特集 知識の創造を目指したICT活用教育モデルの研究

 政治、経済、生産、教育、医療など活動が地球規模で展開するグローバル社会では、多くの分野に境界が無くなり、変化が常態化し、これまでの社会及び組織の仕組みやマネージメントが見直されるなど日々革新が求められており、市民一人ひとりが異なる文化・価値観を受け止め連帯・協働する中で、新しい価値の創造に関与していくことが喫緊の課題とされています。
 そこで、本特集では、既成概念にとらわれない新たな発想や価値の創出を目指す学びの仕組みとして、多分野の教員、社会の有識者による議論をネット上で共有し、それを教材にして対面及びネット上で分野が異なる学生間や市民も交えたチームによる議論を通じて知識を組合せ、知恵に転換していく分野横断型フォーラム授業のモデルを本協会の学系別研究委員会で研究している教育モデルを紹介します。また、実際に大学間、産業界と分野横断型のPBLを実施している事例を通じて思考力の活性化、強化を推進する教育改善への取り組みを紹介します。

本協会研究のICTによる
分野横断型フォーラム授業の構想

1.構想の背景

 日本は、国、社会が抱える課題を克服する課題解決の創出国として自ら新たな成長分野を創り出し、チャレンジすることが要請されています。様々な分野で世界に通用する新機軸や新しい発想・構想が求められており、データや情報を収集・分析して知識を構成し、多様な知識を組み合わせて知恵に転換し、新たな価値の創出に関与できる人材の育成が望まれています。

2.大学教育に対する認識の転換

 これまでの大学教育は、一方向的な知識の伝達・注入に比重がおかれ、必ずしも未来に立ち向かっていく学生の意欲と能力を強く育むものとなっていませんでしたが、これからは大学と社会が一体となり、社会課題の解決に向けて、解が一つに定まらない中で最善の解を求められるよう、多様な知識を組み合わせて議論を繰り返しながら考察・発想し、実現可能な最適な解を創り出す学修に転換していく新たな教育の仕組みの整備が望まれます。
 学生に最良の学びを提供できるように、ネット上で有識者の知見を得て、異なる分野の学生や社会人を交える中で、チームで多面的に学びを協働し、常識や既成概念にとらわれずに学修する仕組みが必要です。特定分野の学修だけでは最善の解を導き出すことに限界があることから、教員一人ひとりが学問の社会化を積極化・拡大化して、学際的な学修機会の場の提供を心掛けることが肝要です。

3.ICTを活用した分野横断型のフォーラム授業

① 協会で考察している授業は、未来を切り拓いて行く意欲のある主体性を持った学生で、基礎知識の修得を終了した学生を対象として考えています。例えば、ネット面接などにより学生の意思、基礎能力を確認し、選抜することを前提としています。その上で、学部間又は大学間で異なる分野のチームを編成し、主体性、多様性、協働性を身に付けたチームをネット上に構築します。

② 授業は、参加学生一人ひとりの思考力を活性化し、発想力・構想力の向上を目指すもので、単位の修得を第一義とするものではありません。
 授業では、多面的に問題を捉え、批判的・合理的な思考を繰り返す中で、本質を見抜く訓練を想定しています。したがって、授業形態も必修ではなく、学びを希望する学生の意思を尊重して選択科目、又はカリキュラムの枠外などによる課外の授業が適切と考えます。対象とする学年は、基礎的な知識の修得、PBLなどチーム学修を体験している3年生又は4年生(医療系は4年生以上)を想定しており、社会課題を多面的に議論・考察し、とりまとめ、発表するなど高い水準の授業を考えています。

③ 授業方法は、地球規模から国又は社会で抱える問題(テーマ)について、インターネットで多分野の有識者間でフォーラムを行い、多面的な知見をビデオ収録し、それを教材として問題発見、課題探求につながる情報を提供します。その上で、インターネット上に異分野で構成するチームを編成して意見交換及び議論し、チーム間での発表・評価及び有識者による助言・評価を繰り返す中で、振り返りを行い、最適な解決策を見出し、成果をとりまとめ、公表する訓練をします。

④ 授業の実施イメージは、学内又は拠点大学のLAN上に学修ポータルを形成し、スカイプやチャットなど多用します。蓄積したコンテンツを学修ポータルに掲載し、チーム及びチーム間で共有します。また、チームごとに助言・評価を受けられるようチーム別のサイトを設定しておきます。

⑤ 教員の役割は、地球規模、国・社会で抱える問題の設定、有識者の選定、有識者によるフォーラム教材を用いた授業支援に徹します。その過程で教員も学際的に知識の関連付けを体験する中で、真理の探究を目指して学生とともに学ぶ姿勢が求められます。

⑥ 学修成果の到達目標は、「問題の本質を考察できる」、「関連分野の知識を組み合わせて関連付けを行い、新しい価値創造に取り組むことができる」、「多様性に配慮して自分の意見を発信できる」などを想定しています。以下に、3分野における研究内容を紹介します。


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