事業活動報告 No.5

平成30年度 教育改革ICT戦略大会 開催報告

 本大会は、「社会の変化を展望した人材育成とICT活用の強化拡大」をテーマに、以下の開催趣旨に基づき実施した。
 「中央教育審議会第3期教育振興基本計画の中で、高等教育段階の問題発見・解決能力の修得が掲げられ、課題解決型学修による教育改善と教育でのICT活用の促進が提言されていること、及びSociety5.0に向けた超スマート社会の変化を踏まえて、大学としての人材育成について認識の共有を通じて、問題発見・解決力、価値創造力、情報活用力の向上を目指した学びの変革、授業でのICT活用の効果と普及・推進に向けた課題などについて、探求することにした。
 1日目の「全体会」では、向殿政男会長(明治大学)から、「やがて到来する超スマート社会では決まりきったことをする仕事から、自分で問題を発見し、解決に取り組むとか、新たな価値の創造に繋げていくなど、仕事の質が大きく変わってくる。新時代に求められる学びの変革とICT活用による授業改善の普及推進について理解を深める機会にしたい。」との開会挨拶の後、9月4日から6日の3日間に亘るプログラムが実施された。
 1日目の全体会では、①高等教育政策の論点整理、②超スマート社会に求められる人材について産業界から教育イノベーションに関する意見・提案、③現場のデータを活用して価値創造に関与するデータサイエンス人材育成への取り組み紹介、④問題発見・解決力、創造力を促進するためのICT活用授業の提案と分野横断型PBL実現に向けた教育イノベーションの考察、⑤教育の情報化推進に関する著作権法の一部改正含めた説明とした。
 2日目のテーマ別意見交流では、授業でICT活用を一層促進するため、①「分科会A」で無料のオープンソースウェアを用いたeラーニング・ICT活用授業の効果と課題、②「分科会B」で反転授業の導入と効果及び展開、③「分科会C」でモバイル、SNSを活用した双方向型授業の導入と展望とした。また、④「分科会D」では、問題発見・解決思考の情報リテラシー教育モデルの理解と実現に向けた対応策を考察した。特に、初年次教育の3コマ授業で反転教材による授業シナリオの紹介と、反転授業教材の紹介、情報リテラシー教育と専門教育を連携した授業実践の紹介、カリキュラムポリシーにおける新しい情報リテラシー教育の位置づけの明確化、教員連携による組織的な授業運営体制の進め方、執行部への理解・促進の戦略について意見交換し、可能性を考察した。
 3日目は、教育改善のためのICT活用の取り組みとし、88件の発表が紹介された。

第1日目(9月4日)

全体会

【高等教育政策の動向】

今後の高等教育への論点

筑波大学研究センター特命教授 金子 元久 氏

 日本の高等教育がどのようなところに立っているのか、ということについて話をする。
 大学人にとって、高等教育政策がどこに向かっているのか必ずしも見えない。従来からの大学教育の問題である、18歳人口の減少、社会の不満などに、高等教育政策の全体像が読みとりにくいことが聞かれる。競争的な補助事業などを通じて、強制的にいろいろなことをさせることが多く、大学には閉塞感や疲弊感が強いという現状がある。
 これには三つの理由がある。従来からの課題である教育の質的改善を考え始めたのは、10年くらい前からで、それまで中央教育審議会では良くしようという発想はほとんどなかった。また、現在起きている18歳人口の減少、成人再教育の需要について、どのように対処するのかという問題、さらに、大学を日本社会全体のイノベーションの突破口にしようとする国家的な政策がある。

1.高等教育の現在

 まず、日本の大学教育の現状、社会・政策の動向、大学・大学人の課題について話をする。
 現在高等教育は、大学の拡大時代が終わり、抑制からユニバーサル化になり、就学率の停滞から次のサイクルを模索している。中央教育審議会などの提言に見られるように、質的転換の時代に入った。
 学生一人ひとりの1週間の学修時間は、設置基準上の授業・実験への出席は人文社会の2.6時間から保健家政の3.3時間と設置基準が要求する2.6時間を満たしているが、自律的学修時間は人文社会の1.6時間から理工農の3.6時間と設置基準が要求する5.2時間の3分の1程度で不足が顕著となっている。日米と比べ日本では5時間以下が6割、米国では2割と少なく絶対的な差となっている。また、日本の2007年調査と2014年調査を比較しても、5時間未満が6割にとどまるパターンに変化が見られず、改善の兆しは見えない。非常に深刻な問題となっている。また、研究面では発表論文数が世界に比べ相当落ちていると指摘され、停滞が明確になっている。つまり、大学の変化が見えない。結果が出ていないことになる。大学側からは努力はしているが短期間に成果は出ない、また、政府の予算措置が足りないといった不満がある。一方、社会からは、大学の組織・管理体制、教員の意識に問題があるとの見方がある。

2.政策と大学

 社会と大学を見ると、社会の大学に対する不満、国際的な地位への不安、政策のポピュリスト志向があげられる。大学教育への政策形成が官邸・総務省主導になり、文科省は閣議決定に拘束され、体系性のある議論ができず、個別案件について微調整するが、結果として一貫性が見えないのが実情である。
 その中で、政策案件についていくつか例をあげると、国立大学では指定国立大学があげられるが、大学にとって財政的メリットはなく、研究競争力の低下を招いている。また、一法人複数大学制度も長所短所があり、大改革とはならない。
 私立大学では東京23区の定員抑制による定員超過率の問題と地域振興の問題を抱き合わせることで、定員超過0%に対して表立って反対はできない。また、大学ガバナンスの不透明性に対して社会的関心が高まっている。さらに、経営困難大学への閉鎖命令の対処は憲法改正問題もあり、どうなるかわからない。大学統合に関しても具体的要求は少ない。
 大学の組織・ガバナンスに関しては、学部単位から「教育プログラム」中心に組織を変え、柔軟に対応していくことが求められている。どのように大学設置基準を改正していくのかが問題である。大学設置基準の学生定員と教員数との関係、教育プログラムの管理運営などに問題が残っている。
 教員人事、給与に関しては、多様な教育プログラムに対応していくには、一つの組織へ帰属するという前提に成り立っている大学設置基準が妨げになることから、エフォート管理やそれに基づいた教員評価が問題になってくる。また、教員の流動性を確保するには、これまでの年功賃金体系の見直しや教員評価の見直しが必要になってくる。
 制度、質保証、入試に関しては、制度の問題として専門職大学ができたが、専門学校からの転身が多く、現行設置基準の部分的な手直しで切り抜けようとしているが、今の形で残るかははからない。入試に関しては、かなり錯綜している。質保証の認証評価では、PDCAサイクルの好循環が重要と言われてきたが、それだけでは不十分である。学生がどのような学修をしているかについての情報公開として、学生の学修状況の把握が不可欠である。
 財政に関しては、高等「無償化」、給付型奨学金制度が一部実施されているが、消費税の財源が前提であるので、実際には31年度予算で32年度実施の見込みでどの程度行われるか全く不明である。結論的に言えば、総合的な高等教育財政政策はないということになる。
 以上、政策案件は、多様な個別案件が多すぎて体系制に欠けている。その結果、高等教育政策としての独自の体系性を作れない。政策形態の変化に関しては、建前は、大学の自主性重視、多様化、機能分化ということで、効率性を重視している。ただ、その手段となると、政府資金の競争資金シフトであって、多様な改革課題を設定することにより、実態はマイクロマネジメントになり、大学の自主性が必ずしも発揮できる状況にはなっていない。
 大学の課題に関しては、政策への対応が先行し閉塞感が漂っている。大学として本来の機能を果たしているか、再検討する必要がある。基本は、研究の高度化である。教員は努力しているが、なかなか結果として表れてこない。
 授業の効果と学生および教員からみた有効性については、学生にペーパーを提出させ、教員がコメントするのが最も効果があり、学生の学修時間を増やす効果もあるが、教員の負担が大きいために普及率は低い。
 まとめると、大学自身が考えるべきことを考え、それを実践していくことが大事で、学生が自分で考える授業をどのように作り上げていくのかが重要である。表面的な授業方法の工夫だけでは解決できない深刻な問題がある。

【質疑応答】

[質問]
学修効果が高まっておらず、学生にその危機感がないという現状があるがどうか。
[回答]
個々の授業では学生は変化してきている。良い授業を増やすこと、その雰囲気を作ることが重要で、それを組織的・計画的に行っていくべきだと考えている。
【第4次産業革命時代への人材育成】

超スマート社会に求められる人材 〜産学連携による教育イノベーション〜

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 公共・広域事業グループビジネス開発事業部長兼技監 野村 典文 氏

 これからのデジタル社会では、企業単体での人材育成は難しく、大学との協力が重要となっている。以下では、まず超スマート社会を振り返り、求められる人材と組織、産学連携に関して提案する。
 超スマート社会とは、政府の「未来投資戦略2018」においても明確にされている通り、Socity5.0と呼ばれる社会を示している。Socity1.0、2.0、3.0が、それぞれ狩猟社会、農耕社会、工業社会を示し、Socity4.0が情報社会、5.0が超スマート社会である。
 社会の課題を解決し、地方も活性化していこうという超スマート社会は、もともとはシリコンバレーから生まれ、デジタル社会とも呼ばれる。様々なデータを活用した社会的なサービスや課題解決がなされていく社会であり、リアルなモノやサービスのデジタル化、つまり非物質化により新しい価値が創造されていく。技術基盤はビッグデータ、AI、IoTなどである。超スマート社会での重要なポイントは、「顧客体験×ビジネスモデル」であり、例えば、タクシーがUBERというシェアエコノミーへ変化することで新しい事業価値が生み出される。
 超スマート社会は、よいことばかりではなく、既存企業・産業自体がディスラクション(破壊)される。破壊とは、新しく生まれ変わるという意味でもあり、例えば大型書店からAmazonのKindle、イエローキャブからUBERへの変貌である。デジタル技術の進化により、順当に伸びている産業界がいきなり突然ドンと変わる。従来のビジネス競争力は、テクノロジーに関しては豊富な研究資金、顧客の壁に対してはブランド力や顧客基盤により伸びてきた。これに対して今は、「試しにやってみて顧客の共感が得られればどんどん伸ばしていく」という形で、スピーディーにビジネス・サービスを改善していく点に特徴がある。
 最近の流行語に、エコシステムとオープンイノベーションがある。エコシステムとは資金循環のことである。お金が回らないと、結局は新しい社会もうまくいかないので、大学発ベンチャーに投資する投資家がいて、それを支える人達のネットワークがあり、政府や企業がそれを利用するという循環である。オープンイノベーションは、元来、テクノロジーのオープンという意味からはじまったが、今は「自社だけではできない他者の力も借りてイノベーションを起こそう」という動きになっている。
 日本が超スマート社会を実現するためには、「データ」「システム」「規制・制度」「人材」の課題を解決していく必要がある。特に人材育成では、データの活用力、ビジネスをデザインする力、創造力、洞察力をどのようにして身につけていくかが最大の課題である。
 これまでの社会との違いは、伝統的な企業に見られる縦割り組織、綿密な計画、効率性重視、ヒエラルキーの意思決定を中心とした組織では、シリコンバレー企業に見られるようにフラットでオープンな集合体、創造性・多様性を重視し、スピーディに変化するビジネスに追いついていけない。人に関しては、データに基づく意思決定、ビジネスへのテクノロジーの適用、有識者とのコラボレーション、顧客体験のデザイン(客が本当に求めるものをデザインできる能力)の4つの能力が重要なコンピテンシーになると言われている。しかし、この4つの能力を一個人がすべて身に付けることは難しく、ビジネスデザイナー、データサイエンティスト、エンジニアの3つがチームで対応していくことが必要になる。
 以下では、人を創るための産学連携として「データサイエンティストの育成」、「ビジネスデザイナーの育成」、「大学への投資ファンドと大学発ベンチャーの促進」、「教育のプラットフォーム」を提案する。

① データサイエンティストの育成では、単にデータを分析する人ではなく、データから社会課題、ビジネス高度化の要素を抽出し適応していく人を目指している。それには実務データを使える環境を整備し、ビジネス課題を実践的に分析する共同研究を大学と実施するため、産学連携クラウドの構築を考えている。もう一つは、大学と企業が得意分野を組み合わせて課題を克服するデータサイエンスのプロセスを共有ことを考えている。

② ビジネスデザイナーの育成では、イノベーティブな人材、「テクノロジー×デザイン」が重要となる。これまで、理工系教育と人文系教育とで完全に分離された状態で教育され入社してきた人が、新しいサービスのアイディアを考えても、同じような育ち方や経験を持つため、クリエイティブなものは考えられない。多様な人達が結びつくことで、新しい発想が出やすくなる文理融合の教育になっていく。デザイン思考による思考訓練の場として産学イノベーションラボを仮想空間に設け、大学と企業が議論をリアルタイムで共有することで創造性を育む仕組みを考えている。

③ 大学への投資ファンドについて、日本の企業は慣れておらず、2〜3度失敗すると躊躇するため、大きな資金をつぎ込むことが難しい。しかし、企業側でファンドを募って大学発ベンチャーを生み出していくという、シリコンバレーのような形の資金の流れを作ることに、企業側はもう少し積極的になるべきである。

④ 教育のプラットフォームでは、企業の持つデータなどを大学や高校で使える教育のクラウドが必要である。そして、アウトプットを解析してPDCAを回してくことが求められる。

 以上述べたように、産学連携での一番の課題は、ビジネスをデザインするクリエイティブな人間とデータサイエンティストの育成である。そのためには、オープンイノベーションの場の形成と、資金を循環させるエコシステム、ビジネスモデルが、これからの超スマート社会には必要になるし、その実現を願っている。

【質疑応答】

[質問1]
イノベーションラボについて、海外事例を教えてほしい。
[回答]
Googleはデザイン思考を取り入れ、壁を全面ホワイトボードにしている。大企業のGEもデザインラボを作り、早くから全面3次元の映るテレビを取り入れている。海外では板書で動く世界で、ホワイトボードが中心となっている。
[質問2]
機械学習において、なぜその結果が出るのかが見えにくい点が大きな問題であり、対処の現状はどうなっているのか。
[回答]
製造業、特に社会インフラ企業が、品質が悪くなる要因をつき詰めていくときにAIを使おうとしているが、実はディープラーニングを嫌っている。これは、ディープラーニングが、その思考過程でなぜそういう答えを導き出したのかが分からないからである。プロセスや仕事の高度化に関して、ディープラーニングを使うのではなく、むしろ、結果がよければそれでよいという分野で使われている。例えば、テロ対策での人物検出のように、確度が上がれば判断理由は特に必要ない分野である。
【データサイエンスの人材育成】

データサイエンス力を育成する大学教育の取り組み

滋賀大学データサイエンス学部長
竹村 彰通 氏

 滋賀大学では、データサイエンス学部を昨年の4月に開設した。以下では、データサイエンス分野の位置づけ、海外動向、滋賀大学における「データサイエンス力を育成する大学教育」、データサイエンスに関わる最近の話題を紹介する。
 データサイエンスは、ビッグデータを活用して価値を引き出し、価値を創造するための新たな科学である。データを集めて前処理をした後にデータベースに格納する。データがある程度整理されたら、分析を行いモデル化する。これをデータアナリシスと呼び、統計学が必要となる。つまり、教育では情報学と統計学の勉強が必要であり、価値創造ができるところまで含めてデータサイエンスというふうに考えている。さらに、実際のビジネス課題を解決するためには、その領域のことも分かっている必要がある。つまり、情報学、統計学、領域知識の3分野からデータサイエンスが構成されると捉え、それを目標とした人材育成を考えている。
 ビッグデータ時代の重要な現象として、スマートフォンが普及しデータが沢山とれるようになったことがあげられる。ビッグデータは、21世紀の石油であるとも言われ、日本でも、健全な形でデータを流通させるため、政府は「官民データ活用推進基本法」を施行して国や地方公共団体の責務を明かにしている。また、「次世代医療基盤法」では、病院のデータを匿名加工し大学や製薬企業などの研究開発での活用を可能としている。一方で、分析する人材が日本で不足していることは事実である。
 日本では統計学部がこれまで存在しなかったのに対し、アメリカでは主要大学に100以上ある。韓国や中国でも同じ状況で、日本は統計分野で遅れている。アメリカの統計学は、10年くらい前から人気が上昇し、統計学や生物統計学の学部卒が年間3,000人、修士が4,000人、博士は600人ぐらいである。これは、就職状況が非常によいことが背景にある。
 こうした背景のもと、滋賀大学は昨年4月にデータサイエンス学部を開設した。学部の定員は100名、来年4月には修士課程を設置する。修士課程の定員は20名と多くはないが、社会人のスキルアップの需要に対応しようと考えている。ビッグデータ時代が急速に進み、企業においても同分野の人材は少なく、「優秀な若手に同分野でスキルアップしてもらい活躍させたい」というニーズが非常に高い。学部は分離融合的なイメージを強調しており、入学する学生もこのイメージを反映している。女性の割合は2割ぐらい。教育は実践的な教育を目指し、多くの企業や自治体と連携している。また、文科省が進める「数理及びデータサイエンスに係る教育強化拠点」に採択され、データサイエンス教育を全国に展開することが一つのミッションとなっている。
 滋賀大学では、文理融合を一つのキーワードとし、デーサイエンスの3分野の内、統計学と情報学を横串とし理系的な基礎を1年生から履修する。3年生になると経済分野のデータ分析など、様々な分野のデータを使い価値創造を経験する。こうした固有領域を縦棒で表し、文理融合逆Π型人材の育成を目指している。他大学の場合、3〜4年生で習うようなものを1〜2年生からどんどんやる。強調したいのは演習系であり、1年生からプレゼンテーション演習を行うと共に、データサイエンティストと呼ばれている人に来ていただいて学生の動機づけを行っている。情報学では、1年生でデータ分析のパッケージ、Python、2年でRをやることで、一通りのデータ分析ができるようになる。その後、Javaや商用パッケージを使う。統計学では、1〜2年生で記述統計と推測統計の基本を学ぶ。また、社会調査士の資格も取れるようにしている。
 修士課程は、最新の機械学習を中心とした前衛的なカリキュラムになっている。例えば、教師有学習、教師無学習、時系列モデリング、機械学習、人工知能まで含めて、最近の手法を網羅的に学ぶ。1年目に科目を集中的に勉強して、2年目はそれを実際の課題解決に使い修論にする。
 データサイエンスで注目されているのは、人工知能、ディープラーニングなどで、特定の問題に関しては非常に性能がよい。例えば、郵便番号の読み取りでは、「画像」と「人間が判断した正解のデータ」の対応関係からモデルを自動的に作ってくれる。モデルをフィットするときに良質のデータがなければ、複雑なモデルをあてはめることができないので、Googleなどが強くなる一つの背景となっている。こうした機械学習は、人間の判断を真似しているが、人間と同じように理解しているかというと、必ずしもそうでもない。とりやすいデータに偏ったバイアスがあり注意が必要である。違う言い方をすると、相関関係はとれるが因果的な結論が出しにくい。伝統的な調査統計と組み合わせて使うことが必要だと思う。
 AIや人工知能という言葉が毎日のように新聞に出ている状況で、シンギュラリティ、人間がいらなくなるという議論があるが、自分はそういう風には思わない。AIとか人工知能は、道具の一つなので、使えるようになればよい。これらは予測であり因果を示していないこと、そして、複雑なモデルだと人間そのものが理解できないことが大きな課題である。ビッグデータとかデータサイエンスは、バズワードで一時的なものではないかと言われることもあるが、データがどんどん取れる時代、こうした道具を利用していくことが大事である。

【質疑応答】

[質問]
ビッグデータの分析には良質なデータが必要とのことですが、実際のデータは良質ではありません。どういうふうに考えればよいか。
[回答]
ともかく、良質のもので学習しないといけないと思う。
[質問]
データサイエンスを教えたい学部や、別の学部でも類似することを教えたい場合、どういった点に注意して教えたらよいか。
[回答]
日本ではデータサイエンスを教える人材が不足している。データサイエンティストとして活躍している方は、企業での引きあいが強くなかなか大学に来ていただけない。アカデミックなスタッフを揃えるだけでなく、データサイエンティストとして活躍している方と大学がタイアップして教育していくような工夫もしないといけない。
【問題発見・解決力、創造力等を促進するICT活用授業の提案】

 司会(井端事務局長)から、問題発見力・解決力、創造力の向上を効果的に進めるために、ICTを活用して談論風発的に議論する中で、知識を組み合わせ最適な解を考え出す授業モデルの研究について、本協会における研究の一端を報告していただく旨の紹介があり、三つの分野から報告が行われた。

テーマ1「分野横断法政策フォーラム型授業の試み」

本協会法律学FD/ICT活用研究委員会委員 中村 壽宏 氏

 本協会法律学分野のFD/ICT活用研究委員会では、市民性の涵養を目指した法律の学びを目指し、実際の問題と関連付けた学びができるように、法律と他の分野が絡む社会的な問題を取りあげ、複数分野の教員及び専門家・市民が参加してネット上にフォーラムを形成し、学生と議論する中で思考させる分野横断型の授業モデルを研究している。
 授業では、学生が社会の重要な問題を発見し、どのような制度・規範があるのか、電子掲示板に学生が調べて学んだ知識を書き込み、その解釈と適用方法について、専門家や問題意識の高い市民からの意見を得て、批判的に法政策の現状を分析する新たな授業改善を計画した。
 教員は自分が知っている範囲でしか教えることができないことの弱点を補うため、授業ではネット上で多様な知を組み合わせる中で、対立する意見から制約条件を確認し、最適な改善策を見出していく創造的な思考力の獲得を目指している。
 授業の仕組みは、「検討課題の提示と共通認識の共有」、「論点に関する準備的な討論と問題の整理」、「課題解決を目指す討論と結論の社会への発信」の三つのフェーズで、ネット授業と教室授業を組み合わせ、一つの課題に3週から5週を充て、半期に3テーマ(国政選挙への電子投票制度の導入、冤罪と刑事再審制度、選択的夫婦別姓と家族)を想定した。
 授業モデルの運用は次の通りである。
 以上のような計画で平成30年度に試行したところ、他大学のゼミ学生の参加が低調、参加予定教員の渡欧などで大学間連携が未達成、外部有識者の弁護士による議論展開の不介入や社会からの意見提供者(会社社長)、他分野の学者から学生が未熟で意見が言いづらいなど意識が乖離、学生掲示板に発言を投稿する内容が評価を気にして抑制されたことなどトラブルが発生し、計画通りに実施できなかった。
 そこで、次年度に向けて、連携する大学教員との周到な調整準備、学生の発言にポイントを付与し評価を可視化、教員が学生の議論をまとめて市民・外部有識者に提供するとともに、有識者に最優秀投稿の評価を委託するなどの改善を検討した。

テーマ2「構想力・問題発見力を目指す分野横断型PBL授業の提案」

本協会情報教育委員会情報専門教育分科会 主査 大原 茂之 氏

 本協会情報専門教育分科会では、多様な「知」を組み合わせて改善・改良など新たな価値の創造に関与できる人材、いわゆるオープンイノベーションに取り組める人材を育成するため、ICTを効果的に活用した分野横断型のPBL授業の研究を続けている。
 IoT、AI、ビッグデータ、ロボットなど第4次産業革命の進展・普及により、社会や産業構造のあり方、仕事の仕方、雇用の多様化など、大きな変化が予想されている。
 これまで関係がなかった大学も無関係でいられなくなる。20年後の社会に対応できる人材を如何に育成するかという重大な責務がある。何も画期的で新しいモノやコトを創るだけではイノベーションは起きない。販路、マーケット、組織等々、多様な「知」の横断的関係付けによる新結合が必要で、日常活動で生み出される改善・改良の積み重ねが重要となる。そのことから知識・常識・経験に囚われない力、自分で創造的に考える力を如何に身に付けるかが、大学教育の責務になっている。教室で教員が黒板で説明するこれまでの授業形態で、学生は考える力が向上するであろうか。シュンペータの新結合がIoT空間の中で加速化してきている状況を考えると、授業をIoT空間に入れ、多様な分野の知識と接続し、AI、ビッグデータを利活用して組み合わせる中で、新しい価値の創造に取り組ことを可能にするので、IoT空間を積極的に利活用した授業改革をすべきではないか。(下図参照)

構想力・問題解決力を育成する技術革新時代の授業のあり方

 構想力の分野横断型PBL授業モデルでは、現状を把握し、将来あるべき姿を考え、そこへ到達するプロセスを提案できる3点をセットにしている。具体的には、対象を観察し、発想し、仮設を立てモデル化し、それで実際に問題解決できるかどうか、課題を設定し、解決していく、その上で問題解決の検証を行い、プロセスの見直し・改善のPDCAを回す。テーマは、教員側から少子高齢化の問題として、一人当りの生産性を向上させる解決策、自治体の消滅危機の問題として、原因を整理し、特定の自治体を例に危機を脱する解決策を3点セットで考えさせる。
 授業の評価は、学修成果について外部評価クラウドを介して、複数の外部評価者による多面的角度からの1次評価や、市場を巻き込む場合はクラウドファンディングを評価として用いることも考えられる。
 なお、授業に使えるIoTの最新技術として、解(実現案)をプログラミングできなくても、IF−THENカードを組み合わせて、実際に動かすことで論理的な思考を身に付け、アイデイア創出の支援が可能となる。また、ハードの設計をしなくても、一円玉の大きさの基盤をつなぐことで欲しいハードのプロトタイプが作れる。

テーマ3「批判的思考力を目指した多職種フォーラム型PBLの実験」(ビデオ紹介)

本協会医療系FD/ICT活用研究委員会委員 フォーラム型実験小委員会 主査 片岡 竜太 氏

 本協会医療系のフォーラム型実験小委員会では、健康長寿社会で活躍できる人材を目指して、「20年後における自職種の未来像を考察し、多職種の役割を知る」として、2年生を対象にした第1段階の実験授業と、「健康長寿社会実現のために多分野がどのように連携すべきかを考える」として、4年生又は5・6年生を対象にした第2段階の実験授業を計画している。
 実験授業の到達目標は、与えられた情報や知識を鵜呑みにするのではなく、多面的な視点から論理的・批判的に分析・思考し、本質を見抜く能力や態度を身につけることを目指している。
 本年度は、第1段階の実験を行うことにしており、医学・歯学・薬学・栄養学・看護学・社会福祉学の6分野でグループを構成し、民間サイトの学修支援システム上で多分野の情報・知識をビデオ視聴等で学修した上で、自己主導型学修とグループディスカッシュンによるネット授業を組み合わせて行う。
 PBL授業は、民間の学修支援システムのグレクサ上で全ての学修を展開する。5回の短期集中方式で2ヶ月程度に亘り行う。進め方は、1回目に「超高齢化社会に伴うニーズの変化を知る」、2回目に「健康長寿を送るためにどうするか」、3回目に「健康長寿を実現するために自職種はどうするか」、4回目に「健康長寿を実現するために20年後の自職種の未来像と職種間の関連性を考える」、5回目にeポートフォリオを用いた省察を行い、授業前に各自が書き出した学修目標がどのように達成できたのか、成長したか、成果報告書を提出し、第二段階に進むときに学修目標の立て方などに活用できるようにする。

 ビデオの視聴は、NHKスペシャル「あなたもなれる健康長寿徹底解明100歳の世界」などの情報を考察し、学んだことをサマリーとして抄録のようにまとめ、学修支援システムの掲示板に掲載し、異なる分野の学生に説明するために発表用スライドを作成して掲示板上で共有する中で話し合う。
 グループでのディスカションは、司会と書記、タイムキーパーを毎回決めた上で、6人の学生が自己学修してきた内容の説明ファイルを掲示板で共有した上で、グループで話し合いを行い、そのまとめを書記が支援システムのホワイトボードを用いて書き出し、さらにグループで議論しながら成果をまとめていく形で進める。例えば、健康長寿を妨げる要因を整理して、要因間の関係性をプロブレムマップとして支援システム上で図示できるようにしている。
 実験授業で学生が身につけるコンピテンシーとしては、①与えられた情報を鵜呑みにせず、多面的な視点で問題を発見できる、②社会的な課題解決のために、エビデンスの高い適切な情報を活用できる、③多様な知見・価値観と独自の視点を活かした合理的な判断に基づき問題解決策を立案できる、④問題解決するために論理的に思考し、表現できる、⑤自分の意見を分かりやすく他者に伝え、他者の意見を傾聴し、積極的で効果的なグループ討議ができる、⑥適切な自己評価とさらに改善する方法を模索できるとした。

【シンポジウム:分野横断型PBLの実現に向けた教育イノベーションを考える】
本協会会長
向殿 政男 氏
同常務理事(芝浦工業大学)
角田 和己 氏
同法学FD/ICT活用研究委員会委員
中村 壽宏 氏
同情報教育研究委員会情報専門教育分科会 主査
大原 茂之 氏
本協会事務局長
井端 正臣 氏

 向殿会長が座長となり、シンポジウムで認識を共有する観点について、「20年後の超スマート社会では仕事の仕方や質が大きく変わってくる。大学教育も知識・技能の獲得だけでなく、実践知を組み入れて問題解決に取り組む教育の充実が不可欠になる。それには、大学に所属する教員だけでは限界があることから、他大学の教員、産業化、地域社会と連携し、多様な知を組み合わせた教育のオープンイノベーションが避けて通れないのではないか。」との問題提起が行われた。
 これについて、法学分野の中村氏からは、理論と実際をマッチングするには多様な観点から分析することが避けられなくなっている。他大学の異分野の教員や専門家が議論に入ることで分からないことが分かるようになるので、授業の中で展開していくことは不可避と思うとの意見があった。
 大原氏からは、モノ作りの世界ではオープンイノベーションは起きているので新しい概念ではないが、それに対応するようにしなければいけない。学生はIoT空間の中で生きていかなければならないので、オープンに学ぶ力を与えるべきではないか。
 その上で、座長から「教育のオープンイノベーションについて考えていく必要があり、今後の課題と考える」について挙手を求めたところ、大半から賛同があった。
 次いで座長から、縦割りの授業だけでは発想や価値観の見直しなどが難しいのではないか、教員、学生、有識者などと学びの体験ができるよう、ネットを活用した分野横断型の演習授業のニーズについて、本協会の角田常務理事に研究事業の説明を求めたところ、次のような説明があった。
 本協会ではICTを活用した分野横断型のPBL演習授業について3つのグループで研究をすすめている。テーマ1で紹介の法律分野では、批判的・創造的な思考力の獲得を目指すために、法律と他の分野が絡む社会の問題を取上げ、ネット上に複数分野の教員・専門家・一般市民が参加してフォーラムを形成し、最適な解を発見する授業の研究を進めている。
 テーマ3で紹介の医学、歯学、薬学、栄養学、看護学、社会福祉学による医療系分野では、健康長寿社会に活躍できる人材の育成を目指して、ネット上で多分野によるチームを編成し、有識者によるフォーラムやビデオ、Web情報を教材に、知識の関連付けを行い、批判的・合理的な思考力、判断力を獲得するPBL授業の研究をすすめている。会計学分野では、ビッグデータを用いて、組織の成長・発展に貢献する経済活動の活性化支援を目指して、ネット上でファイナンス、経営、会計、経済、心理学、情報システムなどの知見を組み合わせ、社会人が大学で学び直しができる分野横断型の授業デザインを考えている。
 いずれにしても、ネットを活用して大学や学部の枠を越えて、議論・考察するオープンな授業が今後は必然的に取り入れられていくようになると考えている。
 引き続き、座長から「考える力を訓練する授業への転換には縦割りの授業に加えて、共通のテーマを設けて横串の授業を考えることの必要性が明らかになったと思われる。今後、分野横断型の授業を考える必要性がある」ことについて挙手を求めたところ、半数に近い賛同があった。

【参加者との意見交換の概要】

① 分野横断型授業などの変革に対して設置規準等の検討はどうか。

 井端局長から、中央教育審議会大学分科会将来構想部会で多様な教育プログラムに学部所属の教員がかかわれるよう、設置基準の緩和などの問題が議論されていることが紹介された。

② 企業の立場では、AIに特化した人材が多くなることで、ビジネスを展開する上で危険な状態になることも考えられるが、分野横断型PBLは多面的に捉える力を目指すので企業としても協力していきたい。

③ ネット授業では掲示板への書き込みなどに時間がとられ、15回では対応が難しいと思うがどのように考えているのか。

 中村氏から、ネットの書き込みは予習・復習という位置付けで解決している。

④ 電子掲示板をどこまでオープンにできるのか。

 中村氏から、大学のセキュリティから有識者にIDとパスワードを配布することで、誰でも参加できるようにはしていない。来年度は誰でも参加できるように民間のサイトを借りることを考えている。

⑤ 分野横断型の授業評価としては、本協会のアクティブラーニング対話集会に外部評価モデルの提案を行い、意見を伺うことにしている。論理展開力、批判的思考力、合理的判断力の達成状況を判断するため、外部者による評価コンソーシアムを設けて評価基準を作成し、ネットを介して大学教員、社会人から社会課題、地域課題等のビデオ試問を収集・厳選して外部評価クラウドを介してビデオ試問を学生一人ひとりに行い、学生に論旨明確に記述させる。評価は複数の評価者と授業担当者で行うことを考えている。

【教育の情報化推進に関する著作権】

著作権法改正が大学教育に与える影響 ―その理論と現実および著作権法改正の動向

神奈川大学大学院法務研究科教授
中村 壽宏 氏

 平成30年に著作権法の大学教育に関わる部分に大きな改正が行われた。高等教育における著作権がどのように機能しているのかを確認しながら、今年度の法改正がどういう意味を持つのか、説明したい。

1.著作権法改正の概要

① デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備

 ビッグデータを活用したサービスへの対応やイノベーション創出促進のための権利制限規定の抽象化など、規制をかなり緩和する。

② 教育の情報化(ICT活用教育)への対応

 包括補償金制度導入による、授業の過程での第三者著作物の自由利用の拡大を図る。

③ 障害者の情報アクセス機会の充実への対応

 障害者のための複製について、その範囲を「視聴覚障害」から「一般的困難者」へ拡大する。(マケラシュ条約への対応)

④ アーカイブの利活用促進

 芸術系や文芸のアーカイブ化を70年以前のものであっても、保存のニーズがある場合は基本的に許可される。

⑤ 環太平洋連携協定(TPP)締結に伴う著作権保護期間の延長

 現行の著作権の保護期間50年から、TPP発行と同時に70年になる。

2.著作権とは何か

 著作権における創作物とは「思想または感情を創作的に表現したもの」で、アイディア、データ、汎用性のあるプログラムは除外される。原著作物の翻訳などの二次的著作物まで含まれる。
 著作権は、三つで構成されている。一つは著作物を創作した人だけに帰属し誰にも譲ることができない著作者人格権、二つは複製や公衆送信など著作物の譲渡にかかわり発生する著作財産権、三つは他人の著作物使用に伴い発生する著作隣接権となっている。
 著作財産権の利用については、米国のいわゆるフェアユースの法理に対し、日本では法律上の要件を満たした場合のみ著作権者の権利制限を行っている。大学においては、引用(32条)、教育機関における複製等(35条)、試験問題における利用(36条)などがこの恩恵を受けている。但し、著作権の権利制限規定は著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならないものとされている。

3.大学教育・研究と著作権

 授業の過程においては、教員や学生が必要と認められる限度において、第三者の著作物を複製・配付することができ、また同時に授業目的公衆送信をすることも認められていた。今回の改正により、オンデマンド講義などの異時授業目的公衆送信における第三者著作物の複製・配付も原則として自由となった。但し、異時授業目的公衆送信を行う場合には、適切な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。なお、教科書の全ページを複製して学生に配付するような、著作権者の利益を不当に害する用途・態様での利用は権利制限の対象外となっており、別途権利者に支払いを行うことになる。

4.著作権にかかわる問題か生じる授業方法

① 複製の実施者についての問題

 他者の著作物である資料の複写を、本来業務ではない事務職員に依頼することは許されない。一方、直接的指揮監督下にある助手や大学院生に依頼する場合ならば、教員本人の複製行為と判断できる。

② コンテンツの提供方法についての問題

 第三者著作物を含むコンテンツを、Web上で公開したり、学内LANサーバに搭載して受講生だけに公開したりする行為は、LMSなどを利用して「授業の過程」の体裁をとらなければ自由な複製は認められない。また、著作者人格権の一つである同一性保持権の侵害となる写真や図表などのトリミングも許されない。
 第三者著作物を含む資料を受講学生の人数を超えて印刷することは、権利者側と教育機関側の間でその許容性についてなお意見の相違がある。

③ コンテンツの種類及び利用方法についての問題

 例えば、シラバスで指定されている書籍の一部を複写して学生に配付することは、原則として権利者に不当な損害を与えると考えられる。また、次年度以降の利用に備えて学内サーバに保存することは、授業の過程に含まれないため許されないとされている。教員が自分のUSBメモリ等に保存する場合は私的使用(30条)として許されるだろう。

5.著作権法に対する制裁

 権利侵害行為の差し止め請求と損害賠償請求があり、さらに悪質なものは刑事訴追を受ける場合もある。違反を回避する方法としては、著作権者からの許諾を得る、著作権のないパブリックドメイン素材を利用する、ライセンス実施方法が明記された素材(クリエイティブコモンズ等)を利用する方法等がある。

6.著作権法改正と高等教育

 今回の改正で、文化庁は柔軟な権利制限規定を拡大しつつ、大学を含む教育機関に対して包括補償金制度を導入することとした。これは、利害関係者の間でガイドラインを作成し、一定の条件の下で使用する際に補償金を支払うというもので、学生の利用者数を考えるとその費用負担は少なくはないと言える。
 以上のとおり、2018年の著作権法の一部改正は、大学と教員に大きな影響を及ぼすものと言える。

第2日目(9月5日)

テーマ別意見交流

分科会A:Moodle、Googleによるeラーニング・ICT活用授業の効果と今後の展開

 本分科会では、教育の質向上に向けてeラーニングやICT活用授業の充実が期待されているが、大学授業での利活用は3割程度に留まっていることに鑑み、事前・事後学修、対面授業、教室外授業における無料のオープンソースやWebサービスの活用状況について、Google classroomの活用、Googleドライブの活用、Moodle利用のeラーニングの紹介を行った後、質疑及び意見交流を行い、ICT活用の普及・拡大に向けて認識の共有を図ることにした。

「Google classroomを活用した授業実践の効果と展開」

宮城教育大学教育学部准教授 リース・エイドリアン 氏

 Google classroomの特徴としてMoodleに比べて、クラスの設定など容易であり、事前にテーマを配布でき、ペーパーレスや、ビデオリンクが容易・PDF配布・共有が可能である。また、Googleフォームと連動して、5人単位のグループによるディスカッションの場で、評価が簡単にできる。英語コミュニケーションや異文化理解の授業では、掲示板やLINEグループトークの機能を持ったストリームで、1週間前に課題を提示し、事前にディスカッションさせ、学生同士で相互評価させている。学生からの反応は、「授業に出る前に考えることができたので、授業中は意見交換することに集中できた」、「リンクや画像、意見をより簡単に共有し、いつでも見ることが可能になったことは、生徒と先生がどこでも授業に参加しやすい雰囲気につながったと思う」など、授業に意欲的に参加できるようになった。

「Googleドライブ活用事例と展望」

松山大学経済学部教授 安田 俊一 氏

 Moodleは大人数にも対応できるなど便利であるが、フォルダ、トピックを立てるなど事前準備に面倒な面 がある。ゼミなど少集団では、発表とコメントのやりとりでタイムラグがある。リアルタイムなやりとりで は、ブラウザからMoodleサーバーへアクセスする手間がかかる。そこで、Googleドライブを使ってみたところ、20人程度の授業であれば、発表とコメントのタイムラグがなくなり、学外にいながらLINEで協働学修ができるようになった。また、操作に迷う学生が発生せず、フォローが不要。但し、学生全員がGメールアドレスを持っている必要がある。さらに、他人が書いたコメントの上書きやファイルを誤って消してしまう危険性が高い。権限設定できるが、手間がかかる。機能は不十分な面があるが、シームレスに利用できるのが学生には便利である。また、Google Drive File Streamを用いるとクラウド上で作業を進めることができる。ミクロ経済学入門4クラスで共有フォルダを作り、教材、テスト、意見などを集め、利用できるようにしている。展望としては、学修ポートフォリオの学修履歴を4年間保存しておくため、教員間での教材・資料共有ツールとしても使える。

「Moodleを利用したeラーニング活用の効果と展開」

愛媛大学教育学部教授 吉村 直道 氏

 Moodleの利用は、2013年より学内の教育デザイン室(現在は利用教育推進室)が教育コンテンツの作成や授業デザイン作成などをサポートしてくれた。このようなサポート体制があると、学内でのMoodleの利用が高まるのでないかと考える。Moodleは、初等算数科教育法では配布資料の提供、課題提出・小テストの管理徹底、学生コメントへのフィードバックや評点付けやアンケート調査に利用、教職実践演習では他学生の実習映像から改善点を探る教材として動画による情報伝達と、教員との双方向による意見交換に利用している。今後を見通した学びの質保証のための方略としては、学生同士がどのような学びをしているか共有できる可視化の環境、持続的な学習が可能となるよう学習者による修正を前提とした学習コンテンツの工夫、教員や仲間との相互作用による自由な発想による学び作りが必要であると考える。
 話題提供後、会場との意見交換が行われた。主な意見交流を以下に紹介する。

① PCでのキーボード入力の対応については、長い文章やパワーポイント等を利用させることで、学生にキーボード入力に慣れさせているとのことであった。

② 教員がMoodleやGoogle classroomを利用する上でのサポートアプリや簡単なマニュアルの必要性については、会場参加者全員からの賛同があった。また、質問できるようなサポート体制があると利用が広がるのでないかとの意見があった、一方、大学によりセキュリティ面で利用上の制約があるのと問題点も指摘があった。

③ 授業課題のバックグランドを外部者に説明を求める利用については、システム上の制約があり困難な面があるとの意見も見られた。

④ ICTは課題を解くために便利なことから、MoodleやGoogle classroomを使うことは重要であるが、ツールを使わせるために課題を設定するなどは逆ではないかとの意見もあった。

⑤ 予習・復習時間の確認について、どのように把握していくのかという問題があるが、ICTを使わざるを得ないのではないか。また、授業のビデオ化など効果的な学びが得られる環境としてICTは不可欠であるとの意見もあった。

 以上を通じて、着実にオープンソースの利用は進んでいるが、まだ30%程度の利用率であり、今後、これらのシステムで活用できる教育コンテンツの充実が課題であることが再確認された。

分科会B:反転授業の導入と効果及び展開

 本分科会では、知識の獲得・定着に高い効果が得られる反転授業の普及を目指し、英語教育、会計初等教育、数理基礎教育における反転授業の導入と効果及び展開について紹介の後、コンテンツ作成や教室授業でのアクティブラーニングの工夫などの課題及び今後の展開について認識の共有を図ることにした。

「英語教育における反転授業の導入と効果及び展開」

青山学院大学経済学部 小張 敬之 氏

 教員が講義して知識を伝えるという知識伝達型の教育から、パラダイムシフトが起きている。授業は教員の独占ではなく、学修者はウェブ上にあるCourseraやUdacityなど、素晴らしいムークの講義を選びながら学んでいく時代にいる。英語教育における発音、イントネーション、リズムの矯正などはコンピュータの方が人間よりはるかに優れている。デジタル教材のメリットとして、マルチメディア利用とアップデートが容易で、学修履歴が記録され、理解度に応じた個別指導が可能になる。また、SNSを使えばコミュニケーションの活発化がすぐにできる。反面、現場教員の新しい環境への適合や、書くことの減少による思考時間の減少などがデメリットとしてあげられるので併用が好ましい。
 授業ではヨーロッパ基準のCEFRで英語の力を計っている。学生はTOEICスコア550点に相当するB1レベルが中心だが、B2レベルをターゲットと考えている。そのような中で反転授業とかアクティブラーニングは効果があるかどうか、実証実験を何年間かやってきている。反転授業では、インプットを英語によるソーシャルビデオを用いて講義の外で行い、アウトプットを英語による教室授業で教員と学生、学生同士による相互作用と、プレゼンテーションを中心に組み立てている。教員はファシリテータ、メンターである必要がある。スマホとiPadを自由に使い、そこに教材を置いておいて相互作用し、発表を動画にとってSNSに上げて自分のリフレクションがすぐにできる。ほとんどの学生が100ポイント以上上がっている。TOEICスコア750点前後までは反転授業が効果的であった。教科書中心の授業では61点に対し、反転授業は180点上がっており、効果ははっきりしている。

「会計初等教育における反転授業の導入と効果及び展開」

関西学院大学国際学部 木本 圭一 氏

 当該授業の会計学は選択科目のため、概念修得がない状態で講義を行う必要がある。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書すべてを理解した上でそれを分析するところまで持っていくことが目標となるが、学生にとって企業活動は未知であることと、会計の仕組みが非常に特殊であるために、単なる講義では内容を覚えて解答するというレベルで終わっていた。反転授業に踏み込めなかった理由は、ビデオ作成である。撮影は大変なのでパワーポイントに音声を入れ、動画に変換(MP4)し学生がスマホで見られるようにした。予習の確認にはクリッカーを使うことで、間違いが多い箇所がすぐにわかりフォローをその場で行うことができるようにした。 反転授業を行うことで、講義の時間はワークを行うことができる。最初の5回の講義では基本的な概念を定着させるワーク、次の5回がテーマを与えてディスカッションをさせる。後半5回はA社とB社の比較であるとか、5年間の比較などをグループや個人で行わせている。
 はじめ学生は反転授業のやり方がわからず、定着が不十分だったので、反転授業の周知と翌週の内容の解説を丁寧に行うようにした。過去5年間で概ね平均点が上がってきている。なお、モチベーションが高くない学生には、日々細かいWeb演習テストの導入とか、教員が写っているビデオを作成するとか、学生と教員の掛け合いのようなビデオを作成する等の課題が残っている。

「数理基礎科目における反転授業の導入と効果及び展開」

金沢工業大学数理基礎教育課程 西 誠 氏

 当該科目は学部全体一年次の必修科目で、1,000人を超える学生と10数名の担当教員がいる。10分から20分という短いビデオを数年に亘り作成し1,000本を超えた。反転授業に否定的な教員もいるので、どのように使用できるように全クラスのeシラバスに掲載している。
 反転授業においては、ビデオ教材を使って予習させ宿題を行わせて、授業の最初に確認テストを行っている。宿題の返却も毎回行い、解説だけでなく学生同士でピア学修させ、間違いを直して再提出させている。毎時間の確認テストも同様に行い、学生の理解を深めさせている。その後での授業では、パソコンを使って課題を行わせている。例えば、野球のホームランではどのくらいの初速度と角度が必要かをグループで相談させながら計算させるとか、クリッカーを使ってピアインストラクションを行うといったアクティブ・ラーニングを導入している。
 反転授業の場合、予習をしてくるか否かが大きな問題となる。はじめは予習をしてこない学生が3割程度いたが、6回目くらいになると大半は予習してくる。大事なことは、予習をしてこない学生に教えないようにしている。教えてしまうと、授業でやるなら予習しなくてもよいと学生が考えてしまう。
 アンケートでは、ビデオ教材は肯定的な意見が多かったが、普通の授業形態の方が良いという意見もある。反転授業で学生の理解度はかなり上がるが、かなりきついという意見もあり、学生の評判は二極化している。反転授業でありながら、どういう風に学生と向き合っていくかというのが一番大事になると感じた。
 話題提供後、パネルディスカッション方式で質疑応答を行った。評価方法、クリッカー使用方法などの質問があった。反転授業の課題としては、予習をしてこない学生への対応があげられた。反転授業が知識習得のためと捉えられるのは誤りで、教室でアクティブ・ラーニングによって理解を深めて行くことが反転授業であると結論づけられた。

分科会C:モバイル・SNSを活用した双方向型授業の導入と展望

 本分科会では、学生が主体的に授業で学ぶ仕組みとして、多様なモバイル・SNSなどを組み合わせた双方向授業について、Twitterの活用、スマートフォンの活用、タブレットPC活用の取り組みについて紹介の後、教員と学生による理解度の確認、学生同士による教え合い、学び合いを支援する授業運営及び授業環境作りの課題及び今後の展開について認識の共有を図ることにした。

「Twitterを活用した双方向授業の取り組みと展望」

早稲田大学人間科学学術院准教授 尾澤 重知 氏

 授業では例年150〜300名が履修しており、大規模の教室でいかに学生の能動性を高め、授業に学生を巻き込んでいくか、工夫している。学生の理解度や意見・質問を把握し、コメントするツールとして2010年度からTwitterを導入している。しかし、Twitterの利用率は、2011年に集計を始めてからほぼ毎年減り続けている。Twitterを授業で活用することに対して、学生からの評価は高いものの、活発に投稿する学生は上位2割くらいの学生が全体の8割を占めている。授業は、講義、演習、グループワークという構成で、これを2回〜4回繰り返している。Twitterは常に表示していると学生が授業に集中できないため、講義、演習、グループワークの合間に一つの画面を切り替えるような形で使っている。表示する時間は長くても4分〜5分である。
 Twitterの利用方法やルールとしては、投稿内容の共有のために、特定のハッシュタグを決めて投稿することにしている。また、投稿は「授業内容の質問」「授業の内容を発展させるような追加情報」などとし、学生が投稿しやすくするために「ツッコミ」を歓迎するとしている。その上で、学生の任意利用と自己責任ということをかなり説明している。匿名で使いたい場合は匿名のアカウントを作り、自分のことをアピールしたい場合は成績とは関係しないが、どうぞアピールしてくださいと説明している。
 また、アクティブ・ラーニングを進めるほど、学生がTwitterを使う時間がなくなることや、Twitterは授業改善に役立っているが、一部の利用者に限られていることの課題が指摘された。

「大人数講義にスマートフォンを活用した双方向性授業実践の展望と課題」

日本大学生物資源学部講師 久保田 裕美 氏

 大人数講義でICTを活用するようになったのは、教員と学生との意思やコミュニケーションが図られ、学生が自ら考える力を身につけられる機会を作りだすことと、資料印刷・配付の効率化と授業で感じたことをミニッツ・ペーパーで回収・フィードバックする作業の迅速化を考えた。そこで導入したのがスマートフォンで、資料を毎回ホームページに掲載したが、様々なサービスが利用できるGoogle Classroomを用いている。
 授業では、スマートフォンを使用してGoogle Classroomのアプリを利用することについて、参加方法を含めて終始徹底する。課題の提出がスマートフォンからできるため、予習復習がしっかりでき、データ化されているのでペーパーレスにつながり、学生にとってもメリットが感じられる。一方で、接続が不安定だったり、通信制限がかかり操作ができなかったり、操作が難しく感じる時があるため、操作マニュアルを作ってほしいという声もあがっている。
 スマートフォンを活用する最大のメリットは、大人数の講義でも学生の反応をリアルタイムに得て学生と授業を作ることが可能で、授業内容に学生が発言することや、授業に主体的に参加することにもつながっている。自分の発言で授業が変わっていく、友達の意見を受けて考えが積み重なっていき楽しいなど、概ね学生からは高評価で他の授業でも利用してほしいというコメントが多かった。また、教員側も学修到達度の把握と活用で、どこでつまずいたかを常に確認しながら授業を進めることができる。但し、それはスマートフォンに対する操作や心理的なハードルがない学生にとってであり、苦手意識がある学生は学修効果を感じていないため、どのようにフォローしていくかが今後の課題である。

「タブレットPCを活用した双方向授業の効果と展望」

立正大学地球環境科学部教授 渡来 靖 氏

 平成26年度に採択された「教育再生加速プログラム(AP)」の4つの柱の一つに、タブレットPCを利用した双方向教育を掲げており、約250台のタブレットPCを購入し、多くの教室にWi-Fi環境を整備した。自己満足的な授業に走らないよう、学生の反応を見ながら進める双方向性の授業を試みた。事前準備として二つの課題を与え、必要な画像、図・表とかはクラウド上にデータをアップしておく方法をとっている。授業の内容は、タブレット上で配付した画像やグラフを受講生が見ながら、読み取れる特徴を回答し、そのファイルを有料ソフトのロイロノート上で提出させている。その回答の中からいくつか選んで一覧表示させ、皆で確認しながら教員が解説を加えている。これにより、受講生が自分の思ったことを述べたり、気づいたりする練習に役立っている。
 問題点と今後の課題としては、タブレットの配付・回収にどうしても10分くらいの時間がかかるため、各自が持っているスマホの方が問題ないであろう。また、タブレット上での作業を増やすと授業の内容がシュリンクする傾向にあるので、授業外学修を含めた全体の計画が必要になると考えている。また、実際にロイロノートを導入したことによって、本当に学力向上につながっているかの評価をしなければいけないと思っている。
 話題提供後、パネルディスカッション方式で質疑応答を行った。特に分科会のテーマに即して必要な内容を紹介する。

① ICT利用による成績評価、グループワークの仕方の取り組みについて

 Twitterの授業では使えればよく、成績評価の対象としていない。スマートフォンの授業では、知識、思考力、論理的表現力を目指しているので、獲得状況を伝える双方向のツールとして使用している。グループワークでは、資料の閲覧・確認と発信に使う。タブレットPCの授業では、課題提出物は成績評価に加えるが、ウエイトとしては、適切な文章表現で回答できるか評価している。グループワークでは、学生が調べたことを共有し、発表する使い方をしている。

② 挙手での発言とオンライン上での発言について

 挙手は発言した学生の背景・パーソナリティで分かり合ってしまうことがあるが、ICTを利用した場合は、自分の意見を整理し、内省する時間があることから、フラットに対応できる。

③ 授業環境としてTAの必要性について

 雇用契約、財源の問題があることから、学生による支援としてSAを上手に活用することが重要である。

分科会D:問題発見・解決思考の情報リテラシー教育モデルの理解と実現に向けた対応策の考察

「価値の創出を目指した問題発見・解決思考の情報リテラシー教育を実現するための教育モデルと教材(到達目標A・B)」

情報教育研究委員会情報リテラシー・情報倫理分科会 主査 玉田 和恵 氏

 本協会では、社会で求められる情報活用能力を育成するために、全ての学生が修得しておくべき学士力として、情報リテラシー教育のガイドラインを提案している。初年次教育では、分野共通に必要なリテラシーとして、「問題発見・解決思考の枠組みの活用(到達目標A)」を中心に、情報の関連付けによる考察を通じて、最善の解を見出す体験を行い、その上で必要に応じて「情報社会を認識した主体的な行動(到達目標B)」と、「情報通信技術の仕組みとモデル化・シミュレーションの活用(到達目標C)」を修得することを目指している。専門教育では、初年次教育を踏まえて、それぞれの専門分野で問題発見・解決及び情報倫理面、モデリング・検証など実践を繰り返す中で、体系的な情報活用能力の修得を目指している。
 2017年度の本大会アンケート結果から、本ガイドラインによる教育モデルの推進には、教員が容易に授業改善に取り組める教材の作成が必須であることを認識した。そこで、本モデルの授業実践に取り組めるよう、教材を作成してみた。ディプロマポリシー、カリキュラムポリシーの制約もあり、多くの時間が割けないことを考慮し、到達目標A、B、Cを3コマで修得できるよう授業指導案、反転授業用教材、学習用ワークシートを作成した。1コマごとに事前に反転授業用教材を学生に視聴させ、学習用ワークシートに記入するよう指示し、次回の授業で授業指導案に基づき対面のグループワークを行う流れとしている。今後、教材の適用性について意見を伺うことにしている。

「モデル化とシミュレーションの教育モデルと教材(到達目標C)」

情報教育研究委員会情報専門分科会 主査 大原 茂之 氏

 到達目標C領域では、情報通信技術の有効性を理解できるよう、情報通信技術はどういうもので、専門領域でどのように活用できるか、という観点でモデルを作っている。到達点1の「情報通信技術の特性を説明できる」では、現実空間と仮想空間の結合や形式知と暗黙知の関係、到達点2の「仮設検証の手段として、モデル化とシミュレーションなどで予測することができる」では、モデリングという概念を自分の専門領域でどのように使えるのか、将来を予測するシミュレーションとはどういうものなのかを理解できるようにしている。そのために、IoT、AI、ビッグデータなどの情報通信の技術動向を理解できるよう、到達点2の「反転授業用教材」を作成してみた。到達点3の「社会における情報通信システムの在り方を考察し説明できる」では、IoT、AI、ビッグデータの活用から、変革した社会を構想し、どのように関係すべきか、自分の意見を持つ授業を考えており、来年度に教材等を紹介する。

「問題解決モデルで学ぶ地域連携型プロジェクト演習の取り組み紹介(到達目標A:15コマ対面授業)」

日本女子大学人間社会学部 久東 光代、星名 由美 氏

 反転学修用スライド教材を用いて、汎用性を考慮しつつ、身近な事例を通して問題解決の枠組みと手順を学べるようにした。基礎的な知識・技能及び身近な事例でプロジェクトを推進する問題解決の枠組みと手順を学修した後、事前学修したワークシート結果を持ち寄り、グループで課題の理解度を確認・定着を図った。その上で、模擬プロジェクトを企画・実行して、実際に地域に行き、プロジェクト活動を体験することで、円滑に新しい価値の創造を目指して取り組むことができる授業が紹介された。

「問題解決モデルで学ぶデータ分析入門の取り組みの紹介(到達目標A・B:3コマ対面授業)」

江戸川大学情報文化学科 神部 順子 氏

 問題発見・解決思考の枠組みを習得した上で、Web上からデータを入手し、データ分析の知識を導入して課題を実行し、データ分析に必要な前処理技術の理解とデータを発掘・加工することの重要性に気付かせる授業が紹介された。

「理工系(機械工学)情報リテラシー教育授業の改善策の実践(到達目標A・B・C)」

芝浦工業大学機械工学科 角田 和己 氏

 専門教育(14コマ)の中で、11回からの3回を当てて、「日本の中長期エネルギービジョンを考える」を課題に、情報リテラシー教育と専門教育との連携を実践した。第一週はICTを活用したエネルギー情勢の調査として、図書館員から大規模データベースの検索方法を説明後、グループ作業を通じて課題解決の方針について議論を行った。第二週は調査結果に基づく将来像のシミュレーションとして、課題解決方針の決定、収集したデータからエネルギーの将来予測を行い、エネルギービジョンを検討した。第三週は課題解決の具体化として、チーム活動を通して長期エネルギービジョンの提案を行った。

「ガバナンスに対する理解促進策」

情報専門分科会 主査 大原 茂之 氏

 第4次産業革命の時代では、情報を相互に結びつけ価値の創出を可能にする。このような時代に求められる人材育成のフレームは、情報から知識を構成詩、様々な知識を組み合わせて知恵に転換する学びの仕組みが必要となる。課題に対して知識や外部の情報を関連付け、因果関係、相関関係を導き出し、倫理的・批判的・合理的思考を通じて、最善の解を見出す力を学生に修得させることが喫緊の課題となっている。そのような背景から、問題発見・解決思考の枠組みを取り入れた情報活用能力を修学期間通じて身に付けられるよう、ガバナンスの理解と支援を得てディプロマポリシー、カリキュラムポリシーで質保証することが望まれる。それには、初年次教育における分野共通の情報リテラシー教育と専門教育との連携が不可欠であり、教員同士による積極的なオープンイノベーションが求められるようになる。

【参加者からの声とまとめ】

① 実現に向けて推進する価値があるが、国・社会の動きと連動して理解できるように国連サミットで採択された環境等の持続可能な開発目標(SDGs)を課題としてとりあげる必要がある。

② 授業で試すには実施に時間がかかるので、ゼミで試行できるような教材作りが必要になる。

③ ビデオ教材を教員が修正して使用できるように、修正入力したテキストを音声に変換できる仕組みを考える。

④ 「情報リテラシー教育」の言葉自体が企業の感覚とかけ離れている。例えば「データリテラシー」、「データ利活用」に置き換えたらどうか。

 意見を踏まえて、次年度に向けて教育モデルの詳細設計、モデル教材の作成方法等について見直す必要性が確認された。

第3日目(9月6日)

大会発表

※以下の発表者は発表代表者のみ掲載。

A-1 幼保人材養成課程におけるデータリテラシ育成にかかわる試みと課題
江戸川大学   波多野 和彦

 幼保系人材養成課程のカリキュラムの中に、従来の情報教育に加え、教育評価や教育データの取り扱いにかかわる科目を組み入れて実践した報告である。複数教員による連携協力は実現できなかったが、高校段階の復習レベルの内容から始め、幼保関連の題材を用いて興味関心を維持させる工夫を行った旨の報告があった。

A-2 組込みシステム設計における課題解決型学習(PBL)による学習指導の検討
沖縄国際大学   小渡 悟

 ロボット制御の講義に課題解決型学習(PBL)を導入し、3つの課題を与えてチーム作業による競技形式でロボット制作を行わせた際に、課題ごとに学習の成果や意欲などを尋ねるアンケートを実施し分析したところ、課題に対する興味が低く、学習の自己評価も低い受講生のグループが存在した旨の報告があった。

A-3 日本語教員養成講座におけるICT研修の必要性
城西国際大学   林 千賀

 日本語教師養成講座で学内、学外でのインターンシップに参加し、日本語教師として実際の現場に従事している卒業生を対象にアンケート調査を行ったところ、インターンシップやICT教育の有効性が確認でき、さらなるステップアップのためにICT研修を受けたいという意見も多くあったことが報告された。

A-4 キーボードタイピングと情報リテラシーに関する調査・研究
文教大学   太田 信宏

 大学入学時点におけるキーボードのタイピングスキルが、その後の情報系科目の成績やGPAにどのように関連するかを調べるために、過去4年間のデータを分析したところ、情報処理科目の成績とは一定の関連が示されたが、GPAとの関連については有意差があるとは言えない結果であった旨の報告があった。

A-5 初学者向けプログラミング授業に手順解説動画を用いる試み
東北学院大学   松本 章代

 プログラミング未経験の大学生に、ビジュアルプログラミング言語でアプリを作らせる授業を行い、手順の解説にモノクロプリント、ウェブ上のPDF、ウェブ上の動画の3種類の教材を用意して利用頻度を調査したところ、作業に応じて使い分ける傾向があり、動画はスマホによる視聴で受け入れられた旨の報告があった。

A-6 ICT活用によるアクティブラーニングの実行負担軽減
戸板女子短期大学   西岡 健自

 プログラミングの授業において、反転授業の導入による教材準備の負担の増加に対して、小テストのペーパーレス化による負担軽減を行い、授業の付加価値向上と教員の負担削減を両立させたことが報告され、ICTによる機械的な作業の自動化で、教員の余力を授業改善のために回せる可能性が指摘された。

A-7 反転授業における事前学習動画の視聴回数および視聴の積極性と学習態度との関係
大妻女子大学   山本 真菜

 社会心理学分野の実験実習科目に反転授業を導入し、事前学習動画の視聴と学習態度との関係を調査したところ、視聴回数が多いほど、視聴への積極性が強いほど学習態度の得点が高く、視聴場所が大学よりも自宅の方が視聴への積極性が強いことが示され、事前学習動画の導入が学習態度に影響を与える可能性が報告された。

A-8 Wolfram Alpha Step by Stepの数学基礎教育への導入
同志社大学   伊藤 利明

 大学数学基礎教育の授業で、従来型の講義形式と、Wolfram Alpha Step By Stepを用いた反転型自主学習の形式を半分ずつ実施した結果、従来型受講学習を好む学生と反転型自主学習を好む学生の2グループに分かれたこと、自主学習で教員・TAへの相談が少ないこと、どちらも教科書が必要であることなどが報告された。

A-9 博物館学芸員養成課程におけるオンライン学習教材の開発
九州産業大学   緒方 泉

 博物館学芸員養成課程における学習教材についての報告が行われた。博物館の現場で学芸員に求められる技術に関する動画が制作され、これをオンライン配信することにより、反転授業の形式で受講学生が学習した結果について、受講学生の感想とともに紹介された。

A-10 ICT利用授業の支援および展開
摂南大学   柳沢 学

 発表者が所属する大学で展開されている、アクティブラーニングの促進を目的とした、ICTを利用した授業の支援体制についての報告が行われた。支援の効果としてMoodleの利用状況の改善が顕著で、昨年度と比較して、利用授業科目数・教員数およびアクセス数が2倍以上増加したことが紹介された。

A-11 全学規模の教員アンケートによるLMS利用の阻害要因の探求
山梨学院大学   原 敏

 教員アンケートによりLMSの利用を阻害する要因の調査結果が報告された。「講義スタイル・内容とLMSが合わない」と「講義の管理が確立しているためLMSは不要」の回答が多いが、担当科目の履修数の違いや教員の経験蓄積に由来する「授業のやり方」という要因が作用すると考察された。

A-12 物理化学系専門科目におけるICT講義の実施と効果−F-レックスLMSの運用事例−
福井工業大学   古澤 和也

 発表者の所属大学の県内で、高等教育機関が連携し、教材の共有化を目的として構築されたLMS環境を利用した物理・化学系科目のICT講義について報告された。発表者の担当科目で使用する、小テスト問題の作成例や理系科目に特有の数式の導出を解説した予習用講義資料について紹介された。

A-13 LMSを利用した語学教育改善の記録:教員の立場から
北海学園大学   上野 之江

 語学教育にLMSを利用することによる改善状況についての報告が行われた。LMSの導入により、教員間での教材の共有、ライティングクラスでの学生からの宿題の提出、学生によるプレゼンテーション結果のビデオによる振り返り、学生への通知やメールでの連絡などの授業改善について紹介された。

A-14 学修ポートフォリオを明確化するための学習ログ−ネットワーク利用から見えること−
名古屋女子大学   三宅 元子

 紙媒体の学修ポートフォリオを電子媒体の学修eポートフォリオに転換したことに関する学生へのアンケート結果の報告が行われた。学修eポートフォリオの課題は、学生の意義・目的の理解不足、教員間に共通理解が不十分な点、操作性やWiFiなどの環境整備の改善にあることが明らかになった。

A-15 学生を支援する能動的IR〜フィードバックシステムの開発に向けて〜
関西大学   土井 健嗣

 教学IRプロジェクトにおけるフィードバックシステムの開発についての報告が行われた。学生の主体的な学修を支援する能動性の実現のため各種の調査結果を提示するシステムで、将来的に学生毎の推奨履修パターンを提示するフィードフォワード型教学IRシステムへの展開を目指している。

A−16 発表中止
A−17 Moodleを用いた能力の可視化およびグループワークへの導入について
九州産業大学   石田 俊一

 グループワークによるコミュニケーション能力修得を目的とした科目における学修成果の可視化に関する報告が行われた。Moodleの小テスト機能を用い、講義担当者が設定する指標に基づく多角形グラフにより修得能力を表示し、理解の不十分な項目などを再学習することを促す効果があった。

A−18 学修成果の可視化に向けた支援ツールの整備と現状について
長崎大学   若菜 啓孝

 「教育の質の向上」を目的とした取り組みに関する報告が行われた。ディプロマポリシーを基軸とする教学システムの確立することを目的とし、「授業アンケート」、「シラバスシステム」、「学習ポートフォリオ」などの支援ツールの改修を進めている。これにより学修成果が可視化される。

A−19 応用科目での計算等のマークシート型小テスト:その実施と再試と課題(国際経済編)
専修大学   小川 健

 計算問題などを出題する小テストにおいて、マークシートを効果的に利用する方法に関する報告が行われた。マークシートを利用した小テストにより、LMSなどを用いたオンライン型の小テストの課題を補える可能性が指摘され、問題設定に関する事例や実施に当たっての留意点が紹介された。

A−20 体験型サイバーセキュリティ演習システムの構築とそれを用いた演習について
明治大学   齋藤 孝道

 将来的な絶対数の不足が懸念されるサイバーセキュリティ人材の育成ための演習システムの構築と演習に関する報告が行われた。演習を行うための仮想的なネットワークと演習を支援する学習支援システムから構成され、ネットワークに対する攻撃を、受講者に体験を通じた学習を提供する。

A−21 スマートフォンによるメッセージ投稿の効果的表現についての研究
東洋英和女学院大学   柳沢 昌義

 スマートフォンなどから学生が送信したメッセージを授業コンテンツとして利用し、講義を活性化することについて報告された。講義中に学生がスマートフォンを使うことを許可し、コメントを発言させ、挙手ではほぼ皆無の質問を引き出し、講義に取り入れる方法とシステムが紹介された。

A−22 アクションカメラによる録画を活用したアクティブラーニング型授業のふりかえり
北海道科学大学短期大学部   亘理 修

 通常のビデオカメラより画角の広いアクションカメラを用いて、アクティブラーニング型授業を収録することについて報告された。収録された動画は、グループ学習後の振り返りの際に、グループのメンバーが活動を思い出すのに使われ、PBL形式の授業などにおいて、特に効果的であった。

A−23 運動学講義のICT利活用によるアクティブラーニングを促す試み
仙台青葉学院短期大学   森永 雄

 リハビリテーション系の学科における運動学の講義におけるクリッカー機能の利用や予習コンテンツに関する調査結果について報告された。クリッカーの利用により講義の理解度が向上し、望ましい予習コンテンツについては、紙媒体・PDF形式・動画などに偏りがないという結果が得られた。

B−1 100名の授業におけるアクティブラーニングのデザイン
東洋英和女学院大学   町田 小織

 スマホを活用して、自分史について学ぶ90分授業を設計。スマホ、QRコードといったデジタルツールと、精読、ペアワークといったアナログ手法を組み合わせ、「今ここ」で授業をする意味を問うとともに、個々の学生を把握し、対応するためにインタラクティブな道具を駆使する。

B−2 初年次教育におけるアクティブ・ラーニングのためのICT活用
日本大学   松浦 康世

 初年次教育において、アクティブ・ラーニングを意識した体験型学習への転換を図る中、いかに学生にIT技術向上の機会を与え、全員をグループ活動に参加させるかが課題となった。その課題を解決するため、ICTの利点を活かした授業計画を考案した。

B−3 医・薬学部での情報セキュリティ教育とUSBメモリからの情報漏洩対策
東北医科薬科大学   星 憲司

 セキュリティー教育の一環として、情報漏洩事故防止のためのUSBメモリの抜き忘れを警告するツールを作成してWindows10環境で運用している。ログからユーザの32%がUSBメモリを使用し、うち18%はUSBメモリを取り外す習慣がないことが分かったため、注意喚起が必要である。

B−4 独自のQRコードを用いた出席管理システムの開発と実践
麻布大学   先名 健一

 独自のQRコードを用いて講義の出席管理システムを構築した。PCに接続したWebカメラにQRコードをかざして出席登録を済ませる。約90人の学生の登録に5分かかるが、出席データの電子化も含め、教員の負担は大幅に軽減される。またこのシステムは極めて安価に実現できる。

B−5 スピーカーフォンデバイスを用いた双方向型遠隔講義システムの構築
純真学園大学   小林 龍徳

 本研究では、スピーカーフォン、ウェブカメラ、Skypeを組み合わせた遠隔講義システムを構築した。学生の意見から、本システムの情報教育への有用性が確認できた。しかし、ネットワーク負荷による遅延などが課題としてあげられ、今後、改善が必要である。

B−6 情報伝達におけるメッセンジャーアプリの利用効果
広島文化学園大学   金澤 寛

 ディジタル端末による記入は、手書きに較べ、記入が容易であることを示し、ディジタル端末を用いた情報交換に活用できるのではないかと考え、情報交換にメッセンジャーアプリの利用を提案し、得られる効果について示した。今後、実施し効果の検証を行う。

B−7 学生自発型L-learningのためのICT活用試行
愛知文教大学   小林 正樹

 学生が自ら学修に取り組む「L-learning」を提案している中で、対面授業とICTを併用する問題の解決策を試行している。今回はBGM及び早押しクイズを導入、その効果測定として①学生の出席回数、②最終成績及び合格率、③学生による授業満足度によって評価を行った。

B−8 SDGsを用いた課題解決提案の授業
立命館大学   笹谷 康之

 SDGsは、国連193ヵ国が全会一致で採択した2030年を目標とする持続可能な開発のための行動計画であり、企業・NPO・自治体に急速に浸透しており、地域連携・課題解決型の授業の重要なテーマである。そこで学生が、SDGsの17の目標を組み合わせて、相乗効果を生み出す技術としくみを提案する実践授業を、報告した。

B−9 スマートフォンで操作するクリッカーによるアルバイトのプレゼンテーションの評価
武庫川女子大学   藤田 優一

 看護学部では患者や看護師など他者とのコミュニケーション能力向上のために、学生をアルバイト業種毎グループとして、その内容についてプレゼンテーションを行わせ、一方、グループ外の学生にはクリッカーを用いてレゼンテーション評価を実施した成果について報告があった。結果としては、学生からは緊張感を持って発表会に参加することができたとの評価が得られた。

B−10 ビジネス・ゲーム演習の目的と活用法
流通科学大学   小笠原 宏

 会社経営の実際について、学生に考えさせ、経験させて、会社の事業継続を行える力を修得できるように、ケースメソッドを応用することとして独自開発のビジネス・ゲーム演習を10社ほどの会社を設立させて実施している。結果として、意欲の高い学生の満足度は高く、意欲が低い学生での満足度は低かった。

B−11 ICTを活用した資格試験対策〜中検WEBの利用から〜
拓殖大学   永江 貴子

 ICTを活用した中国語検定試験対策で、学生への教員の積極的な働きを取り入れた中検WEBを活用した成果について報告があった。検定試験受験者数の増加や合格率の向上の成果が見られた。中検WEBの利用についても学生からの評価が高かった。

B−12 教育用数式処理ソフトMS Mathの文系学部数理リテラシー教育での援用
桃山学院大学   藤間 真

 数学に苦手意識を持っている学生の数理リテラシー向上のために、MS Mathを活用した実践について報告がなされた。学生には、計算ステップを記述させるなどを行わせ、数理リテラシーを図った。学生からのアンケートでは、好意的な意見が多かったが、手計算へのニーズもあった。

B−13 学生実験用動画の制作と化学教育における活用
金沢工業大学   小野 慎

 学生の実験手技向上のために、実験用動画を活用と、その制作を学生が行うことで、制作学生の実験手技向上を図った実践報告である。学生が制作した実験動画の視聴時間も長く、自学学習効果があった。

B−14 スポーツマネジメントに関するインタラクティブゲーム教材の開発
共栄大学   伊藤 大河

 プロスポーツクラブの経営などのマネジメントを学ぶための教材開発について報告がなされた。学習効果が高いとされているノーベル風インタラクティブゲーム教材開発のために「ティラノスクリプト」を用いて開発を行なっていることが報告された。

B−15 出席管理システムによるトラブルの早期発見とケア
流通経済大学   咲本 英恵

 教育学習支援センターにおける新入生支援のために、出席管理システムからの出席率データをもとに「激励通知」システムを開発し、その運用の効果について報告がなされた。この運用により講義への出席率の回復などの効果があった。

B−16 AIによるアクティブ・ラーニングにおける学生評価支援
近畿大学   鞆 大輔

 大人数でのアクティブ・ラーニングを実施するためにグループワークを用いた場合に、グループワークでの学生の貢献度を評価するために、AIを用いて評価システムについて報告された。学生からは概ねAIによる評価は一致しているとの意見が多く、フリーライダーの排除では効果が見られた。

B−17 パソコンを使った演習での演習評価システムにおける定量的評価方法の開発
近畿大学   大木 優

 演習において受講者の取り組みを算出するためデータ項目として、キーボード入力数やマウスクリック数を組み入れた評価システムの構築に報告がなされた。さらなる評価ルールの決定のために方向性についても報告がなされた。

B−18 ラウドグループウェアサービスを活用した学生支援システムの運用
東北女子短期大学   小山 尊徳

 クラウドサービス「Office 365 for Education」をもとにした学生支援システムの運用について報告された。クラウドサービスによる運用の利便性や安価な運用費用について報告された。一方、Wi-Fi環境の整備が必須であることも指摘された。サービスが「for Education」であるので、これに関連した様々なアプリケーションの活用が可能であることも報告された。

B−19 防災・減災教育に関する多様なアプローチ:広島工業大学地球環境学科の例
広島工業大学   田中 健路

 学科としては幅広く学べる一方、進路が不明瞭になる可能性がある。そこで、主体的な学びのために、Moodle上でスライド表示やグループワークを実施しアンケート回答を行なっている実践例と授業アンケート結果が報告された。能動的学習について効果が見られたが、専門課程への接続を意識した講義課題の設定の必要性も示唆された。

B−20 医学生に対する機械学習を活用したアクティブ・ラーニングの取り組み
東京女子医科大学   岩藤 和広

 学生が、自ら仮説を設定し、データ解析を行うプロセスで、AIを活用できるようになる能動的教育において報告がなされた。成果としては、学生がデータからモデルを発見できるようになったことが報告された。

B−21 Google Classroomによる授業および学修活動
聖隷クリストファー大学   石津 希代子

 MoodleとGoogle Classroom を目標に応じて適宜活用して行なっているが、特に、勉強会や卒業生の学修支援などでのGoogle Classroomの利用について報告がなされた。Google Classroomの容易な運用が可能であることや各種サービスが利用できる反面、Moodleに比べて授業デザインや教材公開などの面で設定が難しいとの報告がなされた。

B−22 インタラクティブな学習を支援する情報機器を例にした教員向け教材の開発
学習院大学   大久保 秀

 アクティブ・ラーニング実施にためのノーベルゲームをベースにしたインタラクティブ教材開発について報告された。特に、VAI campusの使用法に関しての教材を作成した。この教材とテキストベース教材との比較検討などを行う計画である旨も報告された。

C−1 Moodleを用いた予習・予習督促効果の分析
松山大学   安田 俊一

 予習時間の調査と共に予習教材へのアクセス確認を、Moodle「活動トラッキング」機能でチェックし、「未完了」の学生にメールで督促した。予習時間と成績については明確な関係を検出できたが、督促によってアクセス率は向上するものの予習時間の向上は検出できなかった。

C−2 Moodleを活用した実験レポートの学生相互査読
千葉大学   山本 和貫

 Moodleワークショップモジュールを利用し、実験レポートの相互査読を実施した。「チェックリスト」と「ルーブリック」を併用することにより、振り返りや気づきに効果があった。とりわけ下位レベルの学生に効果があり、初期からの延び率が高かった。今後の検討点はあるものの、効果のある方法だと言える。

C−3 青山学院大学化学・生命科学教育における複合的ICT利用の実践
青山学院大学   宮野 雅司

 青学大生命系カリキュラムの現代化の中で基礎学力格差を埋めるための、生命情報と連携した生命科学専門基礎のe-Learning システムをCoursePower®上で開発した事例を紹介。LMSの実例として、生命科学実験で酵素実験と3D分子表示ソフトによる連携機能演習、講習ビデオ配信、毎回の事前授業内容小テストの評価を発表した。

C−4 キャンパスライフでの災害時危機管理意識を高める学習法の開発と評価
東京情報大学   小島 善和

 学生の人間形成にキャンパスライフの役割は大きい。一方で、災害に備える危機管理は大学運営の重要課題である。そこで、学生が主体的に学ぶ共通科目「災害予防論」の開講に向けたパイロットスタディとして、大学施設を利用した1泊3日の模擬避難所体験の授業を実施した。

C−5 幅広い学力層の学習者への対応を考慮した授業の実践
福岡工業大学短期大学部   上村 英男

 幅広い学力層の学習者が在籍するクラスにおいて、一斉授業の形態ですべての学習者を満足させることに困難を抱えている。この問題を解決するため、授業前の学習、また授業内の取り組み方に選択肢を設け、学習者が自分にとって最も効果的と考える学習方法を選択できる授業を実践し、その結果が報告された。

C−6 100人超の看護技術演習にC-Learningを用いたアクティブ・ラーニング
広島文化学園大学   藤本 和恵

 100人超えの演習授業にLMSを活用することにより、事前事後学習が効率化され、アクティブ・ラーニングにも大きな効果があった。また、理解度確認の小テストに関しても、教員の負担が大幅に減少する効果もあった。学生は、LMS活用後、意欲的に授業に参加するようになった。

C−7 学修基礎に必要な数学の学びの可視化および効果的な数学教材の作成
流通経済大学   鈴木 俊夫

 本研究では、社会科学系大学における効果的な基礎数学の教材の作成を行う。学習者に「体感・実感する」ことを経験させるために、学習内容についての可視化を行い、問題場面をイメージさせ、問題解決能力を養っていく。そして、学生自身が自ら学ぶ能動的学習環境を作っていく。

C−8 3DCG理解に関するアクティブラーニングによる学習深化について
金沢学院大学   飯田 栄治

 3DCG教育において、その本質をより深く理解させるために、事前にデッサンや透視図法など手描き表現の学習を実施することで、物体表面の質感、陰影、構造に対する洞察力が身に付き、3DCG作品の質が向上することを、学習成果の比較により確認した。

C−9 色彩教育における検定対策授業でのICT活用の事例
大手前大学   平野 大

 本発表は、カラーコーディネーター検定資格3級取得を目標とした「検定対策特講I」を中心に、昨年行われた検定試験の結果を踏まえ、報告を行った。LMSでのテスト課題を行うことで、学習への取り組みに関わる様々なデータを把握できる。こうしたデータを活用し検定対策を行っていく。

C−10 e-Learning教材を活用したWebプログラミングの反転授業
名古屋文理大学   山住 富也

 Webページ作成のコーディング(HTML、CSS、JavaScript)を学習するためのe-Learning教材「Webページ作成入門」を制作した。授業で、この教材を予習および対面授業の課題に活用し、反転授業を行い、従来型授業と反転授業の結果について比較・考察した結果、学生の理解力向上に効果があった。

C−11 学びの機会向上を狙った動画視聴の取組計画〜リハビリテーション分野の学生に対して〜
九州栄養福祉大学   岩田 一男

 授業前に「実際の臨床における動画」の視聴を取り入れることで、学生は興味を持って授業を受けることができ、予備知識も取り入れられる。動画視聴となった期間の前後で「学生がどのように変化したのか」の報告があり、さらなる学びの機会向上を狙える可能性があると示唆された。

C−12 3Dバーチャルフィッティングソフトを用いたアパレルCAD教育の検討
武庫川女子大学   末弘 由佳理

 アパレルCAD関連科目の受講学生が同一のデザイン画からCADを用いて作図したパターンを対象として、2D及び3Dによる比較・検証を行った。平面における数値化、3Dバーチャルフィッティングソフトを用いて作成したデジタルトワルの視覚評価で、パターンメイキング能力の向上が見られた。

C−13 私情協ガイドラインに沿った問題解決力育成カリキュラムの開発
江戸川大学   山口 敏和

 発表者らが在籍する文系の情報系学科で、私情協の情報教育ガイドラインに沿ったカリキュラム開発を行った。学士力としてのICT問題解決力を育成するために、問題解決の縦糸・横糸モデルを用い、学科共通基礎科目・専門科目の特性に合わせた2タイプの授業設計指針を示した。

C−14 医療系学生に対する医療英語のICT授業活用
帝京平成大学   小野寺 妙子

 本学医療系学生は、入学時に60%が「英語が嫌い」とアンケートに回答した。国際化に対応するために、ICTを活用し、隙間時間の活用、反転学習を行うために本学教員が選定した「医療基本用語集」から英単語学習ドリルと教材作成をし、その実践報告をおこなった。

C−15 高・大接続を促進するプログラミング指導法の開発〜私情協ガイドラインによる取組み〜
江戸川大学   小原 裕二

 私情協情報リテラシー教育ガイドラインの到達目標Aとして提唱する問題解決の枠組みを活用したプログラミング教育の効果を検討した。本指導法では、目標を設定する場合に、その場面に応じて多様な良さを発想し、目標と条件を切り分けて検討することができるようになることが示唆された。

C−16  人文社会系学部におけるPBL型教育としてのロボットプログラミング
中央大学   岡田 大士

 法学部2年生ゼミで「中学3年生を対象にした『LEGO Mindstormsを用いたロボットプログラミングの模擬授業』実施」という目標を設定した。明確な目標設定により、ゼミ生はロボットプログラミングの基本を習得するとともに、協力して授業準備に取り組むことができ、PBL教育として一定の成果を出せた。

C−17 発表中止
C−18 ハレの行事でのICT利用と連携したPBLの効果
立正大学   後藤 真太郎

 PBLによりシステム設計、構築を行い、効果につき検討した。祭りを対象にした場合、システム構築への動機づけが向上する。さらに、アイデアソン、ハッカソンを適用すると、共感・共鳴を呼び、短時間で多様な主体・分野・レベルの共同性が獲得でき、アクティブ・ラーニングの効果が認められた。

C−19 発表中止
C−20 時代の変化に対応し活躍している高齢女性のコンピュータ学習グループへの支援
十文字学園女子大学   角田 真二

 長年続いている高齢女性のコンピュータ学習グループを紹介した。学ぶだけではなく教える側に回り、認知症予防に利用する別グループも設けた。同じ市内にある大学の教員と学生が支援してきた。学生たちは、コンピュータを学ぶ際、他者への支援も意識することが重要だと気づいた。

C−21 学生による授業コンテンツ作成をアシストしてみて
中央大学   山本 慎

 中高の授業のWebコンテンツ作成をする授業について紹介した。この授業では、模擬授業をもとに、既存のコンテンツ鑑賞の後、収録システムを使って予習、復習、自習などの目的に合わせて授業コンテンツを作成する。こうして、受講生はICTの活用を学ぶことができた。

C−22 卒業研究における学びの習慣の定着度の評価
東京都市大学   小林 志好

 卒業研究では、主体性があれば学びの習慣が機能し、専門性が高まり、視野が広くなれば社会貢献を考える。一方、無ければ問題意識が希薄なことから興味喚起や自己効力感の向上が主となる。したがって、成長段階にあった指導方針を心がけるとともに、これらの成長を評価することが重要である。

C−23 学習者がLMSサイト管理者となってeラーニング教材設計・作成を学ぶ授業の設計
関西国際大学   中嶌 康二

 科目受講者がLMSサイト管理者となって、eラーニング教材設計・作成を学ぶ授業の設計を行い、担当科目で実践した結果について報告した。管理者・教師・受講者それぞれの立場からeラーニングを体験し、相互に改善提案を行う作業を通して、将来に活かせるICT活用スキルを涵養する機会が提供できた。

D−1 ICT利用を基盤とする通信制大学院におけるアクティブ・ラーニング
日本大学大学院   保坂 敏子

 学生が主に学術的な世界からしばらく離れていた現職の社会人であるため、研究リテラシーを獲得するために、ICTを利用した在宅授業と対面授業を有機的に組み合わせたブレンド型の授業の報告である。主体的・対話的で深い学びを実現するために開発したスクーリングや学修成果、授業評価アンケートについて報告があった。

D−2 数学におけるオンライン学習講座を用いた学生主体の学習支援の構築
東京情報大学   矢作 由美

 数学関連科目に対するより深い理解を目指して、学生が主体的にオンライン学修システムを用いて学習する取り組みへの支援に関する報告である。JMOOCを利用する予定であるが、学生には「個人学習予定表」を作成させ、教員がチェックをし、助言やコメントを与え、必要に応じてディスカッション形式の質疑応答を実施する旨の報告があった。

D−3 公務員別科におけるe-Learningを活用した入学準備学習
豊橋創造大学短期大学部   伊藤 圭一

 公務員別科に4月に入学した学生は、入学後約3か月で公務員試験を受けることになるため、入学前から予習をさせるためにe-Learningシステムを導入したことの報告である。ウイネット社の公務員試験Webトレーニングという教材を採用したこと、スクーリングや質問に対する連絡体制等について報告があった。

D−4 スマートフォンを利用した双方向型授業による看護学生の授業意欲の向上
日本大学   三澤 仁平

 看護学の大人数講義において、スマートフォンを用いた聴衆参加システムであるMentimeterによる双方向型授業を展開することで、学生の授業意欲に向上が見られるかの検証報告である。学生の履修態度や授業内容に対する興味・関心、内容理解という点で、授業意欲の向上がはかれるという報告があった。

D−5 Microsoft Formsを用いた予習促進の試み
東北女子短期大学   佐々木 典彰

 ICTを活用して、学生の予習を促進させる工夫を検討したことの報告である。Microsoft Formsを活用し、学生が予習として課題に回答すれば成績に点数を加算するもので、予習を促す工夫策としては一定の効果がった。一方で、毎回未提出の学生がいることへの対応が課題である旨の報告があった。

D−6 作業療法治療学におけるICTを活用した事前学習の効果
神戸学院大学   大瀧 誠

 ICTおよび学内限定VODを利用した事前学習と演習(グループ学習)の効果についての報告である。効果を測定する指標として、学生の学びの自己評価、気分と自己効力感を測定した。事前学習に時間をかけてしっかりしてきた学生は、演習開始前には不安感が強く、自己効力感が低くなってしまう旨の報告があった。

D−7 LMSの学習履歴を活用した課題難易度の調整による課題提出率の向上
東京医療保健大学   駒崎 俊剛

 Moodleを活用して学生の学習活動記録を分析し、学生の理解度に応じて課題の難易度を調整した場合と調整しなかった場合、その課題の提出率にどのように影響するかを検証した報告である。難易度調整をしたほうが提出率が高く、学生がお互いに学習内容を確認できることが学習を促す動機づけになっている旨の報告があった。

D−8 学習環境を保証する工夫について―教員による復習ビデオサイトの作成―
広島女学院大学   中田 美喜子

 ビデオカメラで撮影した授業復習用のファイルをそのままYouTubeにアップロードし、題目をつけ、授業復習ビデオサイトにて学生が閲覧できるようにしていることの報告である。小規模大学でも経費をかけずに簡単に動画をアップロードできることやその作成方法、学生の利用状況、評価について報告があった。

D−9 Googleスライドの共同編集機能を活用したグループ発表課題の試み
駿河台大学   太田 康友

 Googleスライドの共同編集を活用することによって、複数のグループメンバーが同時にスライド作成に取り組むことができる。本報告は、その活用についての報告である。講義時間内のグループワークでは、すべてのメンバーがPCに向かって作業をすることが可能となり、それによって手持ち無沙汰の学生が見られなくなった。また、1つのファイルを複数メンバーが同時編集することで、作業速度が上がる傾向が見られた。

D−10 Matlabを活用した数値解析の教材開発と講座の実践
金沢工業大学   工藤 知草

 数理リテラシー特別講座(夏期)の応用編として、Matlabを活用した『数値解析』という講座を開講しており、その報告が行われた。Matlabの数値解析の教材として、ニュートン法、ラグランジュ補間、3Dアニメーションの例題を具体的に取り上げ説明があった。また、アンケート結果についても報告があった。

D−11 「賢い情報消費者」育成のための授業実践
愛知学泉短期大学   神谷 良夫

 Webマーケティングの授業実践報告があった。この授業実践を通して、情報社会との関わり方を学生自ら主体的に検討し、行動特性を提言することによって「賢い情報消費者とは何か」「賢く情報を消費していく方法は」といった問題解決を学生が導き出すことを目指すものである。

D−12 小児医療倫理における協調学修の構築
近畿大学   岡田 満

 小児医療倫理について、医療現場で実際に問題となっている事例をもとに、学生自身が先ず考え、その後にグループにて各自の意見を議論し合い、さらに全員でテーマに取り組んでもらう協調学習の実践報告があった。学生からは、概ね良好な意見が多く、また、テーマについても反応がよく、討議も積極的であったと報告があった。

D−13 水工水理系の教育改善の事例
日本大学   安田 陽一

 土木工学における水工水理の基本的な考え方を理解するために、座学の講義においてアクティブラーニングを実践した報告である。学生が理解不足の学生に助言する姿が確認できた、食い下がる学生が増えた、課題を積極的に取り組む学生が増えた等について報告された。8割以上がこの授業を肯定的に捉えていた。

D−14 電子ペーパーを活用した、ゼミナールにおける協調学習の活性化
神奈川大学   中村 壽宏

電子ペーパーを協調学習に導入することにより、(1)電子ペーパーは討論をしながら随時文章を作成し、また必要に応じて訂正できることから、極めて効率的に報告文書を作成できる、(2)随時、討論の概要を把握でき、アイデアや新機軸の思考が直ちに全体に浸透し、これを発展させる議論あるいは反論などが直ちに提示される、等の利点があることが報告された。

D−15 考える力の育成を目指した対話型初年時必修力学授業
立教大学   栗田 和好

 1年次の必修力学授業において、学生が対話を通して知識を取り込むだけでなく、考える力、学ぶ力を身に着け、説得力を持って人に説明ができるようにするための実践報告があった。多様な学生がグループ活動に参加し、授業時間を学修経験としての時間とすることができ、少なくとも授業中に寝てしまう学生の率は講義のみの授業に比べて激減したことが報告された。

D−16 COC+事業におけるアクティブラーニング型のカリキュラム設計と授業運営
東北学院大学   松崎 光弘

 COC+事業を活用した教学マネジメントの一環として、将来的にディープ・アクティブラーニングが実現することを企図した取り組みのプロトタイプとして、「地域教育科目」を編成したことについて報告があった。授業の設計やカリキュラムの内容、教員のフィードバックコメントをもとに作成したルーブリックについて報告があった。

D−17 英語教育でのPBTの試行
愛知工業大学   加藤 久佳

 “Critical Thinking”((1)問題提起(2)リサーチ(3)考察(4)問題解決)を学生に課し、学生が日常的に、“Critical Thinking”を意識化するようになることを目的とした実践報告があった。この取り組みは、英語科目に限らず、他学科における学修や、ひいては、就職後、企業等において、企画や運営を担う際の基礎となると報告があった。

D−18 異分野科目の授業を繋ぐツールとしての情報機器導入の可能性 英語と図画工作科における「英語絵本製作」課題より
広島文化学園大学   小笠原 文

 横断的で継続性のある学習態度の育成を目的の一つとして、英語と図画工作における連携授業の試みについて報告があった。英語教育の教材として英語絵本が有効に働き、英語が苦手でも、創造的な活動が得意な学生は「こんな絵本が作りたい」という動機付けができるなど、その有効性について報告があった。

D−19 ICTを利用した学習者の語彙、読解能力の向上
城西国際大学   尾本 康裕

 日本語の上級のクラスにおいて、学習者の語彙力と読解能力の向上をICT機器とウェブによるオンライン学習を使った日本語のクラスで試み、その伸びをテストで計測したことについて報告があった。その結果、学習者は紙ベースだけでは達成できない伸びを示したことが報告された。

D−20 英語アカデミックライティング指導における協働学習のための教材開発
国際基督教大学   深尾 暁子

 英語のパラグラフライティングを対象に学習を支援するための教材と学習課題の開発について報告があった。特にパラグラフをカラー分けするカラーコーディング教材の有効性について報告があった。会場での質疑により、本手法は、日本語でのパラグラフライティングにも応用できることが確認された。

D−21 翻訳アプリについて語学教員は何を言うべきか
東京経済大学   小田 登志子

 翻訳アプリの効果的な使い方を、英語をはじめとする語学の学習者に提案することを目的とした報告である。英語学習への効果、多言語対応への効果、悪影響の回避について報告があり、語学教員から積極的に翻訳アプリの効果的な使い方やその限界について、積極的に発信すべきだという提案もあった。

D−22 日本語固有名詞を用いたハングル読み練習問題の自動生成
東大阪大学   石川 高行

 日本人学生にとって需要が高く、なおかつ英字とは全く異なる文字を用いる言語である韓国語(の文字であるハングル)を対象に、練習問題を自動生成する仕組みについて報告があった。こうして生成された問題を初学者の予習に利用させることで、(カタカナ読みではあるが)実際の韓国語の文字の何割かの読みを推測できる能力が身につくことが期待される。

D−23 外国語科目における主体的学修とeラーニング教材使用・効果の分析
東海大学   結城 健太郎

 外国語教育におけるeラーニング教材の使用が、教室内のどのような学習方略、また主体的学修と結びついているのかを検証した結果について報告があった。eラーニングの総得点と学習方略の間に見られた相関のうち、いくつかの項目で有意であったことが報告された。


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