(3)第3段階

 本学の特色のひとつでもある「地域に根ざし」に重点を置き、国際環境工学部や地域創生学群、地域共生教育センター(通称:421Lab.)を主体とした実践型教育プログラムの効果測定、同時に実践型教育プログラムが北九州市に与える社会波及効果の把握を行うことを目的としています。実践型教育プログラムによる効果測定について具体的には、平成26年度には調査項目を選定し、実践型教育プログラムによる効果を検証するとともに、質問紙評価や面談等を活用して、多面的な学生評価の構築を目指しています。平成28年度以降は、調査の継続的実施及びフィードバック体制の確立、平成30年度までには、他学部の授業やゼミ等で実施されている実践型教育プログラムに対し、効果測定の導入・結果の反映を行うことを目標としています。
 また、実践型教育プログラムが北九州市に与える社会波及効果の把握について具体的には、平成26年度中に北九州市民約1,000名を対象に「北九州市立大学生による地域活動に関する調査」を実施し、現状把握を行いました。平成27年度は、平成26年度の成果を参考に各実践型教育プログラムがどのような地域貢献を行っているかについて聞き取り調査を行い、実践型教育プログラムによる効果を検証するとともに、社会波及効果については「北九州市立大学における実践型教育活動が、北九州市の地域にどのような影響や効果を与えているかを定量的に測定すること」と定義づけして、調査対象者を活動学生及び北九州地域の住民に絞り込んだ評価指標の作成を行いました。また、実践型教育活動による多面評価では、質問紙調査や面接とグループ面談を活用した学生評価を行うとともに、測定指標を検討し、多面的な学生評価の構築に努めました。平成28年度以降はフィードバック体制の確立を目指すとともに、本学で実施しているすべての実践型教育プログラムを対象に調査を行い、共通する社会波及効果を導き出すことを目指しています。また、平成30年度までには他学部の授業やゼミ等で実施されている実践型教育プログラムに対し、効果測定の導入、結果の反映を行うことを目指しています。
 以上のようにを3段階からなる取り組みによってAP事業を推進していますが、本稿では第3段階の1つでもある実践型教育プログラムの効果測定に関する取り組みを中心に紹介することとします。

3.北九州市立大学式実践型教育プログラムの効果測定(APでの取り組み)

 本学では、AP事業において国際環境工学部、地域創生学群、421Lab.の3つの組織を対象に、実践型教育プログラムの効果測定を実施しています。測定には5因子23項目(課題発見力、コミュニケーション力、市民力、計画遂行力、自己管理力)からなる「北九大特製実践活動力評価指標(仮称)」(1)を使用しました。

(1)調査対象組織の紹介

国際環境工学部

 平成13年4月に設置され、在籍学生数は表1の通りです。

表1 平成27年度の在籍学生数

(単位:名)

学部・組織 1年 2年 3年 4年 合計
国際環境工学部 286 305 234 305 1,130
地域創生学群 ※ 91 92 100 104 387
421Lab. (地域共生教育センター) 128 80 69 23 300

国際環境工学部、地域創生学群は平成27年5月1日現在、
421Lab.は平成27年12月18日現在の人数
※夜間特別枠を除く

 本学部の1年次に開講される環境問題事例研究(通年、正課必修科目)は、1環境問題の本質を理解し、解決への糸口を見つける最善の方法を探し出すためにフィールドへ赴き、多様な要素から鍵となる因子を抽出し、なぜ問題が発生したのか考える、2チームごとに独自の視点で問題の核心を明らかにし、目標設定、調査手法選択、役割分担などの検討を経て、研究成果の集約・発表を行うことを主な目的としています。1年のうちに正装でのポスター発表や壇上でのプレゼンテーション等を経験することで、コミュニケーション力やプレゼンテーション力の基礎が身に就くよう、通年のプログラムも工夫がなされています(写真1)。

a. 授業風景 b. ポスター発表 c. 研究発表会
写真1 環境問題事例研究

地域創生学群

 平成21年4月に設置され、在籍学生数は表1の通りです。学群の設置目的として、コミュニケーション力や課題発見力、市民力といった地域創生力の獲得、実践できる人材の輩出、地域の再生と創造を理念として掲げているように、実習、演習を相互に組み込んだ特色あるプログラムを導入することで、実践と知識を柔軟に獲得できる環境を提供しています(図2)。また、学群では履修コース制を採用しており、「地域マネジメントコース」「地域福祉コース」「地域ボランティア養成コース」からコースを選択し、専任教員の指導のもとで理論や専門知識を学修していきます(表2)。

図2 地域創生学群の演習と実習の関係図
表2 地域創生学群の履修コース及びプロジェクト名

421Lab.(地域共生教育センター)

 平成23年4月に設置され、在籍学生数は表1の通りです。本施設の設置目的として、地域社会における実践活動を通じ次世代を担う人材の育成を目指すとともに、本学の地域貢献活動の一翼を担うことを掲げているように、活動フィールドを地域とすることで学生自身が地域課題に取り組み、地域と大学がともに成長できる社会づくりを進めていく役割を果たしています(表3)。

表3 421Lab.プロジェクトの1年

(活動例:YAHATA “HAHAHA!” PROJECT)

4月 メンバー募集 421Lab.の活動説明会にてプロジェクト説明
5月 プロジェクト始動 今年度行う活動内容について全体会議、交流会
5月下旬 第1回まちあるき JICA九州研修員と八幡駅周辺や神社をまちあるき、その後鬼ごっこを通じて国際交流会
6月 今年度の新たな活動の企画 今年度の新たな活動の内容について企画
6月下旬 特別講座・ワークショップ JICA九州の職員を講師に、国際交流の在り方について学習
7月初旬 企画プレゼン大会 企画内容をプレゼンし、今年度の新たな活動の内容を決定
8月 インターンシップ学会での活動発表の準備 インターンシップ学会で活動発表を行うための準備
9月 インターンシップ学会での活動発表 インターンシップ学会で活動発表を実施
10月 フリーペーパー作成の企画 フリーペーパー「THE HAHAHA! TIMES」の内容について企画
11月中旬 料理教室 手鞠寿司作り
フリーペーパー用インタビューの実施 フリーペーパー「THE HAHAHA! TIMES」で掲載する地域の方へのインタビューを実施
11月下旬 「やはたんピック」への参加 JICA九州研修員、地域の方と国際交流及び防災意識向上を目的とした運動会に参加
2月下旬 第2回まちあるき JICA北九州研修員とまちあるき、その後二人三脚など体を動かす活動を通じて国際交流
3月 最終報告会 今年度の活動の感想、反省など

(2)効果測定の実施及び結果

 以上の組織に所属する実践型教育プログラムに関わる学生を対象に、AP推進室では平成27年度前期後期の2回にわたり質問紙調査を行い、実践型教育プログラムの効果を検証しました(表4)。前期、後期、通年の調査回答数は表4の通りです。質問紙調査結果については試験的なオリジナル返却フォームで作成し、回答者にフィードバックしています。前後期の変化について5因子のすべてを検討したところ、すべての組織で前期より後期の得点が回答者の平均値で上昇が見られました(図3)。

表4 実践型教育プログラム調査への学生回答数

(単位:名)

学部・組織 1年 2年 3年 4年 合計
国際環境工学部 前期 141 141
後期 113 113
通年 107 107
地域創生学群 前期 99 86 78 3 266
後期 68 56 59 27 210
通年 69 60 58 5 192
421Lab.(地域共生教育センター) 前期 72 56 49 15 192
後期 73 56 32 7 168
通年 59 42 23 2 126
図3 実践型教育プログラムの効果測定結果

 平成28年度は返却フォームの実用性について検討するため、試行的に一部の学生を対象に振り返り会を実施し、返却フォームの見方の解説や今後の改善案について学生から意見を集める取り組みを行いました(写真2)。学生からは「振り返り会はあらかじめプログラム内に組み込むことで行ったほうが、良い振り返りができる」や「返却フォームをもとにグループワークを実施してもよいのでは」など振り返り会の開催に積極的な意見が多い一方で、「測定された力の意味がわかりづらい」や「文章や得点が平均点以上であると大きく変わらないため、何が違うのか分かりづらかった」など測定指標の設定の曖昧さを指摘する意見も多くみられました。これらの意見は平成28年度の調査に反映することで、より学生にとっても有意義となる評価の実施を心がけていきたいと考えています。

写真2 振り返り会風景

4.さいごに

 北九州市立大学では平成28年度から、実践型教育プログラムの評価を北九大教育ポートフォリオ内で閲覧できるようにすることを予定しています。学籍番号を入力することで、個別にいつでも自らの評価を確認することで、活動を継続する意欲を養ったり、就職活動でのPR素材としたりと使い道の幅を持たせることにも焦点を当てています。また、閲覧制限を設けることで関係教職員に評価を開示することによって、各組織における能力値の推移や特色の違い、また実践型教育プログラムが学生にどのような効果をもたらしているのか(もしくはもたらしていないのか)等が検討できるよう工夫することも検討しています。
 以上、北九州市立大学におけるAP事業について、第3段階の実践型教育プログラムに関する取り組みを中心に紹介させていただきました。北九州市立大学では、学術的な発展はもとより地域や産業界に求められる学生の輩出にもこれからも力を入れ、地域と連携した実践型教育の推進に積極的に取り組んでいく大学であり続けたいと考えています。

(1) 課題発見力:多面的な視野から現状を判断し、問題の本質を見抜くための力を示します。
コミュニケーション力:他者との豊かな関係を築き、目標に向けて協力的に仕事を進めるための力を示します。
市民力:社会人としての常識をわきまえて、主体的に行動するための力を示します。
計画遂行力:論理的、創造的にものごとを考えるための力を示します。
自己管理力:様々な出来事をうまく処理しながら自分自身をマネジメントするための力を示します。


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