特集 イノベーションの担い手を育成する起業教育−1

授業とビジネスプランコンテストを
組み合わせた起業教育の取組み

筒井 研多(日本工業大学 産学連携起業教育センター)

1.はじめに

 効果的な起業教育の実施にあたっての課題として、座学を通じた起業に関するスキル・知識の伝達以上に、学生への起業家精神の啓蒙、すなわち『他人事から自分事』への転換があげられます。本学起業教育プログラムの主軸科目『起業とビジネスプラン』は、一度に400人を超える大人数の授業ですが、座学にとどまらずICT等を活用した双方向性の授業運営、また学内ビジネスプランコンテスト(以下、BPCと略)と授業を連携させ、学生の意欲向上と優れたアイディアの創出を支援しています。

2.本学BPCの特徴

 本学BPCは、2019年度で14回目を数え、3年生を中心に本年度実績では430組がエントリーを行う、学内限定型のコンテストです。本学の学年定員は1,000名ですので、およそ半分が参加している計算になります。7月末にエントリーされたビジネスプランは、一次審査で20組を選出、産学連携起業教育センターによるブラッシュアップを経て二次審査で8組にまで絞り込み、11月に外部公開式の最終プレゼンテーション審査を行っています。この過程で優秀なビジネスプランが発掘できた場合は、並行して学外のビジネスプランコンテスト等へ積極的に参加を促しています。産学連携起業教育センターはその名の通り、産学連携機能と起業教育機能を兼ね備えていますので、メンタリングの段階から地域の企業や創業支援機関・金融機関等と学生をマッチングさせ、ビジネスプランの実効性を高める働きかけをしています。

3.『他人事から自分事に』+『アイディアの殻を破らせる』仕掛けづくり

 起業教育では、学生への起業家精神の啓蒙、すなわち『他人事から自分事』への転換が重要となります。また、受講前の段階ではどのようなビジネスアイディアが評価されるかの『物差し』が学生の中に出来上がっていないので、授業の過程で画期的、魅力的なアイディアを思いつく、つまり『アイディアの殻を破る』仕掛けが鍵になります。
 そこで、本学の専門職大学院の実務家教員と産学連携起業教育センターがチームとして授業を運営し、学生のモチベーションを高める様々な工夫を行っています。一度に400名を超える大人数に対して、一方通行の座学形式にならないように、Google Form等のオンラインアンケート機能を活用し、様々な起業アイディアやアンケート・授業への質問を授業時間中に収集しています。これらの結果はリアルタイムに学生にフィードバックを行い、他者の考え方の多様性把握と相互理解を促し、また優秀なアイディアへサインを送ることで、授業への参加意欲と自信を与えます。さらに、毎回の授業では、前年度のBPCファイナリストの学生に、最終審査会で行ったプレゼンテーションを再現してもらっています。多くの先輩のプランに触れる過程で、『先輩の〇〇なプランが評価されるのであれば、(荒唐無稽だと思っていた)自分の△△なアイディアが、実は良いものなのかもしれない』といった『気づき』や『物差し』が学生の中に構築されます。先輩のロールモデルに触れ、『次は自分の番だ』とBPCへの参加に高い意欲を持つ学生も増加していきます。
 こうした動機づけの過程は、学籍番号を紐づけた毎回の授業内アンケートを蓄積し、授業内課題によるアイディア熟成のプロセスと併せて個人単位でロギングし、全体的なモチベーションの高まりを把握すると同時に、授業内で個々に合ったフォローを行います。実際に、一次審査を通過した学生の属性を分析すると、『授業の過程で当初のアイディアを変更した』、『積極的にBPCに参加したい』と回答した割合が多いことが判明しています。この様に、BPCと授業内コミュニケーションを活用し、大人数授業の特性を応用し、豊富な母集団の『やる気』や『気づき』を結合させ、優れたアイディアの発生率を高める仕掛けづくりが起業教育プログラムを運営する側の挑戦であり楽しみでもあります。


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