事業活動報告 No.1

教育改革FD/ICT理事長・学長等会議開催報告
―学士課程教育の質的転換に向けた課題とICT活用を含む改革方策―

 平成28年8月1日(月)午後1時、青山学院大学渋谷キャンパスを会場に59大学9短期大学より、理事長、学長、副理事長・理事、副学長・学長補佐、教務部長、学部長、短期大学学科長等関係者が参集して「学士課程教育の質的転換に向けた課題とICT活用を含む改革方策」をテーマに開催した。
 開会にあたり、向殿政男会長(明治大学)より、「三つのポリシーによる実質化を認識した上で、ICTを活用した内部質保証の課題や戦略の議論を通じて、教育のイノベーションが前進していく機会にしたい」との挨拶があった。
 次いで、会場校を代表して、青山学院大学の三木義一学長より、「本日のテーマをよく検討し、将来的には『ICTの青山』と言われる大学に変革していきたいと考えている」との挨拶があった後、プログラムに入った。

講演

「ディプロマ・カリキュラム・アドミッションの三つのポリシーをどのように策定し、改革を実質化していくのか」

濱名 篤氏(文部科学省中央教育審議会委員、関西国際大学学長、学校法人濱名学院理事長)より、中央教育審議会大学分科会大学教育部会で作成した三つのポリシーの策定及び運用に関するガイドラインをとりまとめた経緯の説明と関西国際大学における3ポリシー見直しとアセスメントポリシーについて、主に次のような紹介が行われた。

1.質保証についての現状と可視化の方向性

(1)三つのポリシー制度化の経緯

 「卒業認定・学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー、以下「DP」と言う)」、「教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー、以下「CP」と言う)」、「入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー、以下「AP」と言う)」の三つのポリシーを平成29年3月までに文部科学省から「一貫性あるものとして策定し、公表する」ことの通知が行われ、学校教育法施行規則の改正により、全ての大学に義務づけられることになった。その際、三つのポリシーの「策定及び運用に関するガイドライン」(下図)が中央教育審議会大学分科会大学教育部会で作成・公表された。

(2)三つのポリシー策定のガイドライン

 ガイドライン策定に当たっての総論的な留意事項として、策定単位は、専門と教養を統合した学位プログラムを基本とすることが望ましいとし、各大学での判断としている。また、三つのポリシー相互の一貫性・整合性に留意して、分かりやすい表現で作成することが重要としている。
 個別的な留意事項として、DPは、「学生に何ができるようになるのか」が重要で、学生が身につけるべき資質・能力をできる限り具体的に示し、大学教育のPDCAサイクルの起点としている。CPは、学生が身につけるべき資質・能力の目標を実現するために、どのような教育内容や教育方法を組織的に展開するのか、その中で学位プログラムごとに定めた目標が達成されているかどうか、学修成果の評価の在り方を具体的に示すとしている。APは、DP、CPの目標・内容を踏まえ、学位プログラム教育を受ける力があるか、DP、CPに定めた教育に耐えられる条件をできるだけ具体的に示した上で、多様な学生を評価でき得る選抜方法をとることを求めている。
 私立大学の内、アセスメント・ポリシーを全学で定めている割合は、2014年度の私立学校振興共済事業団調査によれば6.9%、一部の学部で1.3%と合わせて8.2%と、ほとんどの私立大学は設定した目標をどのように検証するかという方針がない状態で定めている。GPAで何を測っているのか、という学内の合意がない。学修成果の何を測ろうとしているのか、分からなければその評価は社会から信用されない。そのような状態で作成されたポリシーは、社会から機能していないと指摘され、通用性がない。

(3)質保証可視化の方法

 問われているのは何の評価か、授業評価していることが質保証ではない。日本では、教養教育と専門教育が融合あるいは統合されていないことを問題視して、学位プログラムとして124単位を1パッケージと言うようになった。学位プログラムを策定の単位として三つのポリシーを設定するには、全学レベルのガイドラインを先に作り、それとの整合性を意識する中で設定することが重要で、その際に大学全体として共通の評価方針を確立しておく必要がある。ところが、今回の制度化では、アセスメント・ポリシーが法制化の対象にならなかったため、CPの中に入れることになり、CPの内容が教育内容、教育方法、評価の3つを含むことになった。重視しなければいけないのは、三つのポリシーそれぞれを検証・測定できることである。
 学位プログラムを測定可能な方法で検証するには、卒業及び学位授与の要件と位置づけた学修成果が達成されているかが最も重要な評価で、大学にそのような検証の仕組みが問われている。検証は、個々の学生や授業科目の内容について点検する部分は出てくるが、全学生、全科目について評価することではない。評価方法は目的に合わせて設定すればいい。一つの尺度・方法ではなく、例えば、就職率ではなく、就職後の離職率、国家試験の合格率など多元的・複眼的に評価したほうが良い。

2.関西国際大学における三つのポリシー見直しとアセスメント・ポリシー

 本学では、三つのポリシーの見直しを行い、平成28年4月に公開した。見直し前のポリシーでは、到達目標を全学共通の5項目と学部・学科ごとの専門知識の3項目合わせた8項目の2階建に分かれていたが、学生も教員も目標を意識しつづけることが困難であったことから、専門教育以外も含めた到達目標を「自分事」化できるように6項目とし、測定可能なアセスメントをどのように三つのポリシーに取り入れるのか、最終的には学長を中心に全学ポリシーを検討し、決定した。

(1)全学ポリシー(ガイドライン)と学位プログラムポリシーの整合性

①全学DPの設定

 全学ポリシーは、全ての学生が卒業までに身に付ける能力で、「自律できる力」、「社会に貢献できる力」、「心豊かな世界市民としての資質」、「問題発見・解決力」、「コミュニケーション能力」としている。これらの能力を大学の共通到達目標(KUIS学修ベンチマーク)の5項目(下図)を設定し、4年間の学びの羅針盤として明示した。さらに評価尺度として、例えば、「自律できる力」では中項目で「知的好奇心、自律性」とし、「社会に貢献できる力」では、「規範遵守、社会的能動性」とし、これをルーブリック化して、半年に1回学生に点検させる。その上で教員と面談を行い、4年間で8回程度評価を行い、その結果をレーダチャート化して、どのように変化したかを可視化できるようにした。

《KUIS学修ベンチマーク(大項目・中項目)》
大項目 大項目の説明 中項目 中項目の説明
自律できる人間になる 自分の目標をもち、その実現のために、自ら考え、意欲的に行動するとともに、自らを律しつつ、自分の行動には責任が伴うことを自覚できる 知的好奇心 新しい知識や技能、社会におけるさまざまな現象や問題を学ぶことに、自ら関心や意欲をもつことができる
自律性 自分の行動には責任が伴うことを自覚し、自らを律しつつ設定した目標の実現に向けて積極的に取り組み、最後までやりとげることができる
社会に貢献できる人間になる 社会の決まりごとを大切に考え、社会や他者のために勇気をもって行動し、貢献することができる 規範遵守 複数の人々と暮らす社会の決まりごとを尊重し、その背景や意義を理解して、協調的に行動することができる
社会的能動性 自分の役割や責任を理解し、他者との積極的な協働や交流を通して、社会のために行動することができる
心豊かな世界市民になる 多様な世界の人々や自分たちの社会について理解を深め、他者に対する共感的な感覚や態度を身につけ、世界市民として行動できる 多様性理解 自分や、自分と同じ社会的・文化的背景を持つ人たち、異なる社会的・文化的背景を持つ人たちがいることを理解し、多様な世界や社会を大切に考え、柔軟に行動することができる
共感的態度 他者と接するときに、感覚や感性を働かせ、相手の立場に立って考え、共感を示すことができる
問題解決能力を身につける
状況に応じて、情報ツールを活用し、情報収集や情報分析ができ、問題を発見したり、解決のアイデアを構想したりする思考力や判断力を身につけ、問題を解決することができる 情報収集・活用力 必要な情報や信頼できる情報をさまざまな方法を使って集め、解決の視点から必要な情報を取捨選択し、整理・保存しながら活用することができる
問題発見力 現状から何が問題であるかを発見し、その解決に向けた課題を考えることができる
論理的思考/判断力 偏った判断をすることなく、その時・その場の状況(TPO)に応じて判断し、論理的に考えることができる
計画・実行力 問題解決に向けて見通しのある計画を立て、検証及び修正しながら実行することができる
コミュニケーション能力を身につける 社会生活を営む上で、他人の思いや考えを受け止め、理解するとともに、自分の思いや考えを的確に表現し、意見を交わすことができる 自己表現力 言語的及び非言語的な表現方法を工夫しながら、自分の思いや考えをわかりやすく効果的に表すことができる
意見交換・調整力 他者の発言を傾聴し、文章を読解して、その内容の要点をとらえ、自分の疑問や主張をまとめて、他者と意見の交換や調整をすることができる

②全学DPの設定

 その上で、上記5項目の共通到達目標からなる全学ポリシーを各学科に適応させる例として、以下に「教育福祉学科」の場合を紹介する。
 まず、全学ポリシーをこの学科のDPにどのように適応させるか、以下の通り見直し、卒業認定と学位授与の方針を策定した。

 例えば、全学ポリシーで設定した「自律できる力」を「自律的で意欲的な態度」とし、教育・社会福祉業務に主体的・自律的に取り組むことができるとした。また、「社会に貢献できる力」は、「社会や他者に能動的に貢献する姿勢」とし、一般的な社会的貢献性ではなく、教員・社会福祉事業者として地域社会の動向を踏まえ、社会や他者のために責任ある行動をとることができるなどとした。
 次に、CPへの適応としては、DPに掲げた目標を達成するために、教育内容と教育方法、教育評価を行うことにした。
 例えば、「教育内容」では、2年次又は3年次に大学が旅費を負担する海外プログラム(グローバルスタディ)でのコミュニケーション能力の育成や、その前提で必修科目としての「リサーチ入門」を1年次に履修させる。また、社会的貢献性を育成するために、全ての学生に1年次に地域での体験活動としてサービスラーニング、又はインターンシップを選択必修としている。さらに、学生全員に学修成果の自己評価の意義と重要性を理解させ、評価能力の向上を高めるために、「評価と実践I」、「評価と実践II」を履修し、第三者に説明できるようにしている。
 「教育方法」では、共通教育の責任は全段階で負うため、主体的な学びの力を高めるために、アクティブ・ラーニングを専門教育科目で実施し、eポートフォリオで学修成果と学生生活の「ふりかえり」を行う。また、各学期末に「KUIS学修ベンチマーク」の達成度を学生に自己評価させ、アドバイザー教員との面談を通して「ふりかえり」している。
 「教育評価」では、「到達度試験」を2年生終了時に行い、卒業研究の基礎レベルの専門必修科目の修得度を確認する。年に4回再試験があり、それに合格しなければ卒業検定がとれない。卒業研究(必修)の評価は、学位プログラムの質保証の仕組みを確認するため、学生全員でなくサンプリングし、複数教員でルーブリックを活用して総括的な評価を行うことにしている。
 その上でAPへの適応としては、DP、CPに定める教育を受けるために必要な、知識・技能や能力、目的意識・意欲を備えた人を求めるとし、例えば、高校調査書の重視、集団面接で教育、保育、社会福祉領域の仕事に就く意欲の確認、知識や情報をもとにした論述対応、アクティブ・ラーニングへの参加を確認するグループワーク、eラーニングによる入学前教育での学修習慣の把握などの工夫をした。

(2)3ポリシーを可視化するためのアセスメント

 全学の方針を前提に学部・学科又は学位を単位にポリシーを作る時には、検証・測定を行う「観点・基準」と「尺度」が必要である。定量化しやすい評価としては、国家試験の合格率、英語など標準化テストのスコア等がある。定量化しにくい評価では、ルーブリックを活用した学修成果の評価や行動評価、eポートフォリオ、フォーカス・グループ・インタビュー等があり、教育プログラムが適切に動いているかが把握できる。
 定員超過率1.1倍の中で質保証を厳格にすると中退率10%でも定員割れとなる問題が生じる恐れがある。その際に重要なことは、CPを充たした教育が実施されているのか、DPを充たして学修成果が上がっているのか、さらにはDPやCPで必要な条件を測る選考ができているのか、APが必要な能力や状況を測っていたのかを検証していかなければならない。
 DP、CP、APで目標を設定(「Plan」)し、それを教育活動、高大接続、入試として展開(「Do」)していくには、目標に沿った成果を確認(「Check」)することが必要で、その基本方針を定めたものがアセスメント・ポリシーである。以下の図を参照されたい。

 それに基づいて自己点検評価が行われ、認証評価、外部評価することが評価活動フローになり、評価活動を受けた結果として、改善(「Action」)につながることがPDCAと三つのポリシーの関係となる。そのようなことから「Check」の評価対象は、DPの目標、CPの教育内容、教育方法、さらにはAPの選抜も含まれることになる。以下に、本大学でのアセスメント・ポリシーを紹介する。

3.関西国際大学のアセスメント・ポリシー

 本学のアセスメント・ポリシーは、一つはプログラム評価、二つは授業科目を対象とする評価、三つは学生個人を対象とする評価とした。
 プログラム評価では、下図の通り、大学及び学部・学科の学修達成目標が達成されているか、達成されるカリキュラムになっているかが重要で、そのために学生のベンチマ−クチェックを集計し、2年生の修了段階で専門必修科目の到達度試験の結果を見ることにしている。また、卒業研究は全てを対象とするのでなくサンプリングして、ルーブリックで集団評価している。達成度の低い項目を要因分析し、活動内容や目標レベルの改善を行うことにしている。

 授業科目を対象とする評価では、下図の通り、学修内容・教育方法、達成状況を測定できる評価方法が採用されているかを点検するために、成績評価終了後、教員に担当科目の評価を実施し、達成度が低い目標の内容、教育方法、課題の適切性、学修支援の利用状況などを振り返ることにしている。

 学生個人を対象とする評価では、上図の通り、個々の学生が学修到達目標を達成しているか、他者に説明できることを評価するために、9月末と3月末にリフレクション・デイを設けている。そこでは、成績表とレーポートやテストの採点結果を学生に返却し、前学期の振り返りを行う。ベンチマークをチェックし、それに基づいてアドバイザー教員と、今学期の目標と計画の設定について面談し、学生が授業で目標を自覚することに気づかせるようにしている。

4.結論

 三つのポリシーを作ることによって何が変わるのか。一つは、高校教育と大学教育の連続性・継続性・発展性が構築できるようになる。
 二つは、汎用性を持った「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体的態度」といった学力の3要素を育成する大学教育の質保証メカニズムを確立できる。
 三つは、入試が変わることで学生の質・量が変わる可能性がある。
 学修成果の可視化は必然的であり、世界中で避けて通れない。三つのポリシー、とりわけDPが一番重要であり、測定可能なものにし、その結果を大学自らが説明する責任を負っている。私立大学は他律的に評価されるのではなく、自らの教育理念等と汎用的知識・スキル・態度を組み合わせて作成した目標を、複数の方法を組み合わせて能動的に測定・検証・評価することが必要である。

【質問】定員10%未満にする問題とDPなど質保証を厳格にすることで、全員をどのように卒業させたらいいのか。

【回答】文部科学省では、定員超過の問題と三つのポリシーを一体的な問題として考えていくらしい。定員超過と質保証をどのように両立するか非常に難しい。両立して行くには、学生をモニタリングし、重層的な学修支援などで留年による定員割れを考える必要があるが、このような指摘は私だけなので中央教育審議会等の場で指摘して行きたいと思う。

講演

「教員中心の授業科目編成から学位プログラム中心の授業科目編成への転換を目指している教学マネジメントの試み」

 

 海外出張のため、梅澤 修氏(横浜国立大学副学長)より、ビデオによる講演が行われ、その後で補足説明及び質疑が同大学の曽根 健吾氏(全学教育推進センター特任教員)から行われた。

1.質保証に向けた取り組み

 横浜国立大学では、学士課程教育における教育目標達成のため、学位授与方針、教育課程編成・実施方針及び入学者受入の三つの方針に加え、教育の質の持続的向上を目指すFDの推進を含めた4つの方針について『「学士力を磨く」YNU Initiative』という冊子を作成し、公表している。その中で学生に身につけて欲しい4つの実践的な「知」として、知識・教養、思考力、コミュニにケーション能力、倫理観・責任感を掲げ、幅広い教養や確かな専門知識などに基づいて、積極的に課題解決に取り組み、適切に判断する能力を持つ人材育成を目指して教育を推進している。

 具体的な質保証システムとしては、上図の通り、PDCAサイクルによる計画、実行、評価、改善を導入しているが、十分機能しているかは疑問ないわけではないが、教職員自らが認識する段階にあると思う。とりわけ、計画段階では現在三つの方針の見直しが求められており、内容が新たに書き加わることが予定されている。
 質保証システムの実質化を推進するため、平成21年度から25年度にかけて、カリキュラムマップによる履修到達度・課程編成の改善、学生の振り返りによる自己省察、卒業生アンケートによる分析、学生アンケートによる授業改善など、早期の段階より内部質保証に重点を置き、教育方針の明確化、教育課程の体系化、単位制度の実質化、学生ポートフォリオと学務情報とのシステム連携の取り組みを行ってきた。また、教職協働の場づくりを通して、教職員の交流と学生の参加を含む教育改善活動の全学的展開を試みている。
 そのような動きの中で、教育改善、教育の質向上を牽引する組織に脱皮するため、平成28年4月からこれまでの「大学教育総合センター」から「高大接続・全学教育推進センター」への組織改編が行われた。新組織は、学生の入学から卒業までを統括・点検するため、下図の通り「学生IR部門」、「高大接続部門」、「全学教育部門」、「教育開発・学修支援部門」とした。学生IRとは、従来の学部情報、学生ポートフォリオ、学生授業アンケートなどの教学IRに加えて、学生自身がどのようにキャリアアップしてきたか、入学から卒業修了後まで一人ひとりのデータを一貫して見通すことにより、主体的な学びの実現、社会が求める人材育成を学生行動調査等重視するIRの概念を用いて点検することにした。

2.学修成果の可視化

 そのような中で学修成果がどのように得られているのか、キャリア科目がどの程度利用され、卒業生が社会でどのような能力を要求されているのか、学士力と就業力の可視化を行うために、前ページ下図の通り、平成30年度に向けた工程表を設けて主体的な学びのデザイン構築プロジェクトとして、文部科学省の大学教育再生加速プログラムに採択され、活動を始めた。
 具体的には、学士力の可視化として、授業ごとの成績評価の分布、学生調査データ、教学データの分析による学修実態、成長感の把握などに着手しているが、今後は教学データの一元化に資すること、個々のIR活動を推進・拡充し、提言できるようにすることが課題となっている。
 就業力の可視化として、学生ポートフォリオの改修に着手しているが、工夫がさらに必要である。また、リテラシーとコンピテンシーの側面から、1年生、3年生を対象に就業力アセスメントを行い、結果を分析し、課題が集積されてきているので、今後はキャリア教育の再体系化に向けた学修支援体制の確立と教学データの反映が課題となっている。
 授業方法と成績評価の改善では、FD・SD活動を通じてFDミニシンポジウム、学生FD活動などを行っている。新たな取り組みとしては、「授業設計と成績評価ガイドライン」を策定し、ルーブリックとしてシラバスに登録して全教員に周知している。

3.教学マネジメント体制の構築に向けて

 現在は、各学部の教務委員長が参画する教学マネジメントチーム会議を設けて、教員に情報を提供する中で学修成果の可視化に取り組んでいるが、組織的に教育活動の成果を追及していくには、学位プログラム中心の授業科目編成に変えていく課題を抱えている。それを全学的に推進するために、様々な部会を通じて高大接続・全学教育推進センターと連携する全学教育改革の推進体制を組んでいる。
 一例として、3ポリシーを見直しすると同時に、カリキュラムにナンバリングを導入し、縦割りの教育システムについて教養科目の内容を高度化して高年次向けで履修させるか、早い段階で専攻科目を履修させるなど、カリキュラムツリーによる履修の体系化を働きかけたいと考えている(下図参照)。また、初年次から積極的に学修に入れるように高校生の段階からの働きかけとして、入試改革、初年次・導入教育改革、学事暦の多様化などによるグローバル教育改革を通した全学教育改革のシステムを考えている。

4.学位プログラム中心の授業科目編成に向けて

 教員中心の授業科目編成から、学位プログラム中心の授業科目編成に転換していくには、意識の高い教員、一部の教員が推進するのではなく、組織全体として意識を共有できるよう働きかけをするべきだと思っている。学生に向けた様々な学修成果ということだけではなく、可視化が教職員内組織における授業科目の相互改善に結びつくようにする意識作りが非常に重要となる。(下図参照)

 相互改善に必要な要件としては、下図の通り、外的には学問分野からのアプローチによる分野別の質保証が必要となる。また、社会からの評価を踏まえて学生に身につけるべき獲得能力、社会人基礎力を相互に点検する中で、授業方法・内容の調整・改善が必要である。内的には全ての教職員が参画する教学マネジメント体制が必要で、そのためには教員、職員とも学部・学科、課などを超えた経験知と関心の拡大を図る中で、次を見据えることが重要である。

【補足説明】

成績評価の厳格化、評価の見える化に向けた全学的な取り組みとIR活動の推進

 ここ数年各部局で学生を対象として様々な調査を実施してデータが整備されてきているが、部局ごとの力が強いこともあり、一元的にデータを分析して提案や改善するまでには至っていない。
 例えば、学生の成績、GPA、履修回数のような直接評価のデータや、学生調査データ、就業力アセスメント調査(PROG)、卒業時アンケート、学生による授業アンケート、教養教育アンケートなど、学内にある様々なデータを活用して分析し、どのような改善が必要なのか、どのように取り組むべきか、改善提案を発信できるようにする取り組みが重要な課題となっている。
 一つは、初年次の段階からどのように主体的に学ぶ姿勢を醸成していくのか、卒業段階で社会に通用するための対人基礎力、対課題基礎力をどのように伸ばしていくのか、グローバル社会で求められる主体的に行動できる状況適応力をどのように図っていくのか、学生IRによりデータを分析・対策を立案・実行した上で、効果の検証・改善策の提案を、執行部や教職員等に情報発信し、理解を促進するところになっている。
 二つは、学士力の可視化において、授業科目の成績分布に偏りが見られたことから、データの信頼性を高めるために3年程時間をかけて成績評価の基準を明確化し、全学で統一することになり、平成27年度に下図の通り、「授業設計と成績評価ガイドライン」を全学で導入した。

 成績評価を厳格化することに焦点を当てるのでなく、授業改善に向けたPDCAサイクルを意識して、より質の高い授業へ工夫と改善を重ねる中で成績評価を考えた。成績評価では、主体的な学びの評価も合わせて、目標を越えて主体的に学修したレベルには、「秀」として一番良い評価を設けた(下図参照)。

 学生と教員間で成績評価の項目と評価内容を共有できるようにするため、授業ごとに担当教員が「授業別ルーブリック」を作成し、電子シラバス上で学生に公表することで、学位プログラム中心の授業科目編成で科目の特性を明確化することにした。その際、ルーブリックを教員が手軽に作成し、授業改善に活用できるよう社会科学系と理工系の「作成マニュアル」を用意することにした。但し、理工系の科目は評価項目や評価基準(達成度のレベル)との照合がしやすいが、社会科学系の科目は評価項目・基準が抽象的となり、具体的な評価にたどり着かないという課題がある。

全体討議

「学士課程教育の質的転換に向けた課題とICT活用を含む改革方策を考える」

【話題提供】

「シラバスによる教学マネジメントとIRによる修学指導の取り組み」

 河合 儀昌氏(金沢工業大学常任理事、情報処理サービスセンター所長)より、主に次のような紹介が行われた。

1.シラバスと教学マネジメント

 本学では、教育改革における目標を明確化するため、学園ビジョンの中で「自ら考え行動する技術者の育成」を教育の実践目標としている。具体的には、学生、教員、職員が実践する目標について、学生は「知識から知恵に」、教員は「教える教育から学ぶ教育へ」、職員は「顧客満足度の向上」を常に意識することを共通認識としている。また、学部・学科の教育目標、科目群の教育目標を体系化するため、教育理念、授業科目の目的、学修・教育内容を明示し、学生自らが積極的に学修できるようにするとともに、自己点検・評価の一環として、授業内容を公開し、教育機関としての責任を明確にしている。これらの目的を実現するため、シラバスの内容について教員相互による確認を行うとともに、授業内容に関する自己点検評価もシラバスと関連して行っている。

(1)教育内容の確認

 教育改革の中で新たな学修プロセスを導入する際に、学修評価の内容を始めとしたシラバスの改訂を行ってきた。例えば、試験、クイズ、小テスト、レポート、ポートフォリオなど複数の評価方法が採用されているのか、評価の割合が科目の総合力を表す指標として適切であるのか、最終的には学生の行動目標に結びついているかなど、シラバスの記載内容が大学の方針が適切に反映されているかを教員間で確認を行っている。また、文部科学省の「地(知)の拠点整備事業」に採択されたことを受けて、全学で「地域連携」に関連する科目の活動の要素がシラバスに提示されているかの確認も行っている。このように教育の目標や仕組みが変わる際には、シラバスの内容を通じて大学の方針との整合性を相互点検しており、主に学科の主任教員、学科長で行っている。

(2)授業内容の自己点検評価

 シラバスの教育目標には、学科の教育目標との関連を踏まえ、「学生が達成すべき行動目標」を明示している。全学で実施する授業アンケートでは、学生の行動目標を授業アンケートの評価項目に転載し、学生各自が達成度の自己評価を行っている。また、授業アンケートの結果を受けて、教員は授業の自己評価を行っている。学生からのコメント等を分析し、次年度における改善方法を考え提示していくことで、シラバスが学生、教員共通の点検評価項目として活用され、カリキュラムを通した教学マネジメント実践の一つとなっている。
 シラバスの作成は、全てWebシステムの「学習支援計画書登録システム」で行っている。登録の際にシラバスの内容確認を学科の主任教員が行い、問題なければ確認ボタンを押して公開される。問題があればシステム上で差し戻し、修正することにしており、確認がとられない限り公開されないので授業は成立しないことになり、シラバスの内容が具体的に反映されることで教学マネジメントが機能するようになっている。

(3)e−シラバスの開発・運用

 平成26年度に採択された文部科学省の「大学教育再生加速プログラム」で「e−シラバスシステム」を開発した。e−シラバスの特徴は、授業の学修ポータルとして、授業に関連するコンテンツを集約して提供することで、アクティブラーニングを促進する。また、授業と課外活動の相乗的な効果で人材育成できるように、e−シラバスで連動するようにしている。上図の通り、毎回における授業内容の説明、予習課題の「Eラーニングシステム」、「ビデオ学習システム」、学習教材の「教材配信システム」など各種教材の登録、利用期限、提出期限等の設定や管理を統合する機能と、「予習確認シート」、「ポートフォリオ」、「レポート」などにより、教員が学生の学修状況を把握して授業に臨むことができる実績管理の機能を提供している。

(4)e−シラバスの利用状況

 平成28年4月からe−シラバスの運用が開始された。前学期に開講している全授業1,181の中で、e−シラバスを利用している授業が6月で638、予習・復習などの課題として教材が登録されている授業が433、各月当りの学生ログイン数は10万回を超えており、1学生当り20回程度e−シラバスを使用している。学生からは、教員からの課題提出への対応や学修に必要な情報が全てe−シラバスに統合されているので、便利になったとの感想が多い。

2.IRによる修学指導の取り組み

 平成20年度より留年者、退学者が増加傾向を示したことから、退学に至る状況を未然に防ぎ、希望する進路・卒業に導く指導を行うため、IRを用いたデータ分析と解決に向けた施策の立案・実施を迅速に行う修学指導の取り組みを始めた。体制としては、次ページのように学生の情報を各部門(情報部門、教学組織の学生部、大学事務局の学生部門、進路部門、産学連携部門、IR部門、カウンセリング部門)から収集できるよう、各部門を横断する「修学指導対策会議」を設け、各種IRデータを用いて学生の変化を早期にキャッチする仕組みを下図のように作ることにした。

 例えば、IRデータを用いた取り組みとして、1年生を終了した段階で修得単位数と成績評価(GPAに相当する最高値を4としたQPA)を相関し、単位修得/成績状況が非常に悪い学生の集団を特定し、これら学生集団が卒業できるかどうか、過去に遡って卒業状況を分析した結果、ほとんどの学生が卒業していなかったことが判明した。
 そこで1年生の段階で保護者も含めた早期の修学指導を行い、1年生から3年生までのクラス指導を担当する修学アドバイザ−に修学リスクの高い学生の情報を提示し、個別指導のサイクルを徹底した。このような指導情報を下図のようにシステム上で情報を共有することで、教職協働で修学状況悪化の未然防止を行っている。

【話題提供】

「学修成果の可視化と学生・教員による相互評価の促進」

  望月 雅光氏(創価大学教育・学習支援センター長)より、主に次のような紹介が行われた。

1.学修成果の可視化への取り組み

(1)FDの活動

 教員に対する授業改善の支援を目的として、2000年に教育・学習支援センタ−(CETL)を開設し、2002年に学生参加型授業、いわゆるアクティブ・ラーニングの組織的導入を始めた。翌年には、特色GPで「『学生中心の大学』のための教育・学習支援」が採択されたこともあり、FD活動を浸透させることができるようになり、協同教育のLTD(話し合いによる学習)の手法をCETLの取り組みとして、組織的に導入した。そのような経緯から、現在では約8割程度の授業でアクティブ・ラーニングが実施されている。

(2)FDの体制

 全学的なFD委員会があり、副学長を委員長として学部長等を構成員に、学士課程教育機構とCETLで対応している。学外公開FDとして創価大学FDフォーラムを年に1回、学士課程教育機構セミナーを年6回程度実施している。また、学内向けにCETLによる勉強会を随時実施している。しかし、参加教員が固定し、拡大しないことから、教授会でFD活動の資料を配布して概要説明することで、教員全員が、情報を共有できる体制をとった。FDの年間目標を3年ごとに設定し、授業外時間数の拡大、シラバスの到達目標の明確化などを目指してきたが、現在は、到達目標の達成状況を確認する学修成果の可視化を目標にしている。特に、共通科目は、3年に1回、報告書の提出を義務づけている。

(3)大学教育再生加速プログラム(AP)事業での取り組み

①AP事業による取り組みの概要

 建学の精神に基づく、創造的人間の育成を実施していくには、下図のように、二つの柱を設けて進めている。一つは、学修目標を意識してその達成に自らの学びを律し、真に能動的な学修となるよう、アクティブ・ラーニングの質的向上を図る。二つは、学生各自が学修成果の達成をルーブリックで自己評価し、その結果を学生と教員が共有して学修成果を可視化することで、学生と教員相互による評価文化の醸成を目指す。

 アセスメントの内容は、既存の電子ポートフォリオに限界があるので、敢えて別に、ショーケース型の電子ポートフォリオを作り、学びの集大成として、自らの学びを発表できる場を設けることにしている。例えば、任意なイベントで、学生相互に成長を承認し合ったり、オープンキャンパスで後輩に学修成果をアピールしたり、卒業時に何等かの形で、成績優秀者がプレゼンテーションするなど考えている。なお、発表用のパワーポイントもショーケース型電子ポートフォリオに保存することを考えている。

②アセスメントの仕組み

 アセスメントは、学修行動調査、学修成果調査、卒業生調査など各種の学生調査と、授業内で行うアセスメント調査の2つを柱として実施している(下図参照)。

 卒業生調査では、雇用先に聞き取り調査を行い、本学の学生に求めている能力、資質をデータとして整理し、IRにフィードバックしている。また、雇用先で優秀な学生のパフォーマンスを、評価指標としてルーブリック化し、そのような学生に近づくには、何が足りないのか分かるように、学修成果の把握を行っている。
 授業内アセスメント調査は、学年進行に応じた学修成果を点検するために、アセスメント科目を必修化している。個々の授業評価では、学修成果のレベルが明確につかめないことから、3つの科目を各学部で指定し、アクティブ・ラーニングを通じてどのような能力が、どの程度身についているのか、複数の専門科目を履修した成果を点検させることにしている。
 入学時点、2・3年次、3・4年次の3段階で汎用能力レベルを評価することで、入学から卒業に向けて、最低3科目設定し、学生は卒業までに3回自己点検しており、最終的には卒業要件化を行う予定にしている。

③アセスメント科目

 アセスメント科目での課題や学修活動は、ルーブリックに対応したものを用意している。ポートフォリオを用いた振り返りは、学生同士の相互評価をとりいれており、アセスメント科目の担当者は、学生の振り返りや各種データに基づき、同僚教員と授業改善に向けた話し合いを同僚会議で行っている。
 アセスメント科目では、学期はじめに「学びはじめシート」と最初の状況を知る「自己評価ルーブリック」を作成させる。学期途中では、「中間振り返りシート」で到達目標への学びの調整を行わせ、学期終わりでは、「リフレクションシート」と「自己評価ルーブリック」、さらに、相互評価を通じて気づいたことを記録する「自己成長記録シート」を作成させている。
 自己評価ルーブリックは、教員が学生を評価するのでなく、学生自身が学期のはじめと終わりに、自らの成長変化を点検できるように、全学共通の指標を大学で設定し、マークシートで行い、数値化して再利用できるようにしている。なお、全学共通の指標に加えて、学部の判断により新たに指標を追加し、評価できるようにしている。例えば、1年生前期の「学期はじめ(共通)」のマークシートでは、大学生に必要な姿勢や能力に関する指標として、4つの評価項目(「学びの計画性」、「大学生としての自覚」、「学習者としての自覚」、「新しい仲間作り」)の意義について読ませた上で、高校までを振り返りながら、今の学生自身のレベルに最も近い状況を選ばせる。また、経営学部では、上記4つの指標に加え、「学期はじめ(経営)」として、2つの指標(「メタ認知・自己調整力」、「経営学を学ぶ意義」)を追加している。

2.相互評価文化の醸成

 学生は、自己評価ルーブリックを用いて自分の汎用的能力の伸長をグループ内で点検し、その結果を共有して、互いに学びの取り組みを認め合い、さらなる成長を励ます。教員は、学生の振り返りのデータに基づき、カリキュラムの効果を点検し、その結果を教員間で共有し、質問形式による同僚会議で学生のさらなる成長のために、教員として何ができるのか、話し合いを通じて気づきをもたらす中で、チームで授業改善計画を策定・遂行するようにしている。このように学生側、教員側で成長志向の相互評価文化を醸成している(下図参照)。

 質問形式の同僚会議では、科目担当者から授業ポートフォリオに基づいた振り返りを行い、その上で振り返りを踏まえて、メンバー全員でカリキュラム検討の場とするため、意見を言う場としないように、質問するか、それに答えることしかできない中で気づきをもたらすようにしている。

3.質的向上に向けた研修の工夫

 専任教員全員が、対象の1泊2日集中型の教員研修を実施し、授業設計の基本を学び、アクティブ・ラーニングをとりいれた授業改善としてコースシラバスを作るようにしている。研修の最後に、グループごとに互いにシラバスを発表し、検討し合うことで、科目間のつながりが意識され、カリキュラムとしての成果の共有が進む。
 研修の呼びかけに、最初は教員の反発があるが、研修を受けると、日頃授業で困っている悩みが、互いに出せる場となって満足するようになる。そして、シラバスに基づいた授業を実践し、その成果を次の学期はじめに同僚と振り返る、いわゆるフォローアップ研修が効果的である。また、教員がファシリテータになれなくても、SAを養成して代替する方法があることから、SA(スチューデント・アシスタント)の質を均一化する研修が必要となる。SAを通じて学生からの授業に対する改善の声が聞けるなど、SAが良くなると、教員もかなり刺激されて授業改善が進むという特徴があるので、教員の研修とSAの研修の取り組みをサポートする体制を作る中で、ボトムアップの改善につなげていくことが必要である。

【全体討議:主な意見交流】

 向殿会長を座長に、宮川副会長、横浜国立大学曽根氏、金沢工業大学河合氏、創価大学望月氏、井端事務局長を交えて、最初は質疑から始めた。

[質問1]創価大学で「創造的人間の育成」を目指すために、企業に実施している卒業生調査のデータはどのように活用しているか。

[回答:望月]企業では、締め切りを守らない、約束を守らない、報告しないなど、以外と基本的なことでつまづいているので、教育の中で体現できるように工夫している。

[質問2]創価大学で実施している個人の自己評価、学生相互による評価について、甘い・厳しいなどあり、適正に評価できないという心配があるが、どうか。

[回答:望月]大変難しい質問と思う。実際は、教員の評価と学生の評価の違いを見て、どうして評価が違うのか、学生個人にワークさせればよいが、そこまで達成できていない。

[質問3]金沢工業大学でICTの話とJABEE(技術者育成に関る教育の認定)は共存できているか、現在でもJABEEを卒業生に与えているのか、APとJABEEが並列でいけるのかどうか。横浜国立大学ではどうか。

[回答:河合]JABEEは技術教育の最低質保証としてスタートしており、今回3ポリシーで求められている質保証の実質化が現場レベルで混乱することもあり、今後どのように対応していくのか、結論は出ていないが、今のICTを考えた時にJABEEは非常に厳しい状況に陥るのではないかと自分自身は思う。

[回答:曽根]横浜国立大学では、理工学部の建築系の選考でJABEEをとっている。全学教育推進センターに教育データ提供の依頼が来るが、今のところJABEEプログラムの中で不整合があったという話は聞いていないので、ICTによる情報を活用していると理解している。

 次いで質疑を終了の後、教育の質的転換に向けた課題として、ICTをどのように活用できるかについて意見交流を行った。以下に主な論点を整理してみた。

[論点1]学士課程教育の質的転換について、経営環境が急速に悪化する中で、ICTの活用をどのように認識していくべきか。

[意見:宮川]ICTと経営の問題について、青山学院大学社会情報学部で感じる中での問題として、ICT化が経営サイドから遠くにあり、経営的な組織活動の中に情報化として適切な形で組み込まれていかない現実がある。ICTを活用すれば経営でも役立つ面が多々あると思うが、チャンスを失っている。

[意見:井端]大学の人、物、資金、情報という資源の活用を、経営に最適化することが今求められている。ICTで教育データを組み合わせ、学生の学修行動を分析・予測する中で、次善の策を考えていくことが必要で、金沢工業大学の取り組みのように、ICTを活用して一人ひとりの修学状況を把握し、早期退学者を未然に防止するなど、大きな役割がある。

[意見:向殿]教育の質的転換、質の向上にICT、情報システムは効率的であるが、経営側から見ると効率的に活用していないのではないか。経営、教育に組み込んで、資源の最適化を図ることが重要になってくるのではないか。

[論点2]大学の経営執行部は、IRシステムをどの程度理解し、支援しているか。

[意見:河合]経営方針に直接IRデータを提示して、提言はしていないが、一部の課題について問題解決に役立てている。例えば、高校卒業時における調査書の学力レベルを引き上げることにより、質が向上する提言を行い、受け入れられてきた。

[意見:宮川]IRシステムは、コンピュータシステムとして認識していない。教育活動の中で、どのような情報が教員や学生の活動を活性化するのに有用なのか、そのためにどのような能力が求められるのか、などの視点でIRの仕組みを考える必要がある。

[意見:曽根]横浜国立大学では、執行部の副学長から中期目標などの作成にIRデータが活用されており、理解がある。しかし、センターの現場でデータ作成等に十分応えられていない問題がある。

[総括:向殿]今後10年後に若者一人ひとりが主体的に社会に参画し、活躍できるよう、我々大学関係者は自己犠牲を厭わず、学生を支えていくことが使命ではないかと考える。
 毎年、学生が社会に巣立っていくことを考えると、待ったなしの感が否めない。ここに参集の大学が、教育イノベーションの連携を深めて、未来を担う若者に「希望」と「自信」を持たせられるよう、その実現を目指して、全体討議を閉じさせていただく。

関連情報提供

1.ICTによる分野横断型フォーラム授業の構想

(1)構想の背景と意義

 様々な分野で世界に通用する新機軸や新しい発想が求められており、知識を組み合わせ、知恵を創り出す学修に転換していくことが重要となる。異なる分野の学生や専門外の人を交え、これまでの常識や枠組みにとらわれず、インターネット上で多分野の学内外教員及び社会の有識者を交え、多面的・俯瞰的に捉える学びの経験を行う中で、知識を統合し、発想・構想していく分野横断型の学修が必要となる。

(2)ICTによる分野横断型フォーラム授業の仕組み

 ここで提案する授業は、未来を切り拓いて行く意欲のある主体性を持つ、基礎知識の修得を終了した学生で、希望学生を対象に選抜して行う。授業の形態は、単位の修得を目指すのではなく、多面的に問題を捉え、論理的・合理的な思考を繰り返す中で、本質を見抜く訓練を目指す。授業方法は、国又は社会で抱えるテーマについて、インターット上で異なる分野の有識者間とフォーラムを行い、それをビデオ収録して教材とし、インターネット上にチームを編成して議論する。有識者による助言・評価を通じて、振り返りを行い、最適な解をとりまとめ、公表する。学修環境は、学内又は拠点大学のLAN上に学修ポータルを形成し、スカイプやチャットなどを多用する。教員の役割は、問題の設定、有識者の選定、録画教材を用いたアクティブ・ラーニングの授業運営に徹する。

(3)モデル授業の概要

①「市民性の涵養を目指した法政策フォーラム型授業」の提案

 従来の法学教育は、法律の専門知識の伝授に主眼がおかれていたが、今日では様々な法的な問題に対応できる人材の養成が求められてきている。それには分野の異なる多様な人達と、様々な視点から問題を多角的に分析し、対話する中で批判的に物事を捉え、市民の立場から法律を理解し、活用できる市民性の涵養を目指した「市民に開かれた法政策フォーラム」を検討している。
 市民の多くが疑問に思っている法律上の重要問題について、ネット上で有識者間の討論を行う。授業では有識者間の討論を教材にして、法学を含む異分野の学生にLMS等を用いて学内フォーラムで議論・考察を行わせる。テーマとしては、例えば「自動運転車両による交通事故の責任のあり方」などが考えられる。

②「知識の創造を目指した多分野連携によるフォーラム型授業」の提案

 厚生労働省の健康施策として、「臓器型」モデルから「全身健康管理型」モデルへの移行が要請されており、日本学術会議での医学教育分科会では医学と歯学、薬学、看護等の多くの分野が緊密に連携したチーム医療の確立が指摘されている。医療人として患者中心の医療を進めるには、多面的な視点から問題を整理し、自職種の限界を知り、多職種の視点を組み合わせる中で、最適な解決方法を合理的に見出すクリティカル・シンキングによるチーム学修が重要となる。
 例えば、「超高齢社会で健康長寿社会の実現」をテーマに、地域社会の保健、医療、福祉、行政、法律などに関連する有識者間のフォーラムをネット上で実施し、多学部・多学科の学生に教材として多面的な知見を提供する中で、ネット上で問題をマッピンッグして整理し、課題を設定してグループで問題解決に向けて議論するPBL教育を検討している。

2.学修ポートフォリオ情報の活用対策と教職員の関り方

(1)授業の有効性を点検・評価するための学修ポートフォリオ活用の留意点

 カリキュラムと授業との整合性を点検・評価し、学士力育成の観点から授業価値を振り返り、授業内容の改善、又は授業科目の調整に取り組むことが求められている。具体的には、教員による授業デザイン、授業マネジメントの自己点検が必要となるが、教員の視点による授業づくりに限界があることから、学生の視点や学内外教員、社会の意見を反映した授業マネジメントが望まれる。有効性を評価する視点としては、「教室外の学修時間数と学修行動の把握」、「授業理解度の把握」、「can doリストによる知識・技能・態度の把握」、「主体性・多様性・協働性の把握」が考えられる。その上で、学修ポートフォリオと授業評価アンケートを組み合わせて、学士力の定着状況を総合的に点検するとともに、ティーチング・ポートフォリオとマッチングして、授業の貢献度合いの観点から、授業科目の価値を振り返ることが望まれる。

(2)授業価値を振り返るためのティーチング・ポートフォリオの導入

 学生に学びの振り返りとして学修ポートフォリオを求めているように、教員にも授業成果に対する振り返りを求め、次の授業に向けてのPDCAを繰り返す中で、授業改善を図る必要がある。しかし、ティーチング・ポートフォリオを組織的に導入している大学は、本協会加盟校の調査によれば、平成26年度時点で全学もしくは、一部の学部・学科で42校約2割、29年度は67校約3割と少なく、今後大学として避けて通れない課題として、教員一人ひとりに授業の自己点検・評価を習慣化する取り組みについて、理解の促進を行う必要がある。
 現在、導入しているティーチング・ポートフォリオの多くは、「教育の責任・責務」、「教育の理念と目的」、「教育の方法」、「成果と評価」、「今後の教育目標」、「具体的なエビデンス」など教員の教育業績の有効性を記録・表現した回顧録のようになっており、振り返りを習慣化して授業改善に活用する仕組みになっていない。教員にとって記録し易いものであり、またそれを利用する側にとって分かり易い、負荷がかからない、便宜的なシステムが望まれる。
 そこで、下図のように簡易的なティーチング・ポートフォリオを考えた。学修ポートフォリオに掲載の「学修到達度の自己点検・評価」、授業評価アンケートに掲載の「授業内容と取り組みへの評価・意見」、教務システムに掲載の「試験結果」をティーチング・ポートフォリオのポータルサイトに一覧できるように表示し、今後の改善点をコメントできるようにする。さらに、その改善点を次年度のシラバスに自動的に掲載できるポータルサイトをイメージした。

 しかし、米国のテニュア制度のようなインセンティブがないので、多くの参加が期待できない。教員の主体性に依拠することから、業績評価として義務付けることは現状では適切でなく、理事長または学長表彰など教員の教育業績の顕彰制度の中で活用することが得策としている。

(3)学修ポートフォリオによる教育プログラム有効性の点検

 ディプロマポリシーに掲げる能力が教育プログラムとして機能しているかを点検・評価するには、学修ポートフォリオと教学データを組み合わせた教学IRを整備する中で、学士力の達成状況を総合的に把握することが必要となる。例えば、各授業科目の到達度状況を集計した学修ポートフォリオと成績評価、能動的学修の実施状況、学修成果の評価、資格取得状況、課外活動状況などのデータを組み合わせ、教育プログラムとしての機能を点検・評価することを通じて、科目の統廃合などカリキュラム編成の見直しなどが可能となる。

(4)学修ポートフォリオによる学生の負荷軽減のための教学マネジメント対策

 アクティブ・ラーニングを全ての科目で実施すると、事前・事後学修の時間確保が極めて困難になる。学年当りの授業科目数は、平均で10科目前後となっており、それに必要な教室外の学修時間は1日平均8時間程度となり、教室授業の学修時間と合わせると過密になり現実的ではない。授業科目数が欧米の4科目から5科目に比べ、2倍以上多い。学生の学修時間を考慮した授業科目の規模について、授業科目の調整・統合または新規科目設置などの見直しが必要となる。教員中心の授業科目編成から、学位プログラム中心の科目編成に転換することが必然的になる。学部学科組織の中で科目の役割を再点検し、学士力を身に付けるために真に必要な科目の内容を再設定し、複数教員によるチームティーチングなどの工夫が必要となる。

(5)教職員の行動変革を推進する取り組みの留意点

 教育の質的転換を全学的に進めていくには、「大学の教育活動が社会の要請に応えられるものとなっているか」、「学生が希望する能力を身に付けることができるようになっているか」など、教学IRデータに基づき、レ−ダチャートなどで可視化し、ディプロマポリシーとカリキュラムポリシーとの整合性が点検・評価できるようにすることが望まれる。また、教員及び担当職員が日常業務の一環として意識することなく、教学IRデータを用いて点検できるように習慣化していくことが肝要である。その上で、学士力の実現に向けた議論を学内のFD担当教員及びSD担当職員、ファシリテータの代表学生、企業・地域社会の主要な関係者と連携して、多面的に行える場を設けることが望まれる。

3.経営執行部の情報セキュリティに対する取組み

 サイバー攻撃などによる情報セキュリティの問題は、社会・経済全体にも波及する可能性があることから、全構成員が意識を共有し、組織的に取組むことができるよう、経営執行に携わる役員のリーダーシップが、極めて重要である。
 その対策として、4つの取り組みを考えた。
 一つは、サイバー攻撃による情報資産・金融資産の脅威に対する危機意識の共有化を推進する。理事会でサイバー攻撃への防御を全学的課題として意思決定し、サイバー攻撃による脅威の認識を徹底する。構成員一人ひとりが防御意識の持続化を図れるように、振り返りをさせる仕組みが必要で、自己点検・評価の結果を踏まえて、全学的な取り組みについて見直し・改善することが重要となる。
 二つは、学内ルールの構築と周知徹底を行う。情報セキュリティポリシーに関する取り扱い基準の構築、構成員全員にサイバー攻撃に対する最小限度の行動基準を作成し、理解を徹底する。情報資産の所在を明確化し、情報資産別に被害の重大性を想定して防御の仕方を共有しておく。請負業者についても、情報セキュリティの問題意識を、職務責任として契約などで明確化しておく。攻撃を受けたときの緊急対応として、被害の拡大を防ぐために、ネットワークの切断などの初動対応について予め定めておく。
 三つは、防御体制の構築と点検評価を徹底する。統括責任者の役割と権限を明確化した上で、防御に関する取り組み対策のとりまとめ、点検・評価のガイドラインを検討する「情報セキュリティ委員会」の設置、防御の実施と点検・評価の徹底を働きかける「情報センター等部門」の充実、危機管理マネジメントの内部統制組織として機能する「情報セキュリティ委員会」の設置が必要となる。
 四つは、教職員に対する教育や模擬訓練の実施と徹底を行う。全学的な呼びかけによる危機管理研修が不可欠で、サイバー攻撃の事例を通じて、脅威に関する認識を徹底し、脅威に遭遇した時の緊急対応の模擬訓練を行う。最小限度心がけておくべき対応として、不審メール見極めの模擬訓練の体験、ウイルス拡散、機密情報の外部への漏えい、システム破壊などの被害の知識共有化、被害防止意識の向上、被害の拡散を防ぐため、相談・連絡手順の修得が望まれる。

4.情報セキュリティベンチマーク評価のガイドライン

(1) ベンチマーク評価の視点

 アウトカム評価に不可欠な要素を設定し、点検項目及び対策内容について見直しを行い、昨年度の51項目から23項目に選別し、情報セキュリティの対応状況を一覧できるようにした。とりわけ、大学執行部の関与を重視し、その上で情報資産の把握、組織的な対応、技術・物理的対応との関係性をマッチングすることにした。

(2)ベンチマークによる対応状況の確認

 「経営執行部の情報セキュリティに対する取り組み」に30点、「重要な情報資産の把握と管理対策」に20点、「組織的・人的な対応」に20点、「技術的・物理的対策」に30点を配点し、重み付けを行った。経営執行部の取り組み状況から、一貫した情報セキュリティ対策の活動を自己点検・評価し、不足している取り組みについて組織的に計画・行動できるようにした。

(3)情報セキュリティの改善に向けた対策

 ベンチマークリストによる評価結果にもとづき、各大学が今後改善に向けて取組むべき対応、及び個別の対策について、どのように改善行動を進めていくべきか、参考となる取り組みについて、以下に「4つの視点で重視すべき改善対策」、「自己点検・評価結果を受けた段階的な改善行動」を例示する。

【4つの視点で重視すべき改善対策】

①危機意識の共有化対策

 情報セキュリティの脅威となる事象がもたらす被害の重大性について全学的に理解を普及し、大学構成員一人ひとりが危機回避のために気づきができるよう、周知徹底を意思決定する。
 脅威となる事象の被害事例を説明し、自大学で起きた場合のリスクを想定して、大学構成員一人ひとりが心得るべき気づきを促す。学内外の情報セキュリティ研修会参加の義務化、FD・SD、教授会、職員会議などでの定期的な情報提供、Webサイトや学内文書による定期的な情報提供、学部・学科の履修説明会など、学生に対する注意喚起が考えられる。

②構成員に学内ルールの周知徹底と遵守の対策

 IPA(情報処理推進機構)の情報セキュリティに関する脅威や対策などの映像コンテンツを学内LANで強制的に視聴させる他、学内ルールの遵守状況をアンケートで確認する。

③情報セキュリティに関する意思決定や脅威となる事象に対応する組織

 統括責任者の役割と権限を明確にした上で、専門の委員会が危機管理マネジメントの内部統制組織として機能できるよう規定化する。その上で、インシデントに緊急対応する権限や防御の仕方及び外部機関や業者と情報の交換・共有をする組織を設置する。

④重要な情報資産の把握対策

 職員は、組織的に重要な情報資産に対するアクセス制御及びリスク評価を義務付ける。教員は、情報資産を研究室単位で管理するために、情報資産の一元管理、アクセス制御、ネットワーク制御の実施を行うか、あるいは学内クラウドのように全学一元管理システムとしての利用がある。

⑤教職員への危機意識の対策

 パソコン画面に「メール開封時の注意喚起」を掲示し、注意履行の確認を行わせる仕組みを設ける。「不審メール見極めの対策」としては、ウイルス拡散、機密情報の外部漏洩、システム破壊など、被害の重大性について認識できるよう、学科単位、部署単位の関係代表者を対象にワークショップなど見極め対策を行う必要がある。

⑥「不用意な情報漏洩対策」

 大学構成員がUSBなどで重要な情報資産の持ち出しできないよう規定し、システム上で禁止対策を講じておく必要がある。

【自己点検・評価結果を受けた段階的な改善行動】

①ベンチマーク評価の中で検討中または対応していない場合

 危機意識が不足していると思われるので、情報セキュリティの脅威に関心が集まるよう、情報センター等部門または委員会などで、私情協や報道関係の資料を学内に発信する取組みを早急に始める。「情報セキュリティポリシーなど学内ルールを策定していない場合」は、私情協のWebサイトに掲載されている他大学の規定を参考にセンター等部門または委員会組織で早急に策定する。

②経営執行部が直接関与していないが、情報センター等部門で対応している場合

 執行部に対して、脅威となる事象による被害の想定、情報セキュリティに関する映像コンテンツを用いて、大学として対応すべき対策の重要性について説明する。その上で、大学として取組んでいるベンチマークの評価結果を踏まえて、問題点を抽出し、不足している対策の認識を共有する。

③経営執行部が関与している場合

 ベンチマークの評価結果で不足している対策の他大学及び他機関での対応状況を踏まえ、改善計画を提案し、予算化を含めて実現に向けた行動準備を計画的に進める。その際、最適な改善計画を整備するために、他大学及び他機関との情報共有の仕組みを構築しておくことが必要となる。

5.平成27年度教育への情報化投資の実態

 加盟校218大学の約9割、86短期大学の約6割における教育研究部門の情報化投資(人件費を除く物件費)の実態は、中央値で大学平均は約2億4千万円と26年度と同額に近い規模であった。短期大学は、2割程度の増となっていた。
 クラウドの利用状況は、7割が利用しているが、中央値で大学400万円、短期大学50万円となっており、メールを中心とした利用に留まっている。なお、1千万円以上の大学は利用大学中の2割で、1億円以上は4大学、最高で3億6千万円、短期大学では1千300万円であった。

大学規模別 教育研究部門の情報投資額
(単位:万円)

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