事業活動報告 No.1

医学教育におけるICTを活用した
アクティブ・ラーニング実践事例
アンケート調査結果

医学教育FD/ICT活用研究委員会
公益社団法人 私立大学情報教育協会

1.アンケートの概要

 医学教育ユニットの会(80医学部)の名簿を利用し、80医学部中75医学部(94%)にアンケートを平成28年2月3日に送付した。
 その結果、75医学部中、27医学部から回答があり(回答率:36%)、事例紹介は48件の報告があった。

2.アンケート項目

(1)ICTを活用したアクティブ・ラーニングの目的は?

(2)アクティブ・ラーニングにICTを導入している授業は(科目、学年、受講者数など)?

(3)アクティブ・ラーニングを用いている授業方法は?

(4)アクティブ・ラーニングの実施規模は(大学、学部、授業科目、授業コマ)?

(5)ICTを活用したアクティブ・ラーニングにおける教育効果の評価は?

(6)ICTを活用したアクティブ・ラーニングの事例

3.回答結果

(1)ICTを活用したアクティブ・ラーニングの目的

(複数回答 総回答数 53)

(2)紹介された授業事例の教育対象学年

左端の数字は右の各過程相応する学年の目安
(紹介事例の総数 48)

(3)ICTを活用したアクティブ・ラーニングの手法

(複数回答 総回答数 62)

(4)ICTを活用したアクティブ・ラーニングの実施規模

(5)教育効果の評価

(複数回答 総回答数 55)

4.事例紹介

 ※医学教育FD/ICT活用研究委員会にて選択した参考事例

群馬大学医学部
「人体解剖とCTの統合による先駆的医学教育」

 人体構造の3次元的理解と画像診断能力の向上にICTを活用したプログラム。1解剖実習用の遺体のCT画像を蓄積し、2CT画像の基礎的講義を実施した後、CT画像ファイルおよび携帯型画像端末を配布。3携帯型画像端末に同一遺体のCT画像を表示、実物と対応をつけながら解剖実習を行う。合せて実習前後に読影ポイントの講義を実施した。4筆記、実物、画像問題からなる実習試験により形成的評価を実施。病理学、法医学、チュートリアルなどにおいて、画像の理解度を学生および教員にアンケート調査して有効性を検証した。最終報告書を学内、全国の医科大学解剖学教室に配布し広く公表している。

【選択理由】

 AIの設備が必要であるが、画像情報を得た後は、比較的容易に導入可能な携帯型画像端末を活用したもので、 理解が進まない人体構造の3次元的理解に教育効果が期待できる有用な取り組みと考えられる。

岐阜大学医学部
「インターネットPBLシステムを用いた共通教育科目『医療と生命コース』」

 「楽位置楽The Tutorial」と名づけたインターネットPBLシステムは、岐阜大学医学部等で実施されている従来からの対面型PBL/テュートリアル教育とは別の視点から開発。時と場所を選ばない、”いつでも”、”どこでも”、”だれも”が参加できる双方向性遠隔教育システム。2015年度も岐阜大学1年生共通教育科目「医療と生命コース」(選択)として実施し、さらに全国4大学の参加を得て実施。医療、健康、生命にまつわる様々な話題を取り上げ、そこから引き出される疑問点、問題点をクラス内で掲示板を利用して議論し、教員のアドバイスを受けながら、自主的に調査・学習し、議論を深めた。単位取得基準は参加大学毎に異なるが、岐阜大学では発言数、最終レポート、コース期間中に設けた3回の対面授業への参加を総合的に判断している。

【選択理由】

 インターネットを介したPBL教育の実践例。通常のPBLとは異なり、教員一人による指導の可能性。

兵庫医科大学
「タブレット端末とmoodleを用いたTBLの運営」

 臨床推論のトレーニングを目的としてチーム基盤型学修(TBL)でタブレット端末(iPad)とmoodleを活用している。1当該ユニットの始まる前週に予習資料。2初日にIRAT、続いてGRATを行い、その後、フィードバックを行う。3症例シナリオについて各グループで診断に至る過程をディスカッションする。終了後に点数と自由記載からなるピア評価を提出する。これらのIRAT、GRATや症例提示、学生からの課題提出、教員からのコメント返却もすべてmoodle上で行う。症例シナリオもmoodle上で課題を提出したら、次のデータが得られる。途中には検査を決められた個数選ぶ関門があったり、選んだ検査の結果しか見られないようになっている。選択を誤ると終了できない。ゲーム感覚で臨床推論のトレーニングができるのが特徴である。

【選択理由】

 LMSのシステムがあれば導入可能で教育効果が期待できる有用な取り組みと考えられる。シナリオの確保が課題で、大学間のシステム共有が望まれる。

福島県立医科大学
「振り返り学習と教員連携をめざしたタブレット PCを活用した臨床実習ポートフォリオ」

 卒前臨床実習の問題点として、学生・教員が臨床実習全体の学習目標、学習状況の相互確認ができていないこと、臨床能力の評価・把握が困難であること等があげられる。これらの改善を目指して医学部5年生が臨床実習で自らの学習状況を振り返ることができるiPadで動作するソフトウエアを開発し、ポートフォリオ学習に取り組んだ。医学生は臨床経験を5段階で自己評価し、担当教員も同一項目を評価し学生にフィードバックした。全科の担当教員がこれらの結果を閲覧できるようにし、情報を把握・共有できるようにした。学生は医学教育コアカリキュラムに沿った全68項目について実習中、形成的に自己評価し、教員は自科の動画・資料等と確認テストを準備した。

【選択理由】

 臨床実習の充実化が問われる中で、その学習成果の評価においてこのeポートフォリオは今後の医学教育上の主要なトレンドと考えられる。

富山大学医学部
「臨床実習中セミナーのICTを活用した予習学習」

 臨床実習中の少人数セミナーは、臨床参加型臨床実習の観点からは減少させることが望ましいとはされるが、学生からの人気は高い。しかし、数週間毎に多忙な臨床業務の中、同じ内容のセミナーを繰り返すため担当者の負担は大きい。また、セミナー内容の理解度の把握が困難であった。全学で導入している学習管理システムMoodle2上に、セミナー内容の録画コンテンツを置き、臨床実習学生に事前に視聴させ、小テストを受けた後でセミナーを受講させた。実際のセミナーでは学生が抱いた疑問点について議論する内容に変更した。ほとんど全ての学生が視聴し、小テストに取り組んだ。セミナーでは内容をほぼ理解していることが確認されたため、学生が抱いた疑問点を中心にセミナーを開催した。毎回異なる内容となるため、担当者の精神的負担感は軽減した。

【選択理由】

 LMSのシステムがあれば比較的どの大学でも容易に導入可能かつ教育上有効な取り組みと考える。

5.医学教育分野での課題と展望

1ICTを用いたアクティブ・ラーニングが広まっていない。

伝統的基礎医学講義・実習、臨床系統講義が多く、自己学修時間を確保したうえでICTを用いたアクティブ・ラーニングを導入する時間が取りにくい。

⇒全てを教え込む教育から脱皮し、学生が自分の学修に責任を持つ形の学修方法の導入が求められる。

2医学部として組織的なICTを用いたアクティブ・ラーニングの導入が遅れている。

医学部ではいまだ、伝統的な一方向性の授業が主流にあるため、一様に医学部全体として新しい学修方法を組織的に取り入れることが遅れている。

⇒授業科目を超えて、新しい教育方法を組織的に導入するために、医学教育カリキュラム全体のPDCAサイクルを確立し、改善を進めていく教学マネジメントシステムを作る必要がある。

3アクティブ・ラーニングで獲得できる卒業時アウトカムが設定されていない。

卒業時アウトカムがまだ十分には整備されておらず、知識を活用する能力(臨床推論など)や生涯学習への準備を目指すカリキュラムが不足している。

⇒アクティブ・ラーニングが求める知識の統合・活用や自己学修能力の開発など、筆記試験(国家試験など)では点数化しにくい能力を評価することが求められる。能力の評価については、ネットを活用した口頭試問などによる外部評価の仕組みが考えられる。また、知識の統合については、多分野の有識者による知見をネット上でアーカイブ化した教材を用いて多分野の学生同士で課題探求を行うことなどが考えられる。

4臨床実習を支援するICTを利用したシステムの整備が遅れている。

臨床実習が大学附属病院を中心に行われているため、実習病院でのパフォーマンス評価などを支援するICTを用いた連携システムの整備が遅れている。

⇒国外の医学部では多様な患者との接触を確保するために、臨床実習の場の多様性が図られている。わが国の臨床教育も大学附属病院以外の場での教育を通じて多様性を確保していく必要がある。そのために例えば、ICTを用いた遠隔教育のシステムなどが考えられる。


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