特集 データサイエンスと教育

立命館大学情報理工学部における
データサイエンスに関わる教育

山下 洋一(立命館大学 情報理工学部学部長)

1.はじめに

 国の掲げるSociety 5.0の科学技術政策では、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を融合が謳われており、サイバー空間でビッグデータを人工知能(AI)が解析し、その解析結果をフィジカル空間の人間にフィードバックすることが期待されています[1]。コンピュータ処理能力やセンサー技術の向上、インターネットやそれを用いたサービスの普及などにより、データの獲得・蓄積・流通・処理が容易になったことで、データに基づいた情報処理の重要性が極めて高まってきています。このような社会的要請に応えるため、データを解析し有用な知見を導き出すことのできるデータサイエンティストの育成や、新たなデータ処理手法の開発は、情報系の学部における一つの大きな使命となっていると言えます。

2.学部紹介

 立命館大学情報理工学部は475名の入学定員を持ち、90名を超える教員が所属しています。語学教育を主に担当する一部の教員を除いて、その多くの教員は情報技術を専門分野として教育・研究に携わっています。2004年4月に学部が設置され、2016年度までは4学科から構成されていましたが、2017年度に組織改革を行ない、現在、学部は1学科7コースの構成となっています。①システムアーキテクト、②セキュリティ・ネットワーク、③先端社会デザイン、④実世界情報、⑤画像・音メディア、⑥知能情報の6つの日本語基準のコースと、すべての授業を英語で受講する、いわゆる英語基準のF情報システムグローバルの7コースがあり、英語基準のコースがあることが一つの特徴となっています。

3.カリキュラム

 2017年度の学部再編に伴ってカリキュラムも改革されました。2016年度までのカリキュラムと比べると、専門科目の履修の幅を広げるとともに数理系科目を重視する内容へと変更されています。表1に、現在のカリキュラムで提供されている科目のうち、基礎専門科目、共通専門科目と呼ばれる科目群を中心に主な科目を示します。
 現在のコース編成およびカリキュラムでは、データサイエンスに関わる教育を強く打ち出していない一方で、基礎専門科目、共通専門科目、固有専門科目の中で、データサイエンスに関わる内容を学修できる科目構成としています。情報技術者として社会で活躍するには、ソフトウェア開発、組み込みシステム、分散処理、Webシステム、ヒューマンインタフェース、ロボット技術など、多様な専門性の選択肢があり、データサイエンスもその一つであると考えています。これらのどの分野においても、数理的な理解が重要であると考え、数理系科目の充実を図っています。

(1)コースに共通する科目

 表1に示す基礎専門科目と共通専門科目では、英語基準の情報システムグローバルコースのみ、科目構成がやや異なるものの、日本語6コースには同じ科目が配置されています。

表1 情報理工学部での科目分類と開講されている科目(一部抜粋)
    1回生 2回生 3・4回生
基礎専門科目 数学科目 数学1、数学2、数学3、数学4、など    
基礎科学科目 物理1、物理2、化学1、化学2、生物科学1、生物科学2、など    
数理科目 情報理論、情報基礎数学、確率・統計、など 多変量解析、フーリエ解析、離散数学、数値解析、など  
共通専門科目 情報科目 情報理工基礎演習、情報倫理と科学技術、計算機科学入門、論理回路、など ソフトウェア工学、コンピュータネットワーク、デジタル信号処理、計算機構成論、など  
グローバル科目   Information Science in Action、など  
固有専門科目     プログラミング演習1、データ構造とアルゴリズム、など 実験科目、卒業研究の他、多数の専門科目

 基礎専門科目の数学科目では、微分、積分、行列、線形代数などの一般的な数学の基礎を学び、数理科目では、「情報理論」「確率・統計」「多変量解析」などでデータを扱うための数学的基礎を学びます。

(2)情報倫理教育

 データサイエンスは、収集あるいは獲得したデータに基づいて新たな知見を得る処理であり、データやそれから得られた結果を倫理的な観点から適正に扱う必要があります。一般に、情報技術者には正しい情報倫理の考え方に基づいた行動が求められることから、共通専門科目の「情報倫理と科学技術」では、知的所有権、個人情報保護、情報セキュリティなどの情報倫理に関する問題の重要性を理解し、情報技術者に求められる倫理観を養います。

(3)各コースにおける固有科目

 本学部の学生は、1回生後半の秋学期からコースに配属され、コースに共通の科目を学びながら、コースごとに設定された固有専門科目を履修します。2016年度までのカリキュラムでは、他学科の専門科目を履修しても卒業要件に組み入れることができませんでしたが、現在のカリキュラムでは、自コースの固有専門科目だけでなく、他コースのみで開講されている科目も最大で10単位までは卒業要件に組み入れることができるようになっています。また、学生が自身の興味に応じて幅広い学修を行うことのできる機会も提供されています。
 データサイエンスの応用分野は非常に幅広く、各コースにおいてデータサイエンスに関連した多数の科目が展開されています。その例として「データモデリング」「ビッグデータ解析」「テキストマイニング」「情報アクセス論」「データマイニング基礎」「パターン認識」「機械学習」などがあげられます。

4.おわりに

 本学部でのデータサイエンスに関わる教育をまとめると、「基礎となる数理系の科目をしっかりと学修し、多様な応用の中から学生の興味に応じて個々の専門科目を履修する体制がとられている」と言えます。さらに、本学では、大学院において研究科を横断する「超創人材育成プログラム」を2019年度から開始します[2]。このプログラムでは、「データサイエンス特論」「データサイエンス演習」が開講され、学部での学修で得た基礎的な理解に基づいて、より高度なデータサイエンスの手法や実践へと展開していきます。「データサイエンス演習」では、企業から提供された大量データを利用したデータ分析や分析結果に関する議論などを行う実践的な学びが予定されています。
 以上のような教育によって、社会で活躍できるデータサイエンティストを輩出することが、学部、研究科の目標の一つとなっています。

関連URL
[1] http://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/
[2] http://www.ritsumei.ac.jp/gr/aldp/

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