特集 イノベーションの担い手を育成する起業教育−1

阪南大学における起業教育

加藤 清孝(阪南大学 流通学部教授・副学長)

1.はじめに

 本学は、「すすんで世界に雄飛していくに足る有能有為な人材、真の国際商業人の育成」を建学の精神に掲げ、1965年度商学部1学部からスタートし、現在は5学部1研究科からなる都市型総合大学です。本学が起業教育に取組み約20年となります。本稿ではその中心を担ってきた「起業塾」に関して、少し説明させていただきます。

2.起業塾

 本学における起業教育は、起業により自分の力で未来を切り拓く学生の育成と、起業の過程を通して社会を体験することを目的に、2001年度に開講した起業塾と題する全学共通科目で行われています。
 起業塾は、起業体験を目的に、会社を立ち上げ、ビジネスプランを立案し、学内で起業を行い、株主総会で会社を整理することまでを模擬的に実践する「起業塾1」と、起業プランニングの実践を目的に、起業家や各分野の実務家を講師として招き、ビジネスアイデアの発想法、人事・労務の知識、実践的マーケティング、財務分析の基礎等をオムニバス形式の座学で学びつつ、ビジネスプランの作成に取組む「起業塾2」からなり、共に4単位の通年授業として開講されています。これら二つの授業は、年度を分けて履修することもできますが、多くの学生は同じ年度内に平行して履修しています。

3.ユニークな実践例

 起業塾では二つの授業が連携しながら、学生がビジネスアイデアを生み出しそれをプラン化し、学内で模擬的に起業することを求めます。今年度の受講生の学内起業実践例から、ユニークなビジネスアイデア2例を紹介させていただきます。
 一つは、流通学部2年の男子学生のアイデアである「レンタル傘スポット」です。学内5箇所にレンタル傘のラックを設置し、1日100円で使用できるようにしたものです(写真1 レンタル傘スポット)。利用者は、はじめにQRコードから利用者登録を行い、翌月に利用額の合計を払う制度となっています。このビジネスを始めた学生は、毎日片道2時間かけて通学しています。通学時の負担を少しでも軽減したいと考えたとき、荷物の量を減らすことが重要であり、中でも一番嵩張る物が傘であることに気づきます。「傘を持ち歩かなくてもいいようにしたい」と考え、このビジネスを構想したといいます。この学生は、起業塾を通して、起業へのモチベーションが高められ、さらにビジネスプランを「自分のビジネス」として大事に育てていくことの気持ちができたと述べています。
 もう一つは、キャンパスを飛び出し故郷である鳥取県米子市に、夏休み期間限定でタピオカドリンク専門店を開業した例です(写真2 タピオカドリンクショップ開店風景)。このビジネスを始めたのは経営情報学部3年の女子学生で、日頃より地元米子市の活性化に貢献する方法を考えていました。その様な中、昨年より全国的に大ブームとなっているタピオカドリンクが、地元米子市では扱っている店がないことを知り、自分で店を立ち上げることを決意したのでした。タピオカや牛乳の調達先確保のために、幾度となく大阪と米子の間を日帰りで往復し、地元農業協同組合やNPO法人の協力のもと、開業にこぎ着けました。40日に満たない営業期間でしたが、当初の売り上げ目標を約1週間で達成することができました。彼女は、起業塾で学んだ、事業計画書に対する考え方と作成の仕方が非常に役だったと述べています。
 このように、起業塾での学びは、学生のビジネスアイデアを形にするために重要なサポート役を果たしていると考えられます。

写真1 レンタル傘スポット 写真2 タピオカドリンクショップ開店風景

4.起業教育と今後の課題

 約20年間続けてきた起業塾ですが、いくつか課題も浮き彫りになってきています。はじめに、IT関連企業を中心として、様々な起業家が世間の注目を浴びる昨今ですが、学生達の中では起業への認識や意欲は決して高くないと思われることです。「仕事は与えられるもの」との思いが強い学生が多く、このような学生に「自分で自分の仕事を作り出す」との意識を育てることは簡単ではありません。これは、近年の好調な就職状況の影響もあると思われます。実際、起業塾の受講者数は2015年度を境に、減少しています。
 とはいえ、学生達の発想は豊かで、起業塾受講生からは様々なビジネスアイデアが生み出されます。現在は、それらを学内で模擬起業として実践していますが、今後は、実社会で実践する機会を提供することも必要です。空き店舗の利用など地元商店街との連携や卒業生ネットワークの活用を通して、学外拠点を確保することが今後の課題の一つと言えます。
 チャレンジ精神旺盛な起業家マインドを持つ学生を育てることは、建学の精神にも通じます。様々な課題を克服しつつ起業教育をさらに発展させていくことは、本学の社会に対する役割と考えます。


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