巻頭言

大学教育のニューノーマルに向けて
〜主体的な学びを深めるDX推進〜

下村 輝夫(福岡工業大学 学長)

 本学は、福岡市にキャンパスを有し、工学部、情報工学部、社会環境学部の3学部と短期大学部および大学院を擁する中規模大学(在校生総数約4,700名)である。入学者の約7割が福岡県出身者、約3割が福岡県外の九州・沖縄・山口各県出身者であり、地域に根付いている。
 コロナ禍においては、他大学と同様に2020年度前期から遠隔授業の実施を余儀なくされたが、結果として、大学に登校できないことで学生が孤立・孤独に陥り、特に新入生の学修の定着等について課題が生じた。遠隔授業の急拡大はその利点とともに、大学が授業・授業外を問わず、人と人との関わりをはじめ、コミュニティの中で学びを深める場であるということを再認識する機会となった。
 その点を鑑み、2021年度前期においては、キャンパスでの学びを最大限に提供することを目指して、「対面授業または一部遠隔授業」の形式とし、実験実習等科目、1年生対象科目、2020年度に対面授業の機会が乏しかった現2年生の対象科目について、可能な限り対面授業を実施する方針としている。
 しかし、その後も変異型ウィルスの拡大に伴う第4波が全国を覆い、収束が未だ見えない中、学生の学びの継続と安全の確保をどのように両立していくか、授業運営に苦慮しているところである。
 コロナ禍の継続が様々な分野に与える影響は大きく、社会は一層複雑で不確か、不安定かつ曖昧で予測不能(VUCA)なものになった。本学では、「実践型人材」の育成を掲げ、アクティブ・ラーニングの全学展開による「知識の定着」と「能動的な学習態度の涵養」に取組んできたが、VUCAの時代においては、専門知識や取組み姿勢に加え、未知の領域に向き合い、経験のないことに自信をもって取組む力、主体的に学ぶ力の醸成を目指す教育への転換が必要であり、その鍵は教育と学びの高度化および質向上に資するデジタル化にあると考えられる。
 その新たな教育と学びに向け、「学修者本位の教育」の視点から、本学では「FIT-DX(Fukuoka Institute of Technology -DX)」構想の元、さらなる教育改革に取組んでいる。
 具体的には以下の通りである。
@)教育の情報化による教育手法のDX
 コロナ禍を経て、ICTを活用した新たな教育手法(反転授業やハイブリッド授業等)について、一定の有用性と教育効果が確認できた。そこで、より魅力的で効果性の高い教育の実現を目指して、教育システム(Web型学修支援システム、MoodleによるLMS、授業動画配信システム、Microsoft 365によるライブ型授業等)を整備し、ICTを活用した新しい授業形式の実践に対応可能とした。
 また、2021年度入学生からBYOD(Bring Your Own Device)の推進と学生用ソフトウェアライセンスを拡大し、新しい教育手法と授業形式において、支障なく学びを進められることを支援している。
A)自己調整学習の促進と学修成果のDX
 本学では、2016年度から学習ポートフォリオを活用した目標設定と振り返りを促し、学生の自己調整学習を進め、主体的に学ぶ力を育成する取組みを推進している。ICTを活用した新たな授業形式の積極的導入(教育DX)は、対面による一斉授業での履修主義から、自己調整学習による学びの個別化と修得主義への転換を意味する。主体的な学びをもとに、「何ができるようになったか」を学生が自覚できるよう、学習ポートフォリオ上に様々な学修成果を可視化する取組みを加速させている。
B)データ利活用による教育改善のDX
 本学の教育方針である「丁寧な教育」を念頭に、入学から卒業までの各種データを管理し、そのデータの分析と利活用によって教育改善を実践するEM+IR活動(Enrollment Management and Institutional Research)に取組んでいる。
 これからの社会を生きるための力をいかに育むかがニューノーマルに向けた大学教育の今後の課題であると捉えている。本学では、従来の教育方法のみに拠らず、個別最適化された学びの形成と、その取組の高度化を図るため、さらなるDX推進と教育改革に取組んでいきたい。


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