特集 対面と遠隔(オンライン)を組み合せたハイブリッド型授業の進展と教育改革

コロナ禍から学ぶキャンパスの役割とその未来

山口 和範(立教大学 経営学部学部長)

1.はじめに

 2020年は、新型コロナウイルス感染拡大のニュースで埋め尽くされ、地球規模で人々の行動に制限が課されました。大学においても、様々な活動制限が強いられ、教育研究の前提を大きく見直さなければなりませんでした。
 2020年4月からの新学期への準備を行っているところへ新型コロナウイルスの拡大の可能性が聞かれ始め、日本国内での感染確認や中国での都市封鎖が現実のものとなったとき、オンラインでの講義への切り替えの準備を開始しました。オンライン講義の経験を持つ教員からの情報を集めるとともに、情報環境の整備と教員の勉強会を実施しました。さらに、教員に加え、学生の環境整備や学生向けのガイダンスも重要な点でした。通常行われるゼミ合宿をオンラインに切り替えて実施してもらい、そこでの経験が新学期のリモート講義へ大いに役立ちました。このような準備があり、幸いなことに経営学部と経営学研究科では、開始時期を遅らせることなく、春学期をスタートさせることができました。

2.コロナ禍での大学への着地

 経営学部では、例年1年生全員が泊まり込みで行う一泊2日のウエルカムキャンプを行い、経営学部での学びの導入や仲間づくりを行っています。このウエルカムキャンプでは、先輩学生が企画から運営に大きく関わることが特徴です。先輩と関わりながらのこの大事な1年生の大学への着地の機会をどのように確保するかが大問題でした。2011年の東日本大震災の際に、関東と東北のほとんどの大学で卒業式入学式が中止となりましたが、その際も時期を遅らせてではありましたが、ウエルカムキャンプを実施しました。それほどに、大学へ、特に本学の経営学部への着地に向けた、大事なイベントです。2020年4月に、400名を超す学生が一堂に会しての対面でのキャンプの実施は不可能で、オンラインに切り替えるしかありませんでした。講義のオンラインでの実施は、教員の努力により比較的容易であったと言えますが、仲間づくりや交流を行う場と、先輩からの経営学部生としての誇りの伝達を、オンラインで行うことには、多くの困難が予想されました。結果として大成功となりましたが、その成功の裏には、デジタル世代の若手教員やスタッフと学生の多大な努力がありました。ここでの成功は、今後のオンラインでのキャンパス機能の実装への手がかりとなるのではないかと考えています。

3.キャンパスの意味

 大学は、学ぶ者たちが集う場所です。キャンパスは、学ぶための環境が用意されていることに加え、人としての成長の場としての役割があります。良い意味での“The Hidden Curriculum”の存在とその重要性を強く認識させられたコロナ禍でした。知識を得ること、得た知識を活用すること、仲間とグループワークを行うことなどは、オンラインであっても問題なく実現できますし、オンラインの方にメリットがあることも多いでしょう。一方で、偶然の出会いや雑談が生み出していた成長の種を、どのようにオンラインで蒔けばよいかが大きな課題です。オンライン化に伴う学生同士の交流機会の減少が、学習に対する意欲の低下にもつながりかねません。対面とオンラインの併用は、一つの解決策でしょう。しかし、従来からの大学に固執するのではなく、新たな大学像を模索することも必要だと思います。

4.未来の大学に向けて

 今後、大学も含め、学びの場の形式は、多様化するでしょう。MOOCが引き起こした流れは加速するでしょう。一方で、キャンパスが持つ意味の重要性も再認識されました。単に対面を実施せよということではなく、キャンパスが持つ機能をしっかりと認識し、その機能をデジタル技術により実現する検討も必要です。そのことは、今後も間違いなく起こるパンデミック等の危機において、学びを止めないために必要なことです。本学経営学部では、NECネッツエスアイ株式会社と、「With & Afterコロナ時代の学習/キャンパス環境を新たに探究する」をテーマとした共同研究を2021年4月から2024年3月まで行います。ここでは、授業だけでなく様々な活動を通して学生が人間関係を築くことも大学の重要な機能ととらえ、これからの「新しい大学像」をデジタルの力を活用して創り出すことが目的です。今回のコロナ禍が、大学のルネッサンスを引き起こすことを期待しています。


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