事業活動報告 2

令和元年度 (2019年度)
分野連携アクティブ・ラーニング対話集会の結果報告

1.開催の趣旨

 問題発見・解決型教育(PBL)の推進に向けて、検討しておくべき教育体制及び教育方法等について論点を整理するとともに、学修環境としての学びのプラットフォームとファシリテータによる支援体制、ビデオ試問による思考力等の到達度点検・評価・助言の仕組みについて、意見交換を通じて実現可能性を探求します。

2.開催のねらい

 アクティブ・ラーニングの教育方法である「問題発見・解決型教育(PBL)」の推進普及を中心に、次の観点を意見交流します。

① 答えが定まらない課題を通して自ら問題を発見し、原因を見極めて解決策を考察する訓練として、地域社会や国連の持続可能な開発目標(SDGs)などをテーマにしたPBLの学修方法についてICTの活用法を含めて研究します。

② ネット上で分野を横断して学外有識者の知見に触れる中で、チームで議論して知見の組み合わせを行い、論理的・批判的思考力、合理的な判断力、新しい価値創造を生み出す授業モデルの可能性を研究します。

③ ネット上で議論・考察する環境として、問題点の整理、課題の発見、問題解決策を意見交換し、発表・評価・振り返りを可能にする学びのプラットフォームの在り方を研究します。

④ クラウドを活用した外部者のビデオ試問による思考力等の点検・評価・助言モデルの必要性を確認し、仕組みの実現性について探求します。

3.分野連携グループの構成

① 社会福祉学、社会学、教育学、統計学、体育学、英語教育、法律学、政治学、国際関係学、コミュニケーション関係学のグループ

② 経営学、経済学、会計学、心理学、数学、機械工学、経営工学、建築学、電気通信工学、物理学、土木工学、化学、生物学、被服学、美術・デザイン学のグループ

③ 栄養学、薬学、医学、歯学、看護学・リハビリテーション学のグループ

4.プログラム(3グループ共通)

(1)開催趣旨の説明
(2)アクティブ・ラーニングの話題提供
(3)意見交流

① 地域社会及びSDGs(持続可能な開発目標)の課題解決を訓練するPBLの必要性と教育方法

② 知の創造を目指すICT活用の分野横断フォーラム型授業の進め方と課題

③ 学びのプラットフォームづくりとファシリテータによる支援体制

④ 外部者のビデオ試問による思考力等の点検・評価・助言モデルの仕組みと導入に向けた準備

5.分野連携による対話集会の実施結果

 令和元年12月に2グループ、令和2年1月に1グループの対話集会を加盟大学の教室を借用して開催した。出席者は3グループ全体で196名でした。
 対話集会の進め方は、最初に話題提供としてICTを活用した教育改善の取組み事例を4?6件報告し、その後で「課題解決を訓練するPBLの必要性と課題」、「学びのプラットフォームづくりと教員の役割」、「ビデオ試問による思考力等の点検・助言モデルの仕組み」について、意見交換しました。以下に3グループ共通に見られた点を掲げます。

(1)学生が主体的に問題を発見し、知識を活用して解を見出していく訓練について

知識伝達型の授業から、問題発見・課題解決型のPBL授業に転換していく必要性が7割以上見られるようになりました。「問題解決のアプローチ・実践力の獲得」、「知識の使い方を体験・学ぶことの重要性を気づかせる」、「多分野で協働し論理的・批判的思考力、価値創造力の獲得」の順で参加者のほとんどが認識していることが確認されるとともに、PBL授業を組織的に進めるには、副専攻制度などの教育プログラムを大学として本格的に検討していく必要があることが確認された。

(2)PBL授業の進め方について

「共通知識がない学生の取り扱い」、「学外者を交えた対話型授業の仕方」、「ICTを活用したフォーラム型授業のプラットフォーム作りと授業運営」、「学びのフィードバック、ファシリテータとしての教員の役割、学修を支援する教員のFD強化」が課題となっていることが確認された。

(3)ファシリテータの役割について

「PBL授業の目標と授業内容の意義を説明し、理解の共有を図る」、「チーム内・チーム間の発表機会を設け、意見交換を行い振り返らせる」、「適切な課題を明示又は示唆する」が比較的多いことが確認された。大学教員がファシリテータとしての役割を理解できるようにするには、FDの強化を図る必要があることと、学生が主体的に学びに向き合えるよう教員自身の意識改革の必要性が確認された。

(4)外部者によるビデオ試問について

PBL授業を体験した学生を対象に思考力等の点検を行い助言することで、学生自身に不足する思考力、問題発見・解決力、科学的考察力、価値創造力、論旨明快な表現力などの能力要素の到達度を点検し、学生自身に気づかせるモデルとして一応の理解が得られたが、具体的な仕組みなどについてはビデオ試問の試作イメージの例示や標準的な能力要素の到達度ルーブリックの策定、実現に向けた組織作りなど、今後研究を進める必要性が確認された。

6.3グループの開催プログラム及び開催結果

(1)社会福祉学、社会学、教育学、統計学、体育学、英語教育、法律学、政治学、国際関係学、コミュニケーション関係学の分野連携グループ

プログラム

開催日時
令和元年12月14日(土)13:00〜17:00
開催場所
日本大学通信教育部市ヶ谷キャンパス
参加者
58名

話題提供の内容

法律学分野
ICTを活用した『分野横断法政策等フォーラム型授業』の提案と実践
 中村 壽宏 氏(神奈川大学法学部教授)
統計学分野
価値創造型データサイエンス(DS)教育の取組み
 竹内 光悦 氏(実践女子大学人間社会学部教授)
社会学分野
伝統文化の継承を図る調査演習(PBL)にICTを活用する授業改善の取組み
 亀井 あかね 氏(東北工業大学ライフデザイン学部講師)
コミュニケーション関係学分野
映像制作を通し、批判的思考力、創造力、倫理観、共生力を育成する授業改善の取組み
 菊池 尚代 氏(青山学院大学地球社会共生学部教授)
政治学分野
SDGsの視点からICTを活用して国内外の課題解決を考察する授業改善の取組み
 川島 高峰 氏(明治大学情報コミュニケーション学部准教授)

意見交換の内容(特徴的な意見)

<地域社会及びSDGs(持続可能な開発目標)の課題解決を訓練するPBLの必要性と教育方法>

課題解決を訓練するPBLの必要性は、殆どの教員が賛同しており、6割強の大学でPBLの実施または計画されていることが確認された。
PBLを実施している教員からは、PBLを経験させることで大学の授業を越えて他大学・行政・研究会などのイベントに積極的に参加し、解のない問題を自分たちで考えていく姿勢が見られることが確認された。
PBLの進め方としては、最初は教員が全力で引っ張るが後半からは少しづつ学生にリーダーシップを持たせるようにする。プレゼンも含めて教え合うことを通じて学びを深めることの効果が認識された。他方、知識を持たせないと解のない問題は解けないのではないかとの意見もあり、知識教育とPBL教育のバランスを考えて取組むことの必要性が確認された。
教育プログラムにPBLをどのように組み入れたらよいか意見交流したところ、副専攻制度による方法が効果的であるとの意見があった。一方、課題として主専攻とのバランスが課題であることも認識された。

<知の創造を目指すICT活用の分野横断フォーラム型授業の進め方と課題>

医・歯・薬・栄養・福祉系6分野による「多職種連携フォーラム型PBL授業」の実験結果を紹介し、ICTを活用することで、大学や時間を超えた新しい学びが実現できることの理解を深めることができた。
ICTを用いたフォーラム型PBL授業の進め方については、学外者を交えた対話型授業の仕方、プラットフォーム作りと授業運営、学びのフィードバック、ファシリテータとしての教員の役割などの課題が確認され、医療系フォーラム型PBL授業の実験を踏まえたマニュアル化に期待が寄せられた。

<学びのプラットフォームづくりとファシリテータによる支援体制>

学びのプラットフォームは、EUでは1対1で専門家からアドバイスを受け、その中で自分のPBLが作れるようになっている。資料だけを置いておくプラットフォームでは意味がなく、プラットフォームで解を作っていくようなシステムが期待されることが認識された。
学生に解決策を考えさせる助言がファシリテータの役割と思われるが、多くの教員は論点や方法を教えてしまい、コーチングでなくティーチングになっていることが確認された。

<外部者のビデオ試問による思考力等の点検・評価・助言モデルの仕組みと導入に向けた準備・課題>

 外部者によるビデオ試問は、PBL授業を体験した学生を対象に思考力等の点検を行い助言することで、学生自身に不足する思考力、問題発見・解決力、科学的考察力、価値創造力、論旨明快な表現力などの能力要素を気づかせるモデルとして、一応の理解が得られ認識が共有された。

参加者からの事前アンケート結果(一部抜粋)

 

(2)経営学、経済学、会計学、心理学、数学、機械工学、経営工学、建築学、電気通信工学、物理学、土木工学、化学、生物学、被服学、美術・デザイン学の分野連携グループ

プログラム

開催日時
令和元年12月21日(土)13:00〜17:00
開催場所
法政大学 市ヶ谷キャンパス
参加者
76名

話題提供の内容

数学分野
ICTを使った反転授業がもたらす学修活動の変化と教育効果
 西  誠 氏(金沢工業大学基礎教育部教授)
経営学・経済学分野
産学連携による金融リテラシー教育の実践
 中嶋 航一 氏(帝塚山大学経済経営学部教授)
生物学分野
SDGsの推進を支えるプロジェクトデザイン教育
 谷田 育宏 氏(金沢工業大学バイオ・化学部講師)
電気通信工学分野
ICTを活用した電気回路講義の教育改善
 北ア 訓 氏(福岡工業大学工学部助教)
機械工学分野
eポートフォリオなどを活用した学修成果の可視化
 高野 則之 氏(金沢工業大学工学部長、教授)

意見交換の内容(特徴的な意見)

<地域社会及びSDGs(持続可能な開発目標)の課題解決を訓練するPBLの必要性と教育方法>

課題解決を訓練するPBLの必要性は、8割の大学が全学または一部学部で実施していることが確認された。
参加者の9割がPBLの必要性を認識しているが、体制と教員の負担が課題である。対応策として、教員がチームを作って企業との連携などに取組むことや、学部・学科・基礎教員でプロジェクトチームを構成して取組むことなどの体制づくりの必要性が認識された。
PBLを教育プログラムに組み込む方法としては、副専攻による方法、既設授業の中で行う方法、学内で分野横断による連携課程の新設が考えられるが、主専攻とのバランス、自前主義からの教員意識の変革などが課題であることも認識された。
PBLの進め方としては、ある程度共通の知識がないと議論ができないので事前に教材を指定して学修させている。例えば、反転学修で事前に必要な知識を持たせ教室授業で実際の議論へ持ち込んでいく工夫をしている。PBLの取組み方などを学び合う教員による学修の機会が非常に有効。複数の教員で学生を成長せるためにどういうノウハウを持つべきか大学での対応が今後の課題となる。
PBLを実施していく時の課題として、PBLの授業設計・方法、授業でのICT活用技術の支援組織の強化、学修を支援する意識が教員に希薄なのでFDの強化が必要であることなどが確認された。

<知の創造を目指すICT活用の分野横断フォーラム型授業の進め方と課題>

医療・福祉系6分野による「多職種連携フォーラム型PBL授業」では、批判的な思考力の訓練を目指し、プロブレムマップを作り整理する中で学生自身が学修項目を決めて学びを進め、振り返りを通じて知見を高めた。
法学など文系の複数分野の学生チームによる「法政策フォーラム型授業」では、SDGsなどの社会的課題について複数のゼミでネットを通じて議論した。その際、外部の有識者からネット上でアドバイスを受けることで大学では得られない社会と連携した授業の実践が紹介された。
以上の実験に対して、蛸壺型の授業ではなく、大学と社会、大学と企業を交えた横断的な学びの必要性が改めて認識された。

<学びのプラットフォームづくりとファシリテータによる支援体制>

ICTを活用した「学びのプラットフォーム」に求められる機能は、「ビデオの視聴、参考文献の紹介、関連情報へのアクセス」「教員と学生、学生間、大学間連携及び有識者とのコミュニケーション」など多くの機能が必要と認識されているが、私情協で実験授業をしたところ、PBL授業の目的と進め方、ロジカルシンキングとクリティカルシンキングの違いなどのオリエンテーションが重要であることが確認された。
ファシリテータの役割としては、「PBL授業の目標と授業内容の意義を説明し、理解の共有を図る」、「チーム内・チーム間の発表機会を設け、意見交換を行い振り返らせる」、「適切な課題を明示又は示唆する」が比較的多いことが確認された。

<外部者のビデオ試問による思考力等の点検・評価・助言モデルの仕組みと導入に向けた準備・課題>

PBL授業を体験した学生を対象に思考力等の点検を行い助言することで、学生自身に不足する思考力、問題発見・解決力、科学的考察力、価値創造力、論旨明快な表現力などの能力要素を点検・評価・助言するモデル構想の必要性を確認したところ、多数の参加者から賛同が得られ、認識が共有された。
ビデオ諮問のイメージ映像について、質問の背景や質問事項を文字や音声で示すのではなく、ドラマのような映像を見せる中で問題の背景や課題を考えさせるコンテンツが望ましいとの意見や、専門が異なる教員を交えて作る必要がある、文系と理系用のビデオ諮問が複数必要となる、障害を持つ学生や留学生への対応にも考慮したコンテンツ作りなどについて課題が指摘された。

参加者からの事前アンケート結果(一部抜粋)

 

(3)栄養学、薬学、医学、歯学、看護学・リハビリテーション学の分野連携グループ

プログラム

開催日時
令和2年1月26日(日)13:00〜17:00
開催場所
帝京平成大学(中野キャンパス)
参加者
62名

話題提供の内容

栄養学分野
反転授業と双方向ツールを活用した授業改善
 鈴木 良雄 氏(順天堂大学准教授)
医学分野
シミュレータとICT、学習支援システムを連携させた遠隔PBLによる授業改善の提案
 藤倉 輝道 氏(日本医科大学医学教育センター教授)
栄養学・薬学・医学・歯学・看護学・リハビリテーション学分野
問題発見・解決力養成を目指したICTを活用した授業の成果
 片岡 竜太 氏(昭和大学歯学部歯学医学教育推進室主任教授)
栄養学・薬学・医学・看護学分野
糖尿病患者をテーマにしたWEBキャンパスの参加型チーム医療の実践と成果
 半谷 眞七子 氏(名城大学薬学部准教授)

意見交換の内容(特徴的な意見)

<地域社会及びSDGs(持続可能な開発目標)の課題解決を訓練するPBLの必要性と教育方法>

殆どの参加者が必要性を認めており、既に7割が導入、検討中が2割あり、取組まれていないのは1割程度であることが確認された。
医療系の学部では多職種と連携する力を培う基礎になるため、PBLを低学年から養うことが重要であり、課題を与えるのではなく、課題を考えさせ、「学生自身にグループで抽出させることなどが効果的で、「チームで協働して問題解決に取組む」ことや「主体的に自分の考えを説明する」、「授業を自分の問題として捉えるようになった」などの効果が得られていることが確認された。
PBLを教育プログラムに組み込む方法としては、「副専攻による方法」、「既設授業の中で行う方法」、「学内で分野横断による方法」が考えられるが、「学問分野間の連携」、「担当教員ひとりでの限界」、などの課題があり、自前主義から脱却して、ICTの活用、外部有識者の知見の導入などオープンイノベーションが必要になることについて認識が共有された。

<知の創造を目指すICT活用の分野横断フォーラム型授業の進め方と課題>

医療系の実験授業では、本質を見抜く力を訓練するために分野横断型の学びを展開している。法学系分野の実験授業では、SDGsなどの社会的課題について専門分野の知識だけでなく多分野の知識や外部の有識者の知見を組み合わせることで、多面的・俯瞰的に問題を捉える訓練を目指していることについて理解が共有された。
その中で、他学部との連携、他学科との連携でチーム医療を行う場合は、日程調整が大きな壁になるので、授業ではなく学生の自由時間の中でICTを用いて学びたい人が学べるプラットフォームが必要となることが認識された。

<学びのプラットフォームづくりとファシリテータによる支援体制>

ICTを活用した「学びのプラットフォーム」に求められる機能は、「教員と学生、学生間、大学間連携及び有識者とのコミュニケーション」、「ネットオリエンテーション」、「学修成果物の掲示・共有」、「ポートフォリオの作成と教員からのフィードバックの配信」などが必要であることが確認された。
ファシリテータの役割について、7割強の教員が、「PBL授業の目標と授業内容の意義を説明し、授業の進め方や手順を示して理解の共有を図る」、「チーム内・チーム間での発表機会を設け、意見交換を行い振り返らせる」、「適切な課題を明示又は示唆する」、「努力や成長が見られたら評価する」と認識していることが確認された。とりわけ、学生を常に見てくれているという信頼感を与え、適切な助言で考えを刺激する示唆を提供することが肝要で、学生が求めても安易に知識の教授や問題解決の指導などを行わないことの重要性が認識された。

<外部者のビデオ試問による思考力等の点検・評価・助言モデルの仕組みと導入に向けた準備・課題>

ビデオ試問の仕組みとしては、クラウドを介して試問コンテンツを提示し、記述でクラウドに回答されたものを外部者が思考力等の到達状況を点検・評価し、それを大学の担当教員から学生にフィードックして助言することにしている。なお、ビデオ試問のイメージとして、理工系分野のサンプル、思考力等能力要素のルーブリック案を紹介したところ参加者の大半から賛同が得られ、認識が共有された。
ルーブリック案に掲げた思考力、問題発見・解決力、価値想像力などの能力をビデオ試問にどのように組み込んでいくかが今後の課題であることが認識された。

参加者からの事前アンケート結果(一部抜粋)


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