巻頭言

Covid-19により大学ICTは新たな段階へ

鷲崎 早雄(静岡産業大学 学長)

 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)は、情報通信技術(ICT)の大学における活用を新たな段階へ一気に推し進める役割を果たしている。
 本学は静岡県藤枝市と磐田市にキャンパスを持ち、経営学部、情報学部、スポーツ科学部(2021年度開設予定)の3学部からなる地方の中堅私立大学である。情報学部、経営学部の中の情報系には工学部、理学部、教育学部の理系出身の教員(筆者も含めて)が合計で7名ほど勤務している。本学のICT教育は20年ほど前の情報リテラシー教育導入時に始まっている。両キャンパスへのパソコン教室設置、キャンパスごとの有線LANの設置、キャンパス間を結ぶ専用線とルータの設置等、合わせると本学の規模としては相当の設備投資であった。
 大学のICT環境が次の段階に進み始めたのは2011年度にIEEE802.11nが普及し始めた頃からである。研究室では自分で有線LANにWi-Fiを接続し、PCを無線接続してゼミを行うなどの教育を行う先生が現れていた。大学では2014年度からキャンパス内の無線LAN化の検討を行い、2015年度から順次着手して2017年度にはほぼ切り替えを済ませた。この時に併せて学務系、業務系のサーバーを外部データセンターに移設するなどセキュリティ対策の強化、キャンパス間のテレビ会議用機器の強化等を行ったので、ここでも大学としては相当な投資をしたと思う。また、従来から少しずつ整備していた教室など集中箇所の無線能力強化、大型ディスプレイやマルチメディア機器の導入範囲を広げ、2018年度には大多数の教室からICTを使用した各種授業が行える環境ができあがってきていた。
 しかしながら問題は片付かなかった。ICTを活用した授業改革のスピードがなかなか上がらないのである。一部の先生はMoodleをベースに自身の授業をスタイリッシュにカスタマイズし、学生にも分かりやすく人気の高い授業を行っていたが、ごく少数の先生に限られていた。本学は文系学部から成る大学のため、ICTを使わない授業スタイルを確立しているので、わざわざそれを変革してまでICTを使うメリットが見えないという課題があったと思う。全教員に「ICTを使って教育改革を試みているか、実際にどの程度学生に使わせているか」をアンケートで問うたところ(2019年度)、「ICTを学生に使わせる授業を行う」と答えた教員は3割に満たなかった。
 これからの学生にとって情報処理能力は必須である。そのためにはスマホだけでなくMy PCを持ってほしい。そしてそれを授業中開いて、先生との授業中のインタラクティブな関係の中からいろいろな成長につなげてほしいと考えている。そういう意味で、理系の大学では当たり前であるMy PCの必携、いわゆるBYODの実施を検討してきたが、なかなか実現に至っていない。PCを使って授業をする教員が少ないから、学生にMy PCを言っても実際は使わないというクレームが多数出る恐れがある、というのがその大きな理由であった。
 Covid-19により2020年度前期の授業実施が危ないのではないかと本気で危機を感じたのは、3月の中旬、本来なら卒業式を執り行う頃であった。直ちに情報収集を始めたところ、中国福建省の連携大学では、大学が閉鎖されているが授業はオンラインで普通どおりに進んでいるという情報が入った。その時には私たちはオンライン授業のやり方を全く知らず、どうやっているのかすぐに聞いてくれと指示する始末であった。その頃に東京大学がポータルサイトを立ち上げた。その情報に基づき学内の情報系の教員で検討し、東京大学のやり方は本学でも現状のインフラで十分に対応可能であるという結論を得た。3月31日には全教職員に対して「オンライン授業をするから準備するよう」指示をした。
 それから4か月、前期の授業が終わったところである。非常勤も含めて全教員がオンライン授業を行った。全学生、全教員からのアンケート結果を集計中である。新たな段階に一気に進む!…そう考える。


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