事業活動報告 No.2

2019年度 大学職員情報化研究講習会
(基礎講習コース)開催報告

 本協会では、私立大学における職員への職務能力の開発・強化支援の一環として、ICT活用の可能性や工夫について基礎的な理解を深め、大学の管理運営や教育活動の充実に向けて主体的に取組む考察力の獲得を目指し、「大学職員情報化研究講習会・基礎講習コース」を実施している。
 本年度は、ICTの活用が大学の管理運営、教育活動の充実に果たしている役割を認識し、問題発見・解決プロセスの体験を通じて、自己の業務の改善や職場における課題解決にICTの活用を考えて提案できるよう、7月10日〜12日の3日間、加盟校38大学から77名(昨年度比23.8%減)の参加者を集め、ダイワロイヤルホテル THE HAMANAKOで開催した。
 参加者所属部門の内訳は、学事・教務部門が34%、情報センター部門が19%など、幅広い部門の参加があった(図1参照)。

図1 参加者の所属部門構成

 また、20代が84%、在職年数別では3年以下が90%を占めている。なお、男女比は男性62%、女性38%であった。

1.プログラム構成

 本コースのプログラムは、大学を取り巻く環境の変化とそれに対するICT活用の意義等について情報提供し、グループ単位で大学改革や業務改善に向けた課題について検討し、解決策の提案・発表という流れで実施している。今年度は、あらかじめ、大学教育や大学運営における重要課題のテーマとして「教育の質保証を目指した学修成果の可視化」、「全学的教学マネジメントの強化」、「業務改革」の三つを掲げ、グループでテーマを一つに絞り、集中的に討議を行った。

2.事前課題

 今年度は、本研修に入る前に以下の三つの観点で自己学習を進めた。
 一つは、「事前学習レポート」として、上記の3テーマについて、自大学での取組みや課題を整理させた。
 二つは、本協会Webサイトに文部科学省の政策や教育関連のキーワードを掲載し、討議に積極的に参加できるよう、知識・情報の獲得を目指した。
 三つは、参加者自身の目標設定を明確にするため、自大学の活動を振り返り、他大学に紹介する「自己紹介・自大学紹介シート」を作成させた。

3.全体研修

(1)イントロダクション

 職員として認識しておくべき社会の変化と大学教育の役割、大学職員に求められる役割、大学改革に主体的に取組む心構えについて理解の共有を図った。

(2)情報提供

 ICTの活用が大学の管理運営、教育活動の充実に果たしている役割の認識を共有するため、以下の情報提供を行った。

1)「ICTの活用と課題」

遠藤 桂一氏(芝浦工業大学情報システム部長、運営委員会副委員長)

 大学の業務や教育活動におけるICTの活用状況の過去・現在・未来とこれからの改革に必要性について、参加者との対話形式で意識付けを行った。参加者との対話の中で、履修登録、成績管理、IR、入退出管理、テレビ会議、電子黒板などICTが多岐にわたって活用されていることを確認した。また、最新のICT技術の例として、AIを活用した学修・生活指導や就職支援のシステム、FAQをロボットで代替するチャットボット、定型業務を代替するロボット・プロセス・オートメーションシステムなどの紹介がされた。その上で、業務改革、教育改革にICTを活用する必要性について、「問題は何か」、「課題は何か」、「どんな効果があるのか」、「手段はICTが最適なのか」十分に深堀することの重要性が説明された。

2)「学修の質保証・成果の可視化に向けた取組み」

中村 信次氏(日本福祉大学学長補佐、AP事業推進委員長)

 ディプロマポリシーに対する学修達成度の可視化や、毎年度の学修計画・目標の設定と、振り返りを通じた学生自身による自律的な学修改善プロセスなど、学修の質保証のためにデータを多面的に組み合わせて活用する仕組みについて、日本福祉大学の事例が紹介された。平成15年度より文部科学省の「特色ある大学教育等プログラム―グッド・プラクティス(GP)」と大学教育再生加速プログラムで「卒業時における質保証の取組みの強化」の採択を受けてきた。その中で、ポートフォリオによって学生の学修状況や成績を把握し、ディプロマサプリメントによってディプロマポリシーに対する学修達成度の可視化に取組んでいる。具体的には、統合学生カルテ、学修ポートフォリオ、学修到達レポートのデータを組み合わせて、ディプロサプリメントを作成し、卒業時点での学修達成度の確認やロールモデルによる学修計画立案への応用を行っている。反面、ディプロサプリメント通用性の拡大、学修活動に留まらない学生データの蓄積、膨大な学生データのIRとの連動が十分でないこと、紙情報のデータ化が課題となっている。そのような教育改革の推進に向けて、これまでの改革行動を大学の風土として定着させること、柔軟なシステム構築、教職協働視点での取組みが必須であることが説明された。

3)「ロボットの活用による生産性向上に向けた取組み」

神馬 豊彦氏(早稲田大学人事部業務構造改革担当副部長兼情報企画部マネージャー)

 職員の業務を構造的に改革する一環として、難しい判断を必要としないPC上の定型作業を自動化するツールとしてRPA(ロボット・プロセス・オートメ−ション)を導入している。
 適用事例としては、留学奨学金の在籍確認、会議資料の準備、発注情報の登録・印刷、Web科目登録・検索・確認、試験アンケートなどがあげられた。適用の効果として、例えば、支払い業務での伝票処理時間が大幅に減少し、新たに4万時間が創出された。
 そのような人的作業の時間を軽減する直接的な効果に加えて、様々な観点で付随効果を出すことが可能で、これまで対応できていなかった意思決定支援、高度専門的な管理運営、プロジェクトの推進など限られた人的資源を高度な業務に当てることが可能となる説明が行われた。

4)「教育改善計画を促進する教学マネジメントの取組み」

田中 邦子氏(武庫川女子大学教育開発支援室課長代理)

 大学教育の質向上のために、教学マネジメントの一環として、教職員全員が力を合わせて取組む項目(「より良い授業方法の工夫と実践」、「グローバルな視野を持った指導的女性の育成」、「キャリア形成の推進」、「FD・SDの推進」)を掲げ、教育支援システム「MUSES」を用いて平成27年度より提案を募集している。
 その背景として、早くから教育支援のためのICTシステムを導入してきたが、システムそのものが教育改善・改革に直接繋がっていなかった。それには、情報が共有され、繋がる風土が醸成されていることが大切であることに気づき、教育支援システム「MUSES」の掲示板機能を用いて教育改善・改革へのプラン作りに活用することになった。法人として、採択された提案を継続していくために担当部局の決定、予算措置、評価委員会による検証、成果発表、学長表彰を制度化した。その結果、過去4年間で76件の応募があり、25件が採択され、例えば、実現したプランとして、配慮の必要な学生を支援する「学生サポート室」の設置、新規採用教員を対象とした「新任教員研修プログラム」の実施、ネイティブ講師による「English Plaza」などが実施に至っている。
 なお、教育支援システム「MUSES」については、データ一元化による業務改善と学生・教員・職員の緊密化を図るプラットフォームとして、中長期的な目標・方針を評価・改善していく全学レベルの仕組み、教学マネジメントを支える職員の育成、肥大化するシステムの改善等が今後の課題であるとのことだった。

(3)全体討議

 情報提供について理解度の確認を行った上で、教育改革及び業務改革に主体的に関わるツールとしてICTを効果的に活用する意義などについて、全体で認識の共有を図った。

4.グループ討議・発表

(1)グループ討議のプログラム内容

 2日目は、「教育の質保証を目指した学修成果の可視化」、「全学的教学マネジメントの強化」、「業務改革」の3テーマの内一つを取り上げ、ICTの活用を含め、どのように取組むべきか討議し、改善案としてとりまとめることにした。
 とりまとめに当たっては、3テーマについて現状や課題を共有し、テーマを絞り込む作業として、問題点と要因について考察させた。その上で、時代的・社会的要請に沿った改善案をポスター形式で中間発表し、各グループからの意見を受ける。3日目は、意見を参考に振り返りを行い、最終調整した上で、3会場で最終発表を行い、質疑応答やフィードバックを受けて発表内容のニーズ性・実現性の観点から理解を深めた。

(2)グループ討議内容の傾向

 3テーマの内、「業務改革」を選択したグループが6割程度であった。「教育の質保証を目指した学修成果の可視化」と「全学的教学マネジメントの強化」は、それぞれ2割程度であった。ICTを用いた改善案の視点としては、情報を統合し、共有する仕組みの上で、利用者視点にたったインターフェースの提供を提案する傾向が見受けられた。

 

5.参加者アンケートの感想

1)グループ討議で感じたこと

理想を描き、何を改善できるか考え、ICT導入で終わりではなく、大きな理想の姿に近づけことの大切さを実感した
まとめる難しさを感じたが、解決案を出すプロセスを体験できて自信につながった
大学に求められる3テーマから選ぶのは大変だったが、やりがいがあった
業務に忙殺されがちだが、直接関係ないことや大学全体に関することを考え知識を収集する努力が必要だと感じた

2)職場に戻っての行動について

今までは言われたことをすることが多かったが、自ら提案、行動し、周りを盛り上げながら大学を盛り上げたい
上司から反対されても諦めることなく取り組む必要性を論理的に説明できるようになりたい
同期や年齢の近い人たちを巻き込んで改革につなげたい
企画を中心としたマネジメント力を実践できたので、活かしていきたい
ICTの導入より先に、大学を良くすることを考え、学生にとって良いことを重視しながら、教員とコミュニケーションをはかりたい
RPAの導入にチャレンジしたい、そのためにプログラミングに必要なマニュアル化を行いたい
今あるICTの使用方法を見直し、最適化していきたい
業務の洗い出しと見直しを徹底的に行う
システムの導入をゴールにしない
新しく得た発想を共有し、改善に努めて行きたい

6.事後課題

 本研究講習終了後において、グループ討議の成果、獲得した知識、気づきを大学で活かせるようにするため、行動計画などのレポート提出を任意で求めた。
 事後課題レポートでは、以下のような感想があった。

同じ年代、異なる地域、異なる規模や組織の人達との討議を通じて、普段ではできない業務イメージを描けた。
他大学の取組みをみて、自大学にとって必要なこと不要なことを考え、判断していくことが重要だと思った。
そもそも大学として何が必要か、目的とそれに必要なマインドや手段をしっかりと考えることの必要性を学んだ。
社会の変化に合わせて業務もどんどん複雑になってきており、単純な作業は機械化し、業務効率を高めることが課題だと認識した。
今までになかった視点で社会課題を考えるようになった。
どんな意見も否定せずに取り入れる姿勢で討議することにより、発言者も意見を客観視でき、スムーズに意見をまとめることができた。
文責:大学職員情報化研究講習会運営委員会

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