特集 コロナ禍のオンライン学生支援

オンライン・オープンキャンパス
〜体験環境構築と実施事例〜

出原 立子(金沢工業大学 情報フロンティア学部長)

1.はじめに

 2020年度は新型コロナ感染症拡大によって世の中全体が想定していなかった状況に陥り、大学においてもその柱となる授業運営や学生支援において多大な影響を受けました。また、近年各大学とも力を入れている受験生募集に向けた大学紹介においても影響を受け、多くの大学がキャンパス内での感染拡大防止の観点から構内への立ち入りを制限し、オープンキャンパス中止の対応などを余儀なくされました。本来、大学は学生、教職員のみならず多様な世代、文化の人々が集い議論を交わす場でありますが、緊急事態宣言下の人気の少ないキャンパスを見た時、キャンパスそのものの意義を改めて考えざるを得ませんでした。
 本学においても熟慮の結果、学生への感染拡大防止を最優先し、2020年度は対面式によるオープンキャンパス、キャンパスツアーや個別訪問などはすべて行わない決断をいたしました。それらに代わり全面的にオンラインを利用し、大学を紹介する方法を検討することとなりました。すなわち、これまでのように学びの場を直接見てもらうオープンキャンパスから、メディアコンテンツのみで紹介する形式に変え、どのような情報を発信すべきか、一から考えることになりました。当初は、対面形式の代替策を講じるに過ぎないように思われましたが、オンラインで実施することにより伝える情報を省察し、オープンキャンパスを改めて見直す機会になったと思います。
 本稿では、オープンキャンパスの目的・意義を再確認し、コロナ禍において強化されたWebオープンキャンパスなどのコンテンツの活用と、リアルタイム形式の遠隔コミュニケーションツールによるオンライン授業体験、学生が主体となって制作したVR SNSを用いたヴァーチャルキャンパス体験など、本学の事例を中心に紹介します。

2.オープンキャンパスの目的・意義

 オープンキャンパスの目的・意義について、改めて考えてみたいと思います。オープンキャンパスは、日本の大学において特に発展した大学紹介のイベントであり、欧米の大学ではCampus Visitという個別に大学訪問をすることが一般的のようです。日本のオープンキャンパスのように、一堂に会するイベント形式で実施することにより、大学のオープンキャンパスの評価を参加者数で測ろうとする傾向も否めず、大勢が参加するイベントにすることがオープンキャンパスの成功であるという考え方があったのではないでしょうか。そのため、大学の施設紹介や学科体験、受験対策講座、学食体験などイベント的な要素も含まれる傾向にあり、受験生に対して過度な提供を行う大学も散見されました。
 しかしながら、コロナ禍においてオンラインで実施するにあたり、改めて情報発信すべき大学紹介の内容を省察する機会として捉える事が重要であると考えます。すなわち、大学の教育・研究内容、そして社会へ向けてどのような専門性を高めた人材を育成し、社会に輩出しているのかという本質的な情報を伝え、さらには、学生の学習環境・学生生活支援体制について正確に伝え、受験生が入学後の大学生活を早い段階でイメージでき、自らに合った大学を選択できるようにすることが、本来のオープンキャンパスの目的です。これらは周知のことですが、改めて提供すべき本質的な情報を見直し、オンラインメディアの有効な活用を検討しました。

3.Web 動画を活用した大学紹介

 近年、大学紹介においてWebサイトによる情報発信は重要性を増していましたが、コロナ禍においてその中心的な役割を果たすことになりました。Webサイトには、画像(写真)とテキストによる基本的な情報提供に加えて、動画を活用した学科紹介、施設紹介、研究紹介などが強化されました。Web動画の活用は、どの大学にも共通した特徴としてあげられます。
 本学で急遽制作したのは、「Webオープンキャンパス」と称するWebサイトに常時掲載した動画を活用した大学紹介です。動画コンテンツには、キャンパスを全方位カメラで撮影した360度ビューや、ウォークスルー型のストリートビュー、その他、ドローンによる空撮動画やパノラマビュー、音声ガイド付き動画など、多様な映像表現手法を用いてキャンパスのイメージを伝える工夫がなされました。
 また、Webデザインにも力を入れ、キャンパスマップと動画紹介を連携させて、抽象化した図的表現と具体的イメージの双方の良い点を組み合わせた構成にするなど、マルチメディアの有効活用も推進されました(図1)。

図1 キャンパスビュー紹介Webサイト
図1 キャンパスビュー紹介Webサイト

 その他のWebの活用例として、高校生からの質問や問い合わせに応じるための質問フォーム、メールやチャットによる質問コーナーの設置があります。また、Zoomを用いて個別対話を行う機会も設け、オンライン・コミュニケーションの活用が推進されました。

4.教職員共同でつくるオンライン説明会
〜時間を共有し、空間を超えた取組み〜

 コロナ禍において初めて実施したのが、リアルタイムのライブ形式による「オンライン説明会/オンライン相談会」と称する大学紹介でした。これらはZoomなどの遠隔コミュニケーションツールやYouTube Liveなどの動画配信サービスを用いてリアルタイムイベントとして開催されました。
 これまで本学のオープンキャンパスは、教職員一丸となって自分たちで作ることを大切にしてきました。また、学生も日頃の成果を発表するなど、学びの一環として参加し、それらを通じて学生の真の姿を伝え、大学全体の雰囲気を感じて頂くことを大事にしてきました。
 本学の理念の一つに、学園共同体という思想があります。すなわち、理事、教職員、学生の三位一体の学園共同体を築き上げることによって、真に人間形成の場となるという考え方です。オープンキャンパスもこの思想に基づいて、教職員、学生が一丸となって作り上げてきましたが、コロナ禍においては密を避け距離を置いて行うことが求められることから、オンラインを活用し空間を超えた共同制作になりました。
 オンライン説明会は、職員主導で企画・実施する大学紹介、学生生活支援、寮の紹介、進路開発センターの就職活動支援の紹介と、教員主導で企画・実施する学科紹介、研究内容、研究室活動、進路などで構成され、すべてZoomを使ったライブプレゼン形式で行いました(写真1)。

写真1 オンライン説明会ライブ配信会場の様子
写真1 オンライン説明会ライブ配信会場の様子

5.ライブ感を重視したオンライン体験授業

 教員主導で企画・実施した各学科のオンライン体験授業は、学科紹介と教員らの担当授業や研究紹介をZoomによるライブ形式で行いました(写真2)。各学科の持ち時間は1時間に設定されましたが、一方的にライブ配信される映像を視聴するだけでは、集中力が持続しないことから、以下に示すような工夫をして実施しました。

【リアルタイム・オンライン体験授業の工夫】

 例えば、メディア情報学科の教員による研究紹介では、Web会議の際に生じる視線が合わない違和感を解消する仮想カメラについて、開発した教員自らがWebカメラに映った視線のズレをなくす実演を交えて紹介しました。また、音楽情報処理系の教員による研究紹介では、教員自らが電子ピアノを奏でながら和声のパターンと印象評価について説明しました。このようなライブ感を重視したオンライン体験授業は大変好評で、教員の人柄も伝えられたと思います。

写真2 オンライン体験授業の様子
写真2 オンライン体験授業の様子

 また、Zoomのチャット機能を使った高校生からの質問は対面形式の時よりも多く活発で、続々と送られてくる質問に時間を超過して回答し、有意義なコミュニケーションの機会になりました。一部の学生には自宅からオンラインでアクセスして、質問に答えてもらいました。高校生たち参加者だけでなく、実施運営する教員、学生も空間を超えて参加し、新しい形のオンライン体験授業を作り上げることができました。

6.学生がつくるヴァーチャルキャンパス体験

 次に、学生が制作したVR SNSを用いたヴァーチャルキャンパス体験について紹介します。ヴァーチャルキャンパスとは、3DCGで制作された仮想キャンパス空間をアバターで自由に巡ることができ、且つ、アバターを介して他者とコミュニケーションをとることができる環境です。VRデバイスを装着することで没入感のある体験ができますが、PC やスマートフォンからでもアバターを動かし体験することも可能です。
 今年度、コロナ禍においても実際のキャンパス訪問を希望される高校生は少なくありませんでしたが、キャンパスへ立ち入りを制限したため、Webサイトに掲載した動画やストリートビューなどによるキャンパス紹介に限られました。このよう状況を踏まえて、有志の学生がVR環境に3DCGでキャンパスを制作し、学生アバターがキャンパスツアーを行うヴァーチャルキャンパス体験を特別に企画し、前述のオンライン説明会の日に限定開催しました。

図2 ヴァーチャルキャンパスイメージ
図2 ヴァーチャルキャンパスイメージ

(1)ヴァーチャルキャンパス体験環境構築
〜分野を超えた学生共同プロジェクト〜

 ヴァーチャルキャンパス体験環境を構築するには、キャンパスを構成する校舎や広場、コミュニティ道路などの3DCGモデルを制作し、それらを統合して仮想キャンパスを構築しVR SNS環境に展開します。今回は、本学のメインキャンパスのうち北校地と東校地部分が対象となりましたが、校舎だけでも13棟ほどあり制作には手間と時間を要します。そこでメディア情報学科、建築学科、ロボティクス学科の2年生、4年生、大学院1年生の学科や専攻などを超えた有志の学生が集まり、すべて学生によって制作が進められました。
 メディア情報学科の学生は、以前よりCG コンテツやゲーム制作を習得しており、建築学科の学生は建築設計のシミュレーションとしてVRコンテンツの制作経験があり、ロボティクス学科の学生は障害者のためのVR型チェアスキー・シミュレータを開発していました。このように3学科の学生は、それぞれの学科の異なる教育・研究活動において、共通したCGやVR技術を活用していたことから、分野を超えて一つのものを作ることを推進できました(図3)。

図3 VRキャンパス共同制作の基となる3学科の共通技術
図3 VRキャンパス共同制作の基となる3学科の共通技術

(2)学生プロジェクト活動を止めないオンラインの活用

 コロナ禍において大学の対面による課外活動が制限される中、3学科の有志の学生がどのようにして一つのヴァーチャルキャンパスを制作していったのか、彼らの自発的な活動方法について紹介します。
 学生の活動において、対面で実施したのは最初のキックオフミーティングと最終確認のミーティングのみで、それ以外はすべてオンラインだけでプロジェクト活動を行っていました。キックオフミーティングでは全体目標の設定と、メンバーの役割分担を決定し、その後の制作活動はオンラインを活用してすべて自宅で行っていました。
 学科や学年も異なる複数のメンバーが個々に制作したものを統合し、一つのヴァーチャルキャンパスを共同制作するために、図4に示すような開発環境や、Slackというオンラインチームコミュニケーションツールを活用しました。Slackを使うことで迅速にメンバー全員と情報共有ができ、特に、互いに質問をして技術を教え合うなど、自発的で有意義な学びの場になっていた点は評価に値します。

図4 オンラインによる学生プロジェクト活動環境
図4 オンラインによる学生プロジェクト活動環境

 また、本学で昨年度より全教職員、学生が利用できるクラウドサービスBOXも活用して、各自が制作した3DCGデータはサーバー上で一元管理し、一つのキャンパスに統合する際も有効だったようです。また、メンバー全員の制作進捗状況の確認にも役立っていました。
 このように、学生が自ら考えオンラインを活用したことで、コロナ禍においても学科を超えた学生プロジェクト活動を止めずに推進でき、彼ら自身の成長にも繋がるものであったと思います。

(3)ヴァーチャルキャンパス体験の事例紹介

 学生が制作したヴァーチャルキャンパス体験では、学生アバターによるリアルタイム音声のキャンパスツアーが行われました(図5)。ツアーガイドは昨年度まで実際にキャンパスツアーの活動をしていた学生が担当し、今回は自宅からオンラインを通じて案内しました。異なる場所にいる参加者達もアバターとして参加し、学生のリアルな話を聞きながらキャンパス体験を共有しました。

図5 ヴァーチャルキャンパスツアーの様子
図5 ヴァーチャルキャンパスツアーの様子

 さらに、3学科のそれぞれの体験空間として、講義室やゼミ室、建築模型室など細かく再現し、通常は紹介できない校舎内のガイドも行いました(図6、図7)。また、実際メインキャンパスから離れた所に位置するリサーチキャンパスにある研究所にもワープし、スタジオ施設を360度ビューで紹介し、アバターが解説を行いました(図8)。

図6 ロボティクス学科の体験空間
図6 ロボティクス学科の体験空間
図7 建築学科の体験空間 模型展示室
図7 建築学科の体験空間 模型展示室
図8 メディア情報学科VRスタジオ紹介
図8 メディア情報学科VRスタジオ紹介

 ヴァーチャルキャンパスは、参加者がアバターを通じて能動的な体験ができ、アバター同士のコミュニケーションもできるのが、良い点です。参加した高校生にとっては記憶に残る体験になったと思います。しかし、高校生がVR環境にアクセスする準備を整えることが難しく、スマートフォンでも専用アプリケーションをインストールし、ユーザー登録を行うなどの作業は迅速にはできなかったようです。したがって、VR SNS環境を用いたヴァーチャルキャンパスを開発する際には、プラットフォームの選定を十分に行うことが必要です。また、VRコンテンツを視聴するためには、一定以上のマシンスペックや通信環境を必要とした点も課題となりました。

7.まとめと今後の課題

 以上のように、コロナ禍における2020年度の本学のオンライン・オープンキャンパスについて、Webベースの多様な映像配信による大学紹介、Zoomを利用したライブ感を重視した教職員によるオンライン説明会、そして、学生主体で制作したヴァーチャルキャンパス体験について紹介しました。本学のオンライン・オープンキャンパスは、教職員、学生が共に作り上げた点が大きな特徴でした。この事は、本学の本質的な特徴でもあり、オンラインを通じても伝えられたのではないかと思います。
 オンラインを用いた多様な取組みにチャレンジし、多くの可能性を感じた1年でありましたが、推進する上での課題も見えてきました。その一つは、大学と高等学校や高校生らとの情報通信環境のギャップです。高校生に対するオンラインによる情報提供を推進するためには、全体的な情報環境整備が急がれると感じました。
 オンラインを活用したオープンキャンパスのチャレンジは、本学のように日本全国から学生を受け入れている大学にとって、遠方の受験生にも同じ情報を届けられこれまで以上の成果であったと思います。しかし、依然として大学選びの際に大学訪問を希望する方もいることから、今後は現実空間と仮想空間を繋いださらに新しいオープンキャンパスの形を検討していきたいと思います。


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