特集 対面と遠隔(オンライン)を組み合せたハイブリッド型授業の進展と教育改革

ハイブリッド型授業の実践 〜立命館大学〜

越智 萌(立命館大学 国際関係学部・国際関係研究科准教授)

1.はじめに

 教室に入ると、三脚を持ち上げカメラアングルを固定し、絡まる配線をすべて定位置に差し込み、すべての機器を起動させ、Zoomとmanaba(クラウド型教育支援サービス)を立ち上げる。これが授業開始時に行う筆者のルーティンとなりました。突然訪れたコロナ禍での授業実践において、授業運営に関する知識と技能を身につけるために、これまで試行錯誤してきました。特に、留学生が多く受講する授業を担当する教員として、キャンパスの内と外(入国できずに、国外)に所在する様々な状況下の学生への効果的な授業の提供には、多くの工夫が必要となりました。この実践報告では、ハイブリッド型授業のメリットを踏まえた上で、それに伴う様々な課題、特に、ハイブリッド型授業においてアクティブラーニングを確保するための諸課題と対処法について紹介します。

2.「ハイフレックス」+「ローテーション」型授業のメリット

 ハイブリッド型授業の中でも、筆者が行っているのは、「ハイフレックス」+「ローテーション」型授業です。この型は、15回の授業回数のうち、6回をハイフレックス型(対面授業に加え、その授業をZoomでライブ配信するライブ型と、このライブ授業を収録したビデオをオンデマンドで後に提供するVOD型受講を提供する、いわゆる「全部盛り」授業)、残りの回をZoom(ライブ+VOD)とするものです。この型の目的は、コロナ禍において様々な状況に置かれてしまった学生の多様なニーズに対し、公平かつ選択可能な受講形態を、常態的かつ計画的に提供することにあります。
 具体的には、ハイフレックス回には、対面授業に来られる学生は対面で参加しつつ、帰省中や帰国中の留学生(受講生の大半を占める)にはライブ配信することで対面授業の臨場感を提供できます。さらに、特に昼夜逆転の時差や受講環境の不整備のためにライブ授業に参加できない未入国の留学生には、ライブ授業を録画し、フォローアップ動画を毎回準備します。Zoom回では、ハイフレックス型では実施の難しいグループワーク(後述)や学生プレゼンを行います。
 ライブ配信と動画配信は、ハイフレックス回とZoom回とにかかわらず毎回全受講生に対して行うので、授業直前に事情が変わった場合にも、学生が受講形態を選択できることが最大のメリットです。長時間通学や体調不良、Wi-Fi環境の悪化といった状況は刻一刻と変化しますし、この変化に柔軟に対応するには、変化が起きた時に個別に対応するのではなく、通常時から複数選択肢を用意しておくこと(レジリエンス)が重要と考えました。また、4月中旬より本学のBCPレベルが上がり、全面オンラインに切り替わりましたが、事前にZoom回の実施形態の伝達が済んでいたため、移行はスムーズに行われたと思います。

3.様々なニーズと対応

 とはいっても、上述のように複雑なハイブリッド型授業を提供するには、数多くの課題と、対処法が必要となりました。2021年度春学期には、講義科目(International Law, International Organizations, International Human Rights)と演習科目の両方についてハイブリッド型授業を行っていますが、特に講義科目について、直面した課題と対処法について紹介します。2020年度春学期中のVODでの授業実践については立命館大学HPの「Web授業の最前線(パート1)」、2020年度秋学期終了時点での演習科目についての実践はITL NEWS(No.49 http://www.ritsumei.ac.jp/itl/assets/file/publication/nl/vol49.pdf)を参照ください。

(1)ハイフレックス回

 ハイフレックス型授業では、対面・ライブ・VODという3形態での受講者を想定するため、それぞれの受講態様に応じたニーズと課題が生じます。
 ライブ型受講者の場合には、授業に参加しているような視点の確保が重要です。板書や講師の顔が見えにくいことで授業内容が届かないことは避けなければならないので、板書はせず、すべてパワーポイントとし、Zoomで共有したPC画面を教室でもスクリーンに投影することで、対面とライブで同じものを見ている状況をつくりました。ブレインストーミングをする際はZoomのホワイトボードを使用しています。教室にいるのと同じくらいの発言のしやすさの確保も重要です。アクティブラーニングを行うためには、受講形態によって学修効果が変わらないよう配慮が必要なので、ライブ受講者には定期的に個別に話しかけることで発言機会を確保することを意識しています。
 VOD受講者の場合には、ディスカッション参加の機会を、対面やライブ参加の学生と同等程度確保する必要性から、授業へのコメント集約は受講形態に関係なくすべてmanaba上の「掲示板」で行うこととしました。これにより、すべての受講形態の学生同士の意見交換が行われると同時に、学生による時間をかけた注意深い振返りが記録に残る形で行われることで、より理解が深まったとのフィードバックが学生からありました。VOD受講者によるプレゼン機会の確保としては、ビデオデータの提出を認めることで対応しています。
 また、見落とされがちなのは、対面での受講学生への配慮です。通常の対面授業の質の確保については、機器設定のための時間が割かれることを考慮し、本学では休憩時間を15分に拡大しましたが、個別教員にとっては機器設定を効率化することが依然必要です。また、対面受講者がビデオに映ることについて、適切な了承を得ることも必要と考え、授業初回にはそのような要望がある場合にはモザイク処理をする旨伝達しています。

(2)Zoom回

 ハイフレックス回で行うことが不向きなのは、グループワークです。アクティブラーニングにおいては、特に受講人数が多い場合、グループでの議論を通じた授業への積極参加の機会の確保が重要です。全員ライブ参加の場合にはZoomの機能を用いてグループ分けをして実施できますが、対面の場合には感染症対策をしつつグループワークをするには相当な気を使います。さらにハイブリッドの場合には、対面参加の人数とライブ参加の人数を踏まえたグループ分けを実施する必要があります。ライブ参加の人数が少数であれば、デバイスさえ準備すれば可能ですが、ワークの際には、教室内でのワークに気を払いつつ、Zoomのブレイクアウトルームを巡回するという高度なマルチタスクが教員に求められます。
 これらの困難のため、筆者の授業では、グループワークを行う回はZoom回のみとしています。Zoom回では、講義の後ブレイクアウトルームに学生を分割して議論やワークを行い、あとでメインルームに再集合した際に内容を発表してもらっています。
 ただし、VOD受講者にワークの様子を見せるかという問題があります。グループワークの利点は、精神的障壁が低い状態で意見を交換できる機会の提供であり、録画という監視がある状態ではその本来の目的は達成できません。そのため、筆者の授業では、ワークの状態は録画していませんが、VOD受講者への同等の質の提供は今後の課題と言えます。

4.おわりに:「ハイブリッド」の多様性

 今学期は、ハイフレックス型の授業と、回数によってZoom授業を組み合わせるローテーション型を活用することで、それぞれの授業形態の特質を活かした運用を行ってきました。今回紹介したように、「ハイブリッド」型には様々な組み合わせが考えられると思います。今後は、ハイブリッド型をさらに工夫し、学修効果を高めるために、授業回数の15回、各90分をどのように使うかを考えていくことが重要だと思われます。


【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】