特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その2)

九州大学「教育DX」推進事業
〜先端ICT活用による学びの質の向上〜

岡田 義広(九州大学 附属図書館付設教材開発センター長)

1.はじめに

 本学は、文部科学省・公募事業「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に「取組①:『教育DX』推進事業〜LA活用による学習者本位の教育の実現〜」と「取組②:『教育DX』推進事業〜先端ICT活用による学びの質の向上〜」に応募し、両方が採択されました。「取組①」については、全学ラーニングアナリティクスセンター[1]が中心となり申請し、「取組②」については、筆者の所属する附属図書館付設教材開発センター[2]が中心となり取り纏め申請しました。本稿では、「取組②」を紹介します。

2.取組み概要

 コロナ対応で実施が困難になっている留学、実験・実習等の代替措置のための教材や教育手法の選択・開発・実施は、個々の学部・学府(大学院に相当)や教員に委ねられています。組織的対応や開発・実施過程の体系化が課題となっています。特に、VRなどの革新的デジタル技術を活用した、実世界に近い体験を仮想的に可能とする表示・操作機能を持つ教材及び教育方法の開発・支援が求められています。本事業は、革新的デジタル技術を活用した教材や教育手法の開発・支援を行うことによる個々の授業や講義の改善に加え、以下の全世界の大学において高まるニーズにも対応します。

 また、これらの対応によるノウハウや成果の学内外への普及を図ります。

3.大学全体のDX推進計画

 教育DXを全学で推進する体制充実のため、総長のリーダーシップの下、2021年度から全学「LAセンター」の新設と2011年に附属図書館の付設として設置された「教材開発センター」の機能強化を推進し、全学の教学マネジメント組織「教育改革推進本部」(本部長:総長)を加えた3組織を中心に、全学的・組織的にデジタル技術を活用した最先端教育環境・手法の構築・学内普及を進めます。その際、日本語を解さない、海外に居住する、障害があるなどの多様な学生を含む一人一人が安心・安全に質の高い教育を受けられる環境・手法を研究開発・整備します。これらの対応を「九州大学 教育DX モデル」としてパッケージ化・不断に見直すことで、学修者本位の教育の実現と学びの質の向上を図り、ひいては世界に誇れる教育水準への飛躍を目指します。

図1 九州大学のDX推進体制

4.本事業で取り組む内容

 本事業の趣旨に沿った取組みを各部局へ照会し、図2に示すモデル①から⑦を実施します。

図2 各部局の取組みモデル

モデル①(医学部・医学府、歯学部・歯学府):
解剖・放射線治療・虫歯治療等の実験・実習・演習の遠隔化のためのデジタル教材・教育手法の開発と授業実践の内容です。本学アジア遠隔医療開発センターにおける遠隔医療・教育の実績・ノウハウ・ネットワークを活用し、国際展開を図ります。

モデル②(文学部・人文科学府):
考古学・歴史学等の遠隔授業・遠隔学習のためのデジタル教材・教育手法の開発と授業実践の内容です。

モデル③(工学部・工学府):
実験装置の遠隔制御化による実験・実習科目の遠隔学習・遠隔授業のためのデジタル教材・教育手法の開発と授業実践の内容です。

モデル④(芸術工学部・芸術工学府):
建築学・都市工学等の遠隔授業・遠隔学習のためのデジタル教材・教育手法の開発と授業実践の内容です。

モデル⑤(共創学部):
VRネットワーキングを用いた留学生や他大学の学生を含む課題解決型教育プログラムの開発と授業実践の内容です。APU(立命館アジア太平洋大学)との連携により実施します。

モデル⑥(工学部):
PBL形式の実験・演習科目用デジタル教材・教育手法を活用した、高等専門学校との連携による教育プログラムの開発と授業実践の内容です。

モデル⑦(芸術工学部・芸術工学府):
学生との協働によるデジタル教材の開発とその活用、それらを通したデジタル教材の開発・活用・改良を担う人材育成プログラムを開発します。

5.取組みの目標と目指す成果

 「教材開発センターの機能強化による「学びの質の向上」」のため、各学部・学府と連携してモデル①から⑦を推進します。各モデルでは、□の枠で示すシステムを導入し、デジタル教材の開発と授業実践により7モデルそれぞれの構築・普及を図ります。
 英語での対応や、従来であれば実験・実習等への参加が難しい障害特性を有する学生も、VR活用等による実験・実習への参加も可能となります。多様な形態での効果的な授業が可能となる他、何時でも何処でも学修可能となり主体的な学びが促進されると考えられます。

6.おわりに

 VR等活用デジタル教材の開発には、多くの人手と時間が必要です。他大学と連携してデジタル教材や教育手法の開発を進めたいと考えています。また、定期的なニーズ調査を実施し、学内の教職員・学生と協働でデジタル教材の開発を進めます。機材の利用法や教材開発技術・著作権等に関する講習会を実施し、ICT活用教育を推進して参ります。

関連URL
[1] https://la.kyushu-u.ac.jp/
[2] https://www.icer.kyushu-u.ac.jp/

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