政府関係機関事業紹介

SINETクラウド接続サービス

国立情報学研究所 学術基盤推進部 学術基盤課 SINET利用推進室

1.はじめに

 国立情報学研究所(以下「NII」)では、大学や研究機関の活動を支える学術情報基盤の整備事業の一環として研究・教育におけるクラウドの利活用を推進しています。その一つである「SINETクラウド接続サービス」は、SINETを介して商用クラウド提供事業者(以下「商用クラウド」)と「接続」するサービスであり、大学や研究機関と商用クラウドの間を高品質(超高速・低遅延)な仮想プライベートネットワーク(以下「VPN」)で接続する環境を提供するものです(NIIが提供するクラウドサービスではありませんのでご留意ください)。このサービスを利用することで商用クラウドの拠点を同一セグメントのネットワークとして利用できるようになります(L2スイッチで拠点間を繋ぐイメージです)。本稿ではこのSINETクラウド接続サービスについてご紹介します。

2.SINETについて

 まず、「学術情報ネットワーク(Science Information NETwork:SINET(サイネット))」(以下「SINET」)について紹介します。SINETはNIIが構築・運用している情報通信ネットワークであり、日本全国の大学や研究機関などに対して先進的なネットワークを提供するとともに、多くの海外研究ネットワークとも相互接続しています。2016年4月から稼働しているSINET5は国内の全都道府県を100Gbpsの超高速ネットワークで結び、フルメッシュで低遅延なネットワークをSINET加入機関(以下「加入機関」)に提供しています。加入機関数は、表1に示すとおり約900機関に上ります(2018年10月1日現在)。

表1 SINET加入機関数

 SINET5では、表2に示すとおり様々なネットワークサービスを提供しています。

表2 SINET5のサービスメニュー

 L3サービスにあるインターネット接続サービスは、IP(インターネット・プロトコル)を利用してインターネットと通信を行うために必要なサービスです。「SINETはSINET網内で閉じた通信しかできないのか」と尋ねられることがありますが、SINETは他の研究ネットワークや商用インターネットとも接続していますので、SINETの外との通信も可能です。一方で、インターネットから隔離された閉域網で利用するVPNサービスがあります。表2に赤字で示すL3VPN、L2VPN、仮想大学LAN、L2オンデマンドがVPNサービスに該当します。SINETのVPNサービスは、仮想ローカルエリアネットワーク(以下「VLAN」)を使って論理的にネットワーク分割し閉域網を構築するため、暗号化や専用装置を必要とせず、速度低下が発生しないといった特長があります。

3.SINETクラウド接続サービスの成り立ち

 2010年頃から商用のクラウドサービスをSINET経由で利用したいという要望が加入機関から寄せられはじめました。商用クラウドは民間企業にあたりますので、SINETに加入することは原則できません[3]。また、加入機関が独自に商用クラウドと契約し、商用クラウドの拠点を加入機関の仮想キャンパスと見立てて加入機関名義でSINETに接続することはできましたが、この場合、商用クラウドの拠点からSINETへ接続するアクセス回線は加入機関の負担で整備する必要があり、専用線などを使えば非常に高額になるため、クラウドの利用が進みにくいといった問題がありました。このような状況に対し、商用クラウド自らがSINETに直接接続(以下「直結」)し、加入機関に対しクラウドサービスを提供する枠組みとして「SINETクラウド接続サービス」を2011年7月から提供を開始しました。このサービスにより、商用クラウドの拠点からSINETへのアクセス回線について、加入機関側で整備が不要となり、また、複数の加入機関がそのアクセス回線を共用してクラウドサービスを利用できるようになりました。

4.サービス提供機関に求められる条件

 商用クラウドがSINETに直結するには、NIIの審査を受ける必要があり、SINETに直結が認められた商用クラウドを「サービス提供機関」と呼んで区別しています。サービス提供機関は、加入機関にクラウドサービスを提供するのみであり、提供機関自らがSINETを利活用することはできません。また、ネットワークの技術的な部分に関しては以下の3つの条件を設けています。

1)SINETのL2VPNサービスを利用すること

2)回線帯域が保障されたアクセス回線でSINETに接続すること

3)アクセス回線は複数の加入機関で共用できること

 1)は加入機関拠点とクラウド拠点を同一セグメントのネットワークとして取り扱うことが可能なSINETの高品質なL2VPNサービスの利用を第一の条件とするものです。また、2)と3)は複数の加入機関が安定的にクラウドサービスを利用できるよう、回線帯域が不安定なベストエフォート回線での接続は認めていません。また、学内ネットワークとして利用するため、他の加入機関の通信が混在しないよう加入機関毎にVLANで論理分割できることも必須条件としています。これらを図示したものが図1になります。なお、商用クラウドのサービス内容については、商用のデータセンタを介して何らかのサービスが提供されるもの全てを対象としています。サービス提供機関及び提供されるサービスの一覧はSINETのウェブサイトをご参照ください[4]

図1 SINETクラウド接続サービスの接続イメージ

5.SINETクラウド接続サービスの利用方法

 加入機関はどのようにSINETと接続すればよいでしょうか。ここでは加入機関がSINETクラウド接続サービスを経済的に利用できる接続方式を紹介します。その方式は、加入機関拠点からSINETへのアクセス回線について、インターネット接続用とクラウド接続用で別々に用意するのではなく、それぞれの接続をVLANで分けて、同じアクセス回線に収容(VLAN多重)してSINETに接続することです(タグVLANに対応したL2スイッチなどをWAN側に設置するなどで実現可能です)。これにより、アクセス回線の費用を抑えることができますので、SINETクラウド接続サービスの利用を検討する際は、まず加入機関のアクセス回線および学内ネットワークでVLANが利用できることをご確認ください。
 SINETクラウド接続サービスはL2VPNでの接続環境を提供するサービスですので、加入機関は利用するサービス提供機関とクラウド接続用のVLANをSINETに申請し、その後SINETが加入機関側のVLANとサービス提供機関側のVLANを紐づけることで、加入機関はクラウドサービスが利用可能になります。SINETが行うのはこの設定のみで、それ以外のクラウド利用のための追加の設定はSINETの対応範囲外になります。
 一部のサービス提供機関においては加入機関とサービス提供機関の間で行う追加のネットワーク設定に多少手間がかかる場合があり、それを解決する方法として「学認クラウドオンデマンド構築サービス」があります[5]

6.利用加入機関数とサービス提供機関数

 クラウド接続サービスを開始した2011年7月から2018年10月までの利用加入機関数とサービス提供機関数の推移を図2に示します。

図2 利用加入機関数とサービス提供機関数の推移

 サービス提供開始当初の2011年度は利用加入機関数よりサービス提供機関数のほうが多い状況でしたが、現在では140機関を超える加入機関が利用するまでに至っています(2018年10月1日現在)。
 一方で、サービス提供機関は23社にまで増えています。提供機関の分布は図3で示すように東京、大阪周辺が中心となっていますが、他の地域での接続も増えてきています。

図3 サービス提供機関の分布

7.SINET直結を活かすために

 加入機関がクラウドサービスの利用を検討する際に、商用クラウドの選定にSINET直結を重要視するケースが増えてきています。クラウドサービスによっては、加入機関LANを経由せずに直接インターネット経由でデータ等を蓄積・交換するなどの形態を前提としているものもあります。
 SINETにまだ直結していない商用クラウドにSINET直結を打診する際は、SINETクラウド接続サービスの特長が活かせるよう、まず、利用したいサービスが主にインターネット経由で利用するタイプではなく、L2VPNで利用するタイプであることの確認を推奨します。

問い合わせ先

 SINETに関する問い合わせはSINET利用推進室が窓口となり対応していますので、support@sinet.ad.jp(アドレスは全角文字で表示しています)までお気軽にご相談ください。
 クラウドサービスの利活用についての相談はクラウド支援室の学認クラウド導入支援サービスがありますのでこちらもあわせてご活用ください[6]

参考文献および関連URL
[1] 国立情報学研究所「学術情報ネットワーク SINET5」、
https://www.sinet.ad.jp/
[2] 国立情報学研究所「SINETクラウド接続サービス」、
https://www.sinet.ad.jp/connect_service/service/cloud_connection
[3] 国立情報学研究所「学術情報ネットワーク加入規程」、
https://www.sinet.ad.jp/aboutsinet/document
[4] 国立情報学研究所「SINETクラウド接続サービス提供機関一覧」、
https://www.sinet.ad.jp/service_provider/service_providers_list
[5] 国立情報学研究所「学認クラウドオンデマンド構築サービス」、
https://cloud.gakunin.jp/ocs/
[6] 国立情報学研究所「学認クラウド導入支援サービス」、
https://cloud.gakunin.jp/cas/

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