教育・学修支援への取り組み

畿央大学におけるアクティブ・ラーニング
環境構築の取り組み
〜 5年間継続実施したCOPE方式によるPC貸与と
授業支援システムOpenCEASの新規開発 〜

1.畿央大学における教育学修支援環境の構築

 畿央大学は2003年4月に開学した新しい大学で、健康科学部(理学療法学科・看護医療学科・健康栄養学科・人間環境デザイン学科)と教育学部(現代教育学科)の2学部5学科および大学院(健康科学研究科・教育学研究科)と助産学専攻科を備える在学者総数約2,300名の大学です。建学の精神、「徳をのばす」「知をみがく」「美をつくる」を教育理念とし、健康科学と教育学分野において高い教育・研究の質を持ち、豊かな教養と知性を備えた高度な専門職業人の育成を行い、現代社会に貢献するキラリと光る存在感のある大学となることを目的としています。
 本学は、「入学者受入れ」「教育実施」「学生の社会への送り出し」の教育の質向上のサイクルが正のスパイラルで回り、学生一人ひとりを見据えた教育により、学生と教職員との距離が近い教育環境が実現できています。
 このような教育環境をさらに充実し、より多くの授業科目において科目の特性に応じた多様なアクティブ・ラーニング(AL)を導入・実施できる環境を構築するために、

  1. (1) 学内のネットワークやクラウド利用する情報基盤を整備し、ICT利用の課題解決を個別に支援する体制の構築
  2. (2) 授業実施と事前・事後の学習や評価の諸活動を、教員と学生のそれぞれ立場で統合的に支援できるコース/学習管理システム(CMS/LMS)の導入・改修と利用支援
  3. (3) 学生が授業での必要に応じ端末(デバイス)を利用できる学習環境と活用能力の育成

を計画的に進めてきました。
 2010年度に情報環境基本計画を策定し、第1期2011年度〜2014年度を経て、今年は第2期2015年度〜2018年度の最終年度です。計画の実施実績を、情報環境基盤、支援システム、学生の学習環境の括りで表1に示します。

表1 情報環境基本計画の主要実績

【第1期計画】
 第1期計画では、高速化、大容量化、高信頼性、モバイル対応をキーワードとして主に情報基盤の構築に取り組みました。その概要はつぎのとおりです。

(1) 情報環境基盤

(2) 支援システム

(3) 学習環境

【第2期計画】
 第2期計画の実施においては、情報システムのクラウド移行とCOPE方式PC貸与の継続実施が同時進行し、センター業務と体制が変わりました。経緯は次の通りです。

(1) 情報環境基盤

(2) 支援システム
 CEASの改修・開発を行いました。

(3) 学習環境
 COPE方式によるノートPCの貸与を新入生に対し継続的に実施し、2017年度には全学生が貸与PCを所持する段階を迎えました。
 現在は第2期計画の最終年度に当たりますが、この期間中に教育学習基盤センター(以前の情報センターから改名)の業務の中心は情報システムの運用管理から、学生が所持する貸与PCの状態を個別に把握し組織として計画的にサポートすることに移行しました。
 以上では8年目を迎えた基本計画実施の経緯と実績の概要を説明し、科目の特性に応じた多様なALを実施できる畿央大学における教育・学修環境構築の取り組みを紹介しました。
 これらの取り組みの中で、COPE方式によるPC貸与の取り組みと、授業支援システムCEASの新規開発について以下では紹介します。

2.COPE方式でのPC貸与の取り組み

 本学では2013年当時、情報基盤の整備と授業支援システムの利用は進んでいましたが、学内での端末の利用はPC教室と研究室に限られていたため、ALを推進できる環境整備を進めるには、個人利用できるノートPCなどモバイル端末を学生に所持させること(PC必携化)の推進と、授業での必要に応じ利活用できる能力の育成のため1年次全学必修の情報処理科目の内容を見直すことが必要でした。
 教育機会均等や授業実施の点でのメリットが大きいことから、新入生全員にPCを貸与する方式をとることの合意が得られ、さらにPC教室を利用することの制約なしにすべての教育活動が実施できることが求められました。そのため次のことを貸与PC取り組みの要件としました。

 これらの要件をどのように実現し、運用してきたかを次に説明します。

【PC一斉配布と学生による初期設定】

 貸与するノートPCの購入台数は入学予定者数に予備分を上乗せした台数を発注し、全数を3月末の指定日に納品してもらいます。予備分は、破損や故障の備えとして保持します。
 初年度は、4月の入学式翌日のオリエンテーションで、新入生全員(2014年度:約550名)にノートPCを納品された未開封の状態で配布して、学科別に電源投入から初期設定までを学生に行わせました。PCに詳しくない学生が説明資料を参照しながら設定できるように教育学習基盤センターでは手順書を作成しました。結果的には新入生に対して8人の職員で対応し1時間程度でほぼ全員が初期設定を完了し、大学メールの送受信と履修登録画面の確認まで行えました。
 2年目からは3月末に配布し自宅で充電したものを持参させました。5回目となる今年度は、ローカルアカウントの設定と充電を自宅でさせたものを入学式翌日に持参させました。SINETへの専用回線での接続による高速化や貸与PCのMACアドレス収集によるスマートフォンWiFi接続制約の工夫により、入学者全員が1時間足らずで設定を完了できました。写真1はホールにて教育学部新入生220名全員が設定を行っている様子です。

写真1 記念ホールでの
初期設定風景

【貸与PCの個別管理】

 入学時に有効期間1年間の貸与PC借用誓約書を学生から提出させ、以降は毎年2月末に更新提出させ、それを個人管理台帳に全学生一人ひとりの借用誓約書提出状況を把握しています。2月末の更新期限までに借用誓約書を提出しない約10%の学生に対しては、大学メールでの呼び出し、電子掲示板への掲示、紙媒体の掲示板への貼りだし、クラス担任教員を通じた督促により、新年度の前期オリエンテーションまでには全員提出を達成しています。
 2016年度からは誓約書提出時に貸与PCの外観だけでなく、バッテリー劣化状態、電源オン総時間、電源オン回数、BitLocker設定状況、SSD空き容量、PC名、液晶画面の異常、キーボードの異常、OSバージョン、Windows更新ファイルバージョンナンバー、PIN認証設定について全台の設定を確認する運用を行っています。さらに、貸与PCの紛失や盗難時の個人情報漏えいへ対策とセキュリティ意識向上のための指導の機会を設け、学生自ら対応する指導をしています。

【アプリケーションソフトウェアの提供】

 Office系アプリケーションは日本マイクロソフト社との包括ライセンス契約を締結し、学生に情報処理演習Ⅰの授業時間外に各自インストールさせています。特定の学科や授業等で必要なアプリケーションソフトウェアについては、個別に対応しています。
 例えば、デザイン系ソフト(Adobe Illustrator,Photoshop)の授業での利用は、特定の学科の2回生後期と3回生前期での利用に限られていることが確認できましたので、その学科の当該年次の学生に対し、2回生後期授業の初回に職員のサポートのもとで学生自ら授業で使用するソフトをインストールし、3回生後期の最後の授業後の指定された期間中に学生自らアンインストールする運用をしています。

【PC教室の段階的削減と転用】

 貸与PC提供の学年進行に伴い、PC教室利用の制約が段階的に緩和され、7室あったPC教室を2013年度より2016年度にかけて普通教室等に改装しました。ただし2教室は、それぞれ「PCサポートルーム」(写真2)と「i(アイ)デザインルーム」に転用しました。前者は教育学習基盤センター職員が常駐してICT利活用に関する相談に応じる部屋です。後者は、学生が自分の貸与PCを持ち込み、ドッキングステーションにセットするだけで大型モニタ、外部キーボード、マウス、有線LAN、電源コンセントに接続して作業ができる部屋であり、デザイン系の専門科目の演習などに使用されています。

写真2 PCサポートルーム

【貸与PC取り組みに伴うセンター業務の変化】

 教育学習基盤センターは、学内サーバーの維持運用およびPC教室の運用整備を主たる業務としていましたが、学内サーバーのクラウド移行および全学生の貸与PC所持により、情報システム運用業務から、個々の学生のICT利活用への理解度の差に応じた教育的な配慮をしながら、学生に適切な指導ができる教育学習支援業務へと業務主体を移していくことが求められました。
 PC教室の同一設定のPCとは異なり、COPE方式による学生の貸与PCは、学生個々の知識や使い方により設定が異なっています。これら2,000台を超える貸与PCの利活用を促すためには、学生個別のレベルに応じた広い範囲の相談に対応できる体制が不可欠となっています。2016年度よりPCサポートルームに専門知識のある職員を常駐させる支援体制をとっていますが、相談案件の量的拡大と質の高度化に対し、いかに組織的に対応していくかは今後の重要課題です。

【卒業生の貸与PCの扱い】

 2017年度には、貸与PCの取り組みは4年目となり4回生の卒業時の貸与PCの扱いについて決める必要があったので、2017年7月から8月上旬の期間にアンケートを実施しました。その結果、約4分の3の学生が貸与PCの譲渡を希望していることが分かり、譲渡の条件について検討しました。
 卒業後の利用継続を期待して、①推奨する設定やその方法を確認するための認定講習会を受講すること、②卒業後も使えるOfficeアプリライセンス契約の事前契約をすること、③現物個別照合を受けること、を条件として無償譲渡することを決めました。
 事前に希望を確認し、12月から3月まで認定講習会を開催し、最終的には大学院進学・留年などを除いた卒業生の70%に当たる359名の学生に無償譲渡し、残りは3月末までに3台を除く全数152台を回収できました。なお回収したノートPCは、破損した貸与PCの交換予備機や職員用など学内で再利用する予定であり、再利用が困難なものについては業者に有償で買い取ってもらう予定です。

3.CEASの改修とOpenCEASの新規開発

 多様なALを導入・実施・支援するには、それに適した支援システム(CMS/LMS)を利用できることが重要です。
 関西大学で開発され全学的に利用されてきた授業支援型eラーニングシステムCEASを、本学では2011年に当時の最新バージョンCEAS/Sakaiシステムを導入しました。本学で授業支援システムCEAS(シーズ)と呼んでいるシステムは、多人数対面教育を対象に「授業と学習(予習・復習)のサイクル形成」を統合的に支援する目的で開発され、「コンテンツ制作」の前提なし、教務管理的な負担の軽減に配慮、基本機能の洗練と使い方の「工夫」重視、という特長をもっています。さらに画面の構成では、機能メニューが担任者の授業実施を中心とした事前・事後の機能グループにまとめられているのと、毎回の授業単位で授業資料やレポートなどがまとめられているため、担任者がすぐに使いだせるシステムになっています。このユーザインターフェイスは、「授業支援型ユーザインターフェイス」と呼ばれています。

【CEASの改修】
 2016年夏にWindows 10がリリースされ、貸与PCのOSもそれに合わせ学生にアップグレードさせましたが、標準ブラウザがIE11からモダンブラウザMicrosoft Edgeに変更されたためCEAS/Sakaiシステムの使い勝手が悪くなりました。そこで、Skai CLEをCEAS/Sakaiシステムから切り離し、3層アーキテクチャーで構成されているCEASのプレゼンテーション層に改修を行い、モダンブラウザ対応と画面サイズが異なるスマートフォンでも使用できるようにマルチデバイス対応を行い、同時にロジック層も一部改修を行いセキュリティ向上も図りました。改修後のシステムをCEAS10と命名し、直ちに利用を始めました。
 CEAS10の画面デザインはスマートフォンからでもタッチ操作がしやすいようにボタンサイズを大きくするなどの工夫がなされていますが、大きい画面で表示される場合にはメニューやボタンの配置は「授業支援型ユーザインターフェイス」にしたがってCEASと全く同様に設計しましたので、利用者は全く混乱なくCEAS10の利用に移行できました。

【OpenCEASの新規開発】
 CEASシステムは長年に渡って機能強化や拡張がなされてきたため、ソフトウェアに利用しているJavaフレームワークやライブラリのバージョンが古く、セキュリティ面や最新技術による保守を考慮するとバックエンド部についても抜本的な改修が必要な時期になっていました。そこで、CEAS10の画面デザインは、そのままにして内部のプログラム実装を全く新しく作り直す開発を2017年度に行いました。
 新規に開発したシステムはOpenCEASと命名し、CEASの古いJavaフレームワークの実装をRuby on Railsを使いRuby言語で書き直しましたが、授業支援型ユーザインターフェイスはそのまま保持しました。図1に示すOpenCEASの担任者Topページは、CEAS10の画面と全く同じです。このため2018年3月にOpenCEASに移行しましたが、利用者は全く今までと同様に使い続けることができました。
 なお、OpenCEASの開発はMITライセンスが適用できるライブラリを使って開発しました。今後日本の高等教育で広く使われることを目指し、オープンソースとして公開することを予定しています。なお、CEAS10とOpenCEASの開発には(株)ボウ・ネットシステムズの協力を得ました。

図1 OpenCEAS担任者Topページ

4.おわりに

 今回の報告では、本学におけるアクティブ・ラーニング環境構築に関する8年間の取り組みを紹介しました。今後、教育「学習」支援から、学生一人ひとりの粒度で在学期間を通しての支援を行える教育・「学修」支援に移行していけるよう、取り組みを継続・発展させたいと考えています。
 なお、今回の紹介では教育実践事例や経費削減については触れませんでしたが、それらについてはネット上で、キーワード、「マイクロソフト 事例 畿央大学」で検索してみてください。
 2014年の最初の貸与PC取り組みについてマイクロソフト社の紹介記事が掲載されています。さらに、2017年秋頃の状況は、YouTubeマイクロソフトの公式チャンネルに「Microsoft Azure / Surface 導入事例」として掲載されていますのでご覧ください。

文責: 畿央大学教育学習基盤部部長
  大山 章博

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