巻頭言

コロナ危機とその後の教育

城島 栄一郎(実践女子大学・実践女子大学短期大学部 学長)

 本学は、学祖下田歌子が「女性が社会を変える、世界を変える」という強い信念の下「品格高雅にして自立自営しうる女性の育成」を目指して1899年に設立した実践女学校、女子工芸学校を前身とし、2019年5月に創立120周年を迎えました。
 この建学の精神と教育理念を継承しさらに発展していくために、入学前から卒業後まで、一人ひとりの個性を大切にした個別支援体制が「学生総合支援:J-TAS(Jissen Total Advanced Support)」として昨年4月からスタートしました。そして2020年の年頭に、「社会を変革し未来を切り開いていく女性の育成を目指す―実践女子―」として、教育、研究、社会貢献等の各分野で中期計画を立てました。
 その中で養成すべき学生像として、決められたことをきちんとやる、協調性があるというような従来の能力だけではなく、自分で社会の問題点を見つけ、目標を設定し、価値判断ができる、創造力がある、対人コミュニケーション力があるなどAIでは代替できない能力が必要であり、自ら考え行動して社会を変革し未来社会を切り開いていく“実践力”のある人間としました。そしてこれは高等教育機関の役目であります。
 現在、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により、人間の活動が制限され社会のいろいろなシステムの停滞や停止があり、過去にないような甚大な損失が出ています。教育分野も例外ではなく、学校閉鎖などで幼稚園、小学校から大学まで従来の教室での対面授業がほぼストップしています。本学も例外ではなく3度の日程延期を経て、学生は新入生も含めて5月31日まで入校できない状態です。
 このような状況の中で、本学でも4月23日から遠隔授業を試行し、5月13日から正式に正規授業として実施しています。導入に当たり、学生と教員の情報環境、キャンパスの情報インフラ等を調査し、できる限りの支援をし、また、将来へ向けた長期的視野で情報環境整備を進める計画です。
 さらに重要な点は、遠隔授業の内容です。どのような教材・資料をどのように提示するか、オンデマンド型(本学では学習支援システムmanaba)とリアルタイム型(Web会議システムのZoom)の組み合わせと時間配分、出欠管理など、各教員は十分な準備期間がない中で試行錯誤しています。
 課題山積の中、有志の教員がいろいろなテーマで情報交換の場を立ち上げ、システムやソフト上の問題、動画や音声教材の作り方・配信方法、授業進行上の問題など、初級から上級までの情報交換が主体的かつ活発に行われています。
 今回、直接の対面ができない点をカバーするためにZoomを導入しました。これを、在宅の学生と随時の個別面談や学生間のグループ討論、就職・生活相談など学生支援も含めたコミュニケーションツールとして活用しています。
 遠隔授業は学生との直接の対面がない、グループワークが難しいなどいろいろなデメリットがありますが、一方では、時間と場所に縛られない、質問と回答やアドバイス等をいつでもオンラインでできる、情報機器を駆使するのでICT能力が大きくアップする、自主的・自律的学習能力が向上する等の数多くのメリットがあります。学生自身が自学自習し自立していくという、本来の高等教育の姿に近づける契機になり得ます。その推進のためには、学生の自主的・自律的学習のために何をすべきかという意識と、きめ細かいサポートが重要です。
 今回の教職員と学生の多大な労力と蓄積されるノウハウを無駄にしないようにして、従来の対面授業とオンライン授業を組み合わせることで、ICT、AI化が進む現代社会にふさわしい未来型の教育システムを構築し、教育の質のワンランクアップを目指したいと思っています。


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