教育・学修支援への取り組み

大阪女学院大学・短期大学
PC学修環境からタブレット・BYOD
学修環境に対応する組織へ
〜学修情報の共有と組織を超えた支援体制〜

1.はじめに

 大阪女学院は、1884年(明治17年)に創立されたウヰルミナ女学校とよばれるミッションスクールが源流です。1968年4月開学の短期大学は英語科を設置し、2004年4月開学の大学が国際・英語学部を設置しました。さらに2009年4月に大学院が21世紀国際共生研究科を開設し、2015年5月現在の学生数は、大学が498名、短期大学が226名、大学院8名です。

 本学は、自己と他者の尊厳に目覚め、確かな知識と豊かな感受性に裏付けられた洞察力を備え、社会に積極的に関わる人間を形成することを目的とした、キリスト教に基づく教育共同体です。教育の特色は、小規模校の特徴を生かし、学生一人ひとりを大切にする少人数教育を行ってきました。アクティブ・ラーニングという言葉も耳にしなかった20年以上前から短期大学では少人数教育を活かし「対話」をテーマとした双方向授業が実施されてきており、大学の多くの授業も、学生自身が考え、能動的発信を促す双方向学修を前提にしています。また、在校生が新入生を育てるピアサポート制も、キリスト教に基づくビックシスター制度として歴史的に定着していました。こうした、教育・学修の風土は、これからご紹介する本学のICT教育支援体制の特色や考え方にも影響を与えています。

2.全学タブレット端末(iPad)導入までの経緯

 本学では、2004年度の大学開学を期に、全学eラーニング化に着手しました。2005年度には、散在している情報資源の各種システム認証を統合認証(SSO)のもとにまとめ、キャンパスポータル(MyWill)を開設しあらゆる情報資源へのワンストップサービスを開始しています(図1)。

図1 キャンパスポータル MyWill

 2010年度にはメールシステムを含むコミュニケーションシステムをパブリッククラウドに移行しクラウド環境を前提にしたICT環境になりました。2011年度には全館にワイヤレスLANを敷設し、学生一人ひとりが様々なディバイスを活かせる環境整備を行いました。
 こうした環境下で2012年度新カリキュラム体制の下、新入生全員がタブレット端末(iPad)を携帯する体制に移行しました。同時にiPadで電子教材を利用した授業を開始するために主に英語教育で紙媒体のテキストを廃止して電子教材化を行いました。2012年度にはローカルサーバーの仮想化と学外連携に向けて学認テストフェデレーションに参加し、2015年度には、大学でも4学年すべてがタブレット端末(iPad)を持つ教育・学修環境が整いました。

3.マルチディバイスBYODに対応する組織体制

 ICT環境が進化してもそれに対応する組織体制が確立されなければ、実質的な教育・学修環境が整備されたとは言えません。タブレット端末(iPad)導入から遅れること1年半の2013年10月に、従来からあった学内LANや情報システムやソフトウェアを管理する部門CALL(Computer Assisted Language Learning)と教育・学修コンテンツ(教材)製作を担当する部門LRC(Learning Resource Center)を統合・改組し、今日の環境に対応する組織、ラーニングソリューションセンター(Learning Solution Center:以下LSセンターとする)を開設しました。支援もPC教室を基調にしたICT教育環境からマルチディバイスによるBYOD1)であらゆる場所でICT資源を利用できる組織環境に移行していきました(図2)。

図2 クラウドxマルチディバイスによるアクセス

 LSセンターは、社会環境の基盤となるICT環境を、教育・学修のあらゆる場面で活用できるようにすることで、社会に存在する知識情報資源を含むデジタル学修情報を常時活用できるユビキタス学修環境を実現することを目的にしています。それによって多様な教育・学修ステージと学修者のそれぞれのニーズをつなぐ学修コミュニティの形成を目指しています。そのために、有線・無線を問わず全棟のICT学修支援体制を確立する必要がありました。PCフロアや特定のICT利用空間に教育・学修を適用する発想から、あらゆる教育・学修シーンにICTを浸透させる発想への転換です。
 LSセンターは、東館3階に位置し、全棟5階建ての各階層の中間に位置しています。学生及び専任教職員は、全員がタブレット端末(iPad)を有していますが、教育・学修の隅々までICT環境を行き渡らせるためには、嘱託講師をお願いしている先生方や、聴講生・学外からこられた方にもタブレット端末(iPad)を貸出して全員が携帯してもらう必要があります。そのためにLSセンターでは、タブレット端末100余台が常時貸し出せる体制を取っています。ほかにもノートPCの貸出や従来のデスクトップPCフロアやネットワーク管理も集約しています。さらに各階に配した電子黒板等の機器及びデータ管理などの各階の情報資源管理がこのLSセンターカウンターで行います。
 キャンパス全体をICT学修空間にするための特徴のひとつが、ICT環境への学生参画です。我々教職員による学修支援では、おのずと限界があります。キャンパスのあらゆる学修シーンにICT学修環境を定着させるために、デジタルネイティブといわれる学生のなかから特別講座を経た選りすぐりのサポータ−を養成します。ICT学生参画は、通常の技術支援等の業務に加えて、大きく分けると2つの学生自身の企画分野があります。「学修教育参画」と「学修広報参画」です。こうした活動の拠点となる「学生参画支援ラボ」を設けています(写真1)。

写真1 ICT学生参画支援ラボ

 2015年度に改修した双方向グローバルシアターは(写真2)、アクティブ・ラーニングをより進化させると共に、それを閉じられたものではなく、学外とつなぎ連携させていこうとする特徴的な空間です。従来のアクティブ・ラーニング教室が平面的構造に多数の什器を必要としたのに対して、80余名の収容能力を有するこの空間には、机・椅子といった什器は存在しません。カーペット敷きの階段状の空間に利用者は入口で靴を脱いで入ります。小集団がコミュニケーションを促進するために本シアターで必要なものは、什器ではなく全員が所有するタブレット端末(iPad)のみです。海外の学びの場を結ぶ双方向遠隔通信、クラウド上のメモや情報共有ボード、プロジェクター等への映示共有から、シアター内の聴音・調光に至るまでのすべてがタブレット端末(iPad)のみでアクセス・操作できるように設計されています。人と人の間に介在した什器を廃した階段状のスペース各所で、小集団が車座になって討議をすることができます。全体討議が必要になれば中央部分から扇状の全体が見渡せるために、視線を中央に集めるだけでシームレスに移行することができます。スタジオ機能も有するこのシアターは、プログレッシブ・アクティブ・ラーニングを実現するための空間です。

写真2 双方向グローバルシアター

4.組織を超えた学修情報の共有と情報リテラシー科目群

 2016年度入学生調査によれば、98%の学生がスマートフォンを所有していました。その一方で、学生個人が所有するPCの総数は下降傾向にあり、家族共有のものが増えてきています。「LINE疲れ」の傾向やネット情報を鵜呑みにして、提出物に取り入れる傾向も見受けられるようになりました。常時接続のネット情報にさらされる社会環境は、ICT教育も技術教育を超えた情報教育が求められているといえるでしょう。あらゆる分野の教育の基盤となる情報リテラシー教育の役割はますます重要になってきています。
 本学には、初年次教育においてICTリテラシーから、図書館を含む情報活用能力までを培う情報リテラシー科目群があります。その中で、全学必修2科目についてここでは紹介します。ICTリテラシーを対象にする必修科目「デジタルネットワーク基礎」は、タブレット端末を活用した反転授業を取り入れています。図書館におけるPBLを中心にした科目「情報の理解と活用」は、情報そのものの収集、分析、活用、表現を学ぶために、小論文1編の作成を系統的調査手順を踏んで学びます。2つの科目は、「デジタルネットワーク基礎」で操作・技術を理解し「情報の理解と活用」で情報の分析・活用ができるようになることを科目間連携で実現しています。
 このような総合的な情報リテラシー科目群を支えるためには、教員と学生ピアサポーターやICT学修支援スタッフさらには、資料の提供や検索法の相談にのる図書館司書等の学修支援スタッフが部局を超えて、学生一人ひとりの学修進捗状況を把握した支援体制を確立する必要性があります。eラーニング化の過程で学修進捗情報は、LMS等のプラットフォームの上にデジタル化され共有可能な環境になりました。この環境を生かし部門を超えた学修情報共有で、授業担当スタッフだけでなく、時間外学修を支えるスタッフもLMS等のプラットフォームにアクセスすることで、各学生が今どのような学修過程にあるかを把握します(図3)。

図3 部局を場所を超えた学修情報の共有
(「現代の図書館」 2007年12月)[1]

5.学修情報の共時的可視化から通時的蓄積活用へ

 今日、教学IR(Institutional Research)が注目を集めていますが、eラーニングの進行過程で自動的に学修データもデジタル化します。ここまでeラーニングを進める過程でデータがどのように可視化されてきたか、に着目して辿ってみましょう(図4)。

図4 学修情報可視化と本学eラーニング

eラーニング 以前(2004年度以前)

 eラーニング化を始める2004年度まで、全学的に把握された学修に関するデータは、学事教務システムの履修および成績データのみでした。関連して授業評価アンケートデータも授業終了時に行われています。この間の授業期間は、ブラックボックスになっており、授業評価アンケートも、当該授業期間に活かすことはできませんでした。

eラーニング 1.0(2004〜2011年度)

 2004〜2011年度までのeラーニングにおいて、全学必修の情報リテラシー科目群では、LMSによって各週課題やテスト・振り返りを実施したために、各回・各学修者の学修成果が可視化されました。この学修情報の把握は、次の週の授業に生かすことができると共に、学修成否の経緯がトレースできるようになりました。しかし、学修者がPCを基調にLMSに接する機会は限られます。ICTを使わない活動はもとより各PC端末を使ったワープロ・表計算等のコンテンツ制作過程も可視化されないために、授業期間中の学修ログは、断片的になります。

eラーニング 2.0(2012〜2013年度)

 2012年度以降、常時タブレット端末(iPad)を携帯する学修体制に移行したことと、コンテンツをクラウドで作成・共有するようになった二つの要因で、製作途上のコンテンツもクラウド上で共有・可視化されました。アンケートもリアルタイム化を行い授業中に結果を教室内外で即時共有できるようしました。クラウド上にテスト・アンケート結果を随時蓄積することで経時的成果を全学的に蓄積し、全学的な学修情報の活用への路を開くことになりました。授業開始時の共有コンテンツのない時期を除けば、学修プロセスのほぼ全体が共有されながら、学修支援が進むことになります。

eラーニング 3.0(2014年度〜)

 タブレット端末導入による常時接続と、クラウド上の学修成果の作成と共有によって、全学的な学修状況の「今」が見えるようになってきました。今後目指しているのは、12年余取り組んできたeラーニングによってデジタル化して蓄積された学修データの活用です。学修情報の「今」が共時的に共有される環境で、学修者コミュニティおよび学修支援コミュニティが形成されました。他方で、大学での学修者の歩みやさらには大学の歩みを蓄積されたコンテンツから通時的に分析・活用する取組です。これは、組織のみならず学修者自身が過去の学修活動のすべてを検索し活用できるようにするものです。
 我々は、これを電子図書館プラットフォームの一部に組み入れようとしています。学修情報の多くが常時デジタル化されて共有されるということは、膨大な過去ログが発生することも意味します。それを学修者自身が活用するためのアプローチが教育・学修資源と自分の学修成果を関連づけた検索です(図5)。

図5 教育・学修成果との図書館統合検索結果

6.おわりに

 2014年度に創立130周年を迎えた大阪女学院では、大学の事業計画において、LSセンター開設以降の多様な学生のニーズに対応するために「学修解析(Learning Analytics)と活用」を明記し取組を進めています。そのねらいは、従来から一定の評価を得ている少人数周密教育をさらに進め、学生一人ひとりのニーズに即応する学修支援環境づくりです。学修情報へのタブレット・BYODによる常時接続とクラウド共有によって、常時見えるようになった学修情報を卒業後も継承できることに取り組んでいます。これは、高等教育修了後も、卒業生に生涯アドレス及び生涯ストレージの配布を行うことで対応をはかっています。今後は、入学前からの高大連携による学修成果の継承や生涯学修への展開に学修情報の活用を図ることを模索しています。

1)クラウドを活用することでタブレット・スマートフォン・PC等のあらゆるICT端末を学修・教育に生かす

参考文献
[1] 出典:日本図書館協会「現代の図書館」2007年12月

文責:大阪女学院大学
LSセンター長 小松 泰信


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