特集 問題発見・解決思考の情報リテラシー教育の研究

「到達目標C」領域の考え方と教材の例

本協会情報教育研究委員会委員、情報専門教育分科会主査

大原 茂之(東海大学名誉教授、株式会社オプテック代表取締役会長)

1.はじめに

 今や情報通信技術と無関係な領域は存在しないといっても過言ではない時代になっています。AI、IoT、ビッグデータなどを背景に、各種ロボット、車の自動運転、ドローンの活用、医療におけるVRなど様々な応用技術が登場しています。将来、同時進行的に消えていく職業が紹介されていることや、国や企業は経済構造や産業構造の面でイノベーションを目指していることなど、私たちを取り巻く環境は激変しつつあります。
 学生はこれらの話題をネットやSNS等で知り、未来への期待と不安をもっている筈です。
 彼等がネットの風評に振り回されることなく現状を正しく整理整頓し、自分の目的に応じて情報通信技術を活用できるようになる入り口が「到達目標C」領域(以下「C領域」と言う。)の教育であるとも言えます。

2.C領域の考え方

(1)C領域を教えるにあたって

 リテラシー教育にも関わらず、C領域の情報通信技術という用語の先入観から、次のような誤解が生じる可能性が高いのではないでしょうか。
 「この領域は、ネットワーク、ソフトウェア、プログラミングなどの技術的な知識を教える難解な内容で、自分にとっては関係がない」
 こうした誤解を生じさせないためには、理工系、文系、法学系、医療系等々の分野で情報通信技術の恩恵を受けられる力を獲得することを周知しておく必要があります。
 これがC領域の大きな目標となります。この点をさらに具体的に説明します。

(2)C領域が目指す到達目標

 C領域の到達目標は次のように定義されます。「情報通信技術の仕組みを理解し、モデル化とシミュレーションなどを問題発見・解決に活用することができる。」
 言葉だけを見ると難しそうに見えますが、この到達目標を詳細化すると次の①〜③になります。

① 情報通信技術の仕組みと情報通信システムの役割を理解

② モデル化とシミュレーション等による問題の発見・明確化・分析・検証の考え方を理解

③ 新しい評価軸を構築することで問題解決へ繋げる基礎能力を修得

 これらを詳細化した到達目標に対する出口評価ともいえる到達点を次に示します。

3.到達目標に対する到達点

 ここで示す到達点は知識とスキルを含めた力を意味します。なお、スキルとは知識をベースとして、個人に備わる作業・思考などの能力のことです。
 到達目標①〜③ごとに対応させた到達点1〜3は、各1コマ以上の授業を想定しています。

到達点1
情報通信技術の特性を自分の専門領域の立場で説明できる。
到達点2
仮説検証の手段として、モデル化とシミュレーションなどを通じて予測することができる。
到達点3
社会における情報通信システムの在り方を考察することができる。

 各到達点の中の「・・・できる」という表現がスキルを指します。スキルを自分のものにするには、自ら考え行動する自発性と、獲得するまで何度でも繰り返す粘り強さが求められます。限られた授業時間の範囲でこのことを可能にするには、自発性を促す反転授業をお勧めします。
 以下では、評価基準となる出口要件について説明します。

(1)到達点1の出口要件と教育内容

【要件1】

 技術とは何かについて説明できるようになること。

【教育内容】

【要件2】

 仮想空間を構成し、実空間と結合することで付加価値を提供する情報通信技術の役割を説明できるようになること。

【教育内容】

◎学生へのヒントの例:例えば、図1に示す株や為替の秒単位で変化する状況をスマホ等で観察し、実空間と仮想空間の関係を調査することにより、リテラシーへ向き合うモチベーションを高めることができるものと考えます。

図1 株価と為替のリアルタイム推移
(出典URL https://nikkei225jp.com/chart/

(2)到達点2の出口要件と教育内容

【要件1】

 生活に必要な資源の特性と経済原則の関係を説明できるようになること。

【教育内容】

【要件2】

 日常生活あるいは小・中・高・大学と学ぶ中で、意識せずに使っている仮説検証、モデル化とシミュレーションを発見できるようになること。

【教育内容】

◎学生へのヒントの例:例えば、図2などは各社がWEBで提示している商品のモデルです。こうしたコンテンツを見せることで、自分の専門領域でのモデルの意味を理解できるようになります。

図2 様々なモデルとモデルの特徴

【要件3】

 仮説検証、モデル化、シミュレーションに対する情報通信技術の有効性を、経済や安心安全等の面から説明できるようになること。

【教育内容】

(3)到達点3の出口要件と教育内容

【要件1】

 AI、IoT、ビッグデータによるイノベーションとはどのようなものかを、具体的事例に基づいて説明できるようになること。

【教育内容】

◎学生へのヒントの例:例えば、図3は大勢の人達の体温計のデータを収集し、統計的に処理して自分の体温の妥当性を知ることができるようなIoTのシステムです。こうした例を示してIoTのメリットを構想させることが可能になります。

【要件2】

 AI、IoT、ビッグデータが今後どのようなイノベーションをもたらすかを調査し、説明できるようになること。

【教育内容】

【要件3】

 AI、IoT、ビッグデータなどの新技術によって変革していく社会の姿と自身の専門領域の変化を構想し、そうした社会とどのように関係していくかについて自分の意見を主張できるようになること。

【教育内容】

4.まとめ

 ここでは、情報通信技術のリテラシー教育となるC領域について述べました。重要な点は情報通信技術そのものの基礎教育だといった誤解をしない工夫が必要です。理工系、文系、法学系、医療系などの専門領域ごとに情報通信技術を活用する考え方やスキルを修得することがC領域のリテラシー教育となります。C領域の教育モデルは今後充実させていく計画です。

図3 実空間と仮想空間から構成されるIoT空間
(体温計の写真の出典URL:http://www.healthcare.omron.co.jp/product/mc/

【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】