事業活動報告 No.4

平成28年度 FDのための情報技術研究講習会
開催報告

1.はじめに

 本講習会は大学教員の教育技術力向上のための学外FD活動の一つとして毎年開催されている。今年度は、知識の定着・活用を目指したアクティブ・ラーニングの実現のためのICT(情報通信技術)活用および教育改善手法の習得を目的とし、平成29年2月22日〜24日の3日間、大阪経済大学において(1)学生参加型授業のLMS技術習得コース、(2)反転授業コース(知識・定着確認)の二つのコースで実施された。参加者数は、ここ数年減少の傾向にあり、19大学、23名の参加であった。共通講義として、(1)アクティブ・ラーニングを知る(家本修氏、大阪経済大学、情報社会学部教授)、(2)反転授業へのいざない(向後千春氏、早稲田大学、人間科学学術院教授)、(3)モバイル版LMSの授業活用(栃尾真一氏、追手門学院大学、経済学部准教授)、(4)アクティブ・ラーニングの成功と失敗の事例から(今井賢氏、立正大学、名誉教授)、(5)大学教育における著作権問題−その理論と実際−(中村壽宏氏、神奈川大学大学院、法務研究科教授)、(6)ICTを用いた学修意欲向上への方略(ARCSモデル)(家本修氏、大阪経済大学、情報社会学部教授)の六つの講演があり、アクティブ・ラーニングの紹介、実践的事例、並びに著作権問題について順を追って説明・解説がなされた。授業事例および情報提供についての参加者の評価は概ね高く、「大変有意義で参考になる講演だった、情報技術を沢山得ることができた」、「アクティブ・ラーニングに対する理解が深まった」などの感想が寄せられ、主体性を引き出す授業イメージが共有できた。今後も時機に適った事例の紹介や情報提供をしていくことが重要であろう。

2.講習内容と結果

 「学生参加型授業のLMS技術習得コース」では、LMS(Learning Management System)を利用した事前・事後学修の展開、授業内での学生レスポンスの取得、双方向性を高めるモバイル利用など、学生参加型のアクティブ・ラーニングに求められる手法とLMSの活用技術の習得を目指した。他方、「反転授業コース(知識・定着確認)」では、知識の伝達を授業前にコンテンツ配信によって行い、知識の定着・確認を教室授業のグループディスカッション等によって行う反転授業についての理解を目標とした。ここでは10分程度の映像コンテンツを作成する技術と教室授業で事前学修の理解度を確認し、知識を活用する教え合い・学び合いの授業設計についての習得を目指した。参加者ごとに、各々の担当科目を反転授業で行うための具体的な授業シナリオを立案し、事前学修用の映像を実際に作成した。

(1)学生参加型授業のLMS技術習得コース

 今年度も、講習会で獲得したスキルの授業への活用を念頭に、昨年度同様、学修の時系列に沿って、予習、授業内、復習の各段階におけるLMSの利用方法に関する情報の提供と、それを実現するための操作方法の手順について、参加者の担当授業を題材に講義、実習を行った。
 昨年度は、参加者が利用するLMSの種類が多様であることから、LMSの種類に依存する機能については極力使用せず、どのLMSにも実装されているような一般的な機能のみ用いた講習を実施した。しかし、アクティブ・ラーニングのサポートやより魅力的な学修体験を学生に提供するためにLMSを活用しようとすると、LMSの種類に依存する、より高度な機能の導入と利用を念頭におく必要がある。そこで、今年度は、LMSの種類に依存するものの、アクティブ・ラーニング型の授業を行う上で有用と思われるクリッカー機能や、メンタリング機能についても、紹介と体験の時間を設けた。
 1日目は、まずアクティブ・ラーニングや授業設計に関する情報を提示、共有した後、参加者自身が担当する任意の授業を振り返るとともに、予習、復習を含めた学生の学修サポートに対してICTがどのように利用できるかイメージすることから始めた。その後、多角的な視点を得ることを主眼として、専門分野の異なる参加者3名から4名で1グループを構成し、グループ内で各自の構想に関し意見交換を行った。
 2日目は、スタッフが外部に用意した実習用のLMSにインターネット経由で接続しながら、LMSの各機能の操作方法とそれらの学修における活用方法に関して、具体的な例に沿って講義、実習を行った。その後、これらの実習内容を各自の授業設計に取り込みながら、より具体的な学修の支援方法と授業の構想を膨らませ、最終成果物として、LMS上に1コマ分の授業情報の構築を目指した。
 2日目はこれらLMS上での授業の準備に加え、LMSを用いた授業を実施する上で有用と思われる関連ICTとして、授業におけるタブレット利用、ワイヤレス環境を用いたプレゼンテーション手法についても体験学修を実施した。
 最終日には、参加者全員に各自の成果物の相互発表を行い、その後、参加者全体で、アクティブ・ラーニングやLMS、学修支援に関して意見交換を行った。
 参加者アンケートからは、本講習によりICTを利用したアクティブ・ラーニングの手法とLMSの活用方法の理解について、33%の参加者が「達成できた」、67%の参加者が「見通しがたった」としていた。また、「4月からLMSを利用するためのスキルを身に付けることができた」、「実践的なコースでLMSのスキルが身についた」、「異分野の先生方との意見交換が参考になった」、「全体のプランニングの必要性がわかった」など、講習に対して肯定的な意見が多く寄せられた。その一方で、「もう少し技術的に詳細な内容を扱っても良いのではないか」など講習設計の参考となる意見も寄せられ、今後の講習の設計に生かしたい。
 今年度は、その有用性からLMSに依存するいくつかの機能を紹介したが、今後、より効果の高い講習とするためには、LMSの基本操作に関して事前学修を行うとともに、講習ではより実践的な演習を行うことも検討する必要がある。

(2)反転授業コース(知識・定着確認)

 アクティブ・ラーニングを実施するための本コースは、基礎的な知識と技術を習得し教育効果を向上させ、従来型(受動的授業)の教育から脱する技術を習得することを目指した。アクティブ・ラーニングにおいて反転授業はその効果から積極的活用が求められている。本講習では、反転授業の基礎的な方法と効果についての知識から活用できるように展開するものである。毎年指摘するように、アクティブ・ラーニングは、一義的方法が存在するものでなく学生の到達度や意欲、教育内容さらに環境条件によってきわめて多様に存在し、決まった方法は存在しない。特に学生の意欲や関心によっては有効性の高い方法が選択できる。

 さらに、反転授業では教員のファシリテーション能力が要求され、教育技術そのものの研修や認定が求められることになる可能性がある。また、TBLなどの手法を用いて様々な授業形態が考えられる。その意味でもその効果からも反転授業がアクティブ・ラーニングの授業方法の最終目的でない。近い将来、AI(人工知能)活用した教育方法が実験的に始まっており、時間的にも知識習得レベルや活用レベルにおいても高い効果の可能性が指摘され始められた。その意味では、授業そのものも再考していく必要がある。
 それまでは、従来教育の制度的枠組みの中にあって、効率化された(教科書的知識教育だけでなく社会的知識の育成や知識をもとにした発想・創造能力の育成)展開をしていく必要があり、アクティブ・ラーニング手法から新たな各授業に適合した方法を生み出していく必要がある。
 参加者からのアンケートでは、「反転授業の心構えは理解できたが自らの授業で行うには不安がある」、「反転授業の課題が抽出できたので持ち帰って再考したい」との肯定的な意見が多く見られたが、他方「十分なディスカッションがない」、「教材作成そのものの技術講習がほしい」との要求もあり、講習内容も再考していく必要を感じる。特にピュアレビューにおいてのディスカッションは、反転授業においても協働しながら確立していく要素の一つであり、今後の講習の在り方においても反省していく必要がある。しかし、これらの教育への必要性は、十分認識されているとの評価でもあり各大学に波及的に浸透していくことを期待したい。

3.おわりに

 参加者数減少の最大の要因として、日程の問題が考えられる。今回の実施期間(2月22日〜24日)は、大学では、2月末入試業務や卒業判定にかかわる業務など学事多忙の時期である。また、日数も3日間は長いと言わざるを得ない。このことは、実習中や参加者アンケートの回答の中で、大多数の参加者から指摘されている。日数を含めた日程の検討に併せて内容の再構築が喫緊の課題であろう。なお、本講習会に対する参加者の評価は、参加者個人が抱えている課題の達成について、「見通しがたった」との回答がほとんどであることから、本講習会の目的は達成されていると見られる。
 今後もアクティブ・ラーニングのICT支援展開をテーマとした先導的取り組みである本事業を、これまで私情協が永年実践し積み上げてきたノウハウと、教育界の趨勢を見極めつつ、推進していかなければならない。

文責:FD情報技術講習会運営委員会


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