巻頭言

日本IBMと共同開発した「AI活用人材育成プログラム」の開講

村田 治(関西学院大学 学長)

 自動化(Automation)や人工知能(AI)の発達によって、Society 5.0と言われているように、社会が大きく変わることが予想されています。AIの発達によって、2030年に労働者の約46%に当たる2,700万人が転職を強いられるとの報告もあります。他方、少子高齢化によって労働力人口が減少するわが国にとって、AIは労働力を補完する手段にもなり得ます。
 IT革命による1990年代の米国の生産性の上昇はよく知られた事実ですが、残念ながら、わが国におけるIT革命は経済的に成功したとは言えません。その理由は、IT化に伴い進めるべきであった人材育成や組織改革などのいわゆる無形資産の蓄積が遅れたことにあり、中でも、IT利用産業における人材育成が大きな課題として残っています。Society 5.0に関しても、文系・理系を問わずAIを活用できる人材の育成が大きな鍵となり、今後、大学における情報教育の役割がますます重要となってきます。
 大学での情報教育は、情報処理機器を教育の補助手段として用いる教育工学等と社会に出てからの基礎としての情報リテラシーとに位置付けられています。今後は、情報リテラシーの中身は、AIやプログラミングの基本的な仕組みを理解し活用する方向に大きく変わっていくことが予想されます。
 このような観点から、以下では、2019年4月から開講される、関西学院大学と日本IBMの共同プロジェクトである「AI活用人材育成プログラム」について紹介したいと思います。
 「AI活用人材育成プログラム」では、AI人材を「文系・理系を問わず、AI・データサイエンス関連の知識を持ち、さらにそれを活用して、現実の諸問題を解決できる能力を有する人材」と定義し、AI技術を利用したソリューションを用いてビジネス上の問題解決を行うAIユーザー、並びに、AI技術を活用してAIユーザーの抱える問題に対してソリューションの提供を行うAIスペシャリストを育成することを目的としています。この「AI活用人材育成プログラム」の特長として、①日本IBMと共同開発した教材を活用した授業、②初学者を念頭においた授業内容、③体系的かつ実践的なスキルの修得、④ビジネス視点の醸成、の4つをあげることができます。
 また、AI活用人材に必要なスキルを定義するにあたっては、「IBMにおけるAI人材の技術的要件」を参照基準とし、体系的なカリキュラムで学ぶことにより社会や企業が求めるAIを活用できる人材を育成できるプログラムになっています。また、AI活用人材に必要なスキルを、AIスキル、ITスキル、データサイエンススキル、ビジネススキルの4つのスキルに分類し、例えば、AIスキルは「AIに関する知識を保持し、かつ、実際のアプリケーション開発に有効に反映する力」と定義され、また、ITスキルはさらにプログラミングスキルとプロジェクトマネジメントスキルに分かれ、プログラミングスキルは「ソフトウェア、ハードウェア、ネットワークに関する知識を保持し、かつ実際のシステム開発(プログラミング)に有効に反映する力」、プロジェクトマネジメントスキルは「IT関連のプロジェクトにおいて、コスト、コミュニケーション、時間、人的資源等の要素を統合的に管理する力」と定義されています。さらに、AIスキル、ITスキル、データサイエンススキル、ビジネススキルの4つのスキルを3段階のレベルで、3年間で体系的に育成するプログラムにしていることも特長です。
 このプログラムは、現時点では、「AI活用入門」「AI活用導入演習A」「AI活用導入演習B」「AI活用実践演習A(JavaによるWebアプリケーションデザイン)」「AI活用実践演習B(Pythonによる機械学習・深層学習)」「AI活用実践演習C(Webデザイン)」「AI活用データサイエンス実践演習Ⅰ」「AI活用データサイエンス実践演習Ⅱ」「AI活用発展演習Ⅰ」「AI活用発展演習Ⅱ」の10科目から構成されています。これらの科目の一つひとつに関して関西学院大学と日本IBMが協力して、各授業におけるシラバスを詳細に定め、各回の授業ごとにいわゆる授業設計書をきめ細かく設計していること、さらには、授業用教材も関西学院大学と日本IBMが共同で開発していることが大きな特長です。


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