政府関係機関事業紹介

次期SINETの方向性について

栗本 崇(国立情報学研究所 学術ネットワーク研究開発センター)

1.はじめに

 国立情報学研究所(以下「NII」)では、大学や研究機関の研究活動を支援する学術情報基盤の整備事業を進めており、その一環として学術情報ネットワーク(Science Information NETwork:SINET[1])を構築・運用している。現在サービス提供を行っているSINET5は、2016年4月から運用を開始し2022年3月にその役割を終える。2022年4月からは次期ネットワークであるSINET6へ移行する計画である。
 本稿では、上記SINET6の実現に向け、要望される要件と実現形態についての検討状況について紹介する。

2.SINETについて

 SINETはNIIが構築・運用している情報通信ネットワークであり、①大型実験施設等の共同利用、②各研究分野での連携力強化、③世界各国との国際連携、④学術情報の発信やビッグデータの共有、⑤大学教育の質的向上、⑥地方創生や地方大学の知識集約型拠点化・産学連携等のための基盤である。大学・研究機関に加え、企業も大学等との共同研究契約があれば利用可能である。
 SINET5は、全都道府県の50拠点に設置されたSINETノード間を100Gbpsの超高速ネットワークでフルメッシュ接続し、低遅延かつ高速なデータ通信サービスをSINETの加入機関に提供している。加入機関数は、2020年11月1日現在で952機関を超え、私立大学においては418機関(私立大学の68%)にまで達している。また、共同研究などのために研究グループ毎にセキュアな閉域通信環境を提供する仮想専用網(Virtual Private Network:VPN)サービスの利用は急速に増え続け2020年11月時点で3,300VPN以上となるなど、多様な研究分野での利用が進んでいる。また、高速・セキュアな環境下でのクラウド活用を支援するため、大学とクラウド間をSINETのVPNで直結するSINET直結クラウドサービスを提供している。2020年11月時点で、31のクラウド事業者が41拠点でSINET直結クラウドサービスを提供しており、約270の加入機関が利用している。

3.SINET6の方向性について

 SINETに対するユーザ要望、ネットワークの技術動向、海外の学術ネットワーク動向を考慮し、SINET6に向けた要件および方向性の整理を行った(図1)。SINET6の5つの方向性について以下に詳述する。

図1 SINET6の方向性
図1 SINET6の方向性

(1)世界最高水準の400Gbps技術導入によるネットワークの経済的高速化

 クラウド化に伴う通信データ量の増大、ビッグデータを用いた研究の進展、大型実験設備の高度化に伴うデータ量増加などを背景に通信データ量が増加している。SINET5の100Gbpsネットワークにおいても限界が近づきつつあり、2019年12月には東京―大阪間の100Gbps回線を400Gbps回線へ増速を実施している[2]。SINET6のサービス提供期間(2022年4月〜2028年3月)の需要の伸びを考慮すると、全国的に100Gbpsを超える回線帯域が必要と予想される。保守運用性・経済性等を考慮し、次期SINET6では400Gbps回線技術の全面的導入を目指す(図2)。また東京―大阪間など400Gbps以上の需要が見込まれる区間においては800Gbps等の超高速回線技術の導入も見据えて進める。

図2 SINET5からSINET6への進展
図2 SINET5からSINET6への進展

(2)SINET接続拠点拡大によるアクセス環境向上

 加入機関からSINETノードへの接続にはアクセス回線が必要となる。アクセス回線費用は加入機関拠点からSINETノード拠点間の距離に依存するが、最寄のSINETノードまで数100km離れた機関も多く存在し、研究に必要なアクセス回線容量が確保できない加入機関も多く存在している。このようなアクセス回線の課題を解消するため、接続拠点数を現在の50拠点から拡大することでアクセス環境の向上実現を目指す。

(3)5G技術導入による広域高速データ収集環境の整備

 SINETでは高速広帯域性を重視した有線サービスを提供しているが、SINET5ではIoT系研究の推進を目的として初めてモバイル機能の試験的導入を行っている。広域エリアの各種センサ等からモバイル網を介してデータを収集し、SINETに接続されている任意の大学や任意のクラウドに転送して、高度な解析を行う研究環境を効率的に提供することを目的としている。研究グループごとに閉域網を構成して、センサ等からのデータ収集からデータ解析までをセキュアに実行可能である。本サービスの継続的提供の要望も高く、SINET6に向けては、5G技術を導入しモバイル基盤拡充を目指す(図3)。

図3 5G技術導入による広域高速データ収集環境
図3 5G技術導入による広域高速データ収集環境

 5G導入シナリオとして2方式を検討している。図3左は、現在の4G対応構成を5G対応に拡張する商用モバイルキャリア網活用方式を示す。一方図3右は、大学等が構築するローカル5G基地局とSINETが構築するローカル5Gコア網とを連携させる自営モバイル方式を示す。ローカル5Gの性能を最大限に引き出し、超高速のエンドツーエンドモバイル通信の実現を目指す。将来は、この2方式を融合して、面積カバー率向上を図りIoT系研究に最適となるモバイルサービスの提供を目指す。

(4)エッジ/NFV技術導入によるより細やかなサービスの拡充

 ユーザ毎のカスタマイズを容易にするため、仮想化ネットワーク機能を取り入れたエッジ機能を開発・導入を進める。本機能により、研究分野ごとの特性に合わせ、柔軟にネットワークを構築可能とする環境実現を目指す。

(5)国際回線の帯域増強と対地拡大による国際連携強化

 国際的な共同研究の円滑な推進を支援するため、欧州、米国、アジアに200Gbps以上の国際回線の整備と対地の拡大を目指す(図4)。

図4 国際回線の強化
図4 国際回線の強化

4.おわりに

 ネットワークとITの進歩がAIやIoTの急速な発展を促しており、実世界のあらゆる活動から取得したデータをサイバー空間で解析し社会生活の効率化や変革に役立てるデータ駆動型社会を迎えつつある。『学術におけるデータ駆動型研究』を促進するためには世界基準の研究データ基盤を整備し、海外の研究者と効率的に研究データの共同活用ができる場が必要となる。SINET6は国内外の大型研究施設等で生成される大容量データを始め、研究の多様な局面で発生するデータを収集・転送するための新しいネットワーク基盤であり、データの解析・可視化・共有・公開・検索・再利用という研究ワークフローを組み合わせた研究データ基盤と組合せて、学術領域におけるIT基盤となるよう整備・実現を進めていく。

参考文献およびURL
[1] 学術情報ネットワークSINET:https://www.sinet.ad.jp/
[2] SINETを東京-大阪間400Gbpsにスピードアップ:https://www.nii.ac.jp/news/release/2019/1206.html

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