特集 問題発見・解決思考の情報リテラシー教育の研究

医療系(薬学分野)の
情報リテラシー教育授業モデル案の例
- 特定患者向け『くすり説明書』の作成 -

本協会情報教育研究委員会分野別情報教育分科会委員

大谷 壽一(慶應義塾大学薬学部教授)

1.授業概要

 この授業モデルでは、まず、仮想の患者もしくはその家族(例えば「80歳の独居老人」、「4歳の女児の母親」など)を設定し学生に提示します。そして、この患者に特定の医薬品(例えば特定の睡眠薬、咳止めなど)が処方されたという想定のもとに、学生に「くすりの説明書」(A4版1枚程度)を作成させます。説明書の作成は少人数のグループにわかれて実施し、グループ毎に異なる対象患者と医薬品を設定・提示します。学生は、インターネットサイト(厚生労働省、医薬品医療機器等総合機構、製薬企業、関連学会など)から、当該医薬品に関する情報(例:医薬品添付文書、重篤副作用疾患別対応マニュアル、薬物治療ガイドラインなど)を収集するとともに、当該患者で想定される問題点(起こりやすい副作用、間違いやすい服用法など)について議論することで、説明書を作成する上でとりあげるべき問題点を抽出・設定します。これは、解決すべき問題の発見、設定過程にあたります。続いて、問題点を解決するために必要な情報を収集、抽出し、取捨選択をした後に、患者にわかりやすい形で加工します。最後に、グループ間での発表会を行い、学生同士で議論、意見交換します。
 なお、この授業に先立って、情報リテラシー教育において基本的なソフトウェア(MSワード、エクセル、パワーポイント等)の使用法、Web上での医薬品情報の情報源に関する知識と検索技能、情報の質的な評価法、及び知的所有権・医療倫理等に関する学修を終了していることを前提としています。

2.授業の到達目標

3.学修活動の詳細と対応する到達目標

(授業計画:90分×3コマで実施)

  授業内容・学修活動 到達目標
課題発見、目標設定、情報収集  
対象患者と対象医薬品を提示し、学生に対象医薬品に関する情報を網羅的に調べさせます。 A1、A3
B1
次いで、対象患者が対象医薬品を使用するにあたって想定される問題(解決すべき問題)を設定させます。 C1
情報の整理、評価、情報の最適加工  
対象患者に対して提供すべき情報を抽出、整理し、その内容や重要性を評価します。この際には、リソースの信頼性などについても留意させます。 A2、A3
B2、B3
C1
続けて、Powerpointを用いてくすりの説明書を作成させます。適宜、画像加工ソフトなども使用します。
また、作成する説明書の倫理面や情報(イラストや写真、図表等も含む)の知的所有権についても考慮させます。(カリキュラム上、知的所有権や医療倫理に関する学修が未了の場合、15分程度の講義を挿入)  
情報の最適加工と提供(発表)  
くすりの説明書を完成させ(第2時限の続き)、学生同士での発表会を行います。発表前に、各班のプロダクトに対して担当教員が適宜フィードバックを行い、修正の機会を設けます。 B2、B3
C1

4.評価

 本科目は、①課題調査30点、②成果物(作成した説明書)40点、③発表・討論30点の内訳で採点し、合計点60点以上を合格とします。
 ①および③の採点はルーブリックに基づいて行い、前者は問題発見力、情報収集・評価・活用能力、チームワーク力を中心に、後者はプレゼンテーション能力およびコミュニケーション能力を中心に評価します。


【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】